#357~力の船に乗る!2日目、誕生日プレゼント!中編~
「ヒァアユアァー」『ガタッ』
春香と外国語で言葉を交わしていた男性が、跪いて何か・彼の手に覆われている小物を春香に差し出している。
「……っ……さ、センキュゥ、ベリーマッチ……」
春香は戸惑いながらも、顔の目の前に掲げられている男性の手から”何か”を受け取ってお礼の言葉を返していた。
「……っ……ぁ……」『チュ』「フフン!」
跪くタキシードを着る金髪碧眼な男性は、彼の手からその”何か”を受けるとる為に伸ばされた春香の手を掴み、軽く口づけをして満面の笑みを顔に張り付ける。
「……ん……」
春香は思いもよらない金髪碧眼タキシード男性の行動に度肝を抜かしていたが、持ち直して顔を傾けて軽くお礼の意思を男性の笑みに返す。
「……ぅぅん……あの子……すごいね……「?……」春香お姉さま?」うん……何か”ああいうの”に慣れてるみたいだし……受け答えもしっかりしてるし……英語の発音は綺麗だし……アレで勝也と同い年……いや、同学年なんでしょう?」
そんな事が起こっているステージを見る夕お姉さんは、春香の立ち居振る舞いと声量と言葉のチョイス・外国語の発音・またそれらをこなす年齢に驚いていた。
それは、”お嬢様の様で、住む世界が違う”と言いたそうな声を出している。
「……うん……」
先程まで、いつもとはまるで違う春香に笑いをこらえていた勝也だが……あれでも春香は日本でも指折りの企業グループ・ゴルドラグループの跡取りともなりうるご令嬢だ。
たとえ法力が一部地域で盛んな日本でも、未だに数えられる程しかいない法力医師の二人を両親に持つ勝也でも同じ土俵にいるとは思っていなかったが……
「……いつもは”あんなん”じゃないんだけど……」
清虹市で勝也達と同じ地域に住む、ステージ上で顔をこちらに向ける少女はもう少し『庶民派な人物』だと思っていた。
「……」
もしかしたら今もステージ上で立ち凛とした姿が本来の姿で、勝也達にだけは、”それっぽい姿”を見せていたのかもしれない……
そういえば凪乃も前に……法力を有効活用してBBQのコンロの火を起こす前、『春香の方が『お嬢様』だと思っています。』と言っていた。
つまり、春香の本来の姿は今の方が素なのかもしれない……
「次の方はどうぞコチラへ」
「ぁ、はい。」
勝也がステージ上に立って客席に顔を向けている春香を見ていると、ステージに登る階段手前に控えるエプロンドレス女性が勝也達一行に声をかけていた。
「……厘が行きまぁす!」「んっ、どうぞ足元にお気を付けください。」
そこで厘が機先を制して手をあげると元気よく歩き出す。茶色い衣装のエプロンドレス女性は厘の手を取りつつ、お決まりの言葉をかける。
『……では次の方ですが……春香お嬢様のご学友です。では、お願い致します。』
それまで水上は名前を言わない様に避けつつ、その者の背景や身分・人となりを説明していたが……これまでの者達から見れば、厘は随分と素っ気なく紹介される。
「……りっ、厘ちゃん……来てくれて嬉しいです。……だけど……「春香お姉さま!お誕生日おめでとうございます!」ぁ、ありがとう。「春香お姉さまのいない間、厘は寂しかったです!」ぅ……うん「だから、これからは厘と一緒に”コレで”思い出を作っていきましょう!」『ガサガサ』ぅ、ぅん?お、思い出?……「コレは誕生日プレゼントの”厘と春香お姉さまの写真で埋めるアルバムですっ!”」うっ……うん!ありがとう!!厘ちゃん!」
厘は手に下げていた小さな袋から表紙に絵が描かれている分厚いファイルを取り出した。その表紙は本来、無地の物なのだが、厘の手によって”春香と厘”が描かれている。
これまで春香に贈られたプレゼントは、宝石や、記念石はたまた自動車……等の金額にしてみればかなり値が張る物を送られている。
だが、
厘のプレゼントはそれらと比べると数万分の一の金額で用意された品物だ。
それでも、春香の感極まった顔を見るに、一番うれしいプレゼントな事を推し量る事が出来る。
厘のプレゼントはこれから春香と厘の二人で造っていく、いつ完成するのかも分からない、もしかしたら完成する事はないプレゼントだ。
もしかしたら、金額換算でも他の者達のプレゼントより値が張るかもしれない一品である。
『『パチパチ……』』「っ?!……」
春香が厘から写真アルバムを受け取ると、それまでは一度もされていなかった拍手が客席から発生する。
『パチパチ『パチ『パチ『『『『『『……パチパチ』』』』』』』』』
ステージ上で誕生日プレゼントを渡した厘には拍手を始めた者達に釣られる様にして客席全体から拍手が送られる。
「……今のって」
勝也は初めに拍手を始めた二人を見逃さなかった。
客席の最上段の右端、勝也達の座っていた所から見れば結構な距離がある所には二人の男性が座っている。その2人の内の1人は勝也も知っているし、先日すこしだけだが言葉を交わした人物だ。
『……パチパチパチ……』
誕生日プレゼントを渡す所で拍手を始めた二人は、どちらもいい歳をした中年期の男性だ。
そしてどちらも肌艶が年の割に良く、イケメンと言って差し支えない者達……まぁ、1人は清虹市市長の金山賢人で、もう一人はそれよりも年齢を重ねた男性である。
「ねっ、ねぇ……賢人くん……どうしてあの女の子に拍手をしたんだい?……そりゃーうん、良いプレゼントだとは思うけど……」
客席のステージから見て右上段端の隣の席に座る男性がその隣・上段端にいる男性に、拍手を続けながら顔を向けて疑問の声も向ける。
「尾帝さん、前にも言いましたが……この”誕生日会”は春香達の将来を共に過ごす”パートナー”を”会長が”見る場でもあるんですよ。」「……うっ、うん?うん、覚えてるけど……」
その端の席に座るイケメン男性・金山賢人は”ついこの前まで”仕事を補佐してもらっていた男性・伊藤尾帝に、その眼差しを返して説明する。
「つまりですね……これまでの男達と春香が一緒になるくらいなら……あの女の子「えっ?厘ちゃんだっけ?……」そう、厘ちゃん!!あの子のプレゼントが”一番喜ばれている”と会長が思ってくれれば…………これまでの奴らは”春香”じゃなく、『金山家』に近づこうとしている者達です。あんな奴らに春香は任せられません。「……あっ、そういう事」ええ。いや、別に『金山家』が目的でも良いんですが……『金山家』は娘達の”副産物”として考えている男じゃないと交際も認めません。「むっ、でもねぇ……」間違っても『金山家に近づく為に』寄ってくる男に春香は任せられません。」「……まぁ、”私も”娘がいるから……その”気持ち”も分からんでもないけど……」
金山家の豪華客船・セブンスハッピーとレジャーシップの寿老人ホール、そのステージからみて右端最上段の席二つには端から清虹市の市長・金山賢人とその元相談役・伊藤尾帝がいた。
ちなみに賢人は銀券を渡されていて、伊藤1人を招待してこの船に乗り込んでいる。
どうやら金山賢人市長事務所に在籍していた者の中では賢人の他に唯一結婚している者で、同じく女の子の子供がいる彼だからこそ、招待する一人として選ばれているらしかった。
「次の方はどうぞコチラへ」
「あっ、じゃあ、俺が行きます。」「うん。」
厘が春香にステージ上で誕生日プレゼントの写真アルバムを渡した後、勝也達とは逆の方向にある階段でステージを降りていく。
そんなタイミングで、次の者をステージに送り出すべく勝也達の近くに置かれている階段横に控えるエプロンドレス女性が勝也達に声をかけていた。
『……では次の方ですが……春香お嬢様のご学友です。……』
次は勝也の番だ。水上が厘と同じ様にして、勝也を紹介するのだが……
『……この方は私から紹介致します。「「えっ?」」名を雨田勝也様と言い、金山家当主の限無会長が直々に招待した方です。法力医師の雨田澄玲さんと雨田大さんの間に生まれた方で、これからの日本の法力発展に寄与する方と「「「「「「「っ!?……」」」」」」」限無会長が見抜かれた方です。金山家の繁栄には”欠かせない人物”と伺っております。』
何と言う事か、これまで水上はプレゼントを渡す者の名前を一切言っていなかったが、勝也に関してはその両親でさえもバッチリ実名で紹介している。しかも、”もうすでに金山家の人間”と言わんばかりな紹介だ。
「……あれが会長の「「……」」」「……ふぅん……法力医師ねぇ「「……」」」「「「……」」」「……く「っ……」」
そしてこれは金山家の面子にも知らされていなかった様で、ステージの端に用意されている椅子に腰かけている一樹旦那様、二月奥様、三城奥様、四期奥様も勝也に注目している。彼ら彼女らの後ろに控えているその子供達も無言で視線を勝也に送っていた。
ただし、四期奥様と秋穂は苦虫を噛み潰した様にして、眉間に皺を寄せている。
春香の誕生日を祝う席で、当主の限無会長が直接招待し、尚且つここまで水上に紹介させるのは、もうそれは”春香の婚約者だ!”と内外に知らしめる様なモノだった。
「っ……」
そしてそれは春香も内心で衝撃を受ける事だった。




