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力の使い方  作者: やす
三年の夏
341/474

#340~力の船に乗る!そこにいる人達編~


「せっ、船長さんですか……えっ?いやでも……」

勝也はミスト……いや、彼が船長だと言うのに驚いた。……また、そうであるのならば、なぜ今ここで乗客の部屋を決める受付業務を行っているのか疑問を隠せなかった。

本来、船の発着時なんてモノはある程度神経を使う場面のハズだ。『そろそろ出航するだろう大事な時に、こんな所にいて良いのだろうか?いや……そんなはずはない!』なんて勝也は思っている。


「あぁ、いえっ、しかし、、”足まで”一瞬で見抜かれてしまうとは、、本当に驚きです。もしかしたら”この身体になって”以来、、限無会長以外では初めてかもしれません……」

板金船長は左手を顎に添えて、自身の手足の状態を看破した澄玲と厘に関心している。

まぁ確かに、右手だけ白手袋をしていたり、その手の動き具合を注意して見ていれば、感の良い者ならその”何か”に感づけるもしれないが……

「……うぅむ……」

彼は別に足を引きずっている訳でもないし、今現在でもまだその足を見ていない事も相まって『実は別に足に何かあるわけでもありません。騙されましたね!わっはっは!』なんて言われてしまえば、彼の足が義足なんて事は分からないだろう。

それほどまでに彼の手足……特に足に”何か”あるのかは傍から見ているだけでは分からない。


過去に初見で彼の足を射抜いたと言う人物・限無会長ならば、そんな事をひと目で見抜いていても、そこまで不思議に思わないが……


「……それも、二人一度に見抜かれるとは……もう、それは”偉業”と言う他ないですね「えっ!?”偉業”ってまさか……」すみません、失礼します……」

板金船長は澄玲と厘の二人に向かってそんな結論を出すと、スーツのジャケットには内ポケットがあるのだろうわき腹あたりに手を入れて、ソコから何かを取り出そうと漁っている。


夕お姉さんはそんな板金船長が”何か”を二人に渡そうとしている状況に色めきだって興奮していた。

「……では、その慧眼を表しまして……”コレ”をお渡ししましょう。」「んっ!これ、き……」

そして、板金船長は”何か”を黒スーツジャケットの中から取り出し、未だに背の高い木製椅子にチョコンと腰かけている厘に差し出した。

そう、それは金色に光る……



『……キャンディだぁぁぁぁ!!!』「え「っ?……」」

「はい。喜んで頂けた様でなによりです。特別なキャンディです。口さみしい時にでもお召し上がりください。」

厘は金色に光る、”棒付きキャンディー”を板金船長から受け取り、頭の上に掲げて喜びの声をあげている。

「……っ」

少し……ほんの少しだけ、空元気な様にも見えなくもない厘だった。


「……っていやいや、ソコは”金貨”じゃないの?!」

夕お姉さんは期待を裏切られた!と、板金船長に声をぶつける。


「ん?……あぁ、そういえば……今回は皆さんで”金貨”の”宝探し”をされるんでしたね……紛らわしい事をしてしまって申し訳ありません。”私ども船専属のスタッフ”は皆さんにお渡しする”金貨”を一切持たされていないんです。」

板金船長は夕お姉さんに、申し訳なさそうな顔と声を出していた。

「ん?”船専属のスタッフ”?ですか?」

「はい。では……澄玲様には私の知っている”宝探し”についての情報と、有益なヒントをご提供しましょう。」

澄玲は彼の言葉で気になった事を繰り返すと、板金船長は厘に渡したキャンディーの代わりとして、彼の知る”宝探し”の情報を教えてくれるらしい。ただこれは、澄玲”だけ”ではなく、見抜けなかった勝也と夕お姉さんにも教えてくれる様だ。


「今回、”セブンスハッピーとレジャーシップ”のクルーズで、皆さまの安全保障とサービスを行う者ですが、大きく分けて二種類おります。……一つは、この船に長らく乗り続ける船専属スタッフです。私の様な黒か、紺色スーツに黒のネクタイまたは白ハンカチを胸ポケットに入れている者、他に、シャツやメンパン等の動きやすい服を着て船の運行を行う者です。これらはあくまでも”船の運航のみ”に従事しているスタッフですので、”宝探し”を始め、船内で行われるサービスのほとんどに関わっておりません。……そしてもう一つですが”そちら”のエレベーターの前におられる”女性”の様に、似た様なエプロンドレスを身に纏う女性、若しくはスーツを着る男性の中でも、カラフルな色が付けられたモノを身に纏う、ゴルドラファミリーの方達です。そちらの男性スタッフも黒や紺色のスーツを着用していますが、彼らは皆、色付きのネクタイや胸ポケットにハンカチ等の目に見える部分に色の付いた物を身に付けております。彼らは船の運航業務よりも、皆さまにサービスを行う目的で動いております。なので、もし金貨を集める場合は何らかの色が付けられたスタッフにご注目してください。」

板金船長はこのセブンスハッピーとレジャーシップに乗っているスタッフについて教えてくれている。

なるほど、これまで見てきた名前の知らないエプロンドレス女性は皆、茶色を基調としているエプロンドレスを身に纏っていた。

「ぁ……ナギノンちゃんって、そういえば……ゴルドラファミリーに勤めてるコだったもんね……」

そこで夕お姉さんは、今もエレベーター前でこちらにチラチラと視線を向ける凪乃を見てそんな事を言う。


「はい。では……ここからがヒントになりますが……そちらに置かれている売店です。そちらではいつも、現金やカード等のお金でお土産やお菓子等を買える事が出来ますが、今回はその”金貨”で食べ物を含む、様々な物が交換できる場所となっています。ですので部屋が決まり次第、出来るだけ早めに訪れてご利用になった方が良いでしょう。」

「金貨で物が買える売店って事?……いやいや……、私、六枚しかないんだけど……」

板金船長はフロントの横にある待合所・ソファ•テレビスペースに含みを持たせて案内をしていた。

澄玲や厘はまだ少しだけだが金貨に余裕がある。

しかし、夕お姉さんには金貨の余裕がない……


彼女・彼らはまだ日も登っていない未明頃、雨田家から出立する前に野菜ジュース等の飲み物をほんの少し飲んできただけだ。

ご飯がもしココで食べられるのなら食べようと思っているが、聞いた話によると、”恵比寿(えびす)レストラン”と言うこの船の区画では、金貨一枚でそこにいる間は食べ放題と言う事らしい。もし今から金貨を手放して朝ごはんを食べるのなら、どちらかと言うとそちらの方が良いのだが……


「勿論行くよ!一番乗りはそれだけでも有利になるモンね!」

そうしていると、金ぴかキャンディーの棒を握りしめる厘が鼻息荒く板金船長のヒントに乗っている。

「はい。雨田厘様、私がその椅子から降ろしますのでもう少しお待ちください。ですがやはり……よく解っていらっしゃる……」

ちなみに厘は未だ、背の高いイスにちょこんと乗っている。

厘の足ではそのイスから『立ち上がる』と言うよりも、椅子から『落ちなくてはならない』のだ。


「では、お部屋ですが……部屋の人数等はどうされますか?一人部屋から五人部屋までございます。…他に15人程の方が寝る場所を共有する、雑魚寝ルームもございますが「え?部屋も自由に決めて良いんですか?」勿論です。一人部屋を四つでも構いませんし、四人ですが……一人部屋と五人部屋に分かれて貰っても構いません。また、お望みならば、五人部屋を四つでも構いません。」

なんとも贅沢な案内なのだろう……少し……いや、言っている事が大分おかしかった。


「ぇ?いっ、いえっ……皆で1つの四人部屋で……構わないですよね?それとも、夕義姉さんがお一人になりたかったら……」

「ぁあ、いやいや、勿論皆で一緒で良いよ、うん。澄玲さんが良いんだったらだけど……」

「では……皆さんで”1つの四人部屋を使用する”と言う事でよろしいですか?」

「ぁ、……はい。それでお願いします。」

澄玲が夕お姉さんに気を使いながら、探る様に部屋割りを言う。しかし、夕お姉さんも義理の妹である澄玲に気を使って決定権を委ね、最後は板金船長が勝也に目を向けて判断を仰ぐ。

勝也としては別にどうでも良い事だったらしく、提案された部屋割りをただ頷いた。


「では降ろします……「ぅー……ん!」はい。それでは早速、部屋の登録を『ガゴッ……』……っ……『ギィ』………『ッ、ッ……』………んーんっ!やはり、あなた方は持っていらっしゃる「「「?……」」」七階の77番部屋、777ルーム「「……えっ!」」でよろしいですか?」「ぁ、はい、それでお願いします。」

板金船長は厘を椅子から抱き上げて床に降ろし、椅子を持ち上げると今度は受付の端を持ち上げて受付を(くぐ)る。

受付の向こう側にあるパソコンを操作して条件に合う部屋を探すと、どうやら777(スリーセブン)な番号の部屋らしい。確認の声を向けられた勝也は分かりやすい番号の部屋だと即座に了承していた。


「はい……部屋の登録が完了しました。もう部屋の鍵も皆さんの指紋と部屋の扉に目を合わせる事で開錠される様になっています。何かあれば、部屋の受話器からでも、コチラにおこしになってでも構いませんので仰ってください。では、どうぞ、そちらへ。」

板金船長はパソコンの操作を軽やかに行い、部屋の登録をすませていた。

右手を横に伸ばし、売店?へ向かう様に白手袋の指を向けている。



『ジリッ……』

「あぁ、はいはい……いらっしゃい……ここは今、金貨で軽食やらおやつや服を交換したり、身の回りのお世話や代わりに金貨集めをするメイドを雇える売店だよ。」

「メイドさんを雇える!……って!?」

部屋の登録を済ませ、厘を先頭にして、ソファ等の待合スペースでこじんまりと営業?をしている売店に訪れる雨田一行だ。

その売店?にはエプロンドレスを身に纏う老齢な女性が新聞片手に座っていた。

お弁当や、普通の店などで売っているお菓子が一纏めで袋に詰められて並べられている。

他に、下着を含む服やら雑誌などもあり、何らかのイラストが描かれているカードもその中にはあった。


売っている?モノは何も実物の『物』だけでない様だ。

どうやらそのカードは何らかのサービスや、メイドを(はべ)らす事も出来る、言うなれば『サービス命令カード』がソコにはあった。


厘はその売店?に詰めている女性の言葉を聞くと、エレベーターの方をチラと見てからイラストが描かれているカードへ視線を向けている。

そのカードには一枚一枚に金貨も描かれていて、金貨が10枚や20枚と……他とは桁違いに金貨が必要らしい。


「えっ?”金貨を集める人を雇える”って言うの?」

「むむっ……『宝探し』って言うよりも……何か……”シミュレーションゲーム”?って言うかなんと言うか……」

『宝探し』を子供のゲームと思っていた大人たち、母・澄玲や夕お姉さんはその実態に疑問を覚え始めた様だった。


”ただの宝探しじゃないぞ?”と思っている。

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