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力の使い方  作者: やす
三年の夏
332/474

#331~賽の前の力~

#330~力の賽は投げられた~のBパート的お話しになります。

ちなみに、1月16日と7月16日は賽日と言って、

”閻魔詣で”とも言います。

神社等にある閻魔堂を『みんなで見に行こうぜ☆』って事ですね。

なんでも地獄の人たちが休んで、地獄に落ちた人も休憩出来るのでみんなで閻魔様をお参りしようって日なんだそうな。


「ピンポーン!」

とある女性が、とある民家のインターホンを押す。

『……ぁ、はい……あれ?……どうしたんですか?』

インターホンからは聞きなれている声が聞こえてきた。


「う゛ぅ゛ん゛……っ゛や゛ぁ!……あ゛げでぇ゛ー……」『ぇ?あっ……っ、はい』

場所は清虹市内の北、土旗地域にあるソコソコ大きな一軒家だ。

時間は昼から夕方に変わる頃の時分である。


そんな一軒家に、この時間帯・この家には子供しかいない事を知っている女性が訪れていた。


『ガチャ、ガァァ……』

「あ、あの……夕お姉さん……今は父さんも母さんも家にいないですけど……」

その家の玄関扉を開けて訪問者である女性・雨田夕に対応するのは、この家の子供である雨田勝也だ。


「…………ぅ゛ん゛……ちょっどどめ゛ざぜでぇ゛ぇ゛ーー……「ぇ?ぁ『ギュ』あ、あの……どうしたん」ぅ゛ぅ゛う゛う゛ん゛……」

夕は歳がいもなく、ノコノコ出てきた勝也に泣きながら抱き着いた。

雨田夕、36歳独身女性は8歳の甥、つまりは彼女の弟の息子にガチ泣きしながら助けを乞い願っている。




『バタン』『……ゴポゴボッ』

『コッ』「あの……麦茶です。」「……ぅ゛ん゛……」

勝也は冷蔵庫から麦色の液体が入れられている容器を取り出し、それをコップに移して、訪れた女性に差し出していた。

勝也は家の中に夕を招き入れている。ダイニングキッチンだ。

キッチンの前に食卓テーブルが置かれている、雨田家が食事をする場所である。

ちなみに雨田家にはリビング・客が通される場所と、招き入れた者が寝る時に使う和室部屋が他にある。ダイニングキッチンは”家族のスペース”と言える所だろう。


「あの……母さんに電話しますか?それとも……務伯父さんに電話「ぅ゛う゛ん!」ぁ、えっと……じゃぁ……父さんに……「……」……あっ……」

勝也は母親か、夕と父(まさる)の兄であるカメラショップ・レインボウの店主、雨田務に連絡を入れるか聞くが、どうやら夕がこんな状態になっている原因は勝也の伯父の務らしい。

父親の大に連絡しても、どうする事も出来ないのは言うまでもない事からすげなく無視されてしまっていた。


「……」

「……っぅ、っぅ、んっ、ん゛ん゛……」

勝也としては伯母の夕に・どう声を掛ければ良いのか?・どうする事が出来るのか?分かっていない。

「ぶっはぁ……」

夕は勝也が出した麦茶を飲んで落ち着いてきた様だ。

先の返答を見る所によると、夕は務伯父さんと喧嘩して、彼女が根城にしている伯父さんが経営しているお店から締め出されてしまったか、”夕お姉さん”が逃げ出して来たのか、どちらかしたのだろう。


「……えっと……」

勝也は夕のこんな状態になっている場面を見た事も聞いた事もなく、どう接すれば良いのか分からなかった。

務伯父さんは抜け目ない所がありながらも、面倒見が良い方で、たとえ”夕お姉さんが人として間違った事をしていた”としても、勝也達にこんな妹の状態を晒す様な事はさせないハズだ。

それを言うのも、夕お姉さんがプロのカメラマンを目指しているのは務伯父さんが引き込んだ所があるからだ。

実際夕お姉さんが撮る写真には務伯父さんも含めた誰よりも饒舌に尽くしがたい1枚を撮る”事がある。”

そう、”撮る事がある”と言うのが現状だ。

つまりそれは、『まだプロのカメラマン一本では食べて行けない』と言う事なのだ。

なので夕お姉さんは、務伯父さんの店を手伝いながら、ほそぼそと生活をしている。


「……」

「……ん?これって?」

勝也と夕がお互いに何も言えないでいると、彼女は食卓テーブルの端に紙を紐で束ねた冊子と鉛筆が転がっているのに話を向ける。夕は少しだけ冷静さを取り戻しつつあった。

「……夏休みの宿題です。「あぁ……今の清虹市にある学校って、夏休みの宿題は”こう”なってるんだ……」はい。」


清虹市にある学校は春夏秋冬全てのシーズンである程度の長さの休日が用意されている。

学生たちは人にもよるが、その休日をある程度は歓迎している。そんな彼・彼女等が長期休暇で気にするのは、その間にやらなければいけない”宿題”であろう。

そこで清虹市は、一律な様式の宿題を全学校で出している。

一日1ページを消化する事で、冊子全てを休み中に計画的に終わらせる事が出来るのだ。その名も”長期休暇の宿題冊子”である。

1人1人に問題が違う冊子が用意されていて、人の宿題を見て楽をする事が出来ない物となっている。

清虹市内にいる同学年の中には同じ冊子を渡されている者もいるらしく、それを探し出せれば、宿題を丸写しする事も出来るだろうが、そんな途方もない事をするぐらいなら自力で宿題をやった方が簡単だ。

その宿題を課す先生方としても、学校にあるパソコンで宿題の回答を参照する事ができ、宿題のチェックもパソコンに宿題を取り込む事で、自動で確認する事が出来る様になっている。

このシステムは全て清敬学校が制作・運営を行っており、清敬学校に少しの賃金を支払う事で、先生方は宿題を外注する事が出来ているのだ。

長期休暇による、先生方の負担を減らすのに多大な効果を発揮している。清虹市内の学校は全てこの”宿題冊子”を採用しているそうだ。


「……どれどれ、まだ夏休みに入って一週間だけど、勝也は『……ペラ、ペラ……』あれ?」

夕は勝也の宿題冊子をめくり始める。

今日は7月15日だ。7月7日から夏休みに入って、丁度一週間が過ぎた所である。

つまり冊子の七ページか八ページまでを終わらせているのが模範的な学生と言えるだろう。


勝也はと言うと……

「えっ?これ……今年のだよね?なんで最後まで終わってるの?」「あのっ……一応、『一日1ページ”は”進める事』ってあるので……」

「あぁー……やっぱり親子なのかね?……そういや大も宿題は休みが始まって一週間ぐらいで終わらせてたよ。」

夕は勝也の父である大が勝也ぐらいの頃を思い出しているらしい。


「えっ?そうなんですか……でも……厘は俺よりもっと早く終わらせてますよ。」

だが、勝也は妹を引き合いに出して、遺伝子が同じ様なモノながらも、自分はまだマシである事を夕に訴えていた。

「え?でも、厘って二年生でしょ?宿題ってあるの?」

「あります。あります。それも……宿題を貰って来たその日に終わらせてましたから!」

「……へぇー」

夕はそんな風に一生懸命になって厘を悪し様に言う勝也を見て、そうとは気取られない様に密かに思いを巡らせる。

『……勝也は結構勉強が出来るのかもしれないが、案外それと同じぐらい馬鹿なんじゃないの?』と……


「まぁいいや、ところで厘は今どこにいるの?「あの……友達の家に遊びに行ってます。昨日から泊まりに行ってて……今日帰って来る予定なんですけど……」そっかぁ……3人でせんとうに行こうかと思ってたんだけどなぁ……」

「戦闘って……たた「うん、商店街の方ね」……あ、”猿の銭湯”ですか……」

勝也は何かを勘違いしそうになるが……夕はすぐに補足説明をしていた。


彼女の行こうとしている所は土旗商店街にある公衆浴場・”猿の銭湯”である。

「あ、でも、厘の友達の家って、この前行って知ったんですけど、土旗商店街の近くの地本さんの家なんで……連絡して迎えに行けば、銭湯にそのまま一緒に行けますよ?」

「ん!?……勝也は厘の友達の家が解るのね?……でも、厘の友達の家の電話番号なんて解るの?」

勝也は厘の友達の家が解るそうだ。前に雨田兄妹と飯吹が訪れた家らしい。

だが、妹の友達の家の電話番号が解るのか?と夕は訝しんでいる。

「えっと……家の電話で一回電話かけた事があって、「電話に送信履歴が残ってるのね?」いやっ、電話に表示されてた番号を覚えてます。「え……厘の友達の家の電話番号なんて物を暗記してるの?なんで?……「えっ?あっ、はい……なんとなく……」凄いね……」


この時勝也は夕の表情を見て何を考えていたのか察していた。

『妹の友だちの家の電話番号なんて物を覚えていると、変な子として見られてしまう事がある?』と……


「じゃあ、お願いね、あの銭湯は服も洗って貰えて便利なんだよねー、私フリーパス買ってるぐらいだし……あんたらの分も払ってあげよう!」

「あ……じゃあ……厘の着替えも用意していきます……」

「うんうん!」


勝也は夕の事情を無視してお風呂の用意に奔走をし始める。

土旗商店街にある”猿の温泉”はクリーニング・コインランドリー業も行っている公共浴場だ。洗濯を待つ間に商店街の他店舗に足を延ばしたりも出来る形態をとっている。


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