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力の使い方  作者: やす
三年の夏
324/474

#323~力のされるがままに~

「いえ……どこからも出していません。”こちらの”手で……持ってましたので。」

建物の影にいる女性は平岩達から見て彼女の奥側にある左手を開け閉めしながら光がさす場所に持ってきて疑問に答えている。


「んん?、、、あ、あぁ……ごめんごめん。今、シャツの中から出したのかと思って……パソコンは”裸で持ってた”んだね。」

ノートパソコンは”ドコから出て来たのか”を聞いた飯吹は目を擦りながら女性の言葉に納得した様子だ。


「ええ……誤解が解けた様でなりよりです。では……”ココから”は当初の予定通り、”(わたくし)ども”の方で撮影とイベントの進行を致します。」

未だ建物の影・暗がりに立つ女性は賢人に顔を変えながら話す。

女性は飯吹の言葉に何か引っかかりを覚えている様子だが、そんな疑問は軽く流して話しを進める様だ。


猿野(さるの)さん……お飲み物を預かります。「……ども。」では……これからの予定ですが、皆さまはワゴン車で移動して頂きます。”当初”……(スター)(アンド)(フラワー)風台店へ向かう予定でしたが、そこの立花店長が中継を見て、”市長に伝えたい事がある”としてこちらにお越しくださった様です。「マジか……」こちらで……事前にお聞きした所によると、立花店長の報告は車内で行う様にセッティングしました。ネット配信の撮影は……”車の中から”行います。その前に……”皆さまへのメイクも”こちらで”行いますので何かご要望があればおっしゃってください。この段取り全体を通してのご要望や、何か”質問”があれば今伺います。」

ペットボトルを返すアナウンサーの女性は言葉少なに動いている。それを受け取る女性は抑揚のない声で”これからの流れ”を説明していた。


『パタッ……』

「金山市長のホームページにさっき送ってもらったページのリンクを作りました。それで早速”質問”なんですが……貴女はどちら様ですか?お名前等を教えて貰えると助かります。」

そんな事を言うのは平岩だ。

ホームページの作業が終わったのだろう今受け取ったノートパソコンを畳みながら、突然賢人の背後から現れてイベントの舵を取り仕切る女性へ早速”質問”をぶつけている。


「っ?!……これはご紹介が遅れました。(わたくし)は……ゴルドラファミリーで金山家のお世話をさせて頂いている土間(どま)(たえ)と申します。」

「えっ?!ご、お世話って……」「ん?ごまだれ?……」「「……」」

その女性は平岩の質問に疑問を覚えたらしく、賢人をひと睨みしてから頭を下げて自己紹介をする。

土間の自己紹介、もっと言うと彼女の仕事と所属を聞いた平岩は驚き、飯吹は聞き間違えたのか、広く人気がありそうなタレを連想している。

賢人と、これまでイベントを仕切っていたフリーアナウンサーの女性・猿野はただ沈黙を返していた。


『ボゥゥゥゥ……ググッ』「おっ」「あっ」「「……」」『ガァーッガガッ、』

一瞬の静寂の後、猿野アナの後ろで大型ワゴン車が停車してスライドドアが(ひら)かれる。

「お待たせしました。」

スライドドアを開けた女性、ゴルドラファミリーの社長を務める水上藍が、おでこと眼鏡を光らせながらそこにいる面子を車内に(いざな)った。



「席順はこちらで決めています。席に名札があるのでそちらに座ってください。」

水上は大型ワゴン車から降りて、その場にいる者達へ代わりに車に乗る様に指示を出している。

そのワゴン車は全面に四角を重ねたエンブレム・金山家の紋章が置かれていて、ゴルドラカーの車両である事が伺い知れる。

後部座席は中心に広い空間を有していて、最後部に4人掛けの座席があり、スライドドアの反対側側面に背を向ける形で3人掛けの椅子が置かれていた。


本来この車は最後部の4人掛けの座席と平行の向きでその前に2人掛け+1人掛けの座席が置かれ、そのまた前にも2人+1人、そのまた前に2人掛けの座席が置かれる車両なのだが、ゴルドラカーの14人乗りの車は座席をある程度自由に配置換え出来る車両らしい。

多くの人が持っているであろう普通自動車免許で運転出来る車は10人乗りまでだが、中型自動車運転免許だと29人乗りの車までを運転する事が出来る。俗に言うマイクロバスや小型バスと言われる乗り物だ。30人以上が乗れる車は様々な地域で走っているバスとなり、種別としては大型バスとなる。

今回の水上達・ゴルドラファミリーが用意したこの車は、見た目は乗用車とそこまで変わらない見た目の14人乗りの車の様だ。

この車を運転するのに必要な免許は中型自動車運転免許となる。

人材派遣で並ぶモノがいないといわれる”ゴルドラファミリー”と言えた。


「よし、じゃあひとまずは軽く”打ち合わせ”だな。」

運転手の他に乗員がいない車に乗り込んだ賢人はそんな事を言いながら最後部座席の一つに腰を下ろす。

「……はい。」

平岩はその席とは垂直に置かれた席の一番端だ。賢人とは横並びになっている。

「……」

そして、賢人の横の席を空けて猿野アナが座席に座り、

「私はそこか……」

賢人と猿野アナの間にある座席に飯吹が座る。


「では、軽くメイクを行います。」

そこで車外にいる水上の声を合図にして二人の女性がドコからともなく現れて四人に自然なメイクを施していく。

賢人は優男マシマシに、

平岩は黒光りしそうなイケメン風に、

猿野アナは自然な範疇で白く、

飯吹は嫌味な程に白く、

画面映えしそうな感じにセッティングされていく。

フリーアナウンサーですし、良いですよね?

『猿の穴』

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