#311~力は簡単に状況を変えられない?~
『ガヤガヤ……「はい、次にょ子ー「はぁい!」はい、じゃあ”織姫”との思い出は?にゃ。「え?”にゃ”って何?……ん?誰かのモノマネしてんの?」にゃ??」
太陽が地平線に近づき、それに照らされるモノの影がその”モノ”の身長を越えてきた頃
清虹市の中心に建っている清虹市役所前に、軽トラが駐車されている。
その荷台の横にはテント式の日よけが設営されていて、そこにはとある男性が一人いた。
何十人かの子供たちがその男性に向けて列を作っている……
「にゃ?にゃんの事を言ってるにゃ?……ぁ、俺の事は良いからさっさと”カード”をソコにかざして”思い出”の証拠を出すにゃ。」
「はっ、はぁ?……ぇ?俺が悪いの?……って、えーっ……カードぉ?……」
その男性はココ清虹市の金山賢人市長の”親戚”で、また、ついこの間まではその賢人と同じ建物に住んでいた仕事仲間でもある。
その男性の名前は三夜五郎、通称”みゃごろ”だ。
「にゃ??……もしかして、カードを持って来てにゃいの?」
彼はパイプ椅子に腰を下ろしていて、目の前には長テーブルを置き、その上にはパソコンと簡素なデザインの読み取り機を置いている。
この読み取り機は”清虹カード”を読み取るモノだ。
カードを読み取る事で、カードの中に内臓されているチップから番号やデータを読み出し、市の稼働させているサーバーから個人情報等を読み出すシステムを構築している。
「……カードって、それ……」
清虹市民は二つに分けられる。
”清虹カード”を普段使う者と、それほど使わない者だ。
「ぁーーーー……」「ぃゃぁー……」「ぅぇぇん……」「ぇーーーんっ……」「ぉぅぅぅん……」
「……っ!……いっ、いやっ……あるけどっ……うっ……ちゃんと持って来てるけどっ!」『ピロン!』
その列の先頭にいる、小学生の高学年ぐらいな男の子は後ろに並ぶ子供達の”鳴き声”を聞き、渋々と言った体でポケットから財布を取り出してソコから”清虹カード”を取り出し、テーブルに置かれている読み取り機に当てた。
「んーわからにゃくはにゃいけど……ちょっと写真が古いにゃ。”思い出の証明”よりも、”写真の更新”をしにゃきゃだめにゃ。」
「えぇ……」
みゃごろは読み取り機に表示されている画像を見てから、目の前の男の子に”写真”を新しくしないとダメだと言っている。
「どうするにゃ?今からソコの建物の中で写真を撮っちゃうか、一旦帰って”おうちの人”とカードの中の”写真を新しく”しても良いか相談するのかにゃ?」
「それは別に良いけど……」
”みゃごろ”は小さな子供でも分け隔てなく接している。子供も”みゃごろ”一人を相手にしている限りは物怖じせずに言葉を返していた。
”清虹カード”には本人確認ができる写真データが保存されている。
普段”清虹カード”を使う子供は、一年毎ぐらいのペースでその写真を撮り直すのだが、未成年者の中には”清虹カード”をほぼ使わず、その中に保存されている”本人確認の写真”を更新しない者が一定数の割合で存在していた。
そんな者達は今回の様な”清虹市で行われる行事”で半強制的に本人確認の写真を”無料で”更新させられている。
これが大人ならば”本人確認を簡単に済ませられる”と、ある程度は積極的に写真を更新しているのが現状だ。
勿論だが、容姿がガラッと変わっていたり、長年カードの中に保存されている写真データを更新していなければ、他の本人確認の書類等を用意しなければ内臓されている写真データが更新できない決まりになっているし、カードの中に保存されているデータは清虹市役所にある端末か、清虹署に置かれている端末でしか書き換えをする事が出来ず、カードを力づくで分解する等の強硬手段をして、”悪意のあるハッカー”がカードの中に入っているデータを書き換えたとしてもサーバーで保存しているデータとの齟齬が出来てしまい、”清虹カードの機能が制限されてしまう”と言ったシステムで運用されている。
この”ハッカー”と言う言葉だが、世間的には”ハッカー=パソコン等の電子機器に精通していて、それを使って悪事を働く者”と言ったイメージがほとんどの国々で形成されているが、これは間違いだ。
ハッカーとは本来、パソコン等の電子機器に精通していて、様々な障害や実現できない事を解析し、プログラミングや機器を物理的にも改修して問題を解決する、謂わば”尊敬されるべき様な者達”の事を言う。
英語のハック・hackが語源で、ハックの意味は”切り刻む・叩き切る”と訳される。
理工系では機器やプログラム等を詳細に解析して”切り開く”と言う意味を込めて使われ始めたとされている。
”ハッキング”も同じで、本来はその言葉に”悪事”の成分は込められていない。
そういう事もあるのでたまに、”貴方のパソコンが悪いハッカーに狙われています”なんて、わざわざ”悪い”と形容詞をつけて不安を煽る様な広告が散見されるが、”ハッカー”には尊敬される様な成分が込められているので”悪いハッカー”と言うのも言葉的によろしくはないだろう。
それでも”悪いハッカー”と言いたい場合は”クラッカー”が妥当と言える。それにともなって”クラッキング”も”悪い・攻撃的な”と言う意味が込められているのだが、残念な事に、”クラッキング””クラッカー”と言っても、”クラッキングって?ハッキングの事でしょ”だったり、”クラッカー?それって紐を引いて音を出して楽しませる奴かお菓子でしょ?”と意味を逆転して覚えられているのが現状だ。
近年ではそんな現状を鑑みて”ホワイトハッカー”なる 本来は必要のない・むしろ作ってはいけない単語が作られて使用されているが、一度定着された”先入観”や”イメージ”は生半可な事では変えられないのが現実だ。
「にゃら、どうせタダなんだし、さっさと撮って来るにゃ、はい。次にょ子ー……」
こうして、金山賢人市長が毎年の7月7日に開催しているイベント・今年は”皆で清虹市を東西に渡って見て行こう!”の前半部分は盛況の内に終了する。




