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力の使い方  作者: やす
三年の夏
308/474

#307~力は見合って見合って~


『……ガヤガヤ……『……ズズズズーー……チュルチュル!……あむあむ……』

『モアッ』と湯気だつ丼から、乳白色に少しだけ黄味がかった麺を啜る者がいる。

「あふあふ、『ズズズズッ、』……」

その向かい側でも割かし静かに麺を啜る者がいた。


「……」

「……んっ?飯吹先輩、ココは結構おいしいですね。」

静かに麺を啜っていた方の女性は目の前で豪快に麺を啜る音が途絶えていた事に気付き、顔を上げて”連れ”にこの飲食店の感想を述べる。

「…………う、うん……味は良いんだけど……でもちょっと”狭すぎ”ない?」

「いえいえ、それがまた”おいしい”んですよ。」「え?……狭いからおいしい”の?」

彼女達が訪れているラーメン屋さんは、その名も”個室ラーメン屋さん”だ。

中規模な大きさな建物のラーメン屋だが、ソコにあるテーブルは全て壁で区切られていて、客同士が目を合わせないで食事が出来る飲食店となっている。

部屋の数がどれだけあるかは分からないが、現状彼女達がいる場所の規模で考えると、少なくとも50部屋ぐらいはあってもおかしくない。

飯吹と雷銅は膝は突き合わせて一つのテーブルで、それぞれ目の前にある丼から麺を啜っているが、その二人の背中のすぐソコに壁が置かれていた。

彼女等が座っているだけで使っているテーブルと空間のキャパシティーは満杯だ。


……ガヤガヤ……「……はいぃ、100番卓ぅー”凝ってるラーメン醤油味”二人前お待ちぃー……」

そこでドコからか、店主らしき男性の声が雑踏の中でも響き渡る。

実を言うと、今彼女達がいる空間はパーテーションでテーブルが区切られているだけで、他のテーブルの会話や物音等はそれなりに近く、耳をすませば隣のテーブルで交わされる会話がギリギリで聞こえてしまう状況だった。

だがその吊るされている仕切りはそれなりに大きく、天井近くから足元辺りまでを隔てている。

四方八方のテーブルから雑音がするので、特定のテーブルでされる会話等を聞き取れる状況ではなかった。


圧迫感はそれなりにあるが、小さなテーブルに”連れ”と肩を寄せ合って食べるラーメンはカップルやパートナー等からある程度の理解と人気を集めている。

また、そこで提供される”凝ってるラーメン”はこってり味で、一定のファンが付くほどには旨かった。ただし、味は濃いので人を選ぶ程だ。


……ガヤガヤ……「……はいぃ、3番卓ぅー”お冷”二つお待ちぃー……」

「あぁ、そういえばお水ないな……」

不思議な事に、雑音の中でも店主の声だけは鮮明に聞こえている。飯吹は自分たちに配膳されていない飲み物を恨めしそうにしていた。

「あっ、ココは言わないとお水貰えないんですよ。「……えっ?頼まなきゃ貰えないの?お水?」はい。私が頼みます。えーと……」

そんな飯吹の恨めしい言葉を聞いた雷銅は席に身体を残しつつ、身体を横に傾けてテーブルの側面で何かを探す。


「……23番テーブルにもお水を二杯下さい!」「……」

テーブルの側面には番号が印字されているらしい。、雷銅はそれを言いつつ、多少は大きい声で要望を飛ばした。


……ガヤガヤ……『……』……ガヤガヤ……

しかし、彼女の声には特に反応がない。

ちなみに、注文を店先のレジで済ませた後に、その注文したラーメンと共にテーブルへ案内されている。

その時は特段説明などは無かったが、どうやらそのシステムはインターネットで説明されている様だ。


……ガヤガヤ……「……ふむぅ……」「……」……ガヤガヤ……

「……はいぃ、23番卓ぅー”お冷”二つお待ちぃー……」

そういった説明が”おざなり”な事に眉をひそめる飯吹だが、程なくしてお冷を二つ持つエプロン姿の男性が現れる。

『ガチャ』『ガチャ』「……」

その給仕らしい男性は二十歳頃で意外と若い給仕だ。

彼は愛想笑いを浮かべながら彼女達のテーブルに水の入ったグラスを二つ置くと、へこへこしながら去っていく。


「ちっ……」「……ん?どったの?」

その男性給仕の消えた方へ視線と舌打ちを向ける雷銅へ、飯吹は声を投げかける。

その男性給仕は、決して不愛想な訳でも、グラスを乱暴に置いた訳でもない。

逆に雷銅の反応は少し過剰と言えた。


「……いえ、ここ、法力が使われていますよね?「ん?……ああ、声ね。まぁ、良いんじゃないの?ソコまでのモノじゃないし……これぐらいじゃー申告する程じゃーないっしょ。」……あぁ、いえ、確かにそうなんですけど……」

清虹市では仕事に法力を運用する場合、事前に市か法力警察へ申告するように呼び掛けている。

だがこれは”呼びかけている”だけで、別に義務ではなく、”危険性”が無ければ申告されていないのが実情だ。

もしも人命にかかわる程に法力を業務に活用していて、人に怪我を負わせる程の事故が起こった場合、事前に申告していれば、ある程度の状況や被害なら”事故”として処理されるが、事前に申告されていない場合、”事業の差し止め”や、法力実行者の”法力免許の一時停止 又は、はく奪”等が科せられる様になっている。

雷銅の言う様にこの店では店主の声や、各テーブルの雑音抑制に、風系の法力が発現されている。


『プルルル』「っ、はい……」「……」

そこで雷銅の携帯は着信を知らせるコールを鳴らす。

雷銅は咄嗟にワンコールでそれを取り出して耳に当てていた。

飯吹は見慣れた様子でそれを見つめている。

但し、その携帯電話は雷銅の私用携帯電話ではなく、清虹市の警察官や法力警察官に支給されている方だ。

『……』「……っ、了解。」「……出動?」

雷銅は電話の内容を聞くと、二つ返事で通話を止めてしまう。

飯吹はいつもの様にして、分かっている風にして確認を行っていた。

「いえっ……そのっ……昼休憩に入ったみたいです……「あぁ、まぁ、そっか、」スミマセン……「ん?……」いえっ、そのっ、どうせ時間が取れるなら”どーん”でもよかったな、と思って……」

「……あぁ!いやいや、いいよいいよ、」

どうやら雷銅達はそのまま”昼休憩時間”に入ったらしい。

時間を理由に飯吹のランチを変えてしまった事に雷銅は謝っているのだが、飯吹には気にした様子は見られなかった。


「……」

飯吹は”ランチ”に結構な重きを置いている。それを”騙して取り上げてしまった”と雷銅は気に病んでいるらしい。

「さてと、じゃあライちゃんの時間も取れて丁度いい事だし……」「……?」

普段の飯吹なら、大事な”ランチ”を優先して、雷銅とは別の昼食を取っていてもおかしくないのだが……


「ライちゃん、何かあったでしょ?「えっ?!い、いえっ……」”飯吹先輩”に言ってみ?「……何をっ?!」あーまー『フォ……』「っ!……」力になれないかもしれないけどさ。ライちゃんは私の事をまだ”先輩”って言って慕ってくれてる訳だしね。」「……」

ココで飯吹は人知れずに法力を発現させる。

その法力の技は風装甲(ウィンドアーマー)と言い、主に自身の身体や守るべき物に微風を纏わせ、炎や軽い投擲物を力量によるが、逸らす効果がある。また副次的効果として、音をシャットアウトさせる事が出来る技だ。


本来はもっと開けた所で発現しなければ技が失敗したり、効果が薄いモノになってしまうが、飯吹は見事な手際で雷銅と飯吹の二人だけを1つの風で包み、周りと自身達で音を分け隔てさせている。


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