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力の使い方  作者: やす
三年の夏
305/474

#304~力は見定める~

「いや、あの……いったい何……っ……鏡、朝子、こっちに来なさい。」

訪れた”つなぎーズ”の母親とみられる女性は、飯吹の言葉を聞いて考える素振りを見せた。だが、その言葉には答えないで”つなぎーズ”を呼ぶ。

「「はぁーい」」

”つなぎーズ”は女性の声に反応して一目散に走り出す。

「……ぁ……」

飯吹は二人が離れていくのにショックを受ける様にして手を伸ばすだけだ。


「……………法力…は……天職…………ねっ……」「っ?……」

”つなぎーズ”の母親らしい女性は誰にも聞こえない程の小声で独り言をこぼす。

「「ん?」」

その女性の左右、恐らくは定位置らしい場所に身を寄せた”つなぎーズ”も女性の独り言に疑問を感じて頭に疑問符を浮かべていた。

「……っ、、」

そしてもう一人、頭に疑問符を浮かべる女性がいるのだが、彼女は言葉を挟まない。


「……えっと……私は立花(たちばな)喜乃(きの)と申します。「っ!?」こっちの茶色の方は姉の(きょう)で、青色の方が妹の朝子(あさこ)です。娘たちがご迷惑をおかけしていたらすみません……人様に迷惑を掛けない様にいつも言っているんですけど……その……少しでも目を離していたり、咄嗟の時に法力を使おうとして誰かに迷惑を掛けちゃう性分らしくて……何度も言い聞かせてるんですけど……その……ごめんなさい。」

”つなぎーズ”の母親と名乗る喜乃は”つなぎーズ”の名前をそれぞれ紹介する様に言い、飯吹達に娘二人の頭を下げさせて・自分の頭も同じ様に傾ける。

そこで雷銅は”つなぎーズ”の母親らしい者の名前を聞き、小さな反応を見せていた。

「そうですか……貴女がスタフラの”立花さん”ですか……でしたら私は、”こう”いう者でして……」

それでも雷銅は気持ちを切り替える様にして、上着のポケットから手帳を見せながら、お決まりの対応を始めている。


「……っ?!……あっ!?け、警察の……っ、そっ、そうですか……」

喜乃は雷銅の警察手帳が意外な物だったらしく、血の気が引いた様な表情をつくり、眉を八の字に動かして、表情をわざとらしく作りながら言葉を返す。

「……そちらのお子さんが私に向けて法力を発現させました。……本来は二人を補導してから署の方で手続きをするのですが……まぁ、”貴方の”お子さんと言うのなら……咄嗟の時に法力を発現させてしまうのは”本当”なのでしょうね。……なら、貴女にも言っておきますが……”今回は見逃します。でも次はありませんよ”「えっ?知り合い?」ぃ、いえ……」

雷銅は”つなぎーズ”の所業と、あくまでも”注意”で済ませた流れをその母親である喜乃に説明するのだが、飯吹は雷銅の言葉に割って入る。


「……初めて会いましたが……飯吹先輩は覚えてませんか?……前に何度かトウさんから”彼女の”話だけは聞いてます。「ぇ?タチバナ……キノ?さん?……」……ま、まぁ、そんなに”私達の仕事”には直接関係はしてないので、覚えてなくても仕方がありません……」

雷銅は”つなぎーズ”の母親・”立花喜乃”を知っているらしい。飯吹は雷銅の言葉を聞いて、彼女の元上司・斉木謄との会話を何とか思い出そうとしはじめる。


「……」

「……んんー……駄目だ思い出せない……タチバナ……キノ……ぇぇ?……」

飯吹は一生懸命に頭をひねるのだが……そう簡単には思い出すことが出来ないらしい。

「……あの、飯吹先輩……後でお話ししますので、今は一旦……「……あぁ、うん、ごめんごめんご」……ですので……もう結構です。以後気を付ける様に、法力は免許を取ってから使用する様にしてください。」

「……」

雷銅は喜乃・鏡・朝子達母子に対して”もう帰ってくれて良いよ”と暗に言う。


「……あの、『”イブキ”先輩』って事は……お名前は”イブキ”さんでよろしいですか?ちょっと私からもお話をさせて貰いたいのですけど……今少しだけでも良いので、”私とお話し”させてください。」

「えっ?……あっ、はぁ……」「……」

しかし、”つなぎーズ”の母親・喜乃は飯吹に話しをしたいと申し出る。

飯吹としては残念な事に、この後”大事な予定”がある訳でも、”何かしなければならない事”がある訳でもない。


本当はしなければならない事は沢山あるハズなのだが、飯吹は”絶賛婚活中!”と言う名の”ぷ―太郎”であった。

「……」

「あっ、いえ、本当に少し確認させて貰いたいだけなので”そう怖い目で見つめないでください”……」

そう、喜乃がこの言葉を向ける相手は雷銅だ。彼女・喜乃の小さな独り言を聞き洩らさず、その言った独り言の不自然さから、”疑いの目”と”一挙手一投足を見逃さない様に見張る眼”を向けているのだ。

「……いえ、そんなつもりはありません。これは私のいつもの目ですから、私に気にせず”お話し”の続きをどうぞ。」

それでも雷銅は疑いの眼を指摘されても、怯む事なくその目を向け続けていた。


喜乃は雷銅と飯吹を一目見ただけで”法力警察”なのを見破っていたらしい。まぁ、飯吹は先日”法力警察”を辞めたばかりで、彼女はもうそうとは言えないのだが、そんな情報は”法力警察”内部でもそこまで周知されていない情報だ。

もし彼等”法力警察”を外からしか見ていない勢力があれば、それぐらいは知っていてもおかしくはない情報と言える。

つまり、雷銅と飯吹を”法力警官”と知っている者は彼等彼女らの近親者ぐらいで、彼女等が正体を明かした者以外は、ひと目見ただけでは”法力警察”のワード等が出るはずも無い。

勿論会ったばかりの喜乃には正体を明かしておらず、また、”つなぎーズ”の言動も実際は簡単に見過ごせるモノではなかったのだろう。

また、彼女が”立花喜乃”であるのなら、彼女達は”一般人”とは言い(がた)く、そんな者達ならば見張っていても損はないと考えているからだ。


「……なので失礼を承知で本題に入って聞くんですけど……”イブキ”さんの”イブキ”って、ご自分でつけられた名前だったりします?それとも、貴女のお父様やお母様だったり、家族の方が付けたりとか……それか、貴女が直接会った家族が付けたモノじゃなくて、代々続いている苗字や名前だったりしますか?」


雷銅の言葉にあった”飯吹先輩”しか聞いていない喜乃としては”イブキ”が苗字なのか名前なのかは分からず、また、もしかしたら”あだ名”かもしれない。

こう聞くのは彼女の知りたい事として至極まっとうな事なのだろう。


「……えっ?はいはい。私は飯吹(いぶき)金子(かなこ)と言います。”苗字”も名前も全て私が名付けました。……ぁ、でも、名前は私の世話をしてくれた”オジサン”から一字だけ貰ったんです。」

「……」

「ぁ……そうですか……と言う事は……貴女は”虹の子”……ですよね?」

飯吹の言葉を聞いた雷銅は押し黙り、喜乃は”やっぱり”と付けそうな感じで、合点がいった態度を示す。

「はぁ……あれ貴女もそうなんですか?……」

「あっ、いえいえ、私はちょっと違うんですけど、でも、同じような境遇で……」

「……ふーん……」

「……ふーん……」


「……」

”虹の子”でもなんでもなく、市外から学生の時に越してきて、そのまま清虹市に定住している雷銅は、ただ固唾をのんでその話し合いを聞いている。


「……あの、最近になって、生活に変化があったりしますか?……例えば……何かを心に決めて、それに向けて仕事を変えてみたりとか……」

「……いやぁ……あっ、と言っても、私はそんなに器用じゃないんで、”仕事を変える”なんてとてもとても……」

「「……」」「……」

四方山話に花を咲かせる二人だが

喜乃のそばに控える”つなぎーズ”は一言も喋らなかったり

飯吹の後ろに立つ”新隊長”は目の前の人物たちを睨む……とまではいかずとも、固唾を飲んで視線を向けている。

喋らない者達は、当の喋る二人の纏う空気とは違い、一触即発な現場と言える。……かもしれない。


また、飯吹にしては珍しく、”法力警察を辞めた”などと言う極秘情報をべらべら喋る程の愚行は起こさなかった。

そこらへんはうまい事に嘘を言わず、また、真実を話さない、天然な感じに向けられた言葉をうまく躱す手際を見せている。


「……そうですか、やっぱり飯吹さんはこの子たちが認めるだけあって、”とても”面白い人だと思います。……でも、”お連れの”方をこれ以上待たせるのもアレですし……今日の所はここまでに致しましょう。……良ければ”私の連絡先”を渡しますので……ぇーっと……お暇な時にお茶でもしましょう?「ぁ、はいはい。」……それか、私の”夫が”お店をやっているので、ソコ……えっと、”スタフラ風台本店”で”私を”呼んでくれれば、時間がかかるかもしれませんが、お相手出来ます。」

喜乃はドコからか、手帳とペンを取り出し、ソコに文字やら数字を書いて一枚の紙を飯吹に渡す。

また、彼女の夫は清虹市に展開している総合スーパー・(スター)(フラワー)の旗艦店・スタフラ風台店の店長を務めていると言う事だ。



「ふっふーん!」「ん?何?朝子?」「ん?」「……」

宴もたけなわな雰囲気が漂った所で喜乃のそばに控えていた”つなぎーズ”の青色つなぎの方が不敵に笑い始める。

”つなぎーズ”の母親である喜乃は自身の娘に何が起こっているのか分からなかった。


「実は!鏡と朝子は朝の服を着る時から服を交換して、入れ替わっていたのでしたー!」「……」

「え?……なんでそんな事を?……」「な、なんだってー!」「……」


なんと、”つなぎーズ”は”双子あるあるなイタズラ”として、最初から入れ替わっていたらしい。


勿論だが、今日初めて会った飯吹と雷銅はそれを今教えられてもそこまで驚く様な事ではなかった。

唯一驚けるハズの喜乃は淡泊に言葉を返している。

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