#301~力は許さない~
『ガガッ、ガガッ、『カチッ』……ッ……ッ……』
とある器具の上で拘束される様にして炎で炙られる拷問を受けるモノは、”もう我慢できない!”と訴える様に震え始める。
その震えは口を塞がれて叫び声を上げられない代わりに、”もうこれ以上はやめてくれ!!”と訴えかけている様なモノだ。
その訴えを目の前で監視していた者は、拷問器具の様に炎を噴き出している器具を触って炎を取り除く。
『……ッ』
自身の眼下にあった揺らめく炎が消えた事で、火に炙られる責め苦から逃れた喜びを享受しているらしく、まだまだ熱が残っていて熱いハズだが、その震えをスグに止めさせられる。
『ガァ』「うっ『モワッ……』熱ぃ……」
だが、つい今しがた器具から上がる炎を消し、炙られる様を恍惚の眼差しで監視していた者は、今度はその火で炙られて動かなくなっているモノの口を開けて、人の身では作り出せない程・保っていられない程の蒸気を空間に霧散させる。
その動かないモノの口を開ける、今まで見ていた・監視していた者はその蒸気が上がった事から、よく加熱されて、骨の芯まで火が通った事を確認していた。
「……よしっ……次だ。」
無残にも火で炙られて、口を開けられても喋れない”モノ”を物の様に扱っている者は、まず間違いなく自分の声に応じる事が出来ないのを分かった上で、言って聞かせる様にして次の段取りに移っていく……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―
「……」『ギィィ……』
平岩は口の真一文字を保ちながら、自身の部屋の玄関扉を開ける。勿論鍵等はかかっていない。
「なぁ雄二どうだった?「……はい?……」金ちゃん・いや、女性と触れ合ってみてさ……その感想とか……」
隣に立つ賢人は、平岩へ無粋にも相手と対面する直前に昨夜の感想を求めていた。
「……別に何も……昨夜の事はよく覚えてませんので……」
対する平岩は大分落ち着いて来たらしく、ムスッとした態度で事実を述べる。
「……そうか……まぁ……酒の力でやっちゃっても、それを継続出来なきゃ意味ないもんな……悪かったよ。まぁ、そうしょげるなって。本当にパートナーとして彼女が嫌なら俺が何とかするし、何事も経験してみなきゃな……」
賢人はかなり他人事の様にして平岩を慰める。
「……っ……何を言っているんですか!……次に市長選挙がもしあれば……賢人さんは選ばれないかも知れないんですよ?”春香さんが無傷で帰ってこれて、一体いくら金を積んだんだ?”って噂されているこんな時に……例え賢人さんの側近である私でも……女性関係で噂が立ってしまったら確実に市長選挙では向かい風が吹きます。……市長を続けられなくなっても良いんですか?!」
平岩は賢人の、ドコか他人ごとな言葉を聞いて遂には怒り出す。
賢人は金山家の一員である四期奥様と結婚していて、男性アイドル的な得票は見込めない。
その代わりと言っては何だが、賢人と似た境遇の平岩は独身を続け、ファンクラブが作られている程度には女性の票が集められている。
ただでさえ黒い噂が立ちやすい金山家に婿入りした賢人だと、一時の黒い噂が原因で人気が転落してしまう立場にある。
つまり、平岩は”自身に女性を宛がうのは愚策である”と賢人にキレていた。
「……ほぅ……平岩くん……まぁ、そんな事を思っているんだろうとは思っていたが……実際にそれを口に出して言ってくるとはな……」
賢人は平岩の考え等はお見通しであったらしいが、実際にそれを口に出してまで言われて、不穏な空気を纏うのを見せる。
「……なっ……だってそうでしょう?賢人さんはインターネットや世間で何て言われているのか見ていないんですか?」
平岩は賢人が”顔だけ市長”と言われていたり、最近では”丸くなってしまった”と失望している様な険のある声で言い返す。
「雄二……お前、誰にそんな口聞いてんのか分かってんのか?」
賢人は平岩に鋭い目を向けながら、”間違ってないか?”と言うニュアンスで声を突き刺した。
「わ、解ってますよ!……で、でも、賢人さんの為になる事しか俺はしません……」
平岩は多少狼狽しながらも、賢人の為を思っての言葉だと言い繕う。
『……ググゥ……』
平岩は途中まで開けて止めていた手を動かしながら、自身の借りている部屋に身体を向ける。のだが……
『……ガタンッ!』「……っ「!!」」
平岩の開けていた扉は勢いよく閉められて、扉の近くにいる者は(つまりは平岩は)息を飲んでしまう。
「解ってねぇよ。雄二……俺がいつそんな事を頼んだんだ?」
賢人は怒りに身を任せて平岩の部屋の玄関扉を閉めて幾分か大きい声を出していた。
「わ、分かりましたから……俺は賢人さんと争うつもりはありません……ですから……一旦部屋の中に入りましょうよ……」
平岩は周りを気にして視線を横に向けてから、何故だか”怒っている”賢人を宥めつつ白旗を上げる。
「いや、まだ駄目だ。雄二、お前は金ちゃんが嫌いなのか?「……いっいや……」え?そこはハッキリしろよ。お前は飯吹金子さんが嫌いなのか?好きなのか?俺はまだ雄二の答えを聞いていないぞ?「……っ、でっでも……今はそんな時じゃ……」ほら見ろ、それは”雄二の答え”じゃないだろ……俺に隠し事するとはな……いつからお前はそんなに偉くなったんだ?……」
賢人は平岩の着ているシャツの襟首を掴んで恫喝している。(※平岩が着ているミリタリー柄のシャツは三夜から借りていて、下は自身のトランクスパンツのみを着用していますにゃ)
「……いやっ……あのっ……そりゃまぁ……飯吹さんの外腹斜筋は見事なモノで、腹直筋は目を見張る物がありますし、あのサイズの胸の重量にも負けない大胸筋は素晴らしいとしか言い様がありません。……一緒にいたら楽しいかも知れませんが……、まっ、まぁでも、一緒にいたら疲れる相手ではあります」「……あぁ、もう良い……まぁ、人それぞれだからお前の筋肉談義は否定しないが……俺を見くびるなよ?お前が一人でいようが、誰かと結婚しようが、俺は市長を続けるだけだ。……でもな、女性がお前に告白してきたんなら……それはお前自身の理由を見つけて決着を付けろ。”俺を”女性を振る理由に使うのは許さない。」
賢人は四期奥様の時とは違い、平岩を冷たく突き放す。
「ほら……さっさと行くぞ。今日は忙しいんだからな。」『ガガァ……』
賢人は抑えていた平岩の部屋の玄関扉を勢いよく開ける。
『ガタンッ!』「んっ?」「はぃ……」
すると賢人が玄関扉を開けた所で平岩の部屋の奥の方から、何かが閉まった様な音が聞こえてきた。
賢人はその音を聞いて疑問符を浮かべるが、平岩は呆けた様な感じで弱弱しい返事をしている。
「ぁれ?今……部屋の戸が閉められたんだよな……それに……」
見ると平岩の部屋は引き戸が閉められている。
物音と現状から見ると、丁度狙いすました様なタイミングで中から引き戸を閉めた様だった。まるで何かから逃げる様な、隠れる様な”丁度良さ”である。
「……朝ご飯だよな……」
そして、他に目を引くのはキッチンの横に置かれている食卓テーブルだ。
その上には”味噌汁と白米、焼き魚に納豆”と言う、”ザ・日本の朝ごはん”が二人前分・向かい合って食べられる様に置かれている。
「……とっ、ともかく……服を取ってきます……」「えっ?あ、あぁ……」
賢人は平岩の部屋の状況を理解しようと動かないでいると、平岩が”のっしのっし……”と部屋の奥に向けて歩き出した。
『ガッ……「……うっ」ググゥ、ググッ、ググッ……』「はぁ……」
平岩が引き戸を開けて部屋に入ろうとするのだが、部屋に”逃げ込んだ”者が部屋の中から引き戸を押さえつけているらしく、彼は自身の部屋の引き戸を開ける事が出来ないらしい。
ふり返って賢人に困った様な顔を向ける。
「……っ?『スゥ、』……あっ」
平岩がこちらに顔を向けていると、賢人の視界には部屋の引き戸が少しだけ開けられて、中に籠城している者が腕だけを出して掌を下に向けて”こっちこっち”と揺らしているのを見つけていた。
「えっ?」「んっ?」
賢人がその”腕だけを出して招き入れる様な仕草”を発見して、何の意味があるのかを考えていると、平岩も賢人の様子を見てから自身の後ろに出現している招き手を発見する。
『スゥゥゥ『あっちょ』ガンッ』「っ!」「……」
平岩は引き戸を問答無用で全開にさせるのだが、引き戸を押さえていた飯吹は恥ずかしさのあまりに口を閉じ、平岩は見てはいけない・見させてはいけない者をまざまざと露呈させてしまって息を飲み、賢人は見てはいけないモノを見てしまった……様にして目をそらす。
「ぃ、ぃや、あの……その……下着もこの際ここで洗濯しようと思って脱いだら……着る物が無かったんで……丁度あったコレを……」
ソコにはキッチンに置いていた、常日頃平岩が使っている、エプロン”のみ”を身に纏う飯吹がいた。
彼女は平岩ならまだしも、賢人に今の姿を見られる事を防ごうとしていたらしい。
拷問器具じゃなくてガスコンロでした。




