#298~力の真相~
「……くっ!……いやいやっ、まてよ……っ……昨日用意された飲み物は”お酒”だったんだろうな……んっ……と言う事は……そんなに動けないハズだから……もし”してた”のなら……下着もドコかにやってるハズ。……だからっ、ギリギリ”やってない”可能性の方が高いんじゃ……」
平岩はベッドの上で、隣で寝ている者と自身が身に着けている物を見やり、”行為まではしてない”と希望的な方向に結論付けていく。
「……っ…………………………………………、ふぅっ……」
彼は”自分自身のポジション”を確認したり、下半身を触って嫌な感触・湿っている個所・嫌にスぺスぺ・カピカピしている所 等がない事を知って、無意識に止めていた息を吐き出していた。
自身の身体はまるで『シャワーを浴びた後に身体を拭き、最低限身に着ける物として下着のパンツを着用した後、ベッドに潜り込んでスグに寝てしまった』様に見える。
今の状態を見る限り、『”激しい運動”をした後、疲れ果てて眠ってしまった』様には思えなかった。
『グゥ……』「……っ?「ゅぅ~~……」なっ!?」
平岩が自身の身体を見下ろしていると、自身の身体を支えているベッドが軋みを上げる。
彼が何事かと顔を上げて見てみると、隣で寝ていたハズの女性が上体を起こし、目を閉じたまま唇を窄めて迫り寄って来ていた!
「ぐ……ぅ、ぁ……」
平岩は迫ってきた女性を避けるために身体を後ろに反らすのだが、生憎と彼の部屋にあるベッドはそこまで大きくはない。
「……~―――っ……」『ゴトン!』「い゛っ゛、くぅ……」
シングルベッドにしてはやや大きめな方だが、二人寝ていてうち一人が身体を大きく後ろに反らせられる程の大きさはないのだ。
空を切る手もあえなく、彼はベッドからずり落ちてしまう。
「……~―――っ……」『ガタンッ!』『くぁー、くぁー…………
ベッドで上体を起こし、ユラユラと揺れた飯吹はそのまま身体を後ろに落としてそのまま寝息を奏で始めてしまった。
「……あっ……」
平岩の方はと言うと、無理な態勢で背中からずり落ちてしまったのだが、彼の部屋のベッドはすぐ近くにモノを置いておらず、ベッド上から消えていた布団が下敷きになって衝撃を和らげてくれた様だ。
怪我らしい怪我もしておらず、少々手荒な目覚まし代わりにはなったと言えるだろう。
「……っ……っ……」
この部屋の主は頭を振って意識をより覚醒させる。
……くぁー、くぁー……
『ペシッ、ペシッ、』「……起きてください。」……うぅぅん……あともうすこし……」
平岩は自身のベッドで寝ている飯吹の頬をペシペシと叩いて起こそうとしていた。しかし、彼女は平岩の叩く手を嫌がり、身体ごと顔を横に向けてしまう。
飯吹は典型的な様子を見せていて、寝ぼけいるらしい態度を見せていた。
「ちっ……なんでこんな事に……」
目覚めは良い平岩だが、未だに頭痛があるらしく少々不機嫌な様子を見せる。
本当の所は俗に言う”二日酔い”なのだが、あまりアルコールを飲まない彼にとって、そんな事は知る由もない事だった。
「……今日は……七夕か……確か……今日はグズグズしてられない。」
なかなか起きない飯吹に呆れ、カーテンの隙間から外を伺う平岩は、今日も今日とて清虹市長秘書の仕事がある事を思い出す。しかし、目の前で寝ている相手はなかなかに手ごわい相手であった。
いや、自身のベッドで寝ている女性を起こす事等は造作もない事だ。
だが懸念事項として、いや、大事な事として、自身と相手は今、どちらも下着姿である。
藪をつついて蛇を出すか、取られて困る物など無いと捨ておいて猿を呼ぶか……
どちらを選ぶにせよ、一筋縄では行かない状況だ。
「飯吹さん、いい加減に起きてください……」
どうやら彼は”蛇”を選ぶらしい。
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何よりも、”この人物”との関係に終止符を打たなければならない。
何もしていないのなら、恐れずに強硬手段に打って出るしかないと彼は思っている。
普段は清虹市のイメージダウンを恐れ、あまり強く人には接しない様にしていたが、この人物だけは”例外”と心に決めた。
”目の前の人物”には他の者と同じ様な態度を見せていて、舐められてしまっていたのだ。
ここらで一度、痛い目を見て貰うしかない。もう”相手が諦めるか、従わせる”しか残された手段はない。
「……」
その為にだとしても、暴力に訴えるのは今後のイメージ的にヨロシクないのだが、現状を打開するには……もう”力に頼る”しかないのだ。
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『ガッ、』「……っ……」
平岩は自身の部屋・絨毯を敷き詰めている床を踏みしめる様にして一歩ベッドに近づき、右手を左にスイングする為に、右に振り上げる。
上半身を回す為にも左手は軽く伸ばしてスグに引き寄せられる態勢を取っていた。
平岩の渾身の張り手である。彼が渾身の力を込めれば、例えビンタであっても当たる場所によっては骨が折れてしまう程の威力だろう。
「……ふんっ!」『ギュ』
そこで一瞬静止していた者は動き出す。
平岩は身体ごと左に回し、飯吹の頬を目掛けて掌を・腕をしならせる様にして右手を振り回す。
『ガシッ!』「はっ?」
そして、飯吹の足も平岩の胴体を挟む様に動きだす。
『ギュゥ』
そこからの彼女の動きは速かった。
平岩の胴体に足を回し、足だけの力で自身の身体を浮かせる様にして上体を起こす。
「むっ、むぅぅぅぅ!……んんん……」
身体を密着させた飯吹は平岩の口を自身の口で塞ぎ、あまつさえ息を吸い込んで気道を塞ぐ。
腕は平岩の両肩の上に回して相手の自由を奪っていた。
「……んんんんん!!!」
こうなると平岩は地獄の苦しみを耐えなくてはならない。
胴体で飯吹の体重(推定70kg程?)を支え、口からは息を吸い込まれ続け、息も満足に出来ない状態だ。
飯吹が平岩にしている技はさしずめ、”キスチョークスリーパー”と言った所だろう。
首の辺りを腕や足などで圧迫して脳の血液を減らす技は”スリーパーホールド”と呼ばれ、
首に腕を回して息を止める・気道を潰す技は”チョークスリーパー”と呼ばれる技となる。
「パンパン!パンパン!」
平岩は生命の危機を感じて飯吹の胴体をタップするが、彼女は平岩の唇を離そうとしない。
「っんんん!ぁんんん!!」
そろそろ平岩の苦しみは最高潮に達してしまう。これ以上続けられると生命の危機となってしまう。
「んんんんっ!ん゛ん゛ん゛ん゛っ……」
人間は生命の危機を感じると、種を残そうとする本能がある。平岩はその本能に従い、また、朝と言う事も相まって、彼の下半身は自然と膨張してしまう。
「あっ……」
その”膨張”を自身の下で感じた飯吹は意識を回復させて平岩への戒めを解いていた。
「……へっ?平岩さん「飯吹さん……離して」あぁごめんごめん……っ、あっ、もう朝か……」
どうやら寝ぼけていたらしい飯吹は寝ぼけ眼な顔をしつつも、幾分かまともな声を返していた。
また、自身と相手の姿も認識したのか声を詰まらせると、カーテンの隙間から見える朝日を発見して今の大体の時間を認識する。
「あの、もう大丈夫ですか?下ろしますよ」「……うん。」
平岩は自身のベッドに飯吹を静かに置く。飯吹はされるがままだ。
「っ、……もうこんな時間……」「うん、朝ごはんの……時間ですね。」
部屋に置かれている時計は朝の通勤時間が差し迫った時間を示している。飯吹の言う様にそろそろ朝ごはんを食べなければ間に合わない頃合いだ。
「……あのっ、すみませんが……昨夜の記憶がありません……”最後”まではしていない様ですから……お互いに”無かった事”にしましょう。お酒を飲ませるなんて……あの人達は何を考えて……」
平岩は飯吹が何かを言う前に、これからの方針を飯吹に言い聞かせる。
お酒を飲んでよくは覚えていないが、”何もしていなかったんだ・忘れましょう”と。
「え?最後までって……”アレ”より後があるんですか?」
飯吹は平岩の提案に疑問の声を返す。
「……ん?だって……服は着てないですけど……最後の一枚はお互いに身に着けてますし……特にどこか汚れている訳じゃないですから……多分”ナニ”かをする前に寝てしまったんでしょう?……」
「あー、平岩さん、本当にお酒飲んだら記憶が無くなるんですね。あの……昨日は寝る前にシャワーを二人で浴びたんですよ。「……えっ?」朝ごはんも私が寝る前に用意してましたし……あっ、どうぞ、不束者ですが、今後とも末永く宜しくお願いします。」
なんと、平岩の想像も空しく、全て飯吹が後処理をした後だったらしい。ベッドの上で三つ指ついて深々と頭を下げている。
「多分昨日ので”出来ちゃった”と思うので、しばらくは我慢してくださいね。産んだらすぐに”次を”お願いしますから。」
また、平岩に次の”種”もお願いしていた。
「くぅっ……」『ダン、ダン、ダン……』
「あぁ、平岩さんちょっと待って、服、パンツ一丁ですって!」
『ガァァ……』『ガッ、ガッ、ガッ……』
平岩は走った。全ては成された後だったのだ。
その後、”7カラ11カイ”の三階・貸し事務所にある・金山賢人市長事務所までパンイチで走った平岩は賢人や他の秘書達から笑い者にされるのだった。
逆に言うと、他の者には合わない幸運の所業だった。
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で囲まれた部分は二人とも考えている事になります。
考えている方向は真逆ですが……これが真相です。
つまり、飯吹さんはタヌキな訳です。
タヌキは子宝の象徴とも言われていますし……




