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力の使い方  作者: やす
三年の夏
298/474

#297~力は目覚めて危険な事を知る~

新年あけましておめでとうございまする。

『チュン、チュン、チュチュ……』

清虹市は七夕の今日、空には黒い雲がまばらに居座るも、その雲は雨を降らさず、ただそこにあるだけだ。

例年この日は梅雨の雨がまだ降る時期なのだが、今年の雨雲は早くに雨を出し尽くしたらしい様相を呈している。

清虹市を住処としている鳥たちは 束の間なのか、これからも続く晴れ模様なのか、どちらか分からずに朝からさえずりを合唱していた。


「……くぁー、くぁー、……『ガァッ!』「んっ……」

自分のベッドで寝ていた男性は、何らかの衝撃を頭に受けて覚醒する。

「……ぁあ……っ、痛てて……」

その男性・平岩はベッドから上体を起こすのだが、即座にひたいに手をあてて何らかの不調を認識していた。

「……ぁれ?……服……ぇ?……」

どうやら平岩は頭に痛みを覚えて苦しんでいるらしい。

また、彼は服を身に纏っておらず、黒色のトランクスパンツのみで、薄手の化学繊維で出来た一枚の布をタオルケット代わりにして彼の部屋のベッドで寝ていた様だ。

「……これ……なん……」

また、彼は頭が回っておらず、今の状況を今イチ理解出来ていない。


……彼の記憶が確かならば、自身のベッドにはタオルケットと毛布ぐらいしか今は出しておらず、今彼が手に持っている”化学繊維の布”とは何か?また、ドコから出てきたモノなのか?全く覚えがないモノだった。

ちなみに言うと、手元にあるその”化学繊維の布”は白い生地で、向こう側が透けて見える程薄かった。

「……ん?……っ、痛ててて……」

さらに付け加えると、昨夜の記憶がほとんど無い事に遅れて気付く。

平岩はどうにもならない気休めとして手にある白い布を頭に当てて、頭の痛みを緩和させようとしていた。


「……っ、……っっ、ん?……これって……」

そこで彼はカーテンの隙間から差し込まれる朝日を見つける。

日の光りを見て、彼はだんだんと自分の意識が覚醒していくのを実感していた。

意識が覚醒するにつれて彼の頭を埋め尽くすのは頭の激痛なのだが、それに紛れ、どこからか心地よい香りを認識する。

「……ワイシャツ?……えっ?」

そこで、彼は手元にある”化学繊維の布”の正体を看破する。自分の物とは思えない香りを発しているワイシャツだ。

「っ……」

彼の喉は渇きを訴えるのだが、唇からは不思議と説明出来ない、ドコか甘い感触の余韻が残っている。


「……」

そしてついに彼は、周りの状況を認識していく。


……くぁー、くぁー、くぁー……」

まずは音だ、彼の隣からは彼が発しているモノではない息遣いが聞こえていた。実を言うと、コレはずっと聞こえていたモノである。

『ポテッ、』「……っ……」

つぎは肌触りだ。彼の腰あたりから、元々は彼の頭を打った”手”が 平岩の上体を起き上がらせた動きの関係で彼の横・体重を支えているベッドのマットに落ちる。

「……ぁあ!」

最後は視界だ。

彼の隣・ベッドの上には、下着だけを身に着けた女性・飯吹が眠っていた。


今の状況は俗に言う”朝チュン”だった。


「なっ!?な、なんで??……えっ!?……いやっ、……昨日は確か……賢人さんのサプライズ”送別会”が開かれてて……」

平岩は、寝ている飯吹の寝返りから繰り出された”どつき”だけではこれほどまで痛くならないハズの痛み・頭痛を訴える脳で思い出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―



「今日は私にとってのココ”7カラ11カイ”最後の日だし……奮発して豪勢なディナーにしたんだ。……量も結構用意してるから……飯吹さんも気にせず食べて行って欲しい。……一応説明しておくと、この階に住んでる者は半分以上が”私や雄二の親戚”で、”おばさん”はこの建物の最上階に住む、マンションの”オーナー”なんだ。飯吹さんも”虹の子”って聞いてるけど……説明しなくても解るよね?」

賢人は自身が借りていて、モノを出し尽くした空き部屋の401号室から出ると、飯吹を案内する様にして歩き出しながらそう喋り出す。

「はいはい勿論。……でも良いですね……”皆”とずっと一緒にいられるのって。……私は”おじさん”で、最近は誰とも会ってないですけど……」

飯吹は賢人の話した事を理解し、もうそれぞれ別の仕事に従事していて、今は日々違う所へ通うハズの”虹の子”達は、もう自由に過ごして良いハズなのに今でもそれぞれの意思で一緒に暮らしている彼らを羨んでいた。

彼女は勝也や賢人の娘である春香達の担任教師・神田圭介教諭と同じ施設の”虹の家”で暮らしていた”親戚”なのだが、”虹の家”を退所した19歳を機に、住まいは別々になっている。

別にいがみ合っている訳でもなく、会えば話しあえる関係を保っているが、賢人達の様に大きくなった今でも同じ所に住んでいる間柄に憧れているのかもしれない。

もうそれはまるで、本当の家族の様なモノだからだ。


「あぁ、飯吹さんの所は”おじさん”だったんだ。……まぁ、ずっと一緒にいるのも”考えモノ”だけどね……」

賢人は飯吹の言葉から、含みを持って当たり障りない反応を返す。


清虹市で保護された・若しくは先を見通して清虹市に移り住んでいた孤児はそれなりに存在し、その者達の世話をする大人は特に”性別”で選別されていない。

一応の情報としては多くの施設で孤児達と同じ性別の”おじさん・おばさん”が世話をしていたのだが、それも”暗黙の了解”として、特に強制はされていなかった。

清虹市に今もある”そう言った施設”は男児は”おじさん”が、女児は”おばさん”が切り盛りしているのだが、それも”問題が起こった・何らかの事件が起こったから”そうなった訳ではなく、『そうあるべき』と言う、”無言の圧力”によって作られたモノである。

清虹市が日本の領土と認められる前は、色々な要因で人手が足りなく、性別で分けていられる程余力がなかったのだ。

今はその頃に比べると治安も良くなり、人手もある程度は確保できていると言えるだろう。



「……まぁ、ともかく、ココが7カラ11カイ四階の共用部屋、通称”俺たちの秘密基地”だ。」

賢人が指し示すのはエレベーターや階段から一番遠くにあるスペースである。

そこは畳張りの一段高くなったスペースで、12畳程のそれなりの空間として存在していた。

通路との仕切りはなく、通路端の窓ガラスから外を一望出来る空間は、のべ床面積よりも広々とした印象を持つ空間だ。


横の壁には、ある程度の大きさのテレビモニターが置かれ、その前には家庭用ゲーム機、空間の端にサラウンドスピーカー、掘りこたつ式のテーブル・フィットネスマッスィーン等が置かれている。

”秘密基地”と言うよりも、”憩いの場”と言う趣きがあるが、ココを利用する者達が”秘密基地”と言うからには、ココは何らかの”秘密”があるのかもしれない。また、無いのかもしれない。


掘りごたつ式テーブルの上には寿司・ピザ・チキン・ステーキ・鍋・ケーキ・プロテインジュース等の、出来合い料理が数多く並べられている。

見る限りでココに足りないモノは、これらを”利用する人・食べる人”だけだ。


「ごちそう……っ……」「ふふん!」「……っ……」

飯吹は生唾を飲み込む様にしてそれらを見つめ、賢人は”どうだ!”と言う様に腕を組み、平岩は”っぷ!”と言いそうな視線を送っている。


「ん?雄二?……どうした?……「……っ、いえっ……」ーっ、ん?……まぁ、いいや、じゃー悪いんだが……冷めてしまった料理を皆の部屋にある電子レンジやらコンロやらオーブンとかで温めてきてくれないか?……いつもは一緒になって”サプライズ”を企画していた雄二だったが、まぁ最後だし、お前も脅かせてやろうと思ったんだ。驚いただろう?」「……ぇ、えぇ……こんな量を1人で用意してくれてありがとうございます。……」

賢人は平岩の顔色を見て何かあるのかを問うも、平岩は”外食してきた”とは言わずに言葉を返す。

賢人の部屋は既に家具を持ち出しているし、量が量と言う事もあって、ここに集まっている面子・”7カラ11カイの4階に住んでいる男たちの部屋で分担して温めてきてくれ”と言う事らしい。


「……」「あっ、飯吹さんはお客さんだし、私と一緒にココでお留守ばんだ。……樹癒、頼んでた「ええ。飲み物を取ってきます。」ああ、頼む。」

掘りごたつ式テーブルを見ていた飯吹は”座って待つ様に”と声を掛けられて、他の面子よりも手伝っているらしい樹癒は飲み物を持ってくる様に、と賢人に言葉を掛けられていた。


どうやら樹癒は飲み物を担当していたらしく、恐らくは彼の部屋にある冷蔵庫から飲み物を取ってくるらしい。


『ガッ、』「あ、俺はステーキを温めてくるよ。レンチンで良いよな。」『グッ』「いいよ、俺はチキンだから……」『ガガッ』「ラリスカァートラピッザァ!」『ググッ』「ぇ?じゃあ俺は寿司で……」『グッ』「ぉ、俺はケーキ温めてくるからにゃ」

男たちは我先にとテーブルの上に置かれている、もう冷めてしまった料理をそれぞれの部屋に持って行く。

皆それぞれの部屋にある調理器具で温めに戻っただけだ。つまり、温めてからココに戻ってくる段取りなのだ。一部温めなくても良い料理もあった様な気がするが、男たちはもう既に動き始めている。

テーブルの上にはそれなりに大きな鍋が1つ取り残されてしまった。

「ぅ、じゃあ……私はこの鍋を温めてきます。」『グゥゥ』

そして、平岩は残り物の鍋を持ち上げて行ってしまう。

「……」「……」

足を下に伸ばして座れるテーブルには賢人と飯吹が残っていた。






『カチッ、』『ボォ!』

平岩は1人、自身の部屋にあるキッチンで、鍋を置いたガスコンロの火を点ける。

「……っ……」

彼は、自分抜きでサプライズが企画され、決行されてしまった事を気に病んでいた。

本来ならば、残る者の代表として自分が”賢人の送別会”を企画するべきだった。

だが、何も用意していない事を悟った賢人は自身で手を回したのだ。


元々は”虹の家”を旅立っていく者に最後の記念として、送別会を開く習慣があった。

その習慣が廃れてしまう事を案じた賢人は”自分自身で自身の送別会を企画する”と言う、最終手段に打って出たのだ。

ここは”虹の家”等ではなく、一応は誰でも入居できるマンションであるのだから、本来はしなくてもいい習慣なのだが、賢人としては思う所があったのだろう。







「よし、みんな、コップは持ったな?じゃあー金山賢人の素晴らしい旅立ちと門出にかんぱい!」「「「「「「「「「乾杯ぃ」」」」」」」」にゃ」

賢人はどこまでも音頭を取ってコップを掲げる。

他の面子・”7カラ11カイの4階に住まいがある者”+スペシャルゲストの飯吹はグラスを掲げている。

賢人を含め、この場に掲げられているコップは透明なモノばかりだが、平岩のコップはプロテインジュース用の色が着色されたコップだ。

『『『『『『『『『っぅん、ぅん、ぅん、……』』』』』』』』』「ぁ……」

この場にいる男たちは”ココ独自の礼儀”として、乾杯の後はコップの中をカラにするべくコップを勢いよく傾ける。

「……ん?これって……」

紅一点の飯吹だけはコップの中身を少しだけ飲んでからソコに入れられている飲み物の中身を疑う仕草を見せている。


「「「「「「……ぷふぁ」」」」」にゃ」『ガタン!』

男たちは手に持つグラスの中身を全て胃に流しこみ、息を吐く。

「……」

その中の1人が盛大な音を鳴らしてテーブルを叩いていた。


『『『『『ザッ』』』』』「「「「「「……」」」」」」、「……」

そしてそのテーブルで音を鳴らした以外の男性全員が銘々に無言で立ち上がる。


「……うぁ?……」

テーブルを叩いた1人は平岩だった。

顔を赤くし、意識を朦朧としながらも顔を上げている。


「……じゃあ、”金子ちゃん”、俺たちは二次会として、今夜はウチに泊まるから。雄二は煮るなり焼くなり好きにして良いよ。コイツ、アルコールが入ると、こんなんでも”なんでも言う事聞く”からさ。まぁ、命令しなきゃ歩きもしない厄介者なんけど……」

賢人は飯吹に親しげに声を掛けてから平岩はアルコールを摂取すると、”言われた事はなんでもするよ”と教えて立ち去っていく。

どうやら平岩のコップにはプロテインジュースではなく、お酒が入っていたらしい。


「かーーーっ!……」「綺麗だ。」「糞喰らえ……」「結婚かぁ……」「こんなにお膳立てされちゃーにゃ……」

集まっていた男たちは平岩に次々と呪詛をぶつけて去っていく。








平岩の部屋である。

賢人達が置いて行った料理を二人で何とか平らげた後だ。


『ギシギシ……』『ガッガッ……』「あん……平岩さんと初めて会った頃………生理が……って…………けど……中に…………」「うっ!」

夜も深まった頃合いに、二人は寝ないで汗等の体液をまき散らしている。

世の妊娠しうる女性は俗に”安全日”と”危険日”と言うモノがありまして……

20代なら20%~30%

30代なら10%

40代なら5%

らしいですね。これが正しいのなら飯吹さんは10%らしいですが……

生理が始まった日を1日として14日から数日が”危険日”です。(※ストレスや環境によって危険日は前後するので責任を持ってヤリ遂げましょう)

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