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力の使い方  作者: やす
三年の夏
294/474

#293~力はイイ~

『ピロンピロン!』『ガーッ、』

自動ドアが開き、奥から”レジ袋だけ”を手に持つ中年男性が現れる。

「ぉ……」『ガーッ、ガタッ』

その男性が歩を進めると、少し離れた所を横切る男女を見つけていた。

だが、その中年男性はその男女二人の内、後ろを歩く女性を見て少しだけ色めき立つ様な驚きの声を漏らす。


「……ん?……あれは……」

その男性はその男女をソコまで詳しくは知らないが、その男女二人の内の男の方はテレビで見た事もあるし、ココ・清虹市に住む者なら顔を知っている者の方が多い有名人だ。

そして、その中年男性は”彼がこの建物に”住んでいる事を知っている数少ない一人でもある。




「ん?……」

「こっちです……ぁ、コンビニに寄っていきますか?……何ならココにイートインスペースもあるので……そこで時間を潰しててもらえれば「いやいや、良いよ良いよ、ココに今欲しい物は特にないからね。」……そうですか……」

その男女の内の先頭を歩く男性・平岩は後ろを歩く女性・飯吹を住居まで連れて行きたくないらしく、”どこかで待っていて欲しい”と暗に告げているのだが、飯吹は平岩をそう簡単に離そうとしない。



「それよりも……このマンションって一階にコンビニがあるだけじゃなくて、二階にはレストランがあるんですか。」「……ええ……」

飯吹は平岩が住んでいるマンションの一室に向かう途中、エレベーターの横に各階にある商業施設の案内板を見つけ、関心する様な言葉を漏らすのだが、平岩は言葉少なに肯定するだけだ。

平岩はなにやら気が乗らない様子を見せている。

「これはこれで……今なら”アリ”か……」

「……」

飯吹は平岩の住む、この複合型マンションを見て”引っ越し先の候補”に追加しているらしい。


「……ココって夜寝る時とかは部屋までお店の音がしたりしないんですか?」

飯吹は疑問に思った事を平岩に聞く。

「……一応、三階は貸し事務所で……ソコは夜になると基本的に無人です。それに、このレストランは一応、夜はアルコールを提供していないと言う話しなので……”一階と二階にあるお店の音で夜は寝れない”と言う事はありません。っ……」

平岩は何か言いたい事を我慢しつつも、律儀に飯吹の疑問に答える。


「ふぅん……ならココ……”お家”としてはかなり良いですねぇ。」

どうやら飯吹は平岩が借りているこのマンション・”(ナナ)カラ11(イイ)カイ”を気に入った様子だ。

もし部屋に空きがあれば、すぐにでも越してきそうな声音を出している。



「ふーん……」

飯吹はエレベーターが来るのを待つ間、吟味するようにして辺りを見回している。

「……あの、一応言っておきますが……7階から最上階の11階まではファミリータイプの分譲住宅で……一人暮らしサイズの賃貸住宅は4階から6階までです。私はソコの4階に住んでまして……今は賃貸の部屋は空きが無くて……空いているのは……10階の分譲住宅だけです。「……なら借りられる部屋の空き待ちをしておいても……」……ぁ、ですが、賃貸住宅は借りるのに”条件”があって、”飯吹さん”は部屋を借りれません。「……えっ?”条件”って?……」ですので、飯吹さんが”どうしても”ココに住みたいのであれば……上の階の分譲住宅になります。ソコは契約するのに条件はないので……」

平岩はこのマンション・”7カラ11カイ”について多くを語るのだが、どこか歯切れが悪く、全てを飯吹に説明するつもりは無い様だ。


「……ふーん……まぁ、あんまり上の階は住もうとは思わないんで、”別に”良いですけどね。」

飯吹は説明するつもりがない平岩に対して、しつこく聞こうとはしない。

飯吹のその言葉ではまるで、”レストランに住めないならイイや”と言いたげでもある。

「……」


やはり飯吹は腐っても”警察”を名乗っていただけはある。

プレッシャーの掛け方が殊更に不安をあおる様なソレだ。

そして、彼女の視線と耳は平岩のボロを見逃さない様にして静かに向けられている。

それも、平岩に敢えてそれを”悟らせる”様にしていた。


『プゥン……』『ガーッ……』

「……じゃあ……4階のエレベーターを降りた所で待っててください。「ん?平岩さんは?」ぁ、もちろん……一緒のエレベーターで行きますよ……」

平岩はエレベーターに乗る前に飯吹へ”ドコで待っていればイイか”を宣言するも、それはまるで”自分は違う所に行くけど”と言う様なニュアンスの言葉になってしまう。

本来はエレベーターの中で言えばイイのだが、飯吹のペースに平岩は調子を崩されているのかもしれない。


『……ガーッ、ガクン』『ブゥゥン……』

「……」

いつもの彼ならば、エレベーターに乗る前、辺りを見回してから乗っていたのだが、今回はそれをしなかった。そのおかげで彼らを見つめる視線に平岩は気付けない……




『プゥン……』『ガーッ……』

エレベーターの扉は乗っている者の願い通りなのか、途中で止まらずに4階に到着する。

『ガッ……』「……っ……」

とは言っても、マンションのエレベーターで昇る際は”途中で止まる事”等はほとんどないのだが、平岩としてはそんな”何か特殊な事態が起こって欲しい”とすら思っていた。

彼としてはエレベーターが昇る途中で止まり、他の誰でもない、頼れる兄貴分の”賢人だけ”が出迎えてくれればよかったのだが……その兄貴分の賢人は念願叶って、彼のパートナーと、その間に出来た娘達と一つ屋根の下で暮らし始めている。

どうあっても、賢人が突然ココに現れる事は、もうそうそう起こらないのだ。


「……さん、平岩さん!「っあ……は、はい……」どうしたんですか?何かありました?」

「……っ、いえ……すみません……」

どうやら平岩はエレベーターの扉が開いた所でぼーっとしてたらしい。

後ろの飯吹が平岩の肩を掴んでゆすっている。


「……もしかして……部屋が男の部屋……縮めて男部屋(おへや)だったりするんですか?」

飯吹は平岩の様子を訝しみ、”本当はそうなんじゃないの?”と言いたげな視線を向けている。

「……え?それって汚い部屋の汚部屋(おへや)と言う意味ですか?」

「いやいや、こう……男の”欲棒”……じゃなくて……こう……ほら、ベッドの下とかに……こう……卑猥な物が隠されていたり……とか?」「なっ……」

飯吹は”全て分かった様な”態度を見せている。そんな事は”お見通し”と言う感じだ。


「……う゛っ、う゛ん゛、……すみませんが、そう言うモノはありません。部屋にあるのは……まぁ、パソコンと電子機器、トレーニンググッズと……トレーニングで使う”本”ぐらいです。」

だが、平岩は言外に”そんな物は持っていない!”と言い切る。

「なるほど……平岩さんは”本”と”データ”派か……」

それでも飯吹は平岩の趣向の探求を止めない。


「っ……まぁ……分かりました。ソコまで言うなら付いてきてください。「あーいあい」言っておきますが、本当につまらない部屋ですよ?……まぁ、賢人さんのベッドの下には仰る様にそういうモノもありましたが……」

こうして飯吹はこの前の意趣返しなのか、平岩の部屋に潜入するのを約束する事に成功する。



『プゥン……』『ガーッ……』

そんな二人が歩き出したその後、平岩達が使ったエレベーターの隣・もう一つのエレベーターが到着してその扉を開ける。

「……あの雄二がか?……」

やはり平岩はそのエレベーターで上がってきた者には気付けない。

ちょっと剣盾の厳選が忙しいですね……

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