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力の使い方  作者: やす
三年の夏
293/474

#292~力の光~

『タータッ タタータラ タータラタタァ……

「んー……」「これはどうですか?」

平岩と飯吹はその足で近場の家電量販店に来ていた。店の中ではその店の代名詞ともなる音楽が流れている。


その店の出入り口近く、とある売り場で平岩が陳列されている物の一つを飯吹に勧めていた。

「……なんか……違うかなぁ……」

「そうですか……これはこれで良いと思うんですが……飯吹さんとしてはどんな物が良いんですか?」「……んー……」

平岩は日本でもお馴染みの海外有名企業・”パイナップル”が提供する、”ナップォン”を棚に戻しながら彼女の要望を聞く。

「……んーっ……」

しかし、飯吹は要望を言わずにただ唸り声を出すだけだ。

「あの、そんなに深く考えないで……ただ最初に思った事から決めていった方が良いと思いますよ。……確かに”機種選びで失敗と後悔はしたくない!”と言うのは分かりますが……例えば、可愛い外見の機種にしたいとか、長く使える機種にしたいとか……」

平岩は解った様な口調で飯吹に声を続けた。


飯吹がわざわざ電車で来た飲食店で夕食を済ませた後、雨の降る中、平岩が店から出て来るのを待ってまでした”頼み”とは、

”もし買うとしたら携帯電話は何が良いか?・いや、言われても分からないからアレコレ手に取って、ドコが、何が良いのか教えて欲しい・さらには店まで付き合って手取り足取りで契約まで教えて欲しい”

と言うモノだった。


「……」


清虹市は基本的にどんなお店でもそんなに夜遅くまでは営業していない。

それは今彼等彼女等が立ち寄っているこの家電量販店でもだ。

ただし、このお店はギリギリまでどんな業務でもしてくれるらしく、まだ慌てる様な時間が一応はあるらしい。


「……うーん」


それでも飯吹はタイムリミットがある事を理解してなさそうに口を横一文字に結んで唸り声をあげている。


「……まぁ、パンフレットだけでも貰って、家で選ぶと言うのも「いや、要望としては一番に”壊れにくい”」はぁ……「二番に大きい」あぁ……「三番に、ずっと使えるようなやつ!」っ……、」

平岩がこの場で選ぶのは難しいと判断して無料で配られている”現在発売中の機種一覧”を貰って行こうとした所で、飯吹は1つずつ指を立てる形で要望を三つ出した。

「……」

しかし、そんな要望を聞いた平岩が今度は口を閉じてしまう。


「……残念ですが……今はドコのメーカーも小さい端末が主流でして……”壊れにくい”って言うと、小さい端末の方が良いんですよ。それと……”ずっと使えるようなやつ”と言うと……それは”一度充電したらその日は充電しなくとも使える”と言う意味ですか?それとも”十年・二十年経っても使える”と言う意味ですか?」

平岩は飯吹の要望に難色を示し、三番目の要望について、どちらの意味かを聞く。

「ぁ、いえ、そのー……”三十年・四十年以上修理に出さなくても使える”って意味です。」

「なるほど……残念ですが……電子機器は今の使われている部品的に……もって二十年ぐらいなんですよ。こういう精密機器では特になんですが……基盤に部品をくっつけている”はんだ”と言うモノが機器の電源をONにした状態・つまり通電した時の熱でボロボロになっていくんです。大昔はその”はんだ”に鉛が使われていて、それぐらいの熱では壊れなかったんですけど……鉛がソコに使われなくなったのは……その機器を廃棄する際に”鉛”を十分に回収出来ず、公害問題として使われなくなったんですが……まぁ、それ以外でも、毎日充電して使うならバッテリーが劣化して、十年ぐらいしたら一日も持たない物に」「……」


平岩の長口上に飯吹は口を開けて聞いていたが、そんな飯吹を見た平岩は唐突に言葉を切る。

「っ、いえ、すみません……まぁ、ともかく、持って十年、使い方によってはせいぜいで二十年ぐらいしかこういう様な電子機器は持ちませんよ。」

「……平岩さんって”こういうの”好きなんですか?」「いえ……その……大学がこういう学部だったモノで……教授が講義の時に話していた受け売りの知識です。」

飯吹は平岩の目を見てから棚に陳列されている物に目をやり、電子機器・或いは工学系が好きなのかを聞く。

平岩は恐縮した様に見せてから、何故これほど飯吹を置いてけぼりにしてまで長く言葉を吐き出し続けていたのかを白状した。


平岩と賢人は親の援助等が無い”虹の子”であっても、しっかり四年制大学を卒業している。

その時の学生アルバイトで始めた、当時市長だった七川(かける)の事務所職員が功を奏して今の地位を築いているが、当時の平岩達の本分、大学で習った知識を今現在でもしっかり持ち合わせているらしい。


「うーん、じゃーどれにしましょうか……確かに全部、手のひらの半分ぐらいのサイズばかりですもんねー」

飯吹は平岩の話しを半分以上理解できなかったが、理解できないなりに話しの前半部分はしっかりと聞いていた様だ。

棚に並ぶ端末はどれも小さく、飯吹達が仕事で支給されていたスマートフォンよりどれも小さい。


「これかなぁ……」

飯吹が手に取って見るのは”Naphone baxsy”・”ナップォンバッカシ”だ。

1つだけ異様に大きいそれは”パイナップルサイズ”でありながらも、バッテリーサイズはそれなりで、”半日持たないスマホ”として悪名高い。


「あの、飯吹さん、こういうスマホは原則的に、大きい端末と小さい端末で交互に流行りがあるんです。「……ん?交互に?」はい。今はどれも小さい物ばかりですが、去年は大きい物ばかりでした。恐らく来年なら大きいスマホばかりになります。「え?なら”来年からスマホは持ち始めた方が良い”って事ですか?」ぁ、いえ、スマホは中古で買って、通話等の通信を新規で契約したら良いと思います。……スマホは中古になってしまいますが……それでも良いのなら……」

平岩は飯吹に”携帯端末は中古で買ってみてはどうか”と助言する。

人によっては毎日肌身離さずのスマホを中古で買うのに抵抗があるかもしれない。


はたして飯吹の答えはと言うと……

「……あぁー、まぁ、中古でも物がイイのなら良いんですけど……」

……無難な所で”物による”らしい。

飯吹はソコまで潔癖な訳ではない様だ。


「……あ、じゃあ……良かったら私が前に使っていたスマホをお譲りしましょうか?……一応新品で私が買って、契約の二年で今のスマホに機種変した物なんですが……先ほどの飯吹さんの要望には全て応えられると思いますよ。それを見てから中古「ぜひ見させてください!」っ、分かりましたっ、じゃあ……私の住んでいるマンションはちょっと歩いた所にあるので……駅で待「付いて行きます!」わ、分かりました。では……っ……」

平岩はこうして、食い気味で言葉を被せて来る女性を自宅に招き入れる事にした様だ。


……タラーーータッタラタッタラタッタッタラー……・ターターターラー、ターター、ターター……」

平岩達が踵を返す頃、お店のBGMは閉店を告げるモノに変わる。

今の中古端末(白ロム)市場はなかなかですね……

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