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力の使い方  作者: やす
三年の夏
289/474

#288~力は礼を言う~

『ピラッ……ピラッ、ピラッピラッピラッ……』「んー……絵とかは……無い……か……」

秋穂は背中で梯子に体重を乗せ、左手に乗せた物を次々とめくっている。彼女は字ばかりの読み物に嫌気がさしている様だ。

「……春香はこう言うのでも結構夢中になって読むんだろうけど……『ヒラッ、ヒラッ……』あっ」

彼女は妹とは違う感性を持っているらしい。もっぱら絵や図形等の本を読みたい性分なのだろう。

持っている物を掲げてどうしようか考えていると、手に持っている物のどこかから、”一枚の何か”を落としてしまう。

彼女はそれを踏まない様にする為、地に足を付けてそれを目で追うに留めていた。


『……ヒラッ、ヒラッ、ザッ』「写真?」

本棚の近くは厚地の絨毯が敷かれている。その絨毯の端ギリギリにその”一枚の何か”は舞い落ちる。

その見た目や質感的に”写真”らしい。だが、何かが映っている面は下になり、それがどんな写真なのかまでは分からない。


「最後のページに挟まれてたのかな?」

秋穂は手に持っている物・”本郷半島上陸物語”の、恐らくはソコに挟まれていたのだろうと最後のページを開き、その”落ちた物”に手を伸ばす。

「ん?……人が映っている?……んん?……」

秋穂は絨毯の上に落ちた物を拾ってそれを裏返してみると、そこに映っているのは6人の男性が並んでいる物だった。


左から、四十歳ぐらいの中肉中背な男性・三十歳程度のよく鍛えられているのが服越しでも解る男性・妖精Gさん・一見して笑っているが、目が笑っていなかったり、二の腕等の四肢が太く、雰囲気からして只者ではない事を隠せていない、50歳ぐらいの男性・三十歳程の丸く肥えた体形の男性・二十台ぐらいの細身の男性が私服であろう衣装バラバラで映っていた。

『……これは”校長先生”、、、だよな……』

秋穂は持っている物の最後のページにその写真を置いて”どういう集まりの写真”なのかを考える。

「……ああ、防人部隊の写真……かな?……でもこれ……」

秋穂が今開いている物は”防人部隊”の手記なのだから、そう思うのは極自然な事と言えるだろう。

だが彼女は言葉にはしないが、何かが喉につっかえている様な風にして、”防人部隊の素顔を見せる者たちを撮った一枚”に納得ができていない様子を見せていた。

「……むぅ『バタン!』なっ!」

秋穂が胸近くで開いていた物は、彼女に伸ばされた手によって、突然閉じられてしまう。

彼女は一瞬の事に驚きの声を上げて手を伸ばして来たのだろう目の前に視線を向けた。


「ここで何をしている?」「いえ……」

秋穂が開いていた物を閉じ、責める様な目と声を向けている白衣姿の男性は秋穂が前にこの研究所で会った事がある人物だ。

「……あの、強盗が来たと言うので……その……”ボランティア”として片付けを手伝っていました。」

「ちっ、土研の奴らは……」

それまで”そう”とは言っていなかったが、秋穂は”ボランティアで手伝っている”と咄嗟に答える。

目の前に現れた白衣の男性は、前にこの研究所で会った時も秋穂へこんな風に土系法力研究所の職員に悪感情を向けているのを見せていた者だ。


「……ここにある資料は”研究生”以外は閲覧禁止だ。”ピューフ”、ソコの段ボールを持って行け。」

彼・秋穂の記憶が正しければ、水系法力研究所の所長、品神はそんな声を彼自身の後ろに向けた。

「……ハイ。」

そんな声に返事をしながら彼の後ろから金髪碧眼の女性が現れる。

多分だが、秋穂と同じぐらいの年齢・つまり二十歳頃で、スタイル抜群の女性だ。

それまで秋穂が本を詰めていた段ボール箱・本棚の前へと足を楚々と向けている。



彼女の服装はひと目で”研究生”と解る衣装の白衣ではなく、”ジーパンにTシャツだけ”と、飾り気のない物だが、その分大きな胸が協調されている服を着ていた。

「……」

秋穂は無遠慮に、”彼女”へ視線を向けてしまう。

「ン?ナニ?」

”ピューフ”と呼ばれた女性は秋穂の視線を受けて、若干カタコトの気がある日本語を口から紡ぎ出す。


「……ぁ、ごめんさい、”髪が映えて綺麗で、その……研究生にしては”魅力的な人だな”って思ってしまって……」

秋穂はオジサン……いや、彼女の父親が言いそうな事を咄嗟に口から漏らしていた。

視線を無遠慮に向けていた理由を誤魔化す為に、相手の容姿を褒めている様に思える言葉だが、実際それは言い逃れなどではなく、事実なのだからそう言うしかないだろう。

ピューフはありきたりな言葉で”ボン・キュ・ボン”と言える体型の女性である。ついでに言うと、髪だけでなく、眉目等の容姿も整っていた。

「ふーん?なら私からは”金山お嬢様の方がおっぱいデカいし、黒髪も綺麗だよ。今度キモチイイコトして遊ぼうね、デュフフ……”って言っておくね。……でも私の容姿を褒めてくれてアリガトウ。」

”ピューフ”はまさにオジサン……いや、若干の変質者の成分を盛ったオジサン口調で流暢に秋穂へ言葉を返す。

「……えぇ……いや、うん……そう言ってくれて……”ありがとう”?……いやでも”気持ちいい事”はちょっと……」

秋穂も容姿を褒められたのだから、礼は言っておくべきだろうと言葉を返す。デュフフ……


「言っておくが……コイツは水系法力研究所で研究をしている留学研修生だ。……我々が来たのだから人手はもう十分、逆にお嬢様と遊んでいる暇はない……研究室にいるそちらの連れとお帰り願おうか。……一応礼は言っておこう。」

品神は言葉を選び、秋穂へ”千恵さんを連れてさっさと帰れ”と告げている。

「……ぃゃ、すみません。他の本は全てその段ボール箱に入れ終わってて……最後の一冊がソレです。……では私はコレで失礼します……」

秋穂は”ピューフ”とこれ以上言葉を交わさない様にする為にも”品神に取られた手記が最後で、他全ての本は段ボールに移し終わっている”と言いながら足早に歩き出す。


秋穂は最後の一冊を手に取って読んでいた様だ。彼女は基本的に”やれば出来る娘”で、片付けの最中に手を止める様な愚かな事はしていなかったらしい。

「ふん……」

”ピューフ”が『パイパイ~』と両手をわしゃわしゃする動作をしながら秋穂を見送っているのも彼女が足を早めている理由なのだが……品神はソコへ意識は向けていなかった。




「千恵さんは何処に……」

秋穂は千恵の元に行こうとするも、最初の出入り口付近の研究室はすでにもぬけの殻だった。

ならば他の研究室に行こうとするが、秋穂はこの研究所の全貌を知っている訳ではない。

「……地下か、二階か……」

もっと言うと秋穂はココの二階に足を踏み入れた事もない様だ。彼女は地球と繋がっている土からしか法力で金を生成できないが故にである。彼女はソレ関係でしかココに訪れた事は無いらしい。


土系法力研究所は一階の他に、地下と二階があり、廊下の真ん中あたりに上と下に続く階段が設置されている。秋穂はソコで”下に行こうか?”・上に行こうか?”と、決めあぐねていた。

『……ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!……』

秋穂がモジモジしていると、二階の方から階段を駆け降りてくる足音が迫ってくる。


「あっ、千恵さん!丁度良かった……」

今秋穂がいる一階の廊下へ知恵が丁度降りてきた。

計った様なタイミングだ。


『……ダッ!ダッ、タッタッ……』

「ヤバい!会社の弁護士が来るって!秋穂お嬢様も急いで!」

「……なっ!」『バッ!』





土系法力研究所で盗まれた物は、全ての系統の法力をその力量に応じて熱エネルギーに変える、”感応石”と言う資源だ。

これは土旗地域から出土された物で、この辺りを開発した”ゴールドラッシュ”の持ち物となっている。だが、基本的には土系法力研究所に研究資料として貸し出されていた。ちなみに現在は”ゴルドラE&I”が管理している。


”感応石”は土系法力研究所に貸し出している時に盗まれたとして、”ゴルドラE&I”の顧問弁護士がその日の内に土系法力研究所に訪れる。

千恵の”危機察知能力”により、その弁護士とは鉢合わせしない様にして秋穂達は土系法力研究所を去る事に成功する。


結局、”感応石”が置かれていた場所・強盗の現場を見る事も出来ずに秋穂達は研究所を後にするのだった。

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