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力の使い方  作者: やす
三年の夏
287/474

#286~力は手をつける~

中盤部分は#283~力は盗まれる~の続きとなります。

「これが本棚だって?……」

秋穂は言われたとおりに廊下を進み、突き当りで本棚を発見する。

だが、彼女が思っていた本棚とは少し違った物がそこに置かれていた。いや、”備え付けられている”と言うべきだろう。


土系法力研究所の廊下は横幅が3mぐらいはあり、高さは2mとちょっとぐらいの物だ。廊下には所々で仕切りが立てられていて全貌が簡単には見渡せない様に出来ている。

その仕切りを右に左にまた左に……と躱して、秋穂が足を踏み入れた事がない区画まで進み、目当ての物を見つけた第一声が先の言葉だ。


「……こんなに大きい本棚とはな……随分と簡単に言ってくれる……」

見るとソコには壁一面が棚になっていて、ある程度びっしり本が置かれていた。

つまり、横幅3m、高さは2.5m程の大きい本棚だ。移動式の梯子が設置されていて、ご丁寧に段ボール箱が畳まれてその上に置かれている。

棚の高さは一つ30cm程で、棚の数は全部で八段ある。入れられている本の厚みは様々な物があり、総じて厚みのある本が多いと言えるだろう……

ざっと計算しても、800冊以上は確実にある。コレを一人で段ボール箱に本を詰めるとなると、何十回、いや何百回と往復しなければならない。


「……はぁ、仕方がない……やるか……」

秋穂はソコに置かれている本達へ嘆息を浴びせてから動き出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―

『ガヤガヤ……』

いろいろと空気が重い教室から解放されて、集団下校を待つ児童達が呼ばれるのを待っていた。

「……」

今勝也の周りには誰もおらず、彼一人だけだ。

『……ダッダッ、』

「悪い!……あれ?まだ俺ら呼ばれてないんだよね?」「うん……」

勝也達集団下校の”東4班”は何故か呼ばれず、最後に呼ばれるらしい。

勝也と同じ集団下校のクラスメイトの一人・七川がトイレに行っていて、走って下駄箱に戻って来た所だ。


「……さっきまで”東1班”も呼ばれてなかったんだけど……なんだろう?」

勝也はいつもとは呼ばれる順番が違う事を気にしている様だ。

七川は言葉を返す。

「”東1班”って言うと……商店街の方だっけ?何かそっちの方であったのかな?」

”東1班”とは清瀬小学校から見て南東方向に家がある児童達の集まりだ。

勝也の妹である厘の友達、地本(じのもと)(あかり)ちゃんが所属するグループなので、七川が言っている事に間違いはないだろう。

「あとは……清敬高校の近くも……だっけ?”東1班”は。先生達は何も言ってなかったけど……」

勝也は清虹市の地図を頭の中で広げ、七川の言葉に疑問を深くするのだった。


「下校も登校の時と同じ人が”俺ら”につくのかな……」

七川は懸念事項として勝也にトーンを落とした声を送る。

「……ああ、俺らをつけてた人は”春香の家の人”だよ。確か……”護衛”って言ってた気がするけど……」

勝也は朝の集団登校で勝也達のあとを”つけていた”風間景をフォローした。”顔は怖いが悪い人ではない”と言うニュアンスだ。

「……ああ、勝也はやっぱり知ってたか、朝金山の家に行った時にあの”オッチャン”が法力警察の人と”同行する”・”同行させない”でひと悶着あってさ。」

「……そっか……今日の法力警察官……なんか人が違うみたいだったし……」

「勝也もやっぱりそう思ったか、朝金山の家から一緒に出て来た”オッチャン”にまで法力警察官の人が難癖付け始めたからびっくりしたよ。結局”オッチャン”が身を引いたけど、そしたら……後をつけてるんだもん”オッチャン”。俺はちょっとたってからつけてるのに気付いたけどさ。」

「……なんも無ければいいけど……」

「だったらいいけどな。」


勝也と七川がそんな事を声も憚らずに言い合えるのには訳がある。

勿論それは”当の金山家の人間”・金山春香がココにいないからだ。

彼女は昼休みの間に職員室から教室に帰って来た後、五時間目の授業を何食わぬ顔で受け、その後職員室にまた行ってしまった。

帰りのHRにも来なかった所を見るに、春香はそのまま帰ってしまったのだろう。

春香の一言のお陰で、春香のコートを持っていた男子はそれほど辛らつには言われなかった。

『”庶民の子”ではない春香が自慢げに見せつけて着てきた物を取り上げるとはね……でも俺ら(私ら)の物は盗むなよ(まないでね)?』と言った具合だ。

もし春香が声を上げていなければ

『春香お嬢様のお召し物なんかを盗んでどうするつもりだよ!気持ち悪い!』と、”イジメの標的”にされていてもおかしくはない空気だった。

そこまで考えが進められるのであれば、次に考えられる事として

”春香に悪意が向けられようとも、イジメの標的にはまずなり得ないけども……”

だろう。

だが、誰もソコまで考えを飛躍させないのは、ある意味で平和的なのかもしれない。


『えー……東4班の人ー……下校してくださーい。』

玄関扉の前で職員がそんな声をあげる。

「……行くか。」「おうよ。」

勝也と七川は三年生の下駄箱から歩き出す。他にも厘を始めとした数人が一斉に玄関扉へ集結する。


『サァーーーーーーーーーーーー……

『ガァーーーッ、ガンッ!』

『ガサッ』『ガサッ』『ガサッ』『サッ』……

「ぁ、春香……」「居たのか……」「春香お姉さまーーーー!」「「「「「……」」」」」

清瀬小学校の正面玄関前・小さなスペースには法力警察官二人と金山家の護衛である風間景がいた。そして春香は勝也達”東4班”の面子を待っていた様だ。

春香の着ている装いは朝と同じくピンク色のコートだが、彼女を雨から守る傘・緑色の葉は先端が折れ曲がり、それだけでは雨を完全に防いではない。

景の持つ茶色い唐笠が春香の上に掲げられている。



サァーーー

「どうして”あんな”事言ったんだよ?……」

集団下校の途中、勝也は小さく絞った声で隣を歩く春香に昼休みの暴言を咎めていた。

「別にぃ……ただ、アレだけ疑い様も無いのに、謝らないで誤魔化そうとするんだもん。”コレ”も折り曲げられちゃったし……コレで許して貰えると思ったら大間違いだよ!」

春香は恨み節を唱えるが、幸いな事に雨音が強く、春香の不満げな声は近くを歩く雨田以外には誰も聞こえなかった。

「……ふぅん…………」

勝也は何も春香に言葉を返せない。


「ねぇ、春香お姉さま、厘にいつ”ソレ”を着させて貰えるの?」

標準的な傘で春香と相合傘状態の厘が春香に声を割り込ませる。

「はぁ……厘ちゃんごめん……コレ……雨が当たる様になっちゃったんだよね……出来れば完璧な状態で”厘ちゃん”に着て欲しかったんだけど……」

「いやいや、春香お姉さま、厘はそんな事気にしません。なんなら大雨の日にソレ着て踊ります!」

「あぁぁ ぁ ぁ……厘ちゃん、ごめん……」

どうやら春香は女子の着た上着……いや、特定の女児が来た上着を着る事に興味があったらしい。

春香は父・賢人の血を色濃く受け継いでいるのかもしれない……

彼女の言葉から分かるだろうが、厘は”自由”なのだ。

人は自由を追い求める生き物なのか?いや、きっとそうだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


「っ……コレは……」

秋穂は本棚を整理する時にやってはいけない事・”気になった本を開く”事に手を染めていた。

ただし、彼女が開いた物は”本”と言うよりも、”手記”に当たる物だ。

その題名は”本郷半島上陸物語”とされていて、防人部隊の誰かが書き記した物らしい。

清虹半島が創造された後、この地に上陸した”防人部隊”の隊員の手によって書かれた貴重な物である。

明日(11/2)は小袋怪獣行け!で有料イベントの日ですね。なので今回も早めにあげときまーす。

私”やす”は風邪の症状が不安ですが、後先考えずに買っちまったので頑張リマース

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