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力の使い方  作者: やす
三年の夏
283/474

#282~力の忠告~

ピンポーン!』

雨田家に来客を告げる音が鳴り響く。時間は朝方で、そろそろ出なければ学校に遅刻してしまう時間となる。

清瀬小学校は今日も今日とて集団登校を実施していた。


『ガチャ……』

雨田家の玄関扉はインターホンから応答する声が撒き散らされる事なく開けられた。

『ガサッ、』

「おはよ。」「おは……」「……はよ。」「……」

勝也は手始めに朝の挨拶をするのだが、その挨拶は外にいる人数の割にあまり返ってこなかった。

まぁ、たまにある事だ。


『ガサッ!』

「……おっはー!」「「「「「おっはー!」」」」」「っ……」

勝也に続いて出て来た厘は昔流行った挨拶を元気一杯にする。

すると驚くべき事に、外にいる児童達の多くから返事が返ってきていた。

まぁこれも、ここ最近ではありえなくはない反応だ。

勝也は”いじめられているのでは?”とすら思えてくるほど妹との温度差に驚いてはいるが、今いる集団登校のグループは、まだ”いじめ”が起こるほど馴れ合いや関わり合いがされていない。

勝也の声にもちゃんと反応はあったし、ただ単に勝也が皆の注目を集めた後、元気な厘が目立って挨拶が返されただけだ。

……そうだと信じたい。


「……みんな……何かあったの?」

そこで勝也は一番近くにいる、雨田家のインターホンを押したのであろう者、この面子の中では交流がある七川に言葉を向ける。

「今日はちょっと……メンバーがな……」

七川は”理由を言うに言えない”感じで目配せをするだけだ。

「メンバーって……」

今日は他の地域の者が集団登校に混ざっているのだろうか?

傘が何個か並んでいるだけだが、ここ最近とは面子が違う様に思えない。

勝也は集団登校のメンバーがいつもより静かな理由がイマイチ分からなかった。

”ムードメーカー的な誰かが今日は休んでいるのだろうか?”いや、そんな風にも思えない。


集団登校の”メンバー”としては

先頭に法力警察官が一人、その後をおおよそ学年が低い順から高い順に続き、最後はもう一人の法力警察官が目を光らせながら移動する。

つまり現状では七川が列から離れて先頭に来て、雨田家のインターホンを押していたのだ。ここ最近に限って言えば、よくある事と言える。

「……」

七川の言った事が勝也はよく分かっていないなりに、別に不都合は無いと結論付ける。


『……』

七川の後ろには先頭を歩く法力警察官がいて、無言のまま目元に嵌められている黒水晶を勝也達に向けていた。

彼、若しくは彼女は、性別も分からない程に処理が施された合成音声をどこからか響かせる。

『……護衛対象を確認。では列に加わりなさい。予定の時間より少し遅れています。早めの行動をする様に。』

法力警察官は雨に濡れるのを構わずに勝也達へそんな事を言う。

どうやらいつもの法力警察官ではないらしい。

これまでは、法力警察官は皆同じ様な見た目も相まって、皆同じ様な行動をするのかと思っていたが、どうやら個々人で判断基準や、言ってくる言葉が多少は違う。

これまで勝也達の集団登校に参加していた法力警察官は幾分か敬語を使い、勝也達だけであろうとも、親身ではないが真摯に対応してくれていた様だ。

今日同行してくれている先頭を歩く法力警察官は幾分か言動が荒い。……様な気がする。


「はい、すみません……」「「……」」

勝也は謝りながら後ろの厘と前に立つ七川を促して、すでに数十人は並ぶ列の真ん中あたりに足を向ける。


『……』「……」

そうこうしている内に、先頭の法力警察官は右手を上げてから歩き出す。

「……」

その後ろにいた児童達も静かに歩き出した。



「厘ちゃん!」「あぁぁあ!春香お姉さま!ソレ!……」

七川がいたのであろう定位置はぽっかりと列が空いていて、ソコには春香がいつもとは違う”装い”でいた。

背中からは緑色のチューブの様なモノが生えていて、春香の頭上で広がっている。

今清虹市で流行りの雨具だ。いや、清虹市と言わず、日本全国でしばしば見られる雨具である。

”雨だ!レンジャー、晴れ女の濡れ女子雨具SET”だが、この雨具は両手が自由に使え、身体に雨がそれほど当たらない代物だ。ランドセルぐらいの荷物しかないのなら、十分に機能する物となっている。

また、春香が着ているコートはピンク色で、これまた春香に相応しい色合いと言えた。

勝也はじっくり視聴した事はないが、”雨だ!レンジャー”に出てくる可愛らしい女の子に”よく似ている”と言えるだろう。


「ふっふー、いいでしょー厘ちゃん、今度”厘ちゃんにだけ”、”コレ”を着せてあげようか?」「うんうん」

春香は珍しくも厘に自分の持っている物を自慢して仲睦まじいやり取りをしている。


「……ねぇ?早く行ってくんない?」「ぁ、ごめんさい……」

厘との話に花を咲かせていた春香はついに、後ろの五年生女子に注意されてしまった。

何とも珍しい光景だ。春香はついこの前まで誘拐されていた身の上だが、それを知らない者は知らない事件だった。

テレビ番組のニュースにも取り上げられていた事だが、小学生全員がニュースを見ているハズもないのだから、こんな態度を取られても仕方がない。

さらに、春香が人に謝るなんて事は本当に珍しい事だった。……



「……あっ!……」「……?」

勝也は歩き出してから少しして何かに気付く。

隣を歩く七川は勝也に注目するだけで先を促した。

「……そうか、今日は”春香一人”なのが珍しいんだ。……あれ?でもおかしいな……」

勝也は少し遅れて気付く。

そう、今日は金山邸から春香に人が付いて来ていない。

どんな時でも凪乃が集団登校に同行していて、非公式的ではあるが、実際は学校もそれを認めている。


「よく気付いたな……後ろを見てみなよ……」

七川が独自に気づいた勝也を関心した後、それとなく言葉を返した。

「……ん?後ろって……」

勝也は当たりを付けて後方を見回すのだが……

「……え?ドコ?……」

しかし、特に人がいる様には見えず、白旗を上げて七川に何事か説明を求める。

「……あら?……あぁ、次曲がったらもう一回見てみなよ……気を付けて見てれば多分見えるから……」

「……う、うん。」

だが、どうやら七川のアテが外れたらしく、もう一度言い直していた。

どういう訳か詳しく説明してくれない……何があるのだろうか?


「……」

そして……清瀬小学校までの道のりで最後の曲がり角である。

勝也は七川の言葉以上に後方を注意深く観察していた。

「……っ……」「……あっ!」「お……っ!」『……』

勝也は見た。茶色い唐笠で顔を隠しているが、極悪人の”様な”顔をした男が勝也達の集団登校を後方から付けていた。

勝也の驚き声に反応して七川もつられて後ろを見るのだが、七川は年相応に驚き縮み、一瞬だけすくみ上ってしまう。

「っっ、……」

しかし、七川はすぐに体制を立て直して歩き続ける。


「あれ……」

勝也はどうして”その男性”は、わざわざ”あとをつける”なんて面倒な事をしているのか理解出来ていない。

どうせなら”一緒に歩けばいいのに……”なんて事を思うのであった。




『予定していた時間の誤差範囲内で到着を確認。……人員もクリア。……ここで護衛を終了します。』

先頭を歩く法力警察官は校舎の少し手前で振り向き、そんな事を言う。

実際は本当に時間ギリギリなのだが、一応はまだ”遅刻”と言えるような時間ではない。

もっとも、集団登校をしている時は”遅刻”は基本的にあり得ないモノとなっている。



『『……』』

児童達の前後を歩いていた法力警察官は集団登校が終わると、一旦は清瀬小学校の目の前にある”日差し公園”に集合している。

そこで集団登校時に起きた事件や、気になる事、または連絡事項等を共有しているのだ。


『『ガッガッガッ……』』『『……』』

だが、勝也達を護衛していた法力警察官達はその公園には行かずに、来た道を引き返す。


「……」

そこで、勝也が先ほど見た、茶色い唐笠を持つ極悪人(づら)をした男が彼等によって足を止められる。

『……何か?』

勝也達児童達の先頭を歩いていた方の法力警察官が、高圧的にその”男性”に言葉を向けた。


「……別にぃ、”アンタら”を試してたんだよ。」

唐笠を上げて顔を見せるのは金山家の護衛役、風間景その人だった。

「まぁ、全てを終わらせてから声を掛けて来たのは”及第点”だが……こっちに気付いてたんなら、も少しこっちに圧をかけて貰いたかったモンだがな……」

景は護衛役の先輩風を吹かして分かった様な声を上げている。


『仰っている事が分かりません……ともかく、我々は業務中です。これ以上邪魔をされるのなら我々も黙ってはいません。』

法力警察官達は静かに凄みを効かせて言葉を返す。

「……あぁ、分かった分かった。……まぁ、そんなんでも頑張れや」

景はその法力警察官の返答を聞き、どう思ったのかは分からないが、会話を終わらせようとしている。

まるで、子供をあやす様な声音をだしていた。


『待ちなさい。話しは”まだ”終わっていません。』

しかし、今度は法力警察官が去り行く景を止めようと手を伸ばす。

恐らくは景の肩を掴み、・何者か?・何を言いたいのか?を聞き出すつもりなのだろう。


だが”そう”とはならなかった。

『ーーーーッ』『ガッ、』『ガサッ』『なっ……』「ふんっ!」『ダンッ!』『……くっ!』

法力警察官の伸ばした手が景の肩に触れるか触れないかの瞬間、景は掴まれそうな肩を回し、逆に法力警察官の腕を絡め上げ、ひと思いに一本背負いを決める。

景の持っていた唐笠はその際、地面に落ちるのだが、気にした素振りは見せていない。


投げられた法力警察官は咄嗟の事に抵抗らしい抵抗が出来なかった。

『っ!……』

残る方の法力警察官は瞬時に手を上げて臨戦態勢を取るのだが……

『ガッ、』『ギュウウゥ!』『うっ……』

景はそのまま投げた法力警察官を後ろ手にして引き上げて、残る方の法力警察官に凄みを効かせている。


『……止めなさいっ!、風……(ウィンド……)』「まてまて、”止める”のはお前の方だ。」

先に声を上げるのは、何もされていない・何もしていない方の法力警察官だ。

彼は景を”敵”と判断して法力の発言を始めたのだが……


『……くっ……』

景は投げて不意を突いた法力警察官を盾にしている。

このまま風系の法力を発現させれば、盾にされている法力警察官(もろ)共、タダでは済まないだろう。

『……っ、我々を襲って何がしたい?……』

法力警察官は風系法力の発言を取りやめてしまう。


「……仕方がねぇだろ?”コイツが”先に手を出したんだからよ。……ほら……まっ、”数で”勝ってても、相手より”強い武器”があろうとも……お前ら”護衛するヤツ”は慢心するなって事だ。」

法力等はからきし使えない、純粋にやり合えばまず負けてしまうだろう景は、後ろ手で拘束していた法力警察官を開放して彼等へ説教をたれる。

『ガッ……』「……ふん……」

落ちた唐笠を拾うと去って行ってしまった。


『……っ……『……誰だよ?あの”ジジイ”……』……知らね……』

しかし、景は口下手で、少しだけ言葉が足りなかった様だ。

景の”忠告”は残念ながら法力警察官内で共有されない。


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