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力の使い方  作者: やす
三年の夏
282/474

#281~力のG!~

「……」『ピンポーン!』

金山邸のインターホンはもう一度鳴る。訪れた者が急いでいる様に思われた。


「あ、待って、私が頼んだ”コレ”を持って来てくれる人のハズだから……私が出ます。」

インターホンが鳴った瞬間に動き出した凪乃と千恵だが、秋穂は二人を止める。

こんな時間に”来客は”そう無いだろうし、何より秋穂は”今夜届けてくれる”と言われているのだから、こう言うのも自然の道理だろう。


「いえ、秋穂お嬢様……」「ああ、ちょっと出るだけだし、私も下に用事があるから良いよ。まぁ……凪乃もいるしね。」「いえ、……」

凪乃が秋穂の提案を封じようと声を出しかけるが、千恵が後を継いでどちらにも角が立たない言い回しをする。


彼女達……いや、凪乃と千恵の、父であり夫である風間景の一族・風間家は金山家を守る(つるぎ)だ。

嫁である千恵はそう呼ぶのに相応しい力は無いのだが、凪乃は”武器となる”法力を自在に扱え、彼女が一緒ならそう簡単にやられる事はない。

千恵はそういう事を暗に言っているのだ。


「……」

こういう時に矢面に立って行動するハズの風間家の男性・景はどういう訳か口を(つぐ)んでいる。

「……っ、……」

彼は視線を横にズラして何かを見ると口を開けた。

「……なるほど、そういや今秋穂小嬢は清敬に通ってるんだもんな。……なんか”嫌な”感じがすると思ったが……”客人”は”アノ人”かい……、いや、”この人”と言うべきか……」

「え?……」「……っ!”清敬に通って”って……まさか……」「コレを?……あっ!」「”アノ人”?”この人”?」

秋穂、四期奥様、賢人、春香の順で金山家の面々は景の言葉に反応する。

奇しくも清虹市に居る金山家の子供たちは景の言葉の意味が分からなかったが、清敬出身の四期奥様と賢人は”清敬”と言う学校の名前からスグに思い至った様子だ。言葉の意味も間違う事なく理解している感がある。

「っ……」

そこで、彼等彼女等が今いる金山邸にある二階の大広間、そこの天井近くに置かれているスピーカーの後ろから人が現れる。

それは……


「「……」」「あっ……」「「っ……」」「おぉ……」「あらあら……」

「……ふふっ、バレたか!!”メリー……”じゃなかった……はっぴーばすでー、春香くーん!」


”ソレ”は血に濡れた様な深紅の衣装を身に纏い、背中には何が入っているのかも分からない白い”ずだ袋”を背負う、白い顎髭を蓄えた、恰幅の良い……訳ではない老人……いや、国や地方によって、一説によると”妖精”とも言われる、年末に子供たちへプレゼントを配って回る妖精Gさんがいた。


その神出鬼没さと、どんな障害でも越えて来る逞しさは正に”G”の俗称が相応しい。

景の顔色もキッチンで”カサカサ”と走り回る、黒い”アレ”を見た時の”ソレ”と同じだ。


「……ふっ……」

『ガッ、』「……あっ……”きっ”……っ、いえっ、”先生”……ど、”どうして”ココに?」

天井近くから”ふわりと浮いて”、彼女達の目の前に着地した”妖精Gさん”に四期奥様は声を震わせながら疑問をぶつける。

本当は”どうやってココに”と聞きたかったのかもしれないが、言葉に詰まり、誤って”どうして”と理由を聞いてしまった。四期奥様らしくない失態だ。


「……ふむ、”秋穂君”に頼まれてな?可愛い”教え子”の誕生日だし……頼まれたのならこうする他あるまい。」

(きよ)……じゃなくて、”妖精Gさん”は何て事のない様に”訪れた理由”を述べる。


「……いえ……”春香はまだ”小学生ですし……清敬に行くかも分からないですから……”教え子の誕生日”と言うのはちょっと……」

四期奥様は突然の”妖精Gさん”の登場に戸惑っているらしく、冷静さを欠いていた。

今聞くベキ事を忘れ、”妖精Gさん”の”教え子の誕生日”発言を細かく訂正する。

「ふむ……まぁそういう事にしておこう。それよりも今は”コレ”じゃ」「……っ、」

四期奥様は”妖精Gさん”の言葉に息を飲むが、”妖精Gさん”は”どうやってか”を答えるつもりは無く、ここに訪れた目的をそのまま進めるつもりの様だ。


”ふわりと浮いた”方法や、”どうやって”この大広間まで来たのか、インターホンを鳴らしたのは、”妖精Gさん”の仕業だろうが、それは”どうやったのか?”、”何故そんな目立つ赤い衣装を着ているのか?今も外は梅雨の雨が降っているが、傘も見当たらないのに何故ドコも濡れていないのか?”

一度に聞きたい事があり過ぎて頭が付いていけない。さらに疑問は増えていくのだから四期奥様のテンパりは仕方が無い事だろう。


「……っ、よっこいしょうのすけ……ほぅれ!」「……あっ!ソレ!」

彼は……いや、”妖精Gさん”は肩に担いでいた、何が入っているのかも分からない”ずだ袋”を肩から下ろし、屈みこんで中身を持ち上げる。

春香は思いがけずに声を漏らしていた。


「春香君の”本当に”欲しい物じゃろ?コレは。」「あっ、”そっち”……」「ん?」「え゛っ!」

”妖精Gさん”が掲げるのは賢人が春香に用意した物と同じ様な箱に入っている物だが、細部が違う。

箱の側面に描かれているマークは太陽のマークだ。

これも今春香が着ている物と同じシリーズの雨具であり、”雨だ!レンジャー、晴れ女の濡れ女子雨具SET”と言う物らしい。

だが、これは”鎧と兜”などではなく、一見するとトレンチコートの様な衣服になっている。

それを見た秋穂は小さく驚き、四期奥様は同じような箱だが中身がまともで訝しみ、賢人は一際大きな驚きの声を漏らす。


勿論これは”ただの雨に濡れても大丈夫なコート”等ではない。

背中からは緑色の大きな葉っぱが一枚生えていて、それがコートを着た者の頭上に来るように作られている羽織ものだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―

「”雨だ!レンジャー”は巨大な悪の組織から、”いわくあり気な主人公達”が地球を守る物語である。

だが、”第三勢力”として、やや主人公寄りの者達が物語に関わっていくのだ。

それは”濡れ女子”と言う妖怪で、物語の主人公”雨田(あめだ)竜一”に付きまとう、ハタ迷惑だがとても愛らしいキャラクターとなっている。

だが、彼女は不運にも”晴れ女”の素質があり、そのまま外を歩けば干からびてしまう。そこで日光を遮る為に、竜一に刺して貰った巨大な葉っぱを背中に刺し続けて活動しているのだが……割愛


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―

とまぁ、”雨だ!レンジャー”の可愛らしいマスコットキャラの衣装じゃよ。」

きよ……ではなく、”妖精Gさん”は用意した物の説明をする。

「凄いじゃないですか!コレ……出回ってる数も少なくて……出回っても考えられない高値で取引されてるって聞きましたけど……」

賢人は口惜しい感じに言葉を漏らしていた。


「ふむ……まぁ貰いものじゃからな。そんなに気にする事はない。」

妖精Gさんは賢人に対しても事も無げな言葉を返す。

「”先生”……どうもありがとうございます。あの、……良ければ一緒にお食事だけでも……」

四期奥様は”妖精Gさん”に親しみを込めてそんな事を言った。

妖精Gさん”は四期奥様と賢人、秋穂に凪乃が世話になった大事な人だ。来たからには持って来た物を貰ってただ帰す事は出来ない御仁なのだ。


「ふむ。ならばお相伴に預かる方が礼儀かの。……だがスマン。先に”お手洗い”を貸して貰えんか?」

どうやら妖精Gさんの膀胱は限界らしい。この寒空の中”侵入”する機会を伺っていたのならさぞ冷えた事だろう。

「ええ。勿論構いません。」「では、ご案内を」「……」

四期奥様はソコまで考えたのかは分からないが、すんなりと言葉を受け入れる。

凪乃が間髪入れずに道案内を買って出ていた。

「いやいや、まだ下の世話にはならんわい。「いえっ、ソコまでは……」ふふっ、凪乃君には悪いが”ソコ”と”ソコ”の料理を取っておいて貰えるかい?なに、”場所は”分かっておるよ。」

妖精Gさんは凪乃の案内を断り、一人で行く様だ。前回の”決算期報告会”でも場所は知らせているし、道案内を断るのは別段おかしい話しではない。

「……」

千恵も動くかと思ったが、凪乃の案内を拒否された手前、動くに動けない様子だ。


どうやら春香の”身内だけの誕生日会”は終了する。

「……っ……」

春香は”妖精Gさん”の持って来てくれた物に釘付けなのだが、一瞬だけ視線を”妖精Gさん”に向けた。


「……ではな、清敬に入学するの待っておるよ……」

春香にだけ聞こえるような小さな声音で”妖精Gさん”はそう言い残し、その場をスタスタ歩いて行ってしまう。


こうして”妖精Gさん”は金山邸から姿をくらませるのだった。

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