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力の使い方  作者: やす
三年の夏
281/474

#280~力の入ったプレゼント~

「……あなた「うん?」……(♪♪♪)それって……(♪♪♪)いえっ、ひとまず……(♪♪♪)この音楽を止めるか……(♪♪♪)せめて小さくして貰えない?」

四期奥様はひとまず、BGMをどうにかするように言う。

賢人の持っている”ソレ”、多くのお店で売り切れな雨具・”雨だ!レンジャー、雨田(あめだ)竜一(りゅういち)雨具SET”について何か言おうとするが、依然として鳴り響き、さらには音量が増してきているBGMが喋るのに邪魔な様だ。

「あっ、ごめんごめん……」

賢人はスーツの胸辺りを触り、そこにあるのであろう何かを押す。

『♪♪♪……♪♪……♪……』「……えーと……なんだい?……」

程なくして、音は小さくなり、声を張り上げなくても喋られる程度、まさにバックグラウンドらしい音量となる。

「……あぁ……リモコン……」

どうやら賢人は胸にリモコンを仕込んでいたらしく、それを操作してインパクトのある演出をしていたらしい。

賢人は演出にもこだわる様だ。

どうやら動いた拍子に胸に隠していたリモコンのボタンが押され、音量が上がってしまっていたらしい。春香はそれを見て覚めた様な声を漏らす。


「”それ”って今人気の雨合羽でしょう?」「……うん?うん。そうだよ。」「それって……男の子用なんじゃないの?兜に鎧?……だし……」

四期奥様は賢人へストレートに指摘した。


「ふふん!違うんだなぁー四期、……これはね、別に”男の子用”とはドコにも書いてないんだよ、……ほら、」

賢人は四期奥様へ、”一本取った様にして”説明する。

箱をくるくると横に振って見せた。


「……いや、でも……”そういうのは”男の子が着たいモノなんじゃない?……”それ”を春香に着せるのは「「「……」」」「「……」」ねぇ?それに……サイズは大丈夫なの?」

しかし、四期奥様は賢人への異議を取り止めない。他の面子にも同意を得ようと彼女はこの場にいる面子の顔を見るが、それに同意して首を縦に振るのは秋穂・凪乃・千恵の三人で、当の春香と景は首を縦にも横にも振らなかった。


「ふふふん!違うんだなぁー四期、いや、君の言いたい事はパパも解ってるつもりだよ。……でもね、コレ、”本当の意味でのフリーサイズ”なんだ。」

賢人は今度こそ四期奥様から一本取れたと説明を続ける。

「ほら、『ガパッ』『ガガッ、』よくある”大きいタイプ”のフリーサイズじゃなくて……留める所が”伸縮するタイプ”での物なんだ。だから、身長がある程度あるのならどんな子でも……もっと言うと大人でも、お相撲さんでも誰でも着れるんだよ。ほら、ココに、”誰でも……キレるぞ”って書いてあるじゃないか。」

賢人は雨具SETを開けて中の防具……ではなく、雨具を取り出して四期奥様達に説明をする。


確かに見れば、全身を覆うと言うよりは、身体の上部分、雨が当たりそうな所に装甲を取り付けて雨を防ぐタイプのモノらしい。

”駄目押しの決め手”として賢人は雨具SETが入っていた箱の側面に”これで誰でも雨だ!レンジャーになれるぞ!実際の雨でもキレるぞ!”と書かれているのを取り上げていた。


「そ、そう……」「「「……」」」「「っ……」」

四期奥様は賢人のテンションに付いていけない。他の面子も喜んで良いのか、凄いと褒めちぎれば良いとは誰も判断が出来なかった。


「……じゃあ、一回着てみたら?……春香はコレ欲しかったの?」

四期奥様は納得いかないなりに、春香へ”試しに着る”様に提案し、これを貰う春香にその真意を確かめる。

四期奥様が何と言おうと、どう思おうと、”春香が喜んでいるのなら……”で評価が決まるのだろう。いや、四期奥様は何も別に賢人のプレゼントにケチをつけたい訳では無いのだ。

ただ、それが相応しいのか見極めたいだけに思われる。


「う、うん、モノは知ってるし、着てる人も”インターネットで”見た事あるけど……実物は初めて見るかな……”気には”なっていたけど……どうなんだろう……」

春香も喜んで良いのかどうかの判断が下せていない。だが、”とても希少な物だ”とだけは繰り返す。


「……あ、あれ?コレ……」「……ん?……なるほど、こうなってるのか……うーん、一人で着るのは確かに難しいな……やっぱり……”台座”の”オプション品”も買っておくべきだったか……」

春香は賢人から雨具を受け取って触ってみるが、どうすれば着れるのかスグには解らなかった。春香の隣で雨具を見る賢人もスグにはその着方が分からなかった様だ。

だが、彼の方が予備知識があるらしく、”一人で着る”のが難しい判断を下す。


雨具セットは鎧の腹巻・銅丸・背板・袖が1つになっているモノで、簡単に言えばTシャツの様にして下から頭を入れて着る物の様だ。

ただし、Tシャツと違って重量は重いとは言えないが、軽くはない程度で、柔らかさは皆無の雨具だ。

コレを着用する際は誰かに上から被せて貰うしかない。

賢人の言葉からはそれを解決する”オプション品”として”台座”もあるらしいが、今回は買っていないらしい。


「……よしっ、じゃあ、ホレ、パパが着せてあげるよ~」「う、うん……」

賢人は春香に気持ち悪がられているのを承知でそんな事を言う。

「「「「「……」」」」

それを見る、この場にいる面子はあえて口を挟まなかった。



『グイッ』『カチッ!』『ググッ、グッ』

「よしっ、出来た!じゃーん!どうだ春香?」「んっ!」

賢人がそんな声を上げて他の者達にお披露目する。

「っ……」「……」「むぅ……」「……あら?」「ふぅん?」

秋穂、凪乃、景、千恵、四期奥様達は皆バラバラの感想を抱いた様子である。

「ど、どう?」

そこには鎧を装着した春香が、ハニカミつつ、そう悪く無さそうな表情を浮かべている。

「ま、まぁ、着るのに苦労するみたいだけど……春香が良かったのなら良いんじゃない?」

鎧兜を身に纏った春香はその幼くも見る人を幸せにしそうな笑顔を浮かべていた。



その後、春香は

四期奥様から『今日厘ちゃんが来て、春香とやってた物は何?……もうゲーム買ってあげたでしょ?それで我慢しなさい。』とすげなく言われたり、

景からは『これから数日の間は春香小嬢の好きな”ご飯”って事で宜しく頼む。』と、現に今回の誕生日パーティーに用意した豪勢な料理を前に言われたり、

千恵からは『今度、春香お嬢様に可愛らしい服か何かを”作ってあげるからね”』と言われていた。


例年だと、四期奥様からのプレゼントだけでも良かったのだが、今年は豪勢にも沢山の大人達から春香はプレゼントを貰っている。


「ふぅ……」

そしてプレゼントは出尽くした感で一同がいると……


「春香……今年は私からもプレゼントを……と思ったんだけど……」

そんな事を切り出すのは秋穂だ。彼女は春香に視線を送りつつ、言いよどむ。

「ありがとう、秋穂お姉様……プレゼントって?」

春香は賢人からのプレゼント・雨具SETを着つつ、たくさんのプレゼントに喜んでいる。ほくほく顔だ。

「……その……うん、すまない……春香が今着ているのと同じで……あぁ、おと……いや……”パパ”とプレゼントが被ってしまった……物自体はまだ届いてないんだけど……今夜にでも来る予定で……」

なんと、秋穂の方でも彼女等の父・賢人と同じ物・”雨具セット”を用意してしまったらしい。


「なに?!……秋穂、”コレ”を買えたのか?むぅ……なら”春香が今着てるソレ”は”パパ”が使わせて貰おうかな?」

賢人は驚き、また、ついに秋穂から”パパ”呼ばわりされた事に喜びを隠しきれずに答える。

その態度は”春香が着た雨具”セットを使えるから喜んでいる様にも見え、ますます金山邸にいる者たちから”低評価”を付けられているのだが、まだ彼はそれを知る由もなかった。


『ピンポーン!』

そこで、金山邸のインターホンが鳴り響く。

時間としてはもう夜も遅く、未だに雨が『シトシト……』と降る時分だ。

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