#271~力は頭を下げる~
「……こちらになります。」『ピラッ』
「はい……」「……」
金山邸の応接間には客である”一人の男性”と”二人の男女”が向かい合って座っている。
その”一人の男性”は応接間の中央に置かれているテーブルに一枚のプリントを置いた。
「……」「……それは……」
客の男性が提示したプリントを持ち上げて見ているのは、”二人の男女”の内の女性の方で”この建物の主”と言える方だ。
「……”法力警察の事業計画書”ですか……」「……っ……」
清虹市の土旗地域にある金山邸の主・金山四期奥様はプリント上部にある、標題を読み上げる。
四期奥様の隣でそのプリントを覗き込む男性・四期奥様の旦那様でこの清虹市の”イケメン市長”である賢人は思いもよらない物が出て来たらしく、二の句を継げられなかった。
「ええ。」
二人に相対する男性・神田教諭は四期奥様の言葉を肯定する。
「……まぁ、法力警察は”警察”と言っても……”民間”企業だからなぁ……まぁ……」
賢人市長は神田教諭の言わんとしている事を予想して”理解”した様な声を漏らす。
”法力警察が動く”と言う事はクライアントが存在し、その対価としてお金が動いている。
清虹市は企業がそれなりに存在していて住民も多く、市の発足当初から法力を売りにしている企業に対しては補助金等を積極的に出していた。
そうして事業を拡大している企業は功を奏し、清虹市外でも活動出来ていて、ひいては市の財政は潤っているのだ。
清虹市でたまに”法力警察が見られる”のにはそういった事情があるのだ。
「はい。……まぁ、金山市長の言う様に……その事”も”ありまして……率直に申し上げますと、”協賛”と言う形で”ゴルドラハウス”からは資金……あっ、いえっ……そのっ、名前を貸して頂けたら……」
「……っ……」「……うん……」
神田教諭は四期奥様に”スポンサーとして名乗り出て欲しい”と告げていた。
そんな言葉を向けられた四期奥様は息を飲み、金山市長は腕組しながら息を漏らす。
「……そう……ですよね……”法力警察が動く”と言う事はそれに伴って”お金”が必要ですから……」「……」
四期奥様は携帯端末を取り出し、それに目を落とそうとしている。金山市長は四期奥様に神妙な視線を送っていた。
「……あっ……いえっ、すみません。言葉が紛らわしかったです。その……”お金”は大丈夫なんです。「っ?」「?」……ただ……”法力警察”出動にお膳立てと言いますか……”外堀”が必要でして……」
神田教諭は四期奥様の言葉を否定し、少しだけボカして理由を続けた。
「ん?……たしか……”法力警察”は……国内の出動であっても……結構な”費用”が必要だったハズですが”お金”は大丈夫なんですか?……清瀬小学校は”公立”の学校ですよね?……急に決まった事ですし……そんなお金を用意するのはとても……」
賢人は今思い至った様にして神田教諭の言葉をかみ砕いて理解しようとするも、当然の疑問府を浮かべた。
「……あっ、いえっ、そのっ…………まぁ、私個人の想像で言いますが……多分……”法力警察”も今回の”犯人”に心当たりがあるので経費はかなり……その……まぁそれか……”清虹市の安寧を願って”と言う事で……その……”お金に関しては”口外無用を条件に”無償”で構わないと言うハナシなんじゃないかと……その……学校としては”場所を用意してもらう”スポンサーとして”ゴルドラハウスにお願いしよう”としていまして……あっ、今日はまず、春香さんの担任教師として、私、神田から”簡単に説明をさせて頂こう”と伺った次第です。……その……ですから……”今日は”正式な話しという訳ではなく……まず知って頂こうとお伺いした次第でして……」
神田教諭はかなり言葉に詰まりながら考えを言う。
「……」「……なるほど……」
時折”神田教諭個人の想像だが”・”実際の所は分からないが”と暗に言って予防線を張り、四期奥様へとしては、”お金が必要”ではないと神田教諭は言っている様だ。
確かに、”防人部隊に参加していた者”が起こした襲撃・誘拐事件なら、同じ組織出身の者達が作った”法力警察”としては内密に・是が非でも首を突っ込んで解決したい案件だろう。
金山市長は得心が行った様子で理解を示している。
賢人が考えた様に、”法力警察”が動くのなら、その費用は馬鹿にならない。
そんな法力警察へ即座に頼った清瀬小学校の資金繰りを邪推する保護者や世間の目がもし今後現れれば、それを誤魔化す事は難しい事になるだろう。
当の”法力警察”から””費用は必要無い”事を口外しない様に言われているのなら”清瀬小学校”は”法力警察を動員している理由”を事実とは違う所で用意しなければならない。
そこで清瀬小学校としては”金山家のゴルドラグループ・”ゴルドラハウスが資金を出している”と思ってくれれば誰も疑問を抱かないだろう。と考えたらしい。
ここで”カラクリ”とまでは言わないが、”協賛”や”スポンサー”は現金等の資金を出資する”金銭的援助”のみならず、モノや場所・サービス等を提供する”物的支援”も挙げられる。
そして、”金銭的支援”と”物的支援”は、それが例えどちらかだけでも、基本的には”どんな援助”をしてくれたか公表する事ではない。
つまり、四期奥様が代表を務める”ゴルドラハウス”から法力警察官の休憩所等として一時的にあき地等を貸して貰えれば、世間の目を誤魔化せる様な状態が出来上がるのだ。
「……」「……」
賢人はソコまで考えつき、隣へ視線を送る。
四期奥様が代表を務める”ゴルドラハウス”は他のゴルドラグループ内の関連企業の中では、群を抜いて資金が少なく、貧しいのだが、代わりに固定資産を一番多く持っている。
”ゴルドラハウス”としての旨味は皆無と言っても良いのだが、今回の清瀬小学校の襲撃事件から関連する児童誘拐事件は四期奥様個人としては無視できない案件だ。
公私混同で、褒められる事ではないが、実態としてはゴルドラハウスの運営には露ほども関係ない案件でもある。
「……っ……」「……ん?……」「……」
応接間にいる面子は三人で、皆椅子に腰かけているのだが、四期奥様は立ち上がる。
賢人と神田教諭は四期奥様を見るだけで反応は出来なかった。
「ウチの”者が”ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。神田先生はお怪我をされていると聞いていましたが申し訳ありません。……仰るように致します。」
四期奥様は深々と頭を下げて神田教諭の言った事に”了解の意”を示すが、その言葉は”被害者のモノ”ではなく、まるで”加害者のモノ”だった。
「……なっ……」「……ぃぇ……」
賢人は四期奥様の突然の言葉にこれまた二の句が継げず、神田教諭は”焦った”様にして頭を下げて四期奥様より頭の位置を下げようとする。
『コンコン、』『ガチャ』「春香お嬢様です。」
そのタイミングで応接間の奥、リビングの扉がノックされて春香を伴った千恵が現れた。
「……ぁ、ぅん……神田先生、お久しぶりです。」
春香は顔を上げた所の神田教諭に頭をさげながら元気な姿を見せる。
「……ぁ、ぁあ、良かった。大丈夫そうだね。”春香さん。”お母さん方との話が”今”丁度終わった所だったんだ。あぁ……コレ、”春香さん”が学校に来れなかった時のプリントだから……」
神田教諭は春香をいつもとは違った呼び方で呼び、自身の背負って来ていたバックからプリントの束を取り出して、それを春香に渡す。
「……んっ……じゃ、お邪魔しました。また明日……」
神田教諭は下ろしていたバックをまた背負いながら駆けだす様な勢いでお暇する旨を告げた。
遅れてしまいました……
少し最近忙しくて……更新頻度は一週間に一話状態です……
頑張ります。




