#269~力のイワイ事~
今日は小袋怪獣行け!の水犬・水君襲撃の日ですね。
襲撃は16~19時の三時間で五枚も襲撃券が貰えます。
また、すなが三倍中で、さらにかけらを使うとすながガッポガッポな状況に!
なので今日はその前にあげておきます。
ゲッツイロチ、高個体!
『ガチャ、カチャン』
金山邸の分厚い玄関扉は閉められる。ちょっとやそっとでは破かれない鍵が施錠された。
風間千恵の後ろ手がそれをやっていて、彼女の視線は玄関にいる者へ向けている。
「おっ、お邪魔します……」
勝也は玄関の土足部分でお決まりの文言を一応は述べた。
しかし勝也は知っている。この金山邸の防音処理は完璧で、扉が閉まっている向こう側には叫び声であっても届かない。
現状、見える範囲にある玄関と面している扉は全て閉まっていて、下手をすれば対応した千恵以外の者は勝也が訪れた事に気付いてさえいないかもしれなかった。
一応はインターホンの呼び鈴が金山邸全域に響き渡るので、耳を塞いでいたりしてそれを聞き逃していなければ気付かない事は無いのだが……
「…………あっ、あの……春香は、あっ、いや、……少し前に妹の厘がここに来たと思うんですけど……」
勝也は春香に会えるのか聞こうとするも、玄関に見慣れた妹の靴が置かれてない事を見て千恵に確認する。
「んっ?ああぁ、そういえばさっき誰か来てたみたいだけど『ガチャン、』んっ?」「っ……」「おっ?……」
そこへ、玄関から見て右側の廊下の奥・キッチンを隔てている扉が開き、そこから出て来る人影があった。
『ダッ、ダッ、ダッ……』
キッチンから出て来た者は勝也を見ると訳知り顔で訪問者に向けて歩き出す。
いや、そもそもキッチンから玄関側に出て来たのなら、引き返さない場合はどこへ行くにしろ否が応にも玄関を通らなければならない。
その者が向かう先は一旦は玄関なのだが、明らかに勝也へ向けて足を動かしている。
「……くっ、なんだ?”春香小嬢”に何か用事でも?」
キッチンから出て来たのは傷が目に付く いかつい顔だが、時折好々爺の様な顔を少し覗かせながらも”意地悪い成分を若干含ませて問いただす”と言う、よく分からない類の態度で勝也に言葉を掛ける。
「……っ……あの……春香が学校に来れなかった時に配られたプリントをコピーして持ってきたんですけど……えっ?」
勝也は自身の背中に背負ってきたバックを直しながら、金山邸に訪れた大義名分を述べる。
「ふっ、まぁなんだ、”お嬢”の”誕生日を祝いに来た”のかと思ったんだがな……ま、”賢坊”じゃねぇし……もう俺の出る幕じゃねぇか。」
「えっ?」
そう、勝也が理解出来ずに疑問の声をただ返しているのは金山家の使用人、”風間景”だった。
勝也が景を見た瞬間に疑問の声を上げたのは、景の手に彼の顔程もあるグラス・大きなパフェを持っていた事だった。
顔の凶悪さとは真逆の物を持っていて、見ているとその似合わなさに そこはかとない不安を覚える様相を呈している。
「まさか、時代が違うから……あ、そういえば春香お嬢様の誕生日、まだ誰も祝ってないね……私とした事が忘れてた……いやそんなハズは……あれ?」
そんな夫の戯言を一笑に付そうとしていた千恵だったが、途中で何かに気付いて言葉を切り、考え込んでしまう。
「ま、”春香小嬢”は”そこの”春香小嬢の部屋にいる。ついさっき”お友達が”来たから”おやつ”をと思ったんだが、ちと奮発しすぎてな……」「……」「あ、多分それは俺の妹で……」
景が廊下から見て左側、”春香の居場所”を顎で示す。話によれば景が制作した”おやつ”を届ける所だったらしい。
厘とは時間にして、2、3分ぐらいしか違わないハズなのだが……
景の手にあるパフェは某大手チェーンカフェの”ボリューム満点パフェ”顔負けの一品だ。
「勝也君、ちと頼みがあるんだけど、”春香お嬢様”にあったらまず始めに”誕生日おめでとう”と言ってあげてくれないかい?できればプレゼントを渡して貰いたい所だけど……”勉強道具”じゃ締まらないね……」「え?」「……、おいおい、そりゃ……」
勝也は景の”おやつ”についての言葉を聞いている途中、千恵に肩を叩かれて,何やら不思議な事を頼まれる。
春香の誕生日は約一週間ほど前、清瀬小学校が襲撃されて、その春香が連れ去られた日だ。
それと、春香を雨田家に招き”誕生日会”を開く予定で準備をしていた日だったのだが……勿論主役不在では誕生日会を開く道理はないので、自然と流されていたのだが……
「……景、アンタ”それ”をこの子に渡しな。”こんなん”でもないよりはマシだ。「いや、待て待て、流石に春香小嬢”までも”となるとな……それに、この際”後でプレゼントを渡す”って事にした方が……」っくアンタが”ソレ”を言うのかい……」
千恵は景が大事に持つグラス・パフェを勝也に運ばせようと言うが、景は”こればかりはな……”と、難色を示している。
「あの……プリントを渡したらスグに帰りますから……”春香の部屋”にいるんですよね?」
「……まぁ、解ったよ。兎に角にも今は早くした方が良い。この子の妹が言ってるかもしれないし、そろそろ”アレ”が気づいちまう。」「……まぁ、俺は”それ”でも良いと思うがな……」
勝也がさっさと用件を済ませようと風間夫婦に口を割り込ませる。
千恵は自身の左側に気を配って勝也の言葉に便乗するが、景は”なる様にしかならない”としながらも、口を閉じた。
「さっ、兎も角はコッチだ。アンタも男ならグズグズしちゃあイケないよ。」
「はい……お邪魔します……」
勝也は春香の部屋の場所を分かってはいるのだが、千恵は様式美にこだわる質らしく、”大事なお客様”を案内・誘導するために手振りで先を促した。
「……ま、特に何もねぇんだけどな。」
景がそんな事を言って見守る中、勝也は靴を脱ぎ、春香の部屋へ向けて靴下で歩き出す。
春香の部屋は玄関から見て左側の四つ目、奥から見ても四つ目の小さな部屋だ。
ピンク色で統一されたその部屋は、勝也が入った場合”気持ちをそわそわ”させる効果がある。なので勝也は足を踏み入れる事がほとんどない。
『ゴンゴン』「春香お嬢様ー勝也君が来ましたよー”覚悟”してください~」「ん?”覚悟”?」
千恵は些か乱暴にも思える強さで春香の部屋を叩き、これまたよく分からない言葉を出していた。
勝也としては意味が分からない。
ちなみに千恵の声は部屋の中に届いていないハズなので、千恵の言葉は一種の独り言、いや、若しくは勝也と景に向けている言葉だ。
「……ふっ、」
それは誰もが分かっている事なのだが、しみじみとした反応を示したのは勝也の後ろでパフェを持つ景だった。
『ガチャ』っと音がする中、勝也の前にいる千恵は”春香のへや”の扉を開ける。
「……むぅ……」「……おぉ……」
部屋の中では春香と厘の二人がヘッドフォンをつけながら正座と胡坐姿で、テレビを近くで見つめていた。
二人はテレビゲームをしているらしい。
ヘッドフォンの音が大きいのか、ヘッドフォンが高性能なのかは分からないが、千恵や景、勝也が訪れているのに気付いた様子は見られない。
「いやぁ、それ……」「ふっふー!」
どうやら二人それぞれの頭を挟んでいる耳当てにはマイクが埋め込まれていて、互いの声だけは相互に聞こえる物の様だ。
清虹市に限らず、一部のゲーマー・ゲーム大会等で採用されている音声通信式のヘッドセットらしい。
プロ仕様のそれは結構な値がはる物なのだが、春香にはパトロンがいるらしく、ことゲームやアニメ等の環境に関してはそこらの大人顔負けで高級な機材が揃っている。
「……ふぅ、厘ちゃんそろそろおやつが……あっ!」「ん?……あっ!」
テレビに視線を送っていた春香は厘に向けて言葉を掛け、何の気なしにドア・廊下側に視線を向けて勝也達を発見した。
厘も春香の声を聴き、つられて勝也達を見る。
「んっん゛っ゛ん……なぁに?”勝也君”、私今日は忙しいの。……少しだけなら時間を割いてあげるけど、何か用?」
春香は咳払いしつつも一瞬で頬を赤く染めあげ、ヘッドセットを外しながらも、かなり”よそよそしい態度と声音”で勝也を受け入れる。
正座したまま身体の向きを変え、言葉とは裏腹に、ちゃんと対応しようとしている様に見受けられた。
「……いっ、いや、春香が戻って来たって聞いて……その……」
勝也は見ているこちらが恥ずかしくなる様にしてモジモジしながら言葉を紡ぐ。
後ろにいるハズの千恵と景が”早く言ってしまいなさい!”と言う様にして口を挟まずに事の成り行きを見守っている。
「元気そうで良かった……あの、春香……避難訓練の日は誕生日だったろ?その後にウチで誕生日パーティーでも開こうと思っててさ……そのっ……」
勝也は久しぶりに春香の顔を見て緊張していた。
「……そ、そう……”ナギノン”が色々やってたのって”勝也の事”だったんだ……」
春香はより顔を赤く染め上げて勝也の言葉を待っている。
「……ふぅん……」
春香の隣で胡坐をかいている厘はヘッドセットを未だに付けながらもテレビゲームのコントローラーを握りながら見守っている。
「……まぁ、遅くなっちゃったけど……”誕生日オメデ”『ガンッ!』っ!」「ちっ!」「あっ、賢ぼぅ、今は……」
遂に勝也が春香にとって大切なワードを言う直前で部屋の外、廊下の向こう側で扉が乱暴に開く音がする。
廊下で見守っていた千恵は舌打ち交じりに向こう側の”アレ”をにらみ、景は思わず口を滑らせる。
「ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ!」
足音が盛大に近づいてくる。
勝也は思わず狼狽えてしまった。
「春香ぁ、遅れてスマンッ!”プレゼント”の目処が立ったんだっ!忘れてたわけじゃないっ!」
「ちょっとっ、賢人さんっ、今は大事なお客様が来てるんだから……」「!賢坊っ!お前分かっててやってるんだろう?」『ドタッ、バタンッガチャン、ゴトッ……』「くっ、どいてくれっ!」
「……」「あぁ……」「……」
部屋の外、廊下から、部屋の中からでは見えないが、何かが暴れている様な物音が聞こえてくる。
春香の父である金山賢人が大声を出しているのだけは解るのだが、その音を聞いて雨田兄妹は言葉を出せず、春香は焦った様に狼狽えていた。
いや、厘は未だにヘッドセットを頭に挟んでいるので聞こえていないハズなのだが、春香と勝也を見て声を潜めている。
『ダンッ!』「春香、誕生日おめでとう!大好きだよ!」「「あぁ……」」
「まぁ別に良いけど……」
廊下から部屋の扉の前まで飛び込んできた賢人が春香の誕生日を祝った。
この頃”父親嫌い”の思春期を迎えつつある春香は落胆した様な感情でそれを聞いていた。
昔、春香の母である金山四期お嬢様の誕生日を、一番始めに・”一番多く”祝っていた賢人は、その奇行とも言える手段で何の接点も無い四期お嬢様のハートを射止めた経緯を持つ、はた迷惑な少年だった。
こうして春香の父・賢人は誰が見ても分かる程に清虹市の土旗地域にある金山邸に住む女性陣の反感を買っていく。




