#264~力が一番なのは~
『シトシト……
清敬高校の二年生で、土系法力が得意と判定された者が集められている通称”土系グループ”は校庭の南側に建てられているビニールハウスにいた。
『……モゾッ、ペタペタ……』
彼等彼女等土系グループの面々は高校二年生として、真剣に砂場遊び……ではなく、粘土をこねている。
「皆ー?どうー?何か作りたくなったー?」
一人、嬉々として笑っている土場先生は時折大声を出して、温室内の生徒に声をかけていた。
「……」『……ペタペタ、』
しかし、生徒達は”この歳で今更粘土こねなんて……”と言外に態度でありありと伝えている。
「……っていうかさ先生?……もっと法力を使った授業にしてよ!こんなんじゃ俺ら美術部みたいじゃないですか?……こんな事やっても”法力”なんて使えないですよ!……」「うん-?」『グニュグニュ……』
ついに、とある男子生徒が土場先生の授業内容に抗議の声を上げた。
土場教諭は、”遂に爆発したかー”と言う感じで言葉を返さない。
「……てか、ここでこねた粘土は、そこらに置かれた作品に使われるんですよね?公私混同じゃん!……」
その男子生徒は、清敬高校南にある道に展示している銅像を見て暗に意識を向けている。
どれも土場先生が作成して置いている物だ。
「ーうぅん……」『……グニィ、グニィ……』
土場先生は”ヤレヤレ……”と言いたげに息を吐いてから言葉を続ける。
「……相田ー、どうしたー?何か嫌な事でもあったのかー?」『……ダンッ、ダンッ……』
土場先生は声を張り上げる男子生徒へ、人を食った様な声で様子を見ていたらしい。
尚も手元では土をこねていて、ちょうどコンクリートに打ち付けるタイミングの様だ。
「……いやいや、俺らがココに入学したのは”法力”を習う為なんですよ!俺ら二年生になったし、”法力”を多少は使える奴もいて……今更こんな事してられないんです!……他のグループじゃー、手から火を出したり、風を起こしたり、水の流れを変えたり……とか色々やってますよ?……なんで俺らだけこんな……」
彼、相田公平は清虹市外から高校進学のタイミングで清虹市に家族から離れて単身移り住み、下宿生活を送っている者だ。
彼の様に清虹市外から単身で来る者は、相対的に他の者より”法力”免許取得を目指している者が多い。
また、彼には他グループで”法育”を受けている身近な者もいるらしく、彼等を内心羨んでいる様子が見て取れた。
”土系”法力は一見して派手さが無く、他系統の法力から見ると多少異質な力となっている点もこの態度に込められているのかもしれない。
「んー……確かに法力は”そう言った力の発現を行って”技能を高めると見られているね。……じゃあ聞くけど、君はどうしたら”法力”がもっと使える様になると思っているんだい?」
『……グニィ、グニィ……』『グニュグニュ……』『……ペタペタ、』
”温室”内の者は皆手を止めて相田と土場先生のやり取りに耳を傾け始める。
いや、土場教諭と秋穂は未だに土をこねているので手を止めているのは生徒だけだ。
「……いや、俺はそれを習いに”ココ”に来てるんですけど……多分……法力を何度も発現させてれば、法力が上手く出せる様になってくんじゃないんですか?……俺らはもう初歩的な法力は使えるんで……それを繰り返した方が……」
相田は他の習い事などの方法から”法力も繰り返し練習してれば良いんでしょ?”と言う体で自分の考えを述べている。
彼も別に好き勝手やりたい訳ではなく、ただ純粋に”法力”免許と技能を手に入れたいのだ。
「うん、確かにその考え方は”法力”であっても言える事だと思うし、そういう方法も”楽しい”から間違いじゃない……」
土場教諭は土まみれの手を止めて、なおもっと土まみれの指を振り、相田にちゃんと目を合わせて口を開けている。しかし、彼は声の向きをさらに奥へとずらす。
「……金山先生?」
「……」『……グニュグニュ……』
しかし秋穂は言葉を返さない。ただ土をこねているだけだ。
「金山先生ー!」『……グニュグニュ』「……あっ、すいません、えーと……何か?」「っ!」『ヒソヒソ……』
秋穂は恐らく、一番真剣に土をこねていて、相田の授業に対する不満な声から聴いていなかったらしい。彼女の近くにいた女生徒を中心に囁き声が発生する。
秋穂は創作意欲を駆られて、丸い物体から細い突起を作り出していた所だった。
「集中している所で申し訳ないけど……大学で”土系法力の習得”について習っているかい?「はい。勿論です。」じゃあ皆に何が大事か言ってみて。」「分かりました。」
土場教諭は秋穂に”土系法力の授業について”発言を求められる。
勿論秋穂は大学の講義で習っている事なので答えられるらしい。
秋穂は温室にいる皆に向けて口を開き始めた。
「まず、”土系法力は他の法力と違い、事象物を空気から作り出せません。よって人間が法力を得る為には事象物の土から得る必要があり、それは法力を発現出来る者の周りでより発生すると言われています。つまり、土系法力を習得するためにはその法力を扱う者に師事するのが良いとされています。”……で、良いんですよね?」
「おぉ、素晴らしいー、”土系法力について”の”副読本”にある一文まんまだね。」
土場教諭は秋穂をべた褒めして拍手しそうな勢いだ。
「まぁつまりー、土系法力は”土を触る”のが一番良くてー、さらに土系法力を発現出来る人の近くに居るのが良いんだよ。自分よりも法力を扱える人が尚良いんだけどね……他のグループよりかは地味なのは間違いないけど……これで分かってくれたかい?相田。」
土場教諭は相田に伺いを立てた。
「はぁ……まぁ……生意気言ってすいません……」
相田はそれまでの威勢を隠し、秋穂の方に視線をチラチラと向けながら、自分のやっている事について理解した。
「え?じゃあ、土場先生より”法力が使えるかもしれない私”ってもうこれ以上法力を鍛えられない?……」
そこで秋穂の近くで土をこねていた女生徒が”ウケ”を狙って声を滑り込ませる。
「お?言ったな?加山……まぁ……”金山先生”とは張り合えないけど、お前ら生徒よりかは自身あるぞ?」
それに対して土場教諭は秋穂が一番と言う類の謙遜にも見える事を言ってそれを否定した。
「え?じゃあ金山先生はこれ以上鍛えられないの?」
ウケを狙って言葉を刷り込ませた|加山晴海は今度は秋穂の心配をしている。彼女はこの集まりのムードメーカー的ポジションだ。
「……」
ココで秋穂が謙遜してみせて”土場先生の方が上だから、私も意味はある”等と言えば沸き立つかもしれない状況だ。しかし、彼女はどこまで行っても嘘は付けない質だった。
「……いや、”清田校長先生”は土系法力もすさまじいから、私もココにいるだけで意味はあるよ。」
「「「あぁ……」」」
秋穂は嘘がつけない女なのだ。




