表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
力の使い方  作者: やす
三年の夏
262/474

#261~力の銀行~

『サァァァー……」

雨が降る清虹市の風台地域では、飯吹と雷銅の二人が連れだって駅近くに店を構えるセブンリバー銀行・風台支店に訪れる。

『トジッ……』『ウィーン』「えーとATM、ATMは……あれ?えーてぃーえむ?って……アトム?」

自動で開いた扉から店に足を踏み入れた飯吹は閉じた傘を片手に、ATM・現金自動預け払い機・Automatic Teller Machine・オートマティックテラマスィーンを建物の奥・有人窓口近くに探していた。

『トジッ……』「飯吹先輩、コッチにあります。アソコです。私が傘を預かっています。」

「あ、ありがとう。」

すると彼女の後ろにいた雷銅が逆側にそれがある事を伝え、飯吹の手にある傘を預かろうとしている。


ちなみにアトムとは”原子”の英訳だ。様々な商品・企業・作品の名前で使われているが……飯吹が何を思ったのかは分からない。


「……」

銀行の外では傘を差したままの平岩が彼女達を待っていた。

「……」

対して雷銅はここに用はないが、店の出入り口内部で飯吹を待っている。

『ウィーン、ガッ』

自動扉は出入り口に人がいない事を悟って独りでに閉まり、店の外と中の空間を隔てていた。


「ふんふーん、ふーんふんふんふーんふん、ふんふんーふんふんふん、ふーんふん、ふんふーん……」

飯吹は特徴的な部分を繰り返す様にして鼻歌を鳴らしつつ、建物の出入り口近くではあるが、外からは奥まって見えない所に置かれたATMへ向かう。


「サァァァー……

「「……」」

雷銅と平岩はガラス張りの自動扉のこちら側とあちら側と、空間を跨いで待っていた。

一見して見ると二人は連れ合いの様には見えないだろう。

『ドタドタドタ!』「ちょっと……」『ウィーン』

そんな二人に向けて、自動ドアを開ける様にして人が訪れる。

「……機械が動かないんだけど……あれはどうしたら?」「えっ?」

いや、”訪れる”と言うよりは、ATMの方・奥まった所から飯吹がスグに”戻って”来ていた。

「っ……」

平岩としてはスグに済む話だと思うのだが、飯吹は”大問題!”と顔と口とで語っている。

『トジッ、』「あの、もしかしたら”カード”が壊れているのではないですか?それなら我々ではなく、銀行の職員さんにでも聞いた方が良いですよ?」

平岩は遂にたまらず、飯吹に解決策を答える。

平岩と雷銅は、銀行関係者でもなければ、飯吹の保護者でもない、

「……いやぁ、そうなんですけど……”アレ”が何かよく分からない感じになってて……」

飯吹も”それは承知の助”と顔でATMに指をさしていた。

「……っ、」

大方、”彼女は暗証番号を一定回数以上間違えた”か、”カードに物理的な問題があって使えないのだろう”と、平岩は思ってはいるが、そこまでは口にしない。

「でしたら……ちょっと見させて貰いますよ。」

平岩は不満交じりに店に足を踏み入れ、飯吹の言う所の”よく分からない感じのATM”へと足を向けた。


「ん?」

幸い、ATMが並ぶスペースには他に利用者はおらず、飯吹のキャッシュカードを飲み込んだATMは一番近くのATMで一目瞭然だ。

「これは……」

セブンリバー銀行・風台支店に置かれているATMは一般的なソレだ。

一台のATMには二つの画面が備わっていて、一つは正面・もう一つは手元の下側に暗証番号や数字を指定する為のタッチ式の画面が置かれている。

「……たしかに”こう”なっているのは見た事がありませんが……」

飯吹の使っていたであろう一番近いATMだけが赤い画面になっていて、

”Erreur89”

”Veuillez montrer cet écran au personnel de la banque et résoudre le problème”

と黒い文字で表示されていた。


清虹市の公用語は、あたり前だが日本語だ。

”セブンリバー銀行”はこんなカタカナの名前でも、純粋な日本資本の日本企業である。

この銀行は海外展開をしているし、”ATM”と言うくらいだから、中には海外の部品も使われ・海外謹製のソフトウェアが動いているのかもしれないが、これほど日本語や、英語以外の言語を羅列して表示するのは些か”不思議な状態”と言えた。

「……確かに日本ではまぁ珍しい言葉ですが……このATMは多分……”銀行の職員さんを呼べ”と表示しています、多分ですが……」

平岩はATMの画面に表示されている外国語を分からないなりに単語から想像して飯吹に伝えていた。


「じゃあ、この受話器で電話しろって事ですかね?」

飯吹はATMに備え付けられている受話器で連絡出来るのか?と考えている。

「……いえ、待ってください。多分……受話器で伝えるんじゃなくて、”ソコにいる銀行員さんを呼べ”って事なんだと思いますよ。……」

しかし、平岩は”Veuillez”と”écran””personnel”と書かれている事から、ココに店員を呼んで、”この画面を見せて下さい”と書いてあると解釈した。

”Veuillez”とは”~~して下さい。”で、”écran”とは”画面”や”見せる”、”personnel”は”スタッフ”と言う意味だったハズだ。

”ATMに備え付けてある受話器を取るのは違う”と飯吹に助言している。


こう言った受話器は大抵、この支店の窓口等ではなく、日本にあるセブンリバー銀行の全てのATMで一括してどこかの”コールセンター”や”セブンリバー銀行本店”に繋がるモノのハズだ。

そしてそれはこの場合では概ねで正しい。

「……それよりも「なるほど、じゃあ平岩さん、ちょっと”ココで待っていてください。私は銀行の人を呼んできますから。」あ、……はい。」

飯吹はATM備え付けの受話器を取れない事を残念に思った訳ではないが、平岩の言葉を切り上げる様にしてすぐに行動を始める。


「……なんで……」

平岩はATMを見つめていた。

彼はこんな外国語で表示された状態を見た事は無いし、ここのATMは本来、日本語か、英語ぐらいでしか表示されない。

また、ここのATMには受話器とは別に”EmergencyBotan”と銘打って赤いボタンが壁に備え付けられていて、そちらのボタンを押せばすぐソコなのだが、支店に直通で音声が繋がり、支店にいる者をこちらに呼べたり出来る物だ。この場合はそちらを押すベキだが、それは”外国人向け”の感が強かった。

直接呼びに行けるのならそちらの方が早いし確実だ。



「あの、これなんですけど……」「……はい。」

飯吹はスグにATMの所に戻ってくる。

後ろには”セブンリバー銀行の制服”を着た女性を伴ってきていた。

「あ……」『ビィー』

そんなタイミングでATMは画面を赤くしている表示を戻して飯吹のキャッシュカードを効果音と共に吐き出し始める。

「……あれ?戻ってる……」「あ、貴方は平岩さん!……ですよね?……」

「……どうも、」

その女性銀行員は平岩に気付き、少しだけ黄色い声を上げる。平岩としては無下に出来ない、いつもの事だ。

「……あ、すみません。……えーと特に、問題は無さそうですけど……どんな表示が出ていましたか?」

しかし、その女性銀行員はプロ意識を出して、平岩を”一般人”として処理しようと決まった文言を並べる。


「……何か赤い画面になって……外国語が出てましたけど……「え?外国語って言うと……英語でしたか?」いえね、私は日本語ですら怪しい時がありますから……」

しかし、飯吹は日本人としか言えないのに、日本語ですら怪しい身の上だ。”英語”ならまだ、発音や文字は学校で習ってはいるし、聞いた事や見た事はあっても、それ以外の言語を文字で出されると全くと言っていい程気に留められていない。


しかし、飯吹はこの場合、正しい選択をしていたと言っても過言ではないだろう、飯吹が助けを求めた者が口を挟む。

「あの、それほど詳しくはないんですけど……多分、”フランス語”で”エラー89”と最初に出ていたと思います。」「え?フランス語?」

「あ、そうですか、分かりました。ありがとうございます。では……こちらのカードを一旦預からせて頂きます。……申し訳ありませんが窓口で対応致しますので……少しお時間を取らせて頂きたいのですが今お時間はよろしいでしょうか?」

女性銀行員は平岩の言葉で対応の目途を立てたらしく、ATMが吐き出したままのキャッシュカードを抜き取り、店の奥で彼等彼女等の対応をしたいらしい。


「あぁ、はい。良い……ですよね。」

「ええ。」「……」

飯吹は即座に返事をして、平岩に確認を取る。

平岩としてもここまで付き合ってしまったからには”なんでもござれ”状態だ。

雷銅だけは我関せずで、少し離れた所で沈黙を貫いている。

「では”お連れ様も”店の中の席でお待ち下さい。スグに対応する者を呼んで参ります。」

しかし、女性銀行員は雷銅にも言葉を向けて”飯吹一味”を店の中にいざなった。



…………

……


女性銀行員の言葉通りに対応してくれる男性銀行員がすぐに訪れ、彼女・彼等を”商談室”と言う名の、支店奥深くに場所を移していた。

いくらか偉い様子の男性銀行員はおもむろに飯吹へ状況の説明を始める。

「飯吹さんの口座ですが……”海外からの”断続的で大きな送金がありましたので……”違法性”が疑われたので、一時的に口座機能を部分的に制限させて貰っています。これについてお住まいの住所へかなり前に案内を送っていたのですが……」

「「え!?」」「なっ!?」

どうやら飯吹が自宅に帰っていない隙に、色々と問題が起こっていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ