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力の使い方  作者: やす
三年の夏
259/474

#258~力はオモイでわれる~

「……っ……」

平岩はバツが悪い状態だ。彼は目の前で仁王立ちしている女性から飯吹関連で悪感情を向けられているのを知っている。


『……ゴロゴロ『ピカッ!』ゴォォォォォォォン!!!』「ぉ!……」「「……うっ」……」

立て続けに雷がスグ近くに落ち、”おへそを取らる!”と思ったが如く、平岩と飯吹の二人は重心を落として身構えた。

ちなみに平岩と雷銅が異口同音に身じろぎの声をあげ、飯吹は驚きの声を小さく上げている。

彼等彼女等の視界は白い光で覆われて、本当に近くで雷が落ちた事を感じ取っていた。

「……今の”雷様”は近かったっ……びっくり……」『トジッ……』

「……ぇ、ええ、多分……向こうの電柱に落ちたんだと思いますよ『トジッ……』「……えっ?そんなに近い?と言う事は……もしかして停電してたり?……っ、まさか……」いえ、風台はもともと雷が多い地域なので対策はバッチリされています。それに、ここらの一般家庭の電気は今、地下を通って来ているので……もう”昔”と違って停電は滅多な事が無い限り、起こりません。……多分、冷蔵庫の中にある物や、トイレの水なんかも大丈夫です。」

そんな雷に不安を一瞬だけ抱いた飯吹は傘を閉じてアパートの出入り口に避難し、平岩は停電で困りそうな事は心配してなくてもいいと、傘を閉じながら彼女に追従しつつ説明をした。

どうやら風台地域は昔、電柱とそれを繋ぐケーブルで電力を供給していたが、現状の一部の建物では地下インフラ通路を通して電力を供給しているらしい。


「……へぇー、トイレの水?”……まぁ、昔は雨の日はそれなりに停電したんですけど、いつから停電が心配いらなくなったんですか?」

「え?……数年前に電線の切り替えを終えています。……あれ?”風台のお知らせ”で告知していたハズですが……」

「あー私はソレを見てないですね……まぁ、そこらへんは”ココの管理人さん”がうまい事やってくれているハズ。……でもそういえば……今ウチの冷蔵庫はスッカラカンなんで、停電してても別に問題はなかったです。」

「……そうですか……まぁ、電気の切り替えはすべて上手く出来ていたと聞いているので……集合住宅暮らしなら”それほど”気にする事ではないかもしれません。」


アパートやマンション等の大きな集合住宅はその特性から、各部屋に水道の水が届きにくくなるため、モーターなどの力で水を建物全体に送り届けている。

なので停電してしまうとそのモーターが動かせなくなり、キッチンやトイレの水が止まるか弱まったりして、トイレでは排泄物の匂いが上がってきたり、下水道を詰まらせてしまう可能性があるのだ。

「……」

会話に入らない雷銅は無言で平岩達……いや、平岩へ無言の視線を送っている。まるで”品定め”をしている様な視線だ。


「……」

「ま、まぁともかくライちゃん、私の荷物を持って来てくれてありがとう。呼んでくれれば取りに行ったのに……”みんな”忙しいのに……ごめんごめん。」

飯吹の借りている部屋はこのアパート・”清虹ポートの001号室”だ。

雷銅が用意したのであろう部屋の前にある段ボールは、ある程度小さいながらも六箱もあり、職場に置く私物としてはかなりの多さと言える。

雷銅一人では物理的に持って来れないのだろうから、法力警察の同僚達が運んでくれたのだ。

だが今アパートには彼女一人しかいない。

彼ら法力警察の前線班はやる事が色々とあり、飯吹はそれをちゃんと理解している。

雷銅が残って飯吹の帰りを待ってくれていただけでも恐縮モノだ。

それもあって、飯吹の言葉は嫌味たらしくはない。

自分の忘れ物をわざわざ持って来て見張ってくれていた事のお礼をちゃんと述べている。


「……あっ、いえっ、私たちが持って来た段ボール箱は上の二つだけです。「え?じゃあ他の段ボールは……」下の四つは元からここに置かれてました。署の方では他に荷物があるとは聞いていませんので……他に置く場所が無かったので勝手に上に積み上げてしまいました。……飯吹先輩が”自宅を封印する”目的で置いているのだとばっかり……」

「……え?じゃあ他の部屋の誰かが荷物置き場として置いてるのかな?”全然知らないモノ”だけど……」「……」

飯吹と雷銅は飯吹が借りている部屋の前に置かれた”謎の”段ボール箱について話している。

だが、”自宅を封印する”とは聞き捨てならないが……何かの隠語だろうか?

平岩は言葉の物騒さから色々と想像し、”静”の姿勢で軽々しく言葉を挟まない。


『ガアァ……』「……ん?……」「……あれ?……」

そこで飯吹の部屋とは反対側の端にある扉が開く。場所的にはおそらく004号室だ。

そこから姿を現した中年頃の男性は飯吹達の姿に気付いて怪訝な顔を覗かせる。

また、飯吹としてもその部屋から出て来た者が思っていた顔とは違う様だ。

彼女はそれよりもさらに怪訝な様子を見せていた。


「……あっ、あんたさては……”飯吹さん”だろう!?」

「……はぁ……あれ?そこって”管理人さん”の部屋じゃ……あれ?ここの管理人さんは確か、”結構いい歳したおばちゃんだった”ハズだけど……」

「「……」」

どうやら中年男性が出てきた部屋は、このアパートの管理人が住まう部屋らしい。そして、このアパートの管理人はお歳を召した婦人だったと言っている。

管理人の部屋ならば、そうそう変わるモノでもないし、今出て来た者はどう見てもそれよりもまだ若い見た目の男性だ。

平岩と雷銅は奇しくも同じ思考を辿り、”もしや押し入り強盗?!”なんて可能性が頭をかすめている。


「……あぁ、そこからか……えーと、初めまして。ここ”清虹ポート”で二代目の管理人を務めている者です。私は先代の管理人の”本当の”甥でして……」

「……えっ!……」「「……」」

なんと、飯吹がこの部屋を開けている間に、管理人が代替わりしていたらしい。

飯吹は驚き、平岩と雷銅はどちらも言葉を発していないが、二人の認識はまるで違った。

それは彼等の持っている”飯吹についての”情報の有無で違いがあったからに違いない。

片方は”まぁそうだろうな”と状況を理解した無言で、もう片方は”何故?”と、理解しがたい無言である。

前者は雷銅で、後者は平岩な事は言うまでもない。


「……えー!あのおばちゃんどうしたの?まさか……「……あぁ、もういい歳ですから、地元で元気にやってますよ。」なるほど、じゃあー……えーと、今度会った時にでも宜しく言っておいてください。……これからはよろしくお願いします。1号室の飯吹金子です。」

飯吹は新管理人に挨拶をした。しかし、それはかれこれ10年ほど遅れているのだが……

「……いやいや、あんたね!初対面でこんな事言うのは気が進まないけど……もう少し連絡が付くようにしてくれないかい?電話には出ないし、”連帯保証人”はもう解らんって言うし、入居時に契約書で書いてもらってたアンタの職場も”連絡出来ない”なんて言うモンだから……こっちはアンタのおかげで無駄に気を揉まされたよ。……」

「……はぁ、すいません……」

「「……」」


話しを纏めるとこうだ。

・アパートとしては”連帯保証人”や”会社の連絡先”等を当たっても飯吹に連絡が付かず

・飯吹不在は長く、管理人が代替わりしている程だ

・見て見ぬ振りをこれまでしていたが、恐らくは飯吹の使っている、アパートの出入り口にある共用スペースのポストは、もう物が入らない程に溢れ返っている惨状で、アパートは不利益を被っていると言う事

・飯吹の部屋の前には中身の入っている段ボールが四つ積まれて塞がれているが、それは飯吹当ての郵便物や、荷物を纏めた物だった。

・管理人は飯吹と久しぶりに……いや、初めて会って、ここぞとばかりに”恨み言”を連ねている

・家賃は銀行の引き落としでしっかりと収められてはいるが、賃貸契約時の規約として”一年以上連絡が付けられず、部屋の賃貸業務に不都合な被害がある場合・又は、家賃が収められていない場合は賃貸契約の即時解除と、それに伴って部屋の明け渡しを借主は了承し、被った被害はすべて借主が負う。”の項目に飯吹はしっかりとサインしている


と言う事だった。


「アンタが”おばさんの”お気に入りで、”警察署に務めてる”って話しを聞いてなかったら、賃貸契約の規約違反で部屋を空けて中の物全部処分してたよ。まぁ、賃貸料金の払いはちゃんとしてくれてたからまだ良いけど……アーデモナイ、コーデモナイ!……」

「……はぁ……すいません……」

……飯吹はどうやら、このアパート・清虹ポートの一室を借りてはいるが、”根無し草”として永年部屋を空けて、常識では考えられない程、ここへ帰ってきていなかったのだ。

何とも空恐ろしい所業である。

まだ部屋として貸して貰えているだけ、良くしてくれているのかもしれなかった。

飯吹は今年で33歳になった女性だが、管理人さんにこってりとお灸をすえられている。


”虹の子”が一人暮らしを始めるにあたって、賃貸を借りる際に”連帯保証人”はその”虹の子”の面倒を見ていた者が多くの場合で引き受ける。

しかし、”虹の子”の第一期生とも言える、現在で30頃の”虹の子”はすでに生家も無くなり始めている頃で、勤め先によっては連絡が出来ない場合もあった。

清虹市の様な特殊な地域では保証人を引き受けてくれる会社や団体は未だに対応出来ておらず、それなりにその方面の問題は山積みだ。

実は一部の人間は裏技的な方法もあるのだが、未だにうまくは機能していない。


「……まぁ、ともかく、もう二度目は無いですからね!?次に音信不通で連絡が付けられなかったら、家賃を支払っていても、問答無用で部屋を空けて、中の物は全て業者に処分してもらいますから!そのつもりで!あぁ、それと、その部屋の前の段ボール箱はすぐに……あれ?……まぁともかく、サッサと……今すぐにでも”処分”してくださいね!」

「……はぁ……」

「ったく……信じられないよ………………って!アンタ平岩さんかい?!……えっ?なんでウチに?」「っあ……この度は……」

管理人さんは今更、平岩の正体に気付く、『あぁ、どっちも”虹の子”か……まぁ、それを出されるとこっちも強くは言わんけど……』なんて積年の恨みを陰らせる。

「……まぁともかく……出来るだけ早くに……部屋もそう遠く無い内にサラいといてくださいよ。」『カツカツ……』『グァア、ガンッ!』

「「「……」」」

徐々に怒りをこみあげていた管理人さんは平岩に気付いて毒気を抜かされたらしく、また、三対一な構図に気付いたのか、共用スペースの奥にある扉を開けて中に引っ込んで行ってしまった。

扉を開けた先は公衆トイレの様にタイル張りであった事から、アパートの住人が使う共用トイレなのだろう。

多分だが、このアパートは入居希望者はさほどおらず、風呂無しトイレ共用と、それなりな環境らしい。

飯吹の様に”賃貸料をキッチリ”支払える者ばかりではなく、いろいろな事に目を瞑っているのかもしれないやり取りだった。


「いや~……怒られちゃったよ……」「まっ、まぁ……帰っていないとは聞いてましたがまさか数年単位とは……」「……ん?……」

飯吹もばつが悪い様子で言葉を漏らし、平岩は飯吹の所業を知り、うまく言葉を見つけられていない。

……だが、今度怪訝な顔を浮かべるのは雷銅の番だった。

「……っ、っ!!……飯吹先輩の”匂い”が貴方からしますね「……「えっ?」」……私はそういう”匂い”が結構敏感に解る(たち)なんです。」「あっ、さっき私がくっ付いたからだね。ライちゃんは鼻がキクね……」

雷銅は平岩に何の気なしに言葉を送っている。飯吹は平岩と一緒のタイミングで驚くも、すぐに原因を解明させてから雷銅の敏感さに賛辞を送っていた。

雷銅は五感が途轍もなく鋭いのだ。


「まっ、まぁ、ともかくですが……飯吹先輩。先輩のロッカーの整理を私がしていたんですけど、ロッカー整理の為にロッカーをどけてみたら、”コレ”がロッカーの下に落ちているのを発見しました。”大事な物”なので私が直接渡しに来たんです。」

「えっ?ロッカーに”大事な物”?何か……」

雷銅は独り残っていた理由を告げ、彼女の服のポケットから透明な袋に包まれたモノを渡す。

「……あっ!カード!……」

そう、雷銅が取り出した物は七つの色の線が入っている”セブンリバー銀行のキャッシュカード”だ。

カードの表面には”イイブキカナコ”と印字されていて、間違え様もない。

「……二枚とも!なんて……」

また、その横には白いカードで、マイナンバーカードだ。

飯吹の二十歳頃の写真が印刷されている。


清虹市で育った”虹の子”は施設を出るまでは戸籍情報があやふやだ。

今はそこらへんもしっかりしているが、昔は清虹市が”日本の領土”とは言い難い時期があり、戸籍の発行がし辛い側面があったのだ。

兎にも角にも飯吹が紛失していたモノが呆気なく発見される。いや、発見されていた。


「……「じゃ、じゃあ……探し物も見つかったし……女性二人でと言う事で、私はこれで……」……「はぁ、はい……」」

平岩は、自分はもう用ナシだから……と、退散しようと声を上げる。

雷銅の視線と、飯吹の声を肌で感じ取り、”逃げるが勝ち”と思ったのかもしれない。

”どーん”の代金もやはり”奢り”としてしまおうとしていた。

「……では……」

平岩は立ち去ろうと傘を持ち上げて歩き出そうとしている。雲行きは”どちらも”危うい。


「これだから男は……飯吹先輩、悪い事は言いません”この”人とはあまり会わない方が良いです。飯吹先輩とは”釣り合い”が取れません。」

「え?……そうなの?……うーん……」「……」

雷銅は”飯吹を上に”見ているが、飯吹は”平岩を上に”見て、自分では釣り合いが合わないと思っている様だ。


「見てください。”こんなに”荷物があるのに彼は、私たちにトレーニングとして運ばせる気です。……なんてお優しい方なんでしょう。飯吹先輩にはもうトレーニングなんて必要ないと私は思っていましたが!」

「……え?そうなの?なるほど……どんな事でも”日々の行動をコレ鍛錬にすべし”というアレが……うーん、前にどこかでそんな事を”教えて”貰った気が……」

雷銅は平岩に”釣り針を”しかける。

飯吹は飯吹で何かが琴線に触れたらしく、昔どこかで聞いた話しを思い出そうとしていた。


「……っ、……そうですね……荷物を運ぶのを手伝ってから帰る事にします……」

平岩はそうと分かっていながら雷銅の”挑発”を買い、扉の前に積み重なっている段ボール箱へ足を向ける。


「……うーん……どこで聞いたんだっけかなぁー?……うーん……」「……」

飯吹はうんうん唸り、何かを思い出そうとしていた。彼女の隣にいた雷銅も荷物を運ぼうと音を立てずに動き出す。


「……なんでこんな事に「”貴方は”その気が無いのに”先輩”を”キープ”するから悪いんです」なっ!……”キープ”だなんて……」

段ボール箱が積み重ねられている部屋の前には雷銅と平岩だけだ。

雷銅は無音に近い声音で平岩を牽制している。

平岩も”自分にしか”聞かせていない声だと分かっているので、一見すると”もにょもにょ”言葉を返す感じでそれを否定していた。


「今のそれも含めて、その態度が私は気に食わないんですよ。”嫌われる”のが怖いからって”良い顔の仮面”を被り続ける男……自分では気づいてないのかもしれませんが、それはまるで自分の顔を忘れた道化と同じです」「っ……」

平岩は雷銅の告白にどうすればいいのか咄嗟に言葉を返せない。

彼が”尊敬する人”ならば恐らくは切り抜けられる言葉なのだが、彼にはそんな仮面を割る”勇気”はなかった。


「……思い出せない。……まぁいっか……あっ、ごめんごめん、今ドアを開けるから「……あっ、はい。飯吹先輩!……あとでまた……」「……なっ……」えーと鍵、鍵、ウッ、キーは……」

飯吹は思考の海で目当てのモノが見つからない事に見切りをつける。

平岩はやっぱりと言うべきか、雷銅の切り替えの早さに驚いて何も言葉を発せられない。

「いやぁ……何年振りの我が家か……」『ググッ、カチャン……』

飯吹はポケットをまさぐって部屋の鍵を取り出すと、扉に付けられている鍵穴に差し込んでそれを回す。鍵はあっけなく開錠された。


「……くっ、……一旦荷物をこっちにズラします。……」「……あっ、。こっちからも軽く押します押します……」「はい、私も手伝います……」

平岩は玄関扉を開けられるようにするため、段ボール箱をアパートから数センチ程度離す様にして動かそうとしゃがみこむ。

平岩は一番下の段ボール箱の側面に両手を添えた。

飯吹もそれを反対側から・玄関扉側から押そうと屈み、雷銅もそれを手伝おうと平岩の背後を回り込んで飯吹とは反対側から押そうとしている。

「……じゃあ、10センチぐらいを目安にゆっくり動かします。”せーの”のタイミングで……じゃぁ「「せーのっ!」」」

『ギュュゥ……』「うぅーん……」「重い……」「……くっ……」

平岩と飯吹、雷銅の三人は”せーのっ!”と声をそろえて力をいれ始める。

段ボール箱タワーは管理人さんの積年の”思い”が詰まっているのか、殺人級に”重い”。


平岩だけは引っ張っているので、彼だけは段ボール箱が崩れたら怪我ではすまされない状態だ。


……そして、悲劇は起こる。


平岩はいつも”そう”ならない様に、気にかけて動いているのだが……雷銅に指摘された事は昔から平岩が悩んでいた事でもあった事だった。

だが、勿論それだけが理由ではないだろう。

飯吹に良い所を見せたかったわけではない。彼女が原因で自身が被害を受ける事はなんとしても避けるだろうから原因は飯吹ではないハズだ。

だから”これ”は運が悪かったとしか言いようがない。


『ググッ、』「っ!……少しっ……動きましたねっ……このまま”フルパワー”で引っ張れば……「えっ?大丈夫?」「……っく、一旦体制を整えた方が……」いえ、もう少し余力があります。このままいきましょう!ぬぅぉぉ……


平岩はここで雷銅の言う様に一旦体制を整えるべきだった。

しかし彼の言葉はその通りで、平岩はまだ余力を残している。

その力を彼は開放した。


ぉぉぉぉおお『ビリっ!』おお!!『グラッ!』「っ!『パシッ』くっ……」たすかりますっ。」

あわや、段ボール箱の一つに亀裂が入って割れ、段ボール箱タワーが平岩の方に傾き始める、だが、雷銅がそれを早くに察知して段ボール箱タワー側面に添えていた手を平岩側に回す。

段ボール箱タワーの倒壊は未然に防がれた。

彼女は(あたい)千金の行動をしたと言える。これで平岩は怪我をせずにすんだのだ。

『ズッ、ズズズッ……ズズズッ……』

ついに段ボール箱タワーはスライドを始め、コンクリートで平らなアパート共用廊下の床を動き始める。

平岩の宣言していた10センチを優に超えて”封印”されていた玄関扉前のスペースを作り上げていた。


「……ふぅ、……後は中に運ぶだけですね。傘をそっちに置いておきます。」「「……」」

平岩は何事もなかった様にして立ち上がると、一旦近くに置いていた自身の使っていた傘の置場所を変えるために動き出す。

飯吹と雷銅は平岩に視線を送り続けて無言のままだ。

「……やっぱり!……平岩さん!ちょっと待ってください。「はい?、何か……」……あの、言いづらい事なんですけど……「ぷっ……」ライちゃん、ちょっと……」

「……?」

飯吹は平岩を呼び止め、なにやら言いづらそうにしている。

雷銅に至っては噴き出してすらいて、飯吹はそんな雷銅を(たしな)めた。

平岩は一人、状況をよく分かっていない。


「……あの、平岩さんの”お尻”がぱっくり割れているんです。」「え?お尻は元から割れている……って!あぁあ!」


そう、平岩が履いているズボンのお尻部分が”ぱっくり”割れていて、中の赤色トランクスパンツが丸見え状態だった。

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