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力の使い方  作者: やす
三年の夏
253/474

#252~力の授業~

「ガッ……」「……清敬大学教育学部三年の実習生、金山です。今日の一組での”放課後授業”を担当します。皆さん宜しくお願いします。」

秋穂は一年生の教室で教壇に立ち、よく通る声を出している。

時間は一年生が帰りのホームルームを終わらせた直後で、早い子はすでにおやつを食べていそうな頃合いだ。


『……ガヤガヤ……「”放課後授業”なのにこんなに人が集まるのは少し驚きましたが『ガンッ!』あっ、失礼」っ――――――』

清敬高校一年一組の教室には部活に数人が行っただけで、その殆どの生徒が教室に残っていた。

多くの生徒が四方山(よもやま)話に花を咲かせて秋穂が教壇に立ったのを気付いていなかったが、秋穂が教壇に体重をかけた拍子に音を鳴らしてしまい、教室にいる生徒達は波を打ったようにして静まり返る

「……」

教室の後ろにはこの一年一組担任教師の矢吹教諭がいて、秋穂の教育実習を見守っていた。


ココで”放課後授業”について説明すると、”放課後授業”とは読んで字のごとく、放課後に行う授業だ。

”放課後”なので殆どの生徒は自由意志でこの授業の参加を決める。

勿論出席は取らないし、”法育”の教科が優秀だと”信じてやまない生徒”は帰宅や部活なりに精を出す。

”法力”を習い始めるも、その技能が遅れている者を救済する、言わば”塾や習い事”の趣きがあった。決して”補習”とは言えない物だろう。中にはその”補習”と言う位置づけの者もいるかもしれないが……

放課後授業は”法育”の授業とは違い、系統ごとに集まって授業を受けるのではなく、クラス単位で散発的に行うモノで担当の教師に偏りはあるが、一応は持ち回り制だ。

”放課後授業”は毎日行われる訳ではないが一年時はその頻度は無視できない程には多く、今日は秋穂が担当するらしい。

もしかしたら生徒とは歳が近く、その実力が折り紙付きな秋穂に任せる事で良い刺激を生徒に与える目論見があるのかもしれない。


「では……」

秋穂は教壇で教室にいる者の視線を集めた事を確認すると授業を始める。

「……法力は”事象物”、法力で管理される物が保有する力を法術士が借りて、それを開放する事で”事象物”が取りうる現象を限定的に実現させる力です。」

「「「「「「……はぅん……」」」」」」

秋穂の言っている事は”法育”授業で習った事の繰り返しだ。教室にいる生徒は最近習った事なので目新しい情報ではない。

だが、秋穂はそれを承知で繰り返している。

「”事象物”は今の所、熱・水・土・空気から発生していると見られていて、人によってその力を受け取る向き不向きがあるとされています。」

「「「「「「……ふぅん……」」」」」」

生徒は秋穂に視線を送って清聴している様子を見せているのだが、その実態は話しを聞き流していて秋穂の容姿に釘付けな者が多い。

「さらに”事象物”は目に見える物が選ばれやすく、直接見えない事象物に法力をかける事はより難しいとされ、法術士から遠い事象物には法力が遠い分だけ届きにくいとされています。」

「「「「「「……ほぅん……」」」」」」

秋穂の容姿に意識を向けている生徒は結構な割合で多いが、秋穂はそれに気づけない。


「皆分かっている事だとは思うけど……ココで実際に”それ”を見て感覚的に分かって貰おうと思います。」

『『『『……ぅん?』』』』

秋穂は生徒の視線をしっかりと感じ取っている。

その視線が”実際に理解”している事を意味していない事だけは感じ取り、楽しくなるような授業にしたい様だ。

字面だけの授業は視覚的に面白くなく、また理解もし辛い。


「ん?……「ん゛っ……土人形(ソイルパペット)」……っ?!」

秋穂は咳払いしたのちに、手のひらを前に掲げてそれを握り閉めながら法力を発現させる。

矢吹教諭は教育実習生・金山秋穂の行動が読めず、言葉を漏らさない様にして軽く狼狽えた。


土人形(ソイルパペット)”とは土を人型に形成し、単調な行動をさせる技だ。

それも数秒程度しか形を保っていられず、デモンストレーションにしては行動が突飛すぎる。

清敬高校一年一組の教室は一階にあるが、土場なんて物は勿論なく、”ドコの土に法力を発現させたのか?”その疑問が一瞬だけ先に立ってしまっていた。

『……えっ?』っと教室にいる秋穂以外の者が疑問で教室を満たす頃、生徒は秋穂の真意に気付かずに”ナニ”かを知覚する。


『『『『うわぁぁ!』えっ?』』』「……なるほど」


一番後ろの席に座る男子生徒が何も置いていない目の前の机を凝視している。

それは一番前の席に座る女生徒も同じで、

教室の中心近くの中子生徒……ではなく、女子生徒でもなく、中性的な顔立ちの男子生徒も同じだ。

その女生徒の机の上には、いつの間にか人の握りこぶしよりかは小さい、棒人間然とした土塊が立っている。

その土隗は『ィェーィ!』と声を上げそうな調子で右手を天井に向けていた。


「……っく……この様に、遠くの事象物は力をあまり届けられず、私の近くの事象物はそれよりも強く力を発現させる事が出来ます……」

秋穂がする、集中しながらの途切れ途切れな説明では

一番前の机の上にいる土隗は『ィェェェーーーィ!』と言う感じで機敏に動いているが、

一番後ろの机の上にいる土隗は『ィェー……ィ……』と言った感じで緩慢に動いていて

教室の中心あたりに置かれている机の上の土隗は『オッス!』っと言わんばかりで遅くもなく早くもなく、滑らかに動いている。


他に挙げられる違いは土隗の表面がツルッっとしていたり、ボロッっとしていたりの練度の差異も見られるが、ソコまでの違いに気付いた者がいるかどうかは分からない。

秋穂は土隗の維持に意識を割き過ぎていて、そのあたりの説明を忘れている様だ。

「……じゃ、じゃあ……土人形達を植木鉢に戻します。」

どうやら生徒たちの机の上に現れた土隗は教室に置かれている植木鉢から出て来たらしい。


植木鉢は教壇の横と、教室の一番後ろに二つだけ置かれていて、それらに詰めれている土から這い出て来て生徒の前の机の上に移動していたらしい。

一番前の机にいる・秋穂に一番近い土隗は『ピョン!』と音が鳴りそうな気軽さでジャンプして、教壇横の植木鉢に飛び込むと植木鉢に詰められた土へ『ジャリィ……』っと思い出したかのようにして戻り、

教室の中心近くにある机で腰を下ろしていた土隗は『ジャ……』と土を踏んだ時の様な音を残して教室後ろに置かれた植木鉢に飛び込み、

最後に一番後ろの机で寝ころんでいた土隗は立ち上がって飛ぶ瞬間に『ツルッ……』っと足を滑らせて『ドシャッ』っと机の上でただの土隗に戻ってしまう。


「あっ……ごめんなさい!「いや別に……」「あっ!」はい、、すみません……」

秋穂は土隗が転んだ拍子に男子生徒のどこかを汚してしまってないかと謝るが、一番近くにいる机の目の前にいる男子生徒は何も問題は無いように答える。

そこへ矢吹教諭は何かに気付いた様子で声を上げ、秋穂は何事かは分からないが、ひとまずの体で謝っている。

「……もっかい”それ”で土人形(ソイルパペット)作ってくれないかい?」

「……はい。土人形(ソイルパペット)

矢吹教諭は机の上で動かなくなった土隗を指さし、もう一度法力技を発現させる様に頼む。

秋穂は滑らかな仕草で手を前に掲げて技を発言した。


『ジャリ……』

ただの土隗はもう一度人型の形を成して机の上に立つ。

先ほどは寝転がっていた土隗だが、今はしっかりとした足で机の上に鎮座している。

矢吹教諭はそのままの調子で口を開ける。

「えーと、こうやって他の人が法力で管理している”事象物”は原則として他の人の法力で管理できません。砂変化(サンドチェンジ)

矢吹教諭は鎮座している件の土人形に対して法力技を発言する。

『ザッ……』

一瞬だけ土人形から土が零れ落ちる様な音が鳴るが、続けての変化は見られない。

「えーと、今先生が発言した技は土を砂状に変化させる法力です。ですが、見て分かる様に法力技が失敗します。失敗しても法力は消費されるので、確実に出来る法力技だとしても、技が発現しない場合はむやみに技を連発しない様にしましょう。法力を使いすぎるとその系統が使えなくなる破壊(クラッシュ)状態になる恐れがあります。今の所、破壊(クラッシュ)状態を改善する効果的な方法の目処は立っていません。」


「はい。ありがとうございます。では」「あ、それともう一つ、先生は今、金山先生が発現している人形に法力を発現しましたが、法力が全く効かなくなる訳ではありません。衝撃(インパクト)『バンッ!』生成(ジェネレーション)『フォォォォ……』『『ガサッ』』えーと、この様にして他の法力で破壊したり、混ぜる事で法力を上書きする事も出来ます。」


「「「おぉ」」」「「「先生すげぇ……」」」

矢吹教諭はまず、風衝撃(ウィンドインパクト)で土隗を砕き、続けざまに風生成ウィンドジェネレーションを発現させて、土隗を教壇の横、教室の後ろの、植木鉢それぞれに砕いた土を送り届けた。


彼等彼女等の技の難易度としては

土人形(ソイルパペット)……B級

風衝撃(ウィンドインパクト)……-B(ビーマイナー)

風生成ウィンドジェネレーション……-C(シーマイナー)級(初級)

だ。


しかし秋穂は土人形(ソイルパペット)を同時に三体作成している。

実質的には-A(エーマイナー)級で、それぞれに練度を”ワザと”切り替えていて、人形の出来をそれぞれに変えているのだが、法力技の錬度をワザと変えている場合はとてつもなく難易度が高くなる。

全て同じ完成度な土人形(ソイルパペット)を三体作るのと、優・良・可と出来が違う土人形(ソイルパペット)を三つ作るのでは後者は出来ない者は出来ない。


また、土系統は風系統に不利な系統な事も勘案すると、矢吹教諭よりも、秋穂の方が難しい事をしている。だが、それが分かったのは矢吹教諭だけだった。


「矢吹先生、ありがとうございます。では、時間になってしまったので今日予定していた”得意系統検査”は次回にしたいと思います。」

「……まぁ、良いか、別に面白いモン見れたし……」「……まぁ今更やってもな……」

秋穂の言葉に、渋々なのか理解ある態度なのか決めあぐねている生徒もいたが、今日の”放課後授業”は終了する。


”得意系統検査”はとある”貴重な資源”を使う検査で、面白い検査だったが、秋穂の授業で”別の面白いモノを見れた”と思う生徒ばかりだった。

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