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力の使い方  作者: やす
三年の夏
252/474

#251~力の強さ~

「っと……」

ある女性がスーツ姿で、とある施設に備蓄されている物を運んでいる。それは段ボール箱にしまわれていて、その箱は些か大きい。

『……ダッダッダッダッ……』「おはよーござまーす……」

「……っ、おっ、おはようございます。」

暗い顔を一瞬で隠した段ボール箱を持つ女性は後ろから走り寄る、この施設にほぼ毎日通っている男性から崩れ気味の朝の挨拶をされ、女性は一瞬戸惑うも、しっかりとした言葉の挨拶を返した。

「……あっ、俺運ぶの手伝った方が良い?場所は分かります?」

「えっ?!……あっ、いや良いよ、これぐらいは……場所も大丈夫だから……」

まだ緊張の色が見える女性は男性の申し出を断り、男性の手伝いは必要ない事を告げた。


「あーそういえばココの卒業生だったっけ?でもでも、今度何か手伝える事があったら遠慮なく言ってくださいマジで!……俺基本いつでも暇なんで!」

まだ幼さが垣間見え、少しの下心が見え隠れする十台中ごろの男性、いや男子は正面玄関から靴を履き替えて走って来た所だ。

本来はもう少し早くこの施設・建物に来て、決められた場所に行くべきだが、悠長に箱を抱える女性に管をまいている。

「……そろそろ”時間”だから……遅刻しちゃうかもしれないし……私に構わず先に……」

箱の重さは苦にしてない様子だが、しっかりと箱を抱える女性が言い切らない内にその”時間”は迫る。


『キーンコーンカーンコーン、キーン、コーン、カーン、コーン……』「っあーもう少し早く起きれてれば”手伝い”が出来たのに……じゃ、俺もう行かなきゃだから、”金山先生”またねっ!」

清敬高校の一年男子は教育実習に来ている金山秋穂に別れの挨拶を告げ、『ドタバタ』と足音を鳴らしながら走りさっていった。



清敬高校は法力を習う”法育”教科がある高等学校だ。

法力は原則として高校以上の教育施設で習い始め、卒業と同時に実技試験を受けて法力免許を取得する。

法力免許は座学の講習を一定時間以上受けてから、実技試験を合格して取得する免許だ。

実技試験は、主に一部の高校や比較して大きい規模の大学で執り行われる。

日本全国点々と実技試験は実施されるが、座学の講習が今はまだ、多くは主要都市にある高校・大学・専門学校ぐらいでしかされていない。

”法育”教師が増えれば、各都道府県にある高校で”法育”課程が盛り込まれ、日本全国どこでも”法力”の免許を交付出来る様になるだろうが、今はまだその過渡期と言える。


法育教師の様な法力込みの仕事に従事するモノは、その仕事の勉強や鍛錬に時間を割く為、高校で法力免許を取得した後に、大学や専門学校で仕事の資格を取得するのが通例だ。

大学で法力免許とその仕事の資格を同時に取得する事は出来ない事はないが、スケジュールや技能的に厳しく、法力を扱う者・法術士になりたい者は中学卒業前から進路を決めなくてはならない。

例外として”法力警察”ならば”法力免許の有無だけ”で今は見られている、もっとも、法力警察でも素顔の時に警察官として仕事をする場合は警察学校へ通ったりと、それなりの手順を踏まなければならない。

また他には”法力”の力をただ発散させる様な単純労働に就労する者が挙げられる。

とは言っても、その法力込みの単純労働者でも大学を卒業した者より現場では重宝されたり給与を上回る待遇もありえるので、”法術士”が今の若年層が夢見るトレンド花形職業に位置している地域もあるそうだ。


”法育”教師の教育実習は”法育”課程がある高校に行かなければならず、今、日本全国にいる”法育”教師の半数行くか行かないか程度は清敬高校で教育実習をしていると言っても過言ではない。

日本において”法育”のスタンダードモデル、又はパイオニアと呼ばれる清虹市は伊達じゃない。

秋穂はそんな”法育”教師を目指す大学三年生だ。


「……っく、春香が大変な時に”放課後授業”担当とはな……ついてない……」

さらに付け加えると、秋穂はその教育実習生の中でもひと際異才だろう。清敬高校在学時から”法育”教科は満点に近く、早い段階から四つの系統を自由に使いこなしていた四期奥様を母に持つ。

家柄は清虹市では良くも悪くも知らない人がいない金山家で、そこに父親である”顔だけ市長”と揶揄されるもその美貌は皆が認める金山賢人市長の血を受け継ぎ、美貌も兼ね揃えたスーパーエリートと言える。また、”法力の特殊な技能も持っていて、研究施設に出入りしていた”と言う噂も付け加える事が出来るだろう。


”法育”に関わらず、教育実習生はその多くがその学校の二年生の授業の中盤頃・ある程度授業に慣れてきた頃に参加するのが割合的に多いのだが、彼女は清敬高校一年生の授業を割り振られていて、教育実習生の中とは言わずに、先生方も入れた教師陣の中でもその実力は頭一つ抜きんでている……なんて噂もあるほどだ。


『ガラガラガラガラ……』

「失礼します。実習生の金山です。」

秋穂はとある部屋の引き戸の扉を段ボール箱にふさがっているハズの手で器用に開け、自己紹介してからその空間に足を踏み入れる。

「……えーと、ああ、はいはい、今日の”放課後授業”の担当は金山さんか、……なら今日は楽できるな。それに今日で”放課後授業”参加者は減るよ。」「えっ?あっ、いえいえ……そんな事は……」

秋穂が入った部屋は”準備室”で、教師達の職員室とは別の”憩いの場”となっている。”準備室”の主な用途は大きな荷物の一次的な保管場所だ、本来は。

この部屋の先客、椅子に腰かけていた男性教師は秋穂の顔を見るや否や、気楽に彼女へ期待の声をかけている。

秋穂はこの男性教諭に教育実習の総括的な担当をお願いしていて、その男性教諭は一年の学年主任を務めている、数日前に斉木達警察官を清田校長に案内した矢吹孝雄教諭だ。

「えーと、まぁ、それはそれとして……今日一年の”法育”は……」

矢吹教諭は秋穂の謙遜を一見して無視すると何かを思い出す様にして部屋の壁に備え付けられている時計に視線を送っている。

「はい、三・四時間目です。”割り当て”としては”火と水”が教室前で”風”が理科室”土”がグランドです。朝見た限りでは職員室の掲示に変更は無さそうでしたが……」

「えーと、ありがとう。こっちでも確認しておくよ。多分そのまんまだと思うけど……っで、君は実習生だよね?……時間割と場所を暗記してる?!」

秋穂が矢吹教諭に助け舟を出して”法育”の授業の時間と、場所をスラスラと答えた。矢吹教諭は一息に言った秋穂がメモ等を見ていない事に気が付き、驚きの声を上げている。


”法育”の授業は学年ごとにクラス合同で行う。

だが、一学年全員が一緒になって授業を受けるのではなく、系統ごとに別れて担当の教諭が監督と指導を行うのだ。

系統ごとに場所を随時変えていて、それを暗記している者は誰もいない。……ハズだ。


「いっ、いえすみません……朝に確認してから家を出たので……すみません、暗記はまだ時間が足りなく」「いやいや、えーと……いや、良いんだよ。暗記なんてしなくても……その都度確認した方が良いからね……」

矢吹教諭は秋穂の言葉を止める様にして声を上げた。

そういえば秋穂は”あの金山家”の人間なのだ。なまじ能力が高いだけに、常識の水準がまるで違う。

矢吹教諭の先ほどの驚きの言葉は”教育実習生なのにそんな事も暗記してないの?”と言う叱責に聞こえたかもしれない。

勿論だが、秋穂はわざと言っている訳でも、皮肉で矢吹教諭に言っている訳ではない。


「……じゃ、じゃあ、一・二時間目は準備……も終わらせてくれてるし……自由にしててくれて構わないよ……手の空いてる他の実習生とダベっててもいいし……」

「はっ、はい、では職員室で待機していようと思います。では……」

秋穂はそう言うと準備室の出入り口・引き戸に向けて歩き出す。

「……失礼します。」『ガラッー』

と、律儀に頭を下げてから扉を開けて退室していった。

『ガラガラガラッ』

扉を閉める際は扉をぶつけずに静かに閉める気の入れ様だ。


「はぁ……」

矢吹教諭は秋穂の能力・教養に劣等感を抱く訳ではないが、些か肩に力が入ってしまうのを感じている。

何というか……長距離走を張り合うのにコッチはスニーカーを新しく準備したが、相手はそれに対してF1カーを出してきた様な……

もはや勝ち負けや劣等感を抱く次元ではない。

「……」

”アレ”に張り合えるのは”清敬高校の校長・清田三郎ぐらいであろう”そんな事を思う矢吹教諭だった。

遂に清敬高校編ですっ!

長かった……

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