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力の使い方  作者: やす
三年の夏
250/474

#249~力のちょうはつ~

『ドンッ!』「だから、どうしてあそこにいたんだ?えぇ!?それもあんな日本刀こさえてっ!」

「……」

場所は清虹市の中心・清虹地域で一、二を争う高さの建物である清虹署、そこの第一取り調べ室だ。

そこには窓や天井にライトが無く、部屋の端っこだと目の前も見えない程暗い。

大の大人二人が寝ころぶと足の踏み場がほとんどない様な手狭な空間と言える。

その取り調べ室の中央にはテーブルが一つ置かれ、男が二人、テーブルを挟む形で顔を突き合わせている。この空間にある光源はテーブルの上にあるライトだけだ。

小さな傘状のデスクスタンドライトの光が二十歳頃の、幼さが未だ抜けきらない、男にしては長髪な部類の若い男を照らす。

その長髪の若い男は01(エース)が二つの手錠で二人一緒に拘束していた内の一人で、その後は03(バックパッカー)がここ清虹署へ連行していた。

「……」

清虹署に連れてこられた彼らは別々に写真撮影と指紋採取をされた後、DNA採取として血液を取られ、この部屋に連れてこられてから結構なプレッシャーを受けて取り調べをされている。

その長髪な若い男の顔はやや赤みを帯びたモノで、少し腫れぼったい印象を持つだろう。

「黙秘かい……」

取り調べを行っている担当の捜査官は時代錯誤な”ザ・取り調べ捜査官”と言える調子で男性に言葉を浴びせている。

時折テーブルを叩く様は、本来”脅迫行為”として抗議出来るモノなのだが……

「……あの、弁護士を立ち会わせたいんですけど……」

言葉少なに長髪男は言葉を返す。

『ドンッ!』「立ち合いだぁ?……駄目だ駄目だ、そんなもん駄目に決まってんだろ!」

4、50台頃の捜査官は尚もテーブルを叩いて長髪男の言葉を却下した。


実は取り調べ中に弁護士を呼ぶ事が出来なくもない。

しかし、取調室に弁護士を招き入れるか否かは担当の捜査官・事件の性質によって認められる場合と認められない場合がある。

海外では弁護士を取り調べに参加させる事が容疑者の権利として認められている国もあるが、日本では上の様に時と場合による。

ココで裏技と言うか、この状態で言うならば、”接見”・つまり、容疑者が弁護士と会う事自体は日本でも権利として認められている。

なので、男は”弁護士を呼んでくれ”と言えば、警察としてはそれを拒否する事が基本的には出来ない。

知り合いの・若しくは贔屓にしている、自分を弁護してくれる弁護士を呼ぶか、国が用意する”国選弁護士”を呼ぶかだ。

自分で選ぶ弁護士を”国選弁護士”と対になる様にして”私選弁護士”と呼ぶ。

”国選弁護士”は”国が選ぶ”と言っても、”この事件にはこの事件が得意な弁護士を~”と選ばれる訳ではなく、”国選弁護士”として選ばれてもよい弁護士が”国選弁護士の名簿”に登録し、そこから機械的に選ばれる弁護士で、一般的に弁護士の報酬は少なく、多くの国選弁護士はそこまで力を割いてくれないのが実情だ。


刑事事件の裁判は主に、裁判官・検事・弁護士の三人、”法曹”と呼ばれる者達が執り行って進めていく。

そういった知識が無い・司法試験を受けておらず、資格が無い者は裁判を進める事が基本的に出来ない、弁護士のあてがなく、弁護士を雇うお金がない者達が法廷を進める為としてこういった国選弁護士が存在する。


『ドンッ!』「ほらっ、さっさと氏名に住所、あそこにいた理由を言えよ!そんな事すら言わないんじゃ、こっちとしても手段を選んでいられんぞ!?」

捜査官は苛立ちを隠す事無く長髪男へ最低限の事を答える様にせかす。

「……あの、知り合い?……の弁護士に”逮捕されたら呼べ、呼ばれたら絶対に行って、立ち合いもしてやる!そういう決まりだからな!”って言われた?いや、”言ってた”んですけど……呼べないんですか?」

長髪男は曖昧に単語を選び、捜査官に言葉を返した。

「……ちっ、そういう事は先に言えよ……じゃあほら、呼びたきゃ呼べよ。」

捜査官は舌打ちすると、長髪男に弁護士を呼ぶ為の連絡をする事を許した。

「……あの、今携帯持ってないんで……」

だが、長髪男は連絡する手段がないと捜査官に答える。

彼の逮捕時の持ち物は、どうやって外すのかは不明ながらも顔に張り付いていた土色、いや茶色の仮面・一本の根元から折られた日本刀・それに着ていた黒色ジャージの三つのみ。

彼の顔が赤く、腫れぼったいのは仮面を無理に剥したからだった。


ちなみにもう一人の土色仮面に黒色ジャージの男はこの長髪男と歳が同じ頃の短髪な男で、持ち物としては日本刀の代わりにライター一つだけだった。話によるとそちらの短髪男は催眠ガスの煙幕をまき散らす小さな爆弾を所持していたらしいが、拘束時に一度使われただけで、他に武器らしい武器は所持していなかったらしい。

「……ちっ、そういやナンも持ってなかったモンな?『ギィ』すぐ戻ってくるんだから逃げようとすんなよ『ガァ!』」

捜査官は手錠でテーブルに繋ぎとめられている長髪男に挑発する様な釘を刺すと、椅子から立ち上がり、取り調べ室から退出していった。


「……」

長髪男と短髪男はどちらも黙秘を貫いていて、取り調べは手荒なモノに切り替わりつつある。


『ガンッ!』

「……っ!……」

程なくして捜査官は取調室に戻ってきた。手には黒電話。

『ガタンッガッチャーン!』「ほら、コレで呼べよ。」

捜査官はワイヤレスの固定電話を他の所から持ってくると、取調室のテーブルへ落とす様にして手荒に電話を使わせる。

「……あの、電話番号は知らなくて「あぁ?じゃどうやって呼ぶんだよ?」ネットで調べれば……」

「……ちっ……ほらよっ『ゴンッ』使い方は解るだろう?」

今度は自身のポケットから取り出したスマートフォンをテーブルに投げる。捜査官は長髪男にそれを使わせるらしい。

「署から支給された携帯だから変な所見ようとするなよ?見てるからな。」

そう、ドコデモ電話ならイツでもドコでも電話が出来るのだ。それがスマートフォンであればネットにどこでも繋がる優れモノ。

ただし、地下深くだと駄目だった様子だが、幸いにも清虹署は地上にある建物だ。

「……」

長髪男は黙々と端末の操作を始める。

「……ちっ、一旦休憩を入れる。……だが、一時間以上来なかったら問答無用で口を割らせるからな。」

捜査官の言動がことごとく荒いが、決して悪者ではない。あくまでも男には自白・あるいは証言をさせるつもりなのだ。




『ガッ、』「お疲れ様です。」「んっ?……はい、こんにちは。……えーと、落とし物ですか?それとも免許証の?」

清虹署の正面入り口にドレスの様に派手な衣装の女性が訪れる。

その女性は出入り口前で木の棒:六尺棒を携行した警察官に声を掛け、声を掛けられた警官は女性の身なりを見てから用件の当たりをつけて案内の言葉を探しているらしい。

「……あっ、いえ、弁護士です。今朝逮捕された方から呼ばれたんですけど」「なっ、、ならすぐそこの受付に行って場所を聞いてください。」

なんと、ヒラヒラと派手な衣装のドレスは戦闘服だったらしい。

法廷まで着て行くのかは不明だが……

彼女は清虹市の西、風台地域にある建物から清虹市の中央にある清虹署までそんなに時間をかけずに来ている。

「ええ、ありがとう。」

彼女は国近麻美、30手前の、なんでも請け負うやり手の弁護士だ。

些か(あで)やかで(なま)めかしく、見る人が見れば”弁護士の衣装ではない!”等と怒られるかもしれないが、これが彼女の戦闘服なのだから如何ともしがたい。

見る人を挑発する為の衣装なのだ。

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