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力の使い方  作者: やす
三年の夏
246/474

#245~力の秘密基地:動揺編~

遅くなりました……

『サァァァ……

『……ロロロ、フゥルフル……』『……タンッ!』

『……ここ……だよね?』


雨の降る清虹市の北、土旗駅から北東へ伸びる商店街と、土旗駅の横を通る形で南北に伸びるサイクリングロードの間に法力警察官の01(エース)が空から降りた所で、そこは雷銅の持つスマートフォンの信号が消えた地点の近くだ。

道路側の歩道にある四角いマンホールが蝶番(ちょうつがい)で開く扉の様にして開けられ、おまけに二本の傘が近くに置かれていた。

彼女は傘二本と開けられたマンホールを見つめている。


彼等彼女等の移動に使っているワゴン車・指示車に詰めている09(リザーブ)01(エース)の持つスマートフォンに位置情報を転送し、スマートフォンに設定された目的地は01(エース)の顔を覆う個人情報保護マスクの視界に表示される。これのおかげで01(エース)は迷うことなく目的地に急行出来るのだ。


『……』

01(エース)は辺りを見回すと、視線をそのまま空に浮かぶ雲に向ける。

雨が尚も降り続ける空はずっと暗く、日が暮れてもそれがよく分からない。

商店街には照明が並び、辺りを明るく照らしていた。

民家の窓から漏れてくる明かりと、車や人の往来が少なくなっているのはすでに時間が夜だと物語っている。


……

『……ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、カタンッ』

……』

01(エース)がマンホールの中に侵入すると、雨音は遠ざかる。

変わりに遠くで雨水が流れる『ジョロジョロ……』と言う水が流れる音を聞きながら、地下インフラの通路に降り立った。

『……』

光源は一切なく、辺りは暗闇だ。

01(エース)が今侵入してきたマンホールから光が少しだけ入ってくるのだが、夜の(とばり)が降りた外からの光では満足に見えるモノではない。

『ギュン、キュュューーー』

しかし、01(エース)の顔に装着している個人情報保護マスクはバッテリー稼働の優れモノで、暗闇の中ならば自動的に暗視鏡モードが作動し、視界はクリアなモノに置き換わる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『……ゥゥゥ……キンッ!』

天井に付けられた明かりが音と共に点滅し、エレベーターが静止する。

『……おい……ガヤガヤ……そっち……』

エレベーターの扉の向こうでは人が慌ただしく動く気配が感じられた。

「……」『ガンッ!ググゥ……』

エレベーターで上に上がって来た者は無言で扉に手を付けて、横に動かし始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―


『……』

01(エース)は雷銅のスマートフォンの信号が途絶えた地点を目指し、土旗駅近くの地下インフラ通路を歩いていた。

『……』

まずは第一の関門として、例の”引下げ戸”だ。

常人ではまず考えつかないであろう扉を横ではなく、”下に下げられる”事を発見しなければ侵入出来ない。

『ガタッ、』『ガーーーッ』『あ、開いた!』

なんと、01(エース)は引下げ戸を横に動かそうとせず、一発で下にスライドさせてこの扉の秘密を看破してしまう。

『何この扉!?……下に埃が溜まらないのかな?』『ガッ、ガン、ガッ、ガン……』

彼女は疑問に思った事を呟きながらも引下げ戸を意味も無く下げたり上げたりしていた。


『ギィィ……』「おい!ここは……」

01(エース)が扉を開けたり閉めたりしている内に、奥の右側にある扉から男が顔を出し、招かれざる者に声を出し始めた。まだ誰が来たのかは確認していないのだろう声色だ。第二の関門、仮面ジャージ、つまりは敵だ。


「……関係者以外たちいり……って!法力警察か?!、やっ、やべっ!」

土色仮面ジャージの男は01(エース)の姿を確認すると、あたふたし始める。

彼は動揺しやすい者なのかもしれない。

「あっ、そうだっ!用意してた”アレ”をっ……」

しかし、人間は慣れる生き物なので、幾分か今回は行動が早かった。一度平岩達を取り逃がす失敗をしていた為に、警戒していたのだ。

土色仮面ジャージ男はポケットに手を突っ込み、スグにそれを取り出す。

『っ!やばっ!……え?マジ?……』

01(エース)は言葉を失ってしまう。


『カチッ』『ボッ!』『ジジジ……』

土色仮面ジャージ男がポケットから取り出した物は有体に言って、爆弾だ。

見た目的にはまるで忍者が使う火薬玉の様な物で、黒い球体に導火線が一本伸びている。


『えっ?……ヒィ付けちゃったよ……』

01(エース)は”そんな馬鹿な!”と言うニュアンスで驚きの声を上げる。

威力は分からないが、もし人の近くで爆発すれば手足の一本を無くす可能性のある物だ。

導火線は長く、まだ爆発する事態を避けられるかもしれないが、導火線に付いた火は音を鳴らしながら爆弾本体を目指して進んで行く。

こんな密閉された空間で爆発すれば01(エース)の後ろにある管・つまりはガス管を巻き込んで、最悪の事態が起こりえる。


「これでも……『えっ、ちょっ、たン、まっ……』くらえっ!」

しかし、土色仮面ジャージ男は問答無用に手に持っている爆弾(らしき物)を01(エース)に向けて放り投げる。

『……ジジジ……』と導火線の火が音を立てて放物線を描き、01(エース)に迫りくるソレはバッチリなタイミングと角度だった。

『くっ、仕方がないっ!』

実は01(エース)は未だに引下げ戸に手を置いて、扉を跨いですらいない状態だ。

引下げ戸を閉めて一旦引く事も出来るのだが、爆弾の威力が分からない事には対処の仕方を間違えられない。

『すぅ……』

01(エース)は引下げ戸に置いた手とは反対の手を前に向けて発現する。

『……生成(ジェネレーション)!』『フォォォ!』「なっ……」『コトン!』『ガシャン!』「……えっ!」

01(エース)は風を吹かせる”風生成ウィンドジェネレーション”を即座に発現させて、爆弾(らしき物)を投げた土色仮面ジャージ男の足元に返却させる。

おまけに引下げ戸に置いた手を下げて扉を閉める徹底ぶりだ。

「ちょっ」『……ボンッ……』

土色仮面ジャージ男は無様にも自爆してしまう。


『……仕方ないよね?』

01(エース)は敵対勢力の構成員と言っても、極力物理的にあやめてしまわない様に任務を遂行している。

今回は相手の自爆(?)とはいえ……ヤッてしまったモノは仕方がない。

『ガッ、グググッ……』

01(エース)は引下げ戸をゆっくりと下げて機械的精神で現状把握に努める。


『あれ?……』

見るとソコには土色仮面ジャージ男を中心にして床は放射状に焦げ、鼻を突くような匂い……

等は無く、ただ土色仮面を天井に向けて動かない男性が横たわっているだけだ。

天井や床・壁が焦げている様子は見られない。

『……あ、閃光弾?いや、煙玉みたいな物だったのかな?』

どうやら土色仮面ジャージの男は火薬的な爆弾ではなく、意識を刈り取るだけの目くらましを01(エース)に投げようとしていたらしい。

考えてみれば仮面ジャージ集団の基地であろうここで爆薬をそう簡単に使うハズも無い。

『ガッ、ガッ、コツッ、』『よっ、こいしょっと』

01(エース)は遂に引下げ戸を跨ぎ、怪しい空間に侵入する。


「……くぅ……」『……』

動かない土色仮面ジャージ男だが、近づけば仮面の奥から寝息が聞こえてくる。

『ギュン、キュュューーー』『んっ?』

すると01(エース)の顔に張り付けられている個人情報保護マスクが独りでに作動する。

01(エース)の視界には”薬物検知”の文字が表示された。

『っ!装甲(アーマー)

弾かれた様にして01(エース)はクイックで発言した。

身体に風を這わせる”風装甲(ウィンドアーマー)”だ。


どうやら土色仮面ジャージ男が投げた爆弾らしき物は強烈な睡眠薬が噴出される爆弾だったらしい。

『こんな物を調達して来て……何がしたいの?』

01(エース)は土色仮面ジャージ男が投げた物が良く分からないなりに、入手経路や仮面ジャージ集団の目的を物言わぬ目の前の仮面ジャージ男に語りかける。

「……」

勿論天井に仮面を向けている男は言葉を返さない。


『……カチッ』『これでよしっ、今度は逃がさないからね!』

01(エース)は男の右腕と左足を手錠で繋ぎ、簡単には動けない様にして侵入を続ける様だ。

この空間には手錠を繋げる様な物が無く、また出入りも楽ではない。さらに言うと仮面は顔に張り付いていて素顔を見る事が出来ずにいた。

今は彼にかまっている暇はない。

一刻も早く雷銅と合流するのだ。

雷銅のスマートフォンの信号が消えた地点はかなり近い。

01(エース)は引下げ戸から見て左の扉に視線を向ける。

大型連休は休んでしまいました……

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