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力の使い方  作者: やす
三年の夏
244/474

#243~力の秘密基地:衝突編~

遅くなりました。

今日は小袋怪獣行けの共同体の日で15時~18時と、時間がアレなので早めにあげます。

ゲッツイロチ!&高個体!

「ふんっ!」「なっ!……」『パシッ!』

本郷は名乗りを上げると平岩の顔へ向けて右手のストレートパンチをくり出す。

だが、平岩は突然のパンチを手のひらで受け止めていた。

別に拳を見切った訳でもなく、ワザと隙を作って本郷のパンチを誘導した。……と言う訳ではない。

「……いっ……」

平岩は本郷の拳を抑えようと手を無意識に出したところでパンチが止まっただけだ。


「ちっ!……」

本郷はくり出した右拳を戻し、舌打ち交じりにそれへ目を向ける。

「……」

続けて暴力を行使する様子は見られない。

「……軽い、が……筋力は申し分ないんだがな……」

そんな評価を下した本郷は自身の身体を調べ始める。

腹筋やわき腹、二の腕に脹脛(ふくらはぎ)……と、指で押して肉質を確認していた。

「……私は警官です……」「ん?」

雷銅は本郷の腕を掴み、不審な動きを止めさせる。

「……女子児童誘拐の容疑者として、署へ同行して貰います。」

雷銅は警察手帳を見せながら、お決まりの文言を並べた。


本郷は力を込めてなさそうなパンチを平岩に一度向けただけで現状は特に逃げようとしたり、"警官"と言う言葉を聞いて焦っている様子は見られない。

彼女はまず、口頭で警告してから理詰めの正攻法で動きを封じようとしているらしい。


「誘拐だと?……っう……悪いが今目が覚めた所なんだ。……お前らが俺をココに連れて来たのではないのか?……くっ……」

本郷は逆に雷銅達こそが不審人物だと断じる。些か足元がおぼつかない様子だが、確かに目覚めたばかりの様子に見える。


「はっ?……っ、貴方には誘拐犯一味の疑いが……えー……っと、服装から分かります。状況的にもそんな嘘では騙されません。……同行されないのなら緊急逮捕する事になります。それでもかまいません「ふんっ!」っく……」「なっ!」「……」

雷銅の言葉の途中で本郷は掴まれている手とは反対の手で拳を作り、それを目にも止まらぬ早業で雷銅の腹部にめり込ませていた。

腕を引くテイクバックもない、突然の左フックパンチだ。

平岩は狼狽えるも、春香は黙って成り行きを見守っている


本来ならば雷銅は問答無用で本郷を拘束するべきなのだが、彼女にはそこまでの判断を下せる現場経験はないのかもしれない。

本郷は”疑われる前に相手を疑う”と言う、チンピラが考えそうな手法を取っていた。


「……」

雷銅は突然の殴打で気を失った様に前傾姿勢となり、本郷にもたれかかる。

『カチッ』「っ?」

雷銅は一瞬で手錠を本郷の右腕にかけていた。

「……っく、公務執行妨害の現行犯です……っ……」

雷銅は右手でお腹を押さえ、苦悶の息をもらしながらも男性に罪状を通告する。

手錠は相手の両腕で締めて相手の動きを封じるか、相手の腕と自身の腕を繋ぎ留めるのが一般的だ。

だがそこまでは手錠を扱えておらず、本郷の右腕に手錠の片方が掛けられているだけでもう片方はまだ何も繋がっていない状態だった。


警察が逮捕する手段として手錠を容疑者や犯人に掛ける場合、基本的に逮捕する時間を容疑者にも聞こえる様に言う事が多い。

これは逮捕時間を明確にする為で、容疑者を拘束できる時間が決められているからだ。

容疑者を逮捕する場合、逮捕と同時に警察の”取調べ”が行われる。現場の状況を調書に取ったり、容疑者を尋問する事がこの”取調べ”にあたる。

この”取調べ”は最大で四十八時間以内に行わなければならない。

その後二十四時間以内に検察へ送検され、検察官が裁判を起こす準備として最大二十日間は留置所で勾留出来るモノとされている。

この取調べと検察へ送検されるまでの48時間+24時間の最大で合計72時間は証拠隠滅の可能性もある事から容疑者は家族と面会出来ない期間とされている。


『ガッ!』「っ、面倒な……」『カッ、ガチチチ……』

本郷は右腕にかけられた手錠を掴み、取り外せない状態になっている事を確認すると、悪態を吐きながらも手錠のもう片方も同じ右手に掛け、平岩の向こう側、雷銅達が来た方向へ歩き出そうと顔を向ける。

「……まっ、待ちなさいっ!……」

雷銅はふらつきながらも刑事らしく声を上げる。

「……もうそこで寝ていろ。立っているのもやっとなんだろう?女子供を殴る趣味は無い。女に生まれた事を後悔するんだな。」「……っく!」「っ……」

「えっ……」

だが、本郷は雷銅と平岩にかまわず歩き出す。

雷銅は女扱いされた事に苛立ちを募らせ、

平岩は子ども扱いされている様な感覚でいた。実際彼は暴力を振るおうとはしない。

春香は男性の変わり様に驚き、無言で大人たちの交錯を見つめている。

「っんぅ!」

雷銅は苛立ちを募らせ、ごわごわ頭の髪の毛を逆立てるか如くに烈火の勢いで本郷の後を追う。

「ふっ!」

雷銅は大股で地に着けた左足をのままに、走る勢いを付けて右足を振りぬく。

右ハイキックだ。顔を狙うそのキックは決まれば脳を揺るがし、キックを受けた者は昏迷してしまう事もある、最悪の場合は死亡してしまう事もあり得る技だ。

女扱いされて、手を抜かれている事を感じ取った雷銅は怒髪天を衝く勢いなのかもしれない。


「……っ」『ゴン!』「っつぅ!」

しかし、本郷は体制をほぼ崩さずに右手を挙げる事で雷銅のハイキックを後ろ向きのままで止めた。

本郷の右手に巻かれた手錠で雷銅は右足の(すね)を殴打したのだ。


脛・向こうずねは弁慶の泣き所といい、どんなに身体を鍛えても筋肉が付きづらく、神経に衝撃が伝わりやすい人体の急所としてあげられる。

脛は膝から足首までの部分を指し、向こうずねは脛の前面側を指す。

武蔵坊弁慶は屈強な身体を持っていても、向こうずねを打たれると泣いてしまうと言われて”弁慶の泣き所”と呼ばれている。


「この程度で!……」

雷銅は目を少し潤ませながらも次の手を試みる。

『ダッダン!』「はっ!」

重心を落とした大股で距離を詰め、腰を振りながらも膝を伸ばし、手首を曲げた右の手のひらで本郷の顎を下から強打しようとしている。

アッパーカットの様なその技は頭を揺さぶり脳を揺らす打撃技だ。身体は小さく、機敏に動ける雷銅には最適な技と言える。

「……っ……」『パシッ、』『ググゥ』「あっ……」

しかし、本郷は左手で雷銅の掌底打ちを弾き、その瞬間に右手で雷銅の腕を逆手で掴み上げる。

「ふんっ!」「ぐっ……」『ドシンッ!』「痛っ!」

すぐさま雷銅はフリーな左手の打撃を打とうと左手を後ろに回すが、本郷は右手を振りぬき、雷銅を一本背負いの要領で平岩達の方の地面に叩きつける。

「ふんっ、その身のこなしを見るに格闘技を齧ってはいる様子だな。……だが所詮格闘技。声を出しすぎだ。”攻撃するぞ”とあらかじめ教える馬鹿がどこに居る?」

「……っく……」

本郷は雷銅をなじっていた。

「……まぁ、声を出しても良いが、出すからには確実に技を当てて息の根を一発で止めろ。「……っ……」おままごとをやりたいなら公園にでも行け……」

本郷は雷銅に言葉を突き刺すと隣の空間へ向けて歩き出す。

雷銅は歯ぎしりをするも床から起き上がれない。

「……だが、良い目はしている。怒りは勝者に必要な感情だからな。」

本郷は言いたい事を言い終えると隣の空間に消えていく。

「……くぅ!」「……だ、大丈夫ですか?」「……」

中央の空間に残るのは雷銅に平岩・春香の三人だけだ。



「上か……」

本郷は自身の使う白ベッドがある空間の端・天井から床が降りてきているのを見つける。


「……っ!、、エレベーターに乗って行かれたら私たちはもしかして帰れないんじゃ……」「え?あれって……あっ!」「えっ?エレベーター?」

平岩は重大な事実に気が付き、心配事をぼやいた。それを聞く雷銅と春香は平岩に言われて目の色を変える。


『……ゴン、ガン、ゴッガッ、ゴッガッ……』

隣の空間を見る間もなく金属を叩く音が隣の空間から響き渡る。



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