#241~力の秘密基地:遭遇編~
「……装置?……と言う事はこれはエレベーター?……と言う事ですか?」
その空間にある壁の一角には一つの箱が置かれ、平岩の言葉を聞いた雷銅はそれに視線を向けながらも口を開けていた。
その箱は無理をすれば人が三人ぐらいは入れそうな物となっている。
日本ではエレベーターを設置する場合、それが例え一般家庭の中でも役所等に申請しなければならない。
定期点検が義務化されていて、”エレベーターがある家屋と言う事で資産価値が上がる”とも言われている。
「……だと思います。この画面には”昇降”……とあるので……」
平岩の目の前にある画面には四角形が四つあり、”昇降×”や”昇降〇”とそれぞれの四角の中に表示されている。
中央に大きな四角が一つあり、その下に中くらいな四角がきて、中央の左に小さな四角、中央の右に極小の四角が置かれ、中央と極小の四角には”昇降×”と表示されていた。
「それは今動きそうですか?動かせるなら今から行って見てきます。貴方はここで操作をしてください。」
「……っ……分かりました。」
雷銅は臆する事無く提案する。彼女はどんな相手が出てきても、立ち所に打ちのめす気概があるのだろう。
逆に尻込みするのは平岩だ。”貴方が行ってる間に誰かが襲ってきたらどうするのか?”等と思っているわけではなく、純粋に雷銅が無鉄砲に突き進んでいく様に感じたからなのだが……
そんな事を言う暇もなく話しは進んで行く。
「……」
「……」
雷銅は事も無げに平岩の横を通り過ぎて箱の目の前まで足を動かしていた。
『ギギッ……』
箱の取っ手に左手をかけて、横に箱の一面をずらす様にして箱を開ける。
『……ボッ……』「……」
箱の中を右手の手のひらの上にある火の玉で照らして見ているのだが、特に問題になりそうな個所は見つけられていない。
『……カッ、カッカッカッ……』「……」
箱の中に足を踏み入れて”恐る恐る”とも、”スタスタ”とも言えない程度の足踏みで中に入り、振り返って平岩に視線を送っている。
「……では始めます。」『……カッ……』
雷銅の手のひらの上にある火の玉の明かりが消え、視界が悪くなる部屋で平岩はマウスを動かし始める。
『……カチッ……』
『ピロン!』「ん?……」
画面の下に置かれている中くらいな四角に表示されている”昇降〇”をクリックした。
「……エラー?……」
「どうしました?」
次の瞬間には平岩の顔が曇ってしまう。
それを見る雷銅も何かを察してたまらずに声を上げていた。
「……いえ、何かエラーと出てきて……」
『カチッ』『ピロン!』
『カチッ』『ピロン!』
二度三度とクリックを繰り返すも、上手くいっていない音が返ってきている。
「……あっ、そこの扉を閉めてみてください。」
「っ!……はい。『ガガッ……カッ』閉まりました。」
「で、では……」
平岩は分からないなりに、試す様にして出来る事をしていくらしい。
箱はある程度隙間があるらしく、扉を閉めても雷銅の声はクリアに聞こえていた。
マウスのボタンを押す指に力が入る。
『カチッ』『ブゥゥゥゥ……ピッピッピッ……』「出来ました!……ん?……あと10秒で動き始めるらしいですよ。」
平岩がマウスをクリックした瞬間に部屋全体で物音がし始める。それと同時に平岩の前にある画面にはウィンドウがいくつか開かれていた。
”注意!!昇降開始まで10ビョウ、注意!!!状況によっては指定先と異なります。注意!!”と表示されている。
イマイチ必要性が分からないカウントダウンと注意表示だが、このエレベーターを設置した者は独特な安全基準を持っているのかもしれない。
そして恐れていた事が起きる。
『ガッガァァ……』「
おい!誰が勝手に触って良いっ……がっ?!……」
その空間に繋がっている、平岩達が通って来たドアが今まさにのタイミングで外から開けられる。
恐らくはエレベーターの操作に気付いて来たのだからある意味では”必然”と言える。
扉を開けるのは土色仮面に黒ジャージの男だ。
やはり、この地下インフラから来れる空間はジャージ仮面集団の管理する場所だったのだろう。雷銅のどこかにしていた電話は、まぎれもない”当たり”だったのだ。
しかし、当の仮面ジャージは一人でに狼狽えている。
「……っ!上に報告!……い、いやっ、俺の、持ってこい!あ゛あ゛ぁもう!」『ガッガァァガァン!!』
ドアを勢いよく閉めて、恐らくは平岩達が最後に回した隣の隣にある扉に向かっていったのだろう。
「くっ!……」
平岩は慌ててマウスを手繰り、エレベーターの”中止ボタン”を探す。
画面に表示されている中の一つのウィンドウには
”注意!!昇降開始まで05ビョウ、注意!!!状況によっては指定先と異なります。注意!!”
と表示されている。カウントダウンは勿論止まらずに進んでいく。
「……駄目だっ!……」
平岩はこんなエレベーターの操作等を勿論した事が無い。
もし今エレベーターの”緊急停止ボタン”や”自爆ボタン”が目の前に置かれたら躊躇うことなく押せる程取り乱していた。勿論そんなボタンは最初から存在していない。そう、ここまで来るともう”停止”は出来ないのだ。元より、仮面ジャージの行動がちぐはぐだからこんな取り乱せる時間が生れているのだが……
「……っく……」『ダッ、ダッ、ダッ、ダッ……』
平岩は遂に走り出す。雷銅が入っていった箱を目指して。
『ガッガァァン!』「っ!」「私もっ行きますっ!」
平岩はエレベーターの扉を一息で開けて、中で待つ雷銅を別の意味で驚かせる事に成功していた。
パソコンの画面の表示は
”注意!!昇降開始まで00ビョウ、注意!!!状況によっては指定先と異なります。注意!!”
から
”昇降開始”
へと表示が変わる。
その瞬間、雷銅達がいる箱の中にある床は静かに地下へ向けて動き出す。




