#240~力の秘密基地:発見編~
「……え?……あっ、”当たり”って……」
平岩は雷銅がなぜそこまで性急に動いているのか一瞬分からなかったが、思えばココは”仮面ジャージ集団の隠れ家”の可能性がある。
だが、そんな事はお構いなしで扉が勢いよく閉まるのを許してしまい、大きな音を立ててしまっていた。
もしかしたら仮面ジャージ集団が潜伏しているのかもしれない、こんな怪しい場所ならば雷銅の機敏な動きの方が正解だろう。ここは敵地なのかもしれないのだ。
平岩は人の気配を微塵も感じていないのだが、雷銅は刑事らしい嗅覚で”ビビッ!!”っと何かを察知しているのかもしれない。
「……も、もう私は上に戻っていた方が良い?……ですか?」
彼は鍛え抜かれた肉体を持ち、背も高い。その拳から放たれる打撃は大の大男であっても怪我では済まないだろうが、彼は職業的にも、性格的にも荒事を良しとしない身の上だ。
この場は刑事の雷銅に全てを任せた方が良い。彼女は武道家でもあり、法術師でもある。法力の使えない平岩が居ては最悪の場合は捕まって人質になってしまうかもしれない。
雷銅は奥に視線を向けたままで口を開く。
「……こうなったらもう少し手伝ってください。”アレ”を調べてみてくれませんか?」「あ、”アレ”?って……」
彼女の手のひらの上にある火の玉で明るくなった視界の先に、床の一部がせり上がる形で台があり、その一角には何も映していない画面らしき物が置かれている。マウスやキーボードの類がその手前のスペースに置かれているので恐らくはパソコンだろう。
「ん?”アレ”って……っ、私が調べるんですか?……いっ、いえ、勿論構いませんが……」『ガッ、カツッ』
平岩はペンライトで足元を照らし、引き下げている扉を乗り越えて雷銅と同じ空間に足を踏み入れる。
『カツッ、カツッ……
部屋の中央やや奥に置かれている台まで平岩は歩き出す。
……カツッ、カツン』「向こうにも扉があるんですね……」
平岩は自身の”足音がやけに響くな”と思いながらも台まで歩み寄り、もう少し奥・空間の向こう側にも扉が右・左・奥に一つずつ置かれている事を見つける。
「私が周りを見ているので貴方は”そちら”をお願いします。……私の見立てでは近くに二、三人はいます。……ですが、ドコにいるのかまでは見当が付きません。もし誰かが来た場合は逃げる前に私の指示に従ってください。」
「……っ、は、はい。」
雷銅は暗に”通って来た道も安全ではないかもしれない”と言っている。
平岩としてもすでにココは違法に手を加えられて作られた場所と思っているので、黙って逃げ帰ってもいられない状況となっている。
もう既に警察に通報しても良い頃合いなのだが、ここまで来てしまっている以上はもう”後には引けない”と言えた。
「……」
いや、平岩の後ろで辺りを見回している雷銅は間違いなく刑事なので、ココが警察が行う捜査の最前線なのだ。
一人で不審な場所に潜入するのは、それだけで危険の度合いが跳ね上がる。
刑事の雷銅が一般人の平岩を捜査に巻き込むのは本来始末書ものだが、彼女はそう言った事には疎いのかもしれない。
「……」『カッ、サッ……サッ……』
平岩はひとまずマウスを触り、左右上下に動かしている。
『プゥゥ……ン』「っ、これは……」
すると画面がゆっくりと点灯し、デスクトップ画面が映し出された。
……のだが、何らかのウィンドウが一つ表示されている。
「……八時に”衛生時間”と”朝食摂取時間”?……」
どうやらスケジュールが表示されているらしい。
誰かの生活をのぞき見している様な感覚に襲われていた。
「何かあったんですか?……」
雷銅からは”何を見つけたのか?”の声があげられるのだが、平岩は大きくなりすぎない程度に声を返す。
「……良くはわかりませんが……誰かのタイムスケジュール?みたいな物が表示されています。八時に朝食とか、十二時に昼食とか……これが誰のモノとかは……書いてありませんが……」
「……えーと?……そうですか。他には?」
「他は……何も無いですね……このソフトは始めて見ますが……同期に……出力先?……と言う事はこのソフトは何かに表示するモノなんでしょうか?」
「え?……」
雷銅は平岩の言っている事が分からずに黙ってしまう。
「……駄目ですね……このパソコンは何の権限も無いユーザーみたいで……色々と制限されてます。……このタイムスケジュール?のソフトしか操作を受け付けません。」
平岩は自身のパソコン関係の知識を総動員して見解を述べる。
「…………それは……私はパソコンに詳しくないので何をされているのか分かりませんが……つまり、”そのパソコンでは何も分からない”と言う事であってますか?」
どうやら雷銅はパソコンを扱えない人間の様だ。もしかしたらそれもあって平岩を巻き込んでいるのかもしれない。
「ええ。恐らくこのパソコンはこのタイムスケジュール?の管理でしか使わない物なんだと思います。」
「…………よくは解りませんが……パソコンは勝手に爆発するので嫌いなんですよ……奥の部屋も見るのでお願いします。」
雷銅はぼやきながらも正面の扉に歩き出す。
「……爆発って……」
平岩は雷銅が何を言っているのか分からないが……恐らくは”ウイルスに感染=爆発”みたいな比喩で言っているのだと認識して雷銅と同じ方に向けて歩き出す。
パソコンは壊れる事や発火する事はあっても”爆発”する事はまずありえない。……いや、何十年と放置していたパソコンで、電源ユニットがイカレて電源を入れた瞬間に大きな電流が流れて発火→爆発!と言う事もないのかもしれないが……
『ガッ、ガァァ……』
雷銅は正面のドアを触り、奥に押して開けるドアと見るや否や、即座に押し開けて身を滑り込ませる。
「……誰もいません。……今度はコッチでお願いします。」
「……はい…………」
雷銅の手招きを受けた平岩はそそくさと歩いて扉を掴む。
『ボフゥ……』
雷銅は平岩が歩みよるのに合わせて手を扉から離し、反対の手にある火の玉を奥に向けた。
「……こっちにもパソコンですか……」
見れば先ほどと同じ様にして台が地面からせり上がる事で作られていて、一角には画面・マウス・キーボードが置かれている。
『……カツッ、カツッ、カツン。』「さっきと違うな……」
先ほどと違うのはその横に大きな箱が置かれていて、中に何らかの物を置ける様になっている事だ。
「……」『カッ、サッ……サッ……』
マウスを先ほどと同じ様にして動かした。
『プゥゥ……ン』っと音を立てて点灯する画面には大小が違う四角形が四つ表示されている。
四角形の中には”投下”と名前が付けられたボタンが置かれていた。
「……今度は本当に分かりませんね。どこかの簡易図?と言う訳でもなさそうですし……」
「何かあったんですか?……」
平岩が一人、画面とにらめっこしていると、後ろの雷銅が再度同じ言葉を投げかけてきた。
「……いえ、ちょっと分からないのですが……」
しかし平岩も何と言っていいのか見当もついていない。歯切れが悪い。
「……多分、どこかの部屋に”何か”を”落とす”物なんだと思います。」
「それは……分かりませんね。……じゃ、次の部屋に行きましょう。」
「……あ、はい。」
雷銅は機械的に判断を下し、見切りをつけるとすぐに次の場所へ向かうべく、足を動かし始める。平岩は置いて行かれない様にしてその後を追いかける。
『ガッガァァ……』
「……いません。……今度はコッチで。」
「……はい…………」
今度は左の扉を開けて同じ動作を繰り返している。
言葉はかなり省略されていて、一見雑な動作にも見えるが、動きは洗練されてきているのかもしれない……
「……こっちにもですか……」
見ればまたもや台が地面からせり上がっていた。
先ほどと違うのは後ろにロッカーよりも大きいボックスが置かれている事だ。
「これってまさか……」『カッ、サッ……サッ……』『プゥゥ……ン』
平岩は同じ動作で画面を点灯させる。
先ほどの画面と同じで、四つの四角がソコには表示されていた。
「……雷銅さん。多分これは……」「……」
平岩は遂にその全貌の当たりをつける。
「……この地下に空間があります。そして”コレ”はそこに行く装置なんだと思います。」
平岩は後ろのボックスを指して雷銅に考えを言った。




