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力の使い方  作者: やす
三年の夏
238/474

#237~力は空にも負けず~

『サァァァ……「生成(ジェネレーション)!」『フゥル、フルフル、ブロロロ……『じゃあ行ってきまー……』……』

雨が降る清虹市の北にある金山邸の西、駐車場出入り口付近で法力を発現させるとプロペラを回し、雨が降る空に飛んでいくモノが一人。

流線形のマスクで顔を隠し、プロテクターが身体を覆う01(エース)だ。


「おぉ「「「「……」」」」」

それを見送るのは雨田母子の三人に、刑事の雷銅、市長秘書の平岩、の合わせて五人。

勝也の妹である厘だけは開いた口から歓声を上げ、手を振って見送っている。

「……では我々も行きましょう。」

刑事の雷銅はその場にいる四人に向けて声をかけた。

「じゃ……サイクリングロードに……」

勝也は場所を知る人間として先頭で歩き始める。

「「「……」」」

後に続く厘は空を見ていて分からないが、続く大人達は神妙な顔を傘で隠していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー―

『ロロロ……

『……すぅ、あ、あのビル『フゥゥォォォ!』おっと!』

01(エース)の顔にあるマスクには目の所に黒水晶が置かれている。それを通して見える視界には地図が表示されていた。

目的地のビルを目視で確認すると、重心移動でロールの調整を始める。

どうやら雨の中では多少勝手が違うらしい。

突然吹き荒れる風に煽られて体制を崩すが、すぐに体制を整えて高度を徐々に落としていく。


雨の中でも風を発現出来るのなら、ロールは問題なく運用出来るのだが、雨を防ぐ手立てがない為に雨天時はロールを使う者は少ない、元々個人でロールを運用する者は少ないのだが、今の様な梅雨時期にロールを運用しているのは唯一と言っていい程珍しいと言えるだろう。


「……ん?……」「……あれは?……」

雨の中外に出ている通行人はロールの飛行音で否応なく空を見上げる。

空を雨雲が一面を覆っている時は特に01(エース)の姿は目立っていた。


ビルは特徴的な物でもなければ、持ち主不明と言う訳でもない、至って普通のビルだ。

清虹市の南に位置する火狩地域は住宅街とそれ以外の施設等が南北で両極端に分けて開発されている。

南には住宅街が広がり、北には飲食店や商業施設、事務所等の職場が多く、住宅や飲食店・物を売る店舗等が一切ない建物も幾つか存在していた。

01(エース)の目指している問題のビルは火狩地域の中でも北に置かれているので周りの建物と同じだ。

外から見ると何の建物かは分からない。

このビルと仮面ジャージ集団との接点が今の所は”車が停められている”だけで、このビル自体が仮面ジャージ集団の本拠地とは限らない。



ビルの西面側には駐車場出入り口があり、その先はビルの地下に向かっている。

ビルの南面側にはビルの正面入り口があり、ビルに用事がある者はココから入るのが普通だろう。

……ロロロ、フゥルフル……』『……タンッ!』『……ん?どっちから行こう?……』

01(エース)は地に降り立つと、背中から伸びるロールが止まるのを待っている。

『フゥル、フゥル』

ロールは羽が止まると即座に『カチャン』とプロペラの羽は折りたたまれ、『ウィーン……』と背中へ自動的に仕舞われていく。

『……正面から行くのは流石にマズイかなー……』

これからどうやってビルへ入るか、大体の方針が纏まった様だ。


『……フゥゥ……』……ァァァァ……

雨の勢いはそのままに、風は弱くなってきていた。

時刻は夕方頃で、仕事をある程度早く切り上げた者たちが徒歩や車で帰宅している風景がチラホラ目立つ頃合いだ。


『……ここの駐車場って……普通の”月極”駐車場なんだ……』

そのビルが有している駐車場はビルの地下にしかないのだが、ビルに用事がなくとも、料金さえ支払えば誰でも車を停められる全国チェーンの駐車場が置かれているらしい。

決して”月極”と言う名前の駐車場がある訳ではない。

ビルの地下にある駐車場は徒歩の人でも簡単に出入り出来る造りになっている。


……ァァァ……』『……コツン、コツン、コツン……』

ビルの西側にある駐車場利用者用の出入り口から01(エース)は直接駐車場へ向かう様だ。

雨音から離れていくと自身の足音が響く様な錯覚を感じている。

『……コツン』『……』

駐車場の自動車用出入り口には清算機が置かれていて駐車場は無人営業をしているらしい。

どうやらこの駐車場には01(エース)しか今はおらず、見える範囲では車の中に人がいる気配はない。


『コツン、コツン……』

01(エース)は仮面ジャージ集団の潜伏先として、今一番怪しい建物へあっけなく足を踏み入れる。

『……』

ここまで隠密行動をしていないので、いつ仮面ジャージが襲い掛かって来るかも分からない。

こう見えても01(エース)は気を張っているらしい。


彼女は知っている。

こういう時に尻込みして時間を無駄にかけてパフォーマンスを無駄に下げるのはアマチュアで、

どんな状態でも時間を掛けずに自然体で必要なパフォーマンスを常に発揮し、良い結果を得るのがプロなのだ。

その為にはどんな些細な問題でもクリアーし、万全の状態と心構えを維持しなければならない。

『……っ……』

駐車場には車が何台か置かれているが、標的の車は見あたらなかった。

金山邸で確認した目当ての車は”黒色の”乗用車だ。

『……コツン、ガタッ、ガタッ……』

雨と強風に晒されて、日が落ちる頃にビルの地下に息を殺して忍び込む。と言う条件は初夏の頃でも意外と冷える。

凍える様な寒さでも、プロテクターの中は蒸れる程暑い様だ。、

実はこれまで一度も風邪らしい風邪を引いた事の無い丈夫な身体の01(エース)は泣き言を言わないが、足元を震わせながら任務に当たっている。

『……暖かいモンを何か食べたい……』

いや、泣き言は言わずとも、食欲は我慢出来ないらしい。


『……』

01(エース)は気を取り直して目の前の駐車場へマスクの黒水晶を向ける。

白の乗用車が駐車場の奥にポツンと一台置かれ、業務用車のボックスカーが三台中央に置かれていた。

一番手前には配送業者のトラックが置かれている。

『……黒い乗用車は無し、と……』

話しにあった、金山邸のパソコンで見た仮面ジャージの使っていた車は見当たらない。

映像では車が駐車場に入ってからその車が出て来た場面が無いまま映像は終わったので、この駐車場に長い事いたハズだ。


しかし、その映像の最後からすでに数時間は経過している。その間に逃げてしまったのだろうか?

『……一足遅かったのかな?あ、でもココに長い事いたらしいし……一応調べとかなきゃ、……』

飯吹は今回の出動を”空振り”と判断すると、独り言を漏らしながら『……ガタッ、ガタッ……』と音を鳴らして奥に歩いていく。

出動するも、空振りでも、一応は現場を調べなくてはならない。

何が道しるべになるのかは分からないのだから、他に調べる場所が無い現状では少しでも怪しい場所を徹底的に調べなくてはならないのだ。


清虹署には”出来る!誰でも現場検証!”なる本があり、そこには”見えないモノも近くで見れば見える!”と言う、あたり前で、見えてはいけない者まで見えてしまいそうな事が書いてあった。飯吹も適当に流し読みしているので怪しい所は”ビビッ!”と発見出来る……ハズ。

『……うぅん?……あー、でも、結構時間たっちゃってるかもしれないしな……』

いや、飯吹は本の内容を忘れているので、簡単には現場で情報を見つける事は出来なかった。


『……それにしても……汚いなぁ、ここにある車は……』

駐車場にある車は近くで見ると全体的にボディが汚れている。駐車場は綺麗なのだが、そこに置かれている車はすべて汚れていた。まぁ火狩地域には市外から来る人も多いので、そういう事もあるかもしれない。


『ガガン!……グゥゥ……グゥゥ』『キュキュ!』

飯吹の後ろで駐車場に入って来た車が停止する。

『ガバッ』『……隊長、状況は?』

その車は飯吹が幾度となく乗った法力警察の指示車だ。

清虹署からの応援らしい。

助手席から03(バックパッカー)が降りてきて、01(エース)に仮面ジャージ集団の居場所等を聞いている。

『黒い普通車なんだけど……無いんだよね……』

01(エース)は自身の仕事用に支給されているスマートフォンを取り出して”空振り”な事を伝えた。

『ゴンゴン』『隊長の端末からデータを共有しました。コッチで軽く見ましたけど……これ、今日の0時までしか記録無いんですよね?……それじゃーもうどっか行っちゃったんじゃないですか?』

そこで指示車の側面の後ろにある窓を開けて09(リザーブ)が指示車の装甲を叩いて注目を集めてから考えを述べる。

『……十七時間か……、まぁ場所を変えていてもおかしくはないか……』

03(バックパッカー)は与えられた情報で考えを纏めている。

『……誘拐事件で犯人からの要求が無いと言う事は……犯人の思惑が外れているのか?……』

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