#236~ソコは大事なの力?~
#235~力のソコは大事~のBパート的お話しと、その後になります。
「……」
本郷は自身の手を見つめながら椅子に腰を下ろしている。
「ねぇ、貴方のしようとしていた事は思い出した?」
「……ん?またその話か?……」
テーブルの前に置かれた椅子に座る少女が本郷に何かを聞いている。もう何度目かも分からない文言だ。
「……」
この空間で唯一立っているのは土色仮面と黒ジャージを身に纏う知識ただ一人。
彼は春香と本郷の会話に加わらず、ただ腕を組んで黙って聞いている。
「……何度も言うが分からん。トレーニングをしている時は思い出せそうな気がしたが……今は露ほども思い出せそうにない……何かをしようとしていたのは間違いないがな。」
本郷はよく分からない自身の身体に動揺しているのだが、自分の”しようとしていた事”は気にかけてもいる様だ。
「ふうん?……」
春香は何かを考えながら本郷の言葉を吟味している。
「知識、この殺風景な部屋には飽きた。トレーニングもココだけでは限界がある。もう少し広い空間が必要だ。場所を変えてくれ。」
本郷はついに知識へ場所を変える様に要求する。筋力トレーニングは身一つで出来ると言っても限界があるのかもしれない。
「……王者、それは出来ません。……貴方の身体は現状でも危険な状況です。……貴方は清田に嵌められて自身の法力で脳のとある神経を断たれていたのです。我々ではその法力を解除出来ず……仕方なく外部の人間をここに招き入れて貴方の法力を解除しています。ですが、それも所詮は一時的な物です……ココは外部の法力を遮断していて、”そこの協力者”の法力を最大限に活かす造りとなっています。つまり、ココで貴方は清田に、いえ、自身の呪縛を解かなければココから出る事は出来ません。」
知識は滔々と語った。
「むぅ……」「……」
そんな本当かどうかも分からない言葉を春香は信じておらず、本郷は無言で吟味している様だ。
『ガッ』
「……」「えっ?そっちは?……」「……来たか。」
本郷・春香・知識の三人は誰かがこの空間に訪れた事に気付く、春香が使っているピンク色のベッドが置かれている空間から人が現れたのだ。
「ハーイ。」
ブロンド髪の女性だ。彼女は知識へ一目散で近寄り、二言三言耳打ちした。
「……そうか。」
知識は報告を受けると、本郷へ向けて片膝を立てて跪き、仮面の下の口を開く。
「では我々は一旦引き上げます。「なっ!……」何かありましたらそこのテーブルにある端末で連絡をしてください。」
知識はこの空間から引き上げるらしい。春香は知識の言葉に異議を唱えようと口を開ける。
「……ねぇ!この人の力を元に戻したいんでしょ?なら、その女の人の腕でも掴ませたら良いんじゃない?アンタの身体じゃこの人は満足出来ていないんでしょ?」
突然春香は椅子に座った男性・本郷を”この人”呼ばわりしてブロンド髪の女性の腕を掴ませるように言う。
「なに?」「……」「ン?……」
知識、本郷、女性は思っても見なかった方向から言われた様で一瞬間をあけてしまう。
「確かに私よりは肉があるだろうが……」「……女か……」「……ン!」
知識は春香の言葉を吟味し、本郷は疑いの様相を呈していて、女性は腕の一本や二本!と、腕を本郷に向けて差し出す。
「……本当の所は鍛錬で得るベキモノなのだがな……」
『ギュ』っと本郷は女性の腕を掴む。
「「「「……」」」」
しかし、本郷に身体の変化は見られない。
「……肉体の交換は見られない、か……」
知識は本郷の身体が変化するデータを収集しているのか、事象の結果を口ずさむ。
春香と知識の腕や足を掴んだ時、本郷はのたうち回ってから肉体が変化しているが、ブロンド髪女性の腕を掴んでいる今は特に体動は見られない。
「……次は鍛錬に適している者を連れてきましょう。確かに肉体が王者本来のモノに近くなれば、調子を取り戻す可能性は否定できません。」
「……」
春香は自信のあてが外れた事に納得いかない様子だ。
彼女が金山邸に帰るのは今しばらく時間が掛かるのかもしれない。
「では、今日の所は一旦下がります。次に時間が出来ればこちらに参りますので、しばらくはそこの”協力者”と共に居てください。」
今度こそ知識はこの空間から出ていくらしい。
『パチッ!』「ん?……」「「……」」
いつの間にか”協力者”にされている春香はこの空間から出ていく姿を見届けて、あわよくば逃げ出してやろうと思っていたが、知識は唐突に手を上に挙げ、指を弾いて鳴らすと空間の照明が一斉に消灯する。
「……むぅ……」「……」
一瞬の闇は瞬く間に照明が再度点く事で晴れるが、知識とブロンド髪の女性の姿は忽然と消えていた。
残るは春香と本郷の二人だけ。
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『ガバン!』
薄暗い空間は鉄の扉が開く事で『パァ……』っと照明が点いていく。
『ダッ!』『キュ!』っと音を反響させながら一人の女性が空間を横切る。
「01用B装備、出動!”」
その女性は空間・駐車場の一角に置かれた白い箱の前でお決まりの文言を唱える。
『ピピッ!』っと白い箱が音を鳴らし、箱は正面の一点に向けて照明を照らす。
『キュキュ!』っと足音を鳴らし、『バッ!』っと直立で腕を上げる女性・飯吹は白い箱が照らす場所に立ち止まる。
次の瞬間には『ガバッ!』っと白い箱が開き、『ウィーーー……』っと音を立てて折りたたまれたアームが展開して照明を受けて立つ飯吹に迫る。
あわやアームが頭頂を強打する様にして飯吹に迫るが、アームの先端にはプロテクターの脇を開く様にして置かれていて、飯吹の腕を通しながらアームは振り降ろされる。
『カポン!』っと子気味良い音を響かせるようにしてプロテクターが飯吹の身体に置かれると、次のアームが飯吹の頭を襲う。
そのアームの先端にはこれまた顔を覆うマスクが置かれていて、『ガチ、ガチャ』っと音を残してアームは折りたたまれながら白い箱に戻っていく。
白い箱の底には他の装備等が格納されているらしいが、今は使わないらしい。
『もうこれを着るのも最後かな……あ、すみませーん!扉開けてくださーい!』
飯吹こと01は最後までしまらない様子で金山邸の地下にある玄関に向け、合成音声の大声を地下駐車場に響かせる。
「はぁ……」『カチッ!』
ため息を漏らしながらも駐車場にある玄関の一つで駐車場出入り口の扉開閉ボタンを押すのは平岩だ。彼の靴は地下の玄関に置かれている。
彼と商店街に行く雷銅は『ガーーーー……』と扉が開く駐車場の出入り口の外にいた。
勝也も工事現場を見た者の一人として彼等を案内するらしい、厘と澄玲と一緒に待っている。




