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力の使い方  作者: やす
三年の夏
233/474

#232~力のやつは~

遅れました……

『ピンポーン!』

三十頃の女性がインターホンのボタンを押す。時間は()(どき)だ。


”八つ時”とは江戸時代頃の時間の表し方で、日の出から日の入りを6等分、日の入りから日の出までも6等分とした合計で1日を12等分する時間の考え方だ。

日の出から日の入りまでを

明け()つ、朝(いつ)つ、朝()つ、昼(ここの)つ、昼()つ、昼(なな)つ、

日の入りから日の出までを

暮れ()つ、夜(いつ)つ、夜()つ、暁(ここの)つ、暁()つ、暁(なな)つ、

と、昼と夜の12時頃を縁起の良い九つとして徐々に数字を減らして6個分の四つまで、日の出・日の入りから数字を減らす様に数えて表す。

この考え方はあくまでも日の出から、次の日の出までを12等分、もしくは日没までを6等分としているだけで、夏は太陽が出ている時間が長く・冬は太陽の出ている時間が短い為、季節によってその間隔の長さがある程度変わる様に出来ている。

これを不定時法と言い、明確に”あっ、今は八つ時だ!おやつ食べなきゃ!”と言う様な時間に正確な”3時のおやつ”は取れない考え方と言える。

この場合はそれを踏まえてちゃんと言うと、昼()つ時であり、現代的には13時~15時頃と言える。

江戸時代の頃の人は朝と夕の1日2食が基本で、現代の13時~15時の頃によく間食をしていた。その間食を”御八つ(おやつ)”と呼び、それが現代の”おやつ”と言う言葉の語源とされている。


『…………ガチャン!ガーーーー』

インターホンから人の声は聞こえないが、女性の前にある門の扉がひとりでに動きだす。

「え?……「……行きましょう。」「「うん」」……あっ、はい」

門の前には雨田母子(おやこ)とここの家人である凪乃がいる。

凪乃の胸元には”暴れんガール!”の文字あり、背中には”カウガール?ノーホルスタイン……”の文字が……胸元の文字に腋の下を通って繋がる位置と大きさだ。その上にある凪乃の表情は疑問交じりですぐれない。

場所は清虹市の北にある土旗地域で、中でも一番北に位置する住宅の金山邸だ。



『……ガチャ』

一歩先を歩く澄玲は玄関扉を開けて、あとに続く者へ先に入る様に促した。

「……ただいま戻りました……風間です……」

凪乃は澄玲が開けている玄関扉を通り、いつもと違う順番で玄関に足を踏み入れる。

いつもは凪乃が今の澄玲の様に玄関扉を抑えて、最後に家に入る役を担うのだが、澄玲には病人扱いされているらしい。


彼女等がいる玄関からは左・正面・右と、三方向へ歩いて行ける。

左を見ればインターホンの受け口がある廊下から一人の女性がこちらに向かって来ていた。

「……あーごめんごめん!君ってここの子だったよね?……えーと、私がインターホンを触ったんだけど……よく分からなかったからテキトーにボタンを触っちゃって……何か変な所押したかもしれなくて…………悪いんだけど、ちょっと見てくれない。今他の皆は忙しいみたいで……って、それ……あっ!厘ちゃん!……」

そんな事を言うのは法力警察の斉木がここ金山邸に一人残した”最強の事務員”こと飯吹。

彼女は凪乃へ言葉と奇異の眼差しを向けている。

さらにうしろにいる厘を見て、驚きながらも名前を呼んでいた。

「……はい。」

凪乃は飯吹の言葉を聞くと靴を脱いでからインターホンの受け口へ向けて歩き出す。


「……あれ?これ……」「……いえ?これが?…………」「……うーん、コレは……」「……え?これ?……」「……おかしいですねこれは……」

飯吹が触った所をすぐに気づいた凪乃はそれを直す。

特に問題はなさそうな様子に見える。金山邸のインターホン受け口は確かにボタン類が多く、何も考えないで触れば”応答”ボタンが分からない事もあるかもしれないモノだった。


「……んー……凪乃ちゃん、不自然なくらい普通なのよねぇ……あんなにコレステロールの数値が極端なら……」

澄玲は凪乃を見つめている。

どうやら凪乃の血液に気になる部分があるらしい。凪乃を見つめる彼女の目は光り、少しばかり声を掛けづらい雰囲気をかもしだしていた。

「「……」」

近くにいる勝也と厘はそんな母親をよく理解しているらしく、口を挟むような事はしない。


「……でも、あれだけ元気なら是非もなしか……じゃあ、邪魔は出来ないから、私たちはこのまま帰ります。家の人には宜しく言っておいてね」

澄玲は凪乃を金山邸に送り届けるだけのつもりだったらしく、玄関で靴を履いたまま独り言に見切りをつけると、インターホンの受け口にいる凪乃と飯吹にお(いとま)する旨を告げた。


「……あっ!はい。今日は助けて頂いてどうもありがとうございます。送って貰ってこんな事を言うのは差し出がましいですが、帰りはお気を付けください。」

飯吹と話していた凪乃は澄玲の声で自分のやるべき事を思い出したらしく、澄玲に倒れていた所を拾って貰い、処置をしてくれた事のお礼を述べた。

しかし、凪乃が今一番すべき事は澄玲に何かする事ではない。

勿論お礼を述べるべき事で間違ってはいないが、凪乃がすべき事は四期奥様への大切な報告と、手に持っている物を渡す事だ。


『ガチャ』「……凪乃?貴女が持ってる……あら?……」「はい。」

そんなタイミングで玄関の正面に置かれている扉が開き、扉の奥から誰かがやってくる。

どうやら雨田親子がそこにいる事を知らず、玄関に部外者がいると知るや否や、言葉を切っている。

「……ん?」

勝也は金山邸で……と言うよりも、始めて見る人物だった。

「……お客さんが来てましたか、すみませんが今は慌ただしい頃合いです。お構いできなくて申し訳ありません。」

綺麗にお辞儀するその女性は若々しいを通り越して、”幼い”と言える様な顔の女子?……いや、女性だ。

髪を後ろでアップにして、端々から見える服の着こなし等の雰囲気だけを見れば夜の女性の様にも見えてしまう。

見れば見るほど年齢不詳の女性だ。


「……」

凪乃よりは年齢が低そうな見た目を見るに、新しい他のお手伝いさんなのかもしれない。

その女性は雨田母子の動向を見届けるつもりなのか、靴を脱がずにただ玄関にいる”部外者”を見つめて次のアクションを待っている。

「「「「……」」」」

そんな女性の言葉に何かを感じ取る一同は一瞬だけ動けずに固まってしまった。


「……あっ、帰っちゃうの……もう少し……あっ……いや、じゃあ勝也、またね。」

いや、飯吹は訳も分からずに、ただ帰る事をだけは感じ取ると、別れの挨拶を目とは裏腹に勝也へ送る。

飯吹は何かが気になっている様子に見える。

「……」「えっ?、えぇっと、じゃあ……」

しかし、勝也は言葉を返さない。そんなやり取りに少し引っかかるものはあるが、澄玲は子供たちの腕を取って引き下がろうとしていた。

「……あの、春香のいる場所に心当たりがあるんです!」「なっ!」「……」

だが勝也は母・澄玲に引っ張られる腕を逆に引っ張り、後ろをアップにした後から現れた初めて会う女性へ言葉をぶつける。


「……へぇ?君が噂の勝也くん……」「ちょっ、千恵お義母さん!」

凪乃が告げる女性の名前は、凪乃の母だった。

どう見ても凪乃より幼い見た目だが、彼女はれっきとしたこの場では最年長の婦人である。


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