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力の使い方  作者: やす
三年の夏
231/474

#230~力の服~

『ジャバ、ジャバ……ジョボ、ジョボボボボ……』

澄玲はプラスチック製のお湯を張った桶からタオルを取り出してそれを絞っていた。


「……っ……ここは……」

澄玲の隣にあるベッドで寝ていた者が目を覚ます。

「んっ!?……調子はどう?……気持ち悪くはない?」

澄玲は目を覚ました者へ優しく声をかける。

「え?……ぇぇ……はい。って、コレっ!!」『ザバッ!』

身体を起こしながら返事をする者は咄嗟に手にあるタオルケットを手繰り寄せる。

ベッドの上の凪乃はスッポンポンだった。タオルケットの下には慎ましい胸が隠されている。


「えっ?……なっ、何で…………」

凪乃の顔はすぐに赤くなり、言葉をうまく出せていない。

どうやら凪乃とここ雨田家は相性が悪いらしい。

またもや生まれたままの姿を人に見られてしまっている。


「全身ずぶ濡れだったから着ている物を全部脱がして身体を拭いたの。”ソコ”は私だけでやったから心配しないで。大丈夫だから。」

澄玲はどうして凪乃の服を剥いだかの説明をしていた。

「……ぇっ……そ、”ソコ”って……」

どこの部分が”ソコ”にかかるのか分からずに凪乃はさらに顔を赤らめて口ごもってしまう。


澄玲の言う”ソコ”とは

”服を全部脱がせた”部分にかかるのか、それとも

”身体を拭いた”部分にかかるなのか、もしくは

”凪乃が今隠した所”を”ソコ”としているのか……

また、”ソコ”以外は澄玲以外の者が手伝った様な物言いにも考えられる。

凪乃には人に見られて特段にマズイ部分が身体にあるわけでないが、逆に言うと”なさ”過ぎた。


「それより、いつ、どこからあそこに来てたの?あんな所で倒れてたらすぐに誰かが見つけてくれると思うけど……」

澄玲は凪乃がどうして道端で倒れていたのか聞きたいらしい。

「……確か……雨が少し止んでた、まだ空が暗い頃に風台の”とある建物”から歩いてきて……サイクリングロードに行こうとしてた……ハズです……」

「……風台から歩いてって……」

”風台”は清虹市内の西側にある地名だが、漠然に言われると範囲が広い。近い所からなら1時間とちょっと程度で歩いて来れるだろうが、遠い所だと6時間程はかかっても不思議ではない。


「……えーと……あっ、コレ……」

凪乃はいったん深く考えるのをやめ、自身の左手にある物を握り直している。

「あっ、それってUSBメモリだったの?……ガッチリ握ってたから服は脱がせても何を持っているのか分からなかったんだけど……」

澄玲は凪乃が何を握っていたのか今更知ったらしい。

眠っている者の拳を開けるより服を脱がせる方が難しいハズだが、澄玲は凪乃の事を思って服を脱がせる以外の部分はそのままにしていたのかもしれない。

「……っ!……早く四期奥様に”コレ”を届けないと……」

凪乃は身体をモゾモゾさせた。

すぐにでも走り出したい衝動を押さえている様にみえる。

だがギリギリ見えそうで見えていない。”何が”とは言えないが……


「……澄玲さん……色々とありがとうざいます。……ですが、四期奥様の元に行かなければなりません。……その、す、スグに服を返していただけませんか?……ぬ、濡れたままでもかまいませんのでっ!」

凪乃は助けて貰った事を十分に理解しているが、それよりも優先しなければならない事があるらしい。

”自分の下着を同性であろうとも、人に乾かして貰うのはとてつもなく恥ずかしい!”と言う様な羞恥心な訳ではない。決して。


「え?うーん……でも目が覚めたばっかりなんだし……」

「っ……」

澄玲は医師免許を持ったれっきとした医者だ。

”私の診た患者なんだから回復するまで安静にしていなさい!”等の様な事を言われてもおかしくはない。


懇意にしてくれている澄玲へ逆らうのは良心が痛むのだが、ココが雨田家であるならば目的地である金山邸はすぐそこだ。

握っている物を認識して記憶が徐々に蘇ってくると、今は疲れて休んでいる暇はないと言えた。

「……お願いします。一刻を争うんです。」「……うーん……」

澄玲は凪乃の目を診ながら考え込む様にしている。


「……まぁ血流も良いみたいだし、特に倒れる様な問題は無さそうなのよねぇ……」

法力医師は特になのだが、目の前の人の身体に流れる血流等を感知する事が出来る。

水系法力を得意とする者ならハッキリとは言えないが漠然と予測出来る場合もあるらしい。


「……ただの寝不足?……まぁ貴女の身体は良いとしても服は乾燥中なの。悪いけどそこは譲れないかな……」

「くっ……」

凪乃は自分の思い通りに出来ず、かと言って澄玲を邪険に出来ずに困っていた、

そんな凪乃の顔を見ながら澄玲は言葉を続ける。

「……と言う事で、急ぐ凪乃ちゃんには服をあげちゃいます。厘ー『パチン!』」

おまけに自身の娘を呼んで指を鳴らした。『はぁーい!』とどこからともなく……ではなく、澄玲の後ろにあるこの部屋唯一のドアから可愛らしい厘が何かを持って現れる。

厘の手には長袖Tシャツに動きやすいスラックス、おまけとしてキャミソールにショーツ……と新品を主張するタグ付き&透明ジッパー入りの服一式があった。

「全部新品だから気にしないで使ってね。」

「っ゛!何から何までありがとうございます。代金は後日……」

澄玲の至れり尽くせりに感極まってお礼を述べる凪乃だ。


「……っ、それって……」

だが厘の持つ、とある二つを視界に入れると言葉を止めてしまう。

白いTシャツのお腹側にデカデカと『暴れんガール!』と書かれていて、ショーツは黒と白のストライプ・伝統的に言えば縞パンだ。決して縞々模様の熊猫ではない。


「ごめんなさい……もっとまともな物の方が良いとは思うんだけど……凪乃ちゃんに合うサイズで新品だとこれしかなくて……」

澄玲は明後日の方向を見ながら言い訳を語った。


「……つまり、厘ちゃんと同じサイズなんですね。わたしは……」

凪乃は淡々と倒置法を使ったセリフを吐いて理解してしまう。

厘は小学二年生の女子児童で、凪乃は大学一年生の女子大生だ。


「……でも、貴女ってそんな強行軍をした割に……」

澄玲は凪乃を漠然と見ながら、これからどうしようか考えている。


『サァーーーーー…………』

依然として外は雨が降っていて、まだまだ太陽は顔を見せそうにない。

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