#228~かえせない力~
#226~力はかえせない~のBパート的お話です。
時間は多分違う頃です。
『……ザッーーーー………』
空に居座っている雨雲は”これが良いんだろう?”と押し付ける様にして雨を地面に落としている。
『ガヤガヤ……』
清瀬小学校の玄関には児童や学校の教職員だけでなく、児童の保護者も集まっていた。
玄関の外にも傘をさして児童を待っている保護者もいる。私服の保護者達に紛れて法力警察官が雨を全身に受けながら直立不動で立っているのも散見できた。
体育館で大体の説明が行われ、教室に戻ってから個別に話し合いがされたのだが、すべての学年・クラスでほぼ同じタイミングで下校となったらしい。
保護者も集団下校に同行するらしく、その護衛として法力警察官が児童達を待っていた。
「……集団登下校の、えー……東4班の人ー……下校してくださーい。」
1人の教員が玄関扉前で大声を出し、下駄箱のある玄関内にむけて指示を出す。
「行くか、」「……うん。」
呼ばれたのは勝也達の集団登下校のグループだ。七川が傘を持つと勝也に声を掛け、勝也も自分の傘持つと歩き出す。
「……じゃーねー」「うん、じゃ……あっ」
見ると隣は一つ下の学年が使う下駄箱のエリアで、聞き覚えのある声を聞く。
勝也の妹である厘と、その友達の明ちゃんである。明ちゃんは勝也を見つけて頭を軽く下げていた。
「勝也、厘……」
勝也も顔を動かす程度に留めて挨拶を返していると、保護者の集団の中から母親である澄玲が動き出す。
「母さん……」
澄玲はスーツ姿で、手には水玉模様の傘がある。厘とお揃いの傘だ。澄玲は清虹病院に勤める法力医師で、今日も朝早くに出勤しているのだが、抜け出して清瀬小学校に来ている。
『……サァーーーー…………』
清瀬小学校の玄関前には勝也や厘、七川を含む児童十数人に、その横に保護者である大人数人が列を作って並ぶ。
列の先頭にいる人物が口をあけて話し始める。勿論顔は仮面で隠れ、口を見る事はかなわないのだが。
『こんにちは。これから貴方がたの登下校に同行し、様々な危険から護衛します。不審な人物や危険な物を発見して、それにもし我々が気づいていない場合はすぐに報告してください。忘れ物はありませんか?登下校の途中で引き返す事は認められません。なければ貴方がたの護衛を開始します。私と後ろの法力警察官の間を歩き、勝手な行動はしない様にしてください。』
ボイスチェンジャーが施された言葉は雨の中でも十分に聞き取れる声量で紡がれる。
「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」
それを聞く児童は朝も聞いた物とほとんど同じ文言で多少は慣れたモノだが、澄玲達保護者には呆れの表情を感じ取れるモノが混じっていた。
『では人数をセット、下校を開始します。』
その言葉を最後に、踵を返すと先頭の法力警察官は歩き出す。
「……すごいのね……まるでロボットみたいな……」
澄玲は初めて見た物の様にして歩き出す。彼女の知っている法力警察官とは全く毛色が違った様だ。
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「……っしゃぁぁぁあああ!」
清虹市の西側・風台地域にあるとある意匠の凝ったビル……もとい、風見鶏の機能がある賃貸住宅から大声が聞こえる。
その建物の一階にある飲食店・”惣菜お食事処”のイートインスペースで、凪乃は店主兼寮母であり、管理人である婦人と共にその声を聞いた。
「っ!……今の……」「あぁ」
凪乃はテーブルの向かいに座る通称”美奈ちゃん”と意思疎通をする。
「……これだけは教えてください。”ゲンエキ”とは何ですか?……」
凪乃はこれで最後の質問と、単刀直入に疑問に思った事を聞く。
「……またかい、しつこい子だね。アンタは景のオッサンの子だよ…………余計なモンを受け継いちまったか………………」
”美奈ちゃん”は凪乃の言葉に閉口して呆れの言葉を漏らす。
「……”ゲンエキ”は清虹市限定の飲み物だよ。本当はあれを水に薄めて飲むんだ。しかも飲食店にしか卸されないから一般の人は”ゲンエキ”って名前をまず知らないモンなんだよ。……」
「飲食店限定って……」
凪乃はそんな代物を聞いたのは初耳だった。”美奈ちゃん”は言葉を続ける。
「……飲んで出る効果は”疲労回復”に”筋力増強”、私は知らないけど、”法力”も増えるって話さ。……水に薄める前の”ゲンエキ”は副作用として”精力増強・興奮作用”とかがあるんだけどね。水に薄めたモンをスタフラでは”法力増強ドリンク”って名前で出してたハズだけど……」
「”法力増強ドリンク”って……」
凪乃はよく金山家の買い出しとして金山家周辺のスーパー等を網羅している。
件の”法力増量ドリンク”も知っているが、そんな”水に薄めたモノ”だったとは知らずにショックを受けている。
”法力増強ドリンク”は秋穂が愛飲しているドリンクでもあった。
『ドッドッドッ……』「……騒がしいね。」
上から階段を勢いよく走る音が聞こえてくる。”美奈ちゃん”はぼやいた。
「おい、凪乃っ!!!車の行先が分かったぞっ!!火狩にあるっ、っく……ビルの地下駐車場だ!!……っく……映像が”この”中にある。」
上から駆けてきた景が凪乃へ叫ぶような声をあげる。もう体の変化は収まっているらしく、時折頭を振る様にしてふらついているが……
「それって……」
景の手にはUSBメモリがあり、それに車の映像や、ビルの所在が入っているのだろう。
「火狩……ならっ!すぐに……っ……」
凪乃も景のテンションに感化され、勢いよく返事をしながら立ち上がる。
こちらも一瞬だけふらつく様子を見せるが、スグに体制を立て直して走り出そうと体を動かしていた。
「待ちなっ!……」
今すぐにそこへ向かおうとしている二人に水を差す声が凪乃の横から発せられる。
その言葉は続く様だ。
「……景!アンタが今するのは敵のトコに殴り込みをかける事じゃない。アンタ等はいったん四期のトコに帰りな。」「っ……」「……」
”美奈ちゃん”は風間親子にブレーキを掛けさせる。四期奥様を呼び捨てにしたり、景をオッサン呼ばわりしないだけで言葉に凄みがある。
「……で、でもよぉ……」「……」
景は”美奈ちゃん”の迫力に少しひるむも”そうする事は出来ない!”と言わんばかりに声を上げる。凪乃は景に言葉をかえせない。
「私は良く知らないけど……凪乃、アンタがココに連れてこられたのは景が暴走しない様にする為なんじゃないのかい?……私はこの子の面倒を見てやるつもりは無いよ!」「なっ……」「むぅ……」
”美奈ちゃん”の一喝は前半を凪乃に向けて、後半は景へ向けているが、二人は押し黙ってしまう。
「……っく、そういう事か……」
景は独り納得した様にしていた。
「……さすが千恵の”妹”さんだな、「えっ!」俺にも分からない事を分かってやがる……」
ついに景は自身と”美奈ちゃん”の関係について暴露する。
凪乃は驚きの声を上げた。
”美奈ちゃん”は景の義理の妹という事らしい。つまり凪乃の叔母にあたる。
「……そうだったんですか……」「……ほら、さっさと行きな。私は上の自分の部屋でゆっくりしたいんだよ。」
「……おぅ世話になった。じゃあな、”美奈ちゃん”一旦帰る。」「ふん」
こうして景と凪乃は惣菜お食事処の裏口を『ギィィ』と開けて、景の単車でひとまずは金山邸に帰るらしい。
もうすでに辺りは暗く、景のバイクがどこにあるのかも判断が難しい頃だった。
「っく……お前を家に帰せないかもしれん…………」
「えっ?」
突然景は言い出す。凪乃は言葉の意味が解っていない。
「……悪いが自分の力で帰ってくれ……っ……俺はもう……駄目だ……」
景は精魂尽き果てて凪乃に一人で帰らせるつもりらしい。
USBメモリを凪乃に渡し、景はその場にへたりこんでしまった。




