#224~力の絶句~
遅くなりました……
#223~あの力~の前半部分の続きと後半部分の続きです。
ちょっとわかりづらいですね……申し訳ないです。
『……ガヤガヤ……』
清瀬小学校の教室には多くの児童達がいて、思い思いのグループを作り、それぞれがお喋りに興じている。
「……あれって……」「……いつ来るのか……」「……うちは……」「……えー……」「……おい……」
「……」
外の雨音が気にならないほどお喋りの声は大きく、静かにしている者が見当たらない程だ。
「……あーっ!……」「……いやぁ……」「……うそだっ……」「……えっ……」「……おっおっ……」
と言うのも全校集会では勝也達三年生の『自然公園の季節を見る(春)』の発表がされて、自分たちのクラスのとある班の作品が票を一番集めて優勝したからだった。
『……あぁーかなわねぇや、まぁー……春か?……春だから皆選ぶモンが同じなんかなーー』「ん?……」
クラスメートは口々に色々な事を話しているので、聞こえてくる音はカオスの様相を呈している。
ある程度の数の人々が談笑して様々な人の声が入り混じって声が聞き取りづらい状況でも、ある一人の声が鮮明に聞こえたり、とある言葉を無意識に聞き分けてしまう現象がある。
この現象は”カクテルパーティー効果”と名前が付けられていて、沢山の音の中から一つの声を無意識に選び、時には聞こえなくとも幻聴の様に”そう聞こえた”と認識してしまうモノだ。
またこの現象には一対一で話す場合でも、話し相手の名前を何度か会話の中に入れる事でその話し相手は自分に強い印象を抱き、”その話し相手は自分にポジティブな感情を持つ”という実験データもあるらしい、
つまり、人は聞きたい情報と聞かなくても構わない情報を、瞬時に・無意識的に判断して強く印象に残させたり、逆に聞き流したりする事が出来る。
「「「「……」」」」
勝也の隣の席には七川が来ていて、勝也の後ろには春香……の席に座っている双子の妹である朱音がおり、そのまた後ろにはその兄である純一がいた。
朱音は七川に向けて口を開く。
「……だから、足を挫いて立ち止まってると、後ろにいた奴がコッチに来たから、”少し休んだらスグ追っかける”って言ったのに”ソイツ”が『登校中は行動を共にします。例外は認められません。さらに予定より遅れています。』つって私を抱えて歩きだしてさ……」
話の内容としては朝の集団登校中に朱音が足を挫き、法力警察官が遅れないように担ぎあげ、足早で学校に来ていたらしい。
「……だから、私も途中から面倒くさくなって、それなら勝手にしてよ!って暴れてたら、いつの間にかお姫様抱っこになってて……」
「……うん……」「「……」」
勝也は朱音の話もどうでも良いと、空返事をして聞き流している。
「……はぁ?……いや信じる信じないはどっちでも良いけど……」
だが勝也はそんな事よりも春香の身を案じて、その行方を考えていた。
朱音は勝也のそんな態度が気に入らない様で、何度か同じ事を繰り返し言っては勝也に共感を得ようとしているらしかった。
『キーンコーンカーン……』
「よし、じゃあ授業を始めるぞー。席はそのままで良いからなー、あ、でもプリントで授業をするから書く物だけは準備してくれー……」
担任の神田先生が教卓から立上がり、プリントを配り始める。
彼の頭には包帯が巻かれていて、頬には湿布薬が張られている。清瀬小学校に今居る中では一番の負傷者だった。
今日から一週間は出席を取らない自由登校で、またある程度緩く授業を進めるらしい。一応は教科書に沿った内容の物と言う事だそうだ。
「……んっ……」「……っん……」「……」
並べられた席の先頭にいる勝也は神田先生から受け取ったプリントを後ろの朱音に渡し、色々な事に目を背けながら平穏を取り戻してゆく。
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時間は少し戻る。
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「……」
春香は独り、良く分からない空間に居た。全ての空間と隣り合っている、さしずめて言えば”中央の空間”だ。春香が用意させた椅子に腰を下ろしている。
「……ぉぃ……」
「……っ……」
隣の空間からは蚊の鳴くような声が聞こえてくる。
隣の白いベッドに寝かされている男性が発した物だろう。
「……」
春香は隣の空間の方へ歩き、いつもの要領で顔を突き出して様子を窺った。
「っ……ず……ん゛が……み゛……を゛……」
男性は春香を見ると切れ切れの声で訴えかける。
「……うん……」
何を言っているのか分からない男性だが、春香は何を言っているのか大体は理解する。
どうやら水を所望しているらしい。
二人はツーカーの関係ではないが、男性は目覚めてから水だけを欲しがっている様子で、すでに二・三度繰り返している事だった。
さらに不思議な事に、男性は水を与えると劇的に回復している。
すでに春香の手足程には腕や体に肉が付き、年齢の割りには細すぎるのだが一応はまだ見れる状態になってきている。
「……っく、っく、っく……っはぁ!……」
男性は上体を起こし、自分の手でコップの水を飲み干すと喉の調子が戻る様で、いくばくかの意思疎通ができる様になっていた。
「……助かった……くそ、なんなんだこの体は……」
男性は自分の身体に起きている事を全く理解出来ていない。
「……」
「……人はまだ来ないのか?」
男性は現状を嘆くと、春香に疑問をぶつける。
「……知らないってば!私はアンタの為にこんなへんな所に連れてこられてるんだから、こっちの身にもなってよ!……”来る”って言ったんだからいつかは来るんでしょ!」
しかし春香は癇癪交じりに男性へ言い返す。
「……ああ、悪かった悪かった、そういえばそんな事も言っていたな……」
男性はこの状況を何も理解しておらず、連れ去られた春香の言葉を形だけでも気遣った風な言葉をかける。
「……それより貴方は本当に本郷郷史じゃないの?思い出した?……自分の名前も解らないなんて……」
「……いや俺は……………くっ……………」
さらに男性は記憶喪失で自分が誰かなのも思い出せていない。自分が誰かなのかも分からないのは相当な記憶障害と言えた。
人間の脳は情報を取り込む事を”記銘”と言い、それを保管する事を”貯蔵”として、貯蔵された記憶を思い出す事を”想起”と言う。
この記銘・貯蔵・想起は脳にダメージを負う事で一部が機能しなくなったり、時間や何度も回数を重ねなければうまく出来なかったりする。
この男性の場合では貯蔵がうまく出来ず、思い出そうにも記憶が無くなっている場合もあるし、もしかしたら”想起”するのに時間が掛かるだけで時間をかければ思い出す事が出来るのかも知れない。
男性の目が覚めた直後に春香は仮面ジャージの人間がこの空間に向かってる事や自分が攫われた状況を説明しているらしく、それを再度言っている事を理解している男性は記憶の記銘・貯蔵・想起が一応は出来ているらしい。、
「……」
「……駄目だ思い出せん!…………だがそうだな……今思い出したが……きよた?……とか言う奴なら今何が起こっているのか分かる様な気が……」
さらに、”清田”と言う名前だけは思い出せる様子で、その者に多少なりとも信頼を寄せている様な声色だ。
『ガタッ……』
「……ん?」「……今っ、……」
そこで先ほど春香が避難していた中央の空間から物音が発生した。
男性と春香は弾かれた様にして反応する。
『……ダッダッ……』
「っ……王者!」「オッオゥ……コレ……」
先ほど春香が居た中央の空間から二人が現れる
先頭の一人は土色仮面黒ジャージを身に着けた知識、
そして黒色仮面紺ジャージを身に着けたカタコト交じりなブロンド髪の女性だった。
「貴様らっ!」「ガッ、グゥ……」
「……ぇ?……」
白いベッドで横になっていた男性は知識の姿を視界に収めるとベッドから降り立ち、二人に詰め寄ろうと動き出す。
春香は男性の動きに呆気を取られてただ見つめるだけしか出来ていない。
『ギュュゥ……』「……っく、」
男性のお腹には黄色くなったり透明になったりするチューブが突き刺さっていて、そのチューブは男性の動きを縫い止める。
「チッ……きんちかんを……」「っ……」
知識が舌打ちをするとブロンド髪女性に何らかの指示をしたらしく、ブロンド髪女性は自身のジャージズボンのポケットから携帯端末を慌てた様子で取り出した。
「……えぅ?……」
勿論春香はただ黙って見ているだけしか出来ない。仲間であろう相手にする様な動きではない。
「くぅぬぅ……」『ギュュュゥゥ……』「……駄目ですっ!それは……」
男性は右手に空のコップを持ちながらチューブを左手で引き抜こうとチューブに手を掛けた。知識はいち早くそれを止めさせようと焦った声を上げる。
「……内臓と直接「ふぬぅ『ブシュッ』『ドボドボトポトポ……』っく……」なっ……」
男性はチューブを腹から引き抜くことに成功する。
お腹とチューブからは透明な液体が零れ落ち、男性は自分で行った事だが狼狽えた。
知識は絶句してしまう。
「……」
やっぱり春香は呆けた様にして動けない。




