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力の使い方  作者: やす
三年の夏
218/474

#217~力をはなそう~

すみません……

トウさんは私服でした……改稿をお許しください。話は変わりません。

「……そ、それで?何か用があるのかね?……確かもう今日は誰かと会う約束はしていないと思ったが……」

図工室の作業台にある席に腰かける清田校長は手を作業台の下にしまいながら、急に訪れた斉木達……いや、飯吹へ視線を向ける。

ナニかを手に持ち、作業台の下に隠しているのは一目瞭然だが、清田校長は頑として手を作業台の上に出そうとしない。

「……」「「……」」

まるでいつも誰かと会っている様な口ぶりに、斉木は一瞬だけ考え込む素振りを見せる。

飯吹と雷銅は斉木に任せるつもりなので清田校長に言葉を返さない。

「……いえ、突然押しかけて申し訳ありません。”防人部隊”に参加していた者達が事件を起こしたので関係者の方達にお話を伺っています。清田さんにも二、三確認したい事があります。ご協力お願いします。」

斉木は犯人から送られて来たであろう携帯の文面から、”防人部隊に参加していた者”が犯人であると決めてつけて言った。

”防人部隊”はすでに解散していて、現状は”防人部隊に参加していた者”・”防人部隊に関係ある組織の者”が犯人だとは確証を得られていない。

斉木の言葉は少し飛躍した言葉だが、清田校長をゆさぶる腹積もりなのだろう。


「何?!防人部隊?……ふむ……にわかには信じられんが……彼らの事をすべて知っている訳ではないからな、……勿論協力しよう。”防人部隊”に参加していた者達は皆、我が子の様に思っておる。彼らが道を踏み外したのならそれを正すのが(わし)の今彼等に出来る事だ。」

清田校長は驚き、斉木の言葉を上手く呑み込めていない様子だが、斉木の言葉を信じ、犯人逮捕に協力してくれると言う。

未だに清田校長の手は作業台の下に置かれ、隠した物を見せようとはしない。

「……して、誰の事について話せば良いのかな?……大体の者は今どこら辺に居るかも分かっているから、それも包み隠さず”話そう”。」

「っ!そうですか、では……」

清田校長は良い指導者の顔で、斉木として今欲しい情報を言ってくれている。斉木は手帳をズボンのポケットから慌てて取り出し、そこに書かれている事を確認して清田校長へ再度口を開く。

未だ清田校長の手は作業台の下で、手に持っている物については”離そう”としない。

「……まず、”防人部隊倉庫番”と言う、保育所の様な施設が”防人部隊”が使っていた潜水艦”園後号”にあったと調べました。「ほう……」これに間違いはありませんね?」

斉木は高山から聞いた情報をほぼそのまま清田校長に確認する。1人が証言した事は他の者にも確認を取らなければ情報としては確証を持てない。

人は嘘をつけるし、その気は無くても間違った事を時には言えるからだ。

斉木の口から”潜水艦”園後号””の言葉を聞いた清田校長は感心した様に息を漏らしている。

「……良く調べているな……”園後号”は上手く隠し通す事が出来たと思ったが……人の口に戸は立てられんか……」

観念した様子で斉木の言葉について意見を述べる清田校長だ。

「……確かに私たち”防人部隊”は移動も出来る秘密基地の感覚で潜水艦の”園後号”を使っていたよ。”防人部隊倉庫番”と言う区画もあった。」

その情報は”正しい”と述べる清田校長。だが、未だ手は作業台の下に隠している。

背筋はピンと伸ばし、顎から伸びる白い髭がしゃべる度にふさふさ揺れていた。

「……」『ピラ……』

清田校長のその態度から”何を作業台の下に隠しているのだろう?”と一瞬思った斉木だが、構わず手帳のページを戻し、次の言葉を紡ぐ。

「……ありがとうございます。……では次に、”防人部隊”は作戦行動中はコードネームを使っていたと聞きます。その中に”弓使い(アーチャー)”と”知識(ノウレッジ)”と言う、コードネームの隊員はいませんでしたか?いれば今どこにいるのかも教えて下さい。」

斉木は勝也達の証言で襲撃犯の主犯と思しき者達の呼び名を聞いている。

まさかそんな名前の者はいないだろうが、一縷の望みをかけてそれについても確認する。

もしかしたら実際に弓使い(アーチャー)知識(ノウレッジ)と言うコードネームの隊員がいて、その者達か、その者と浅からぬ因縁がある者が仮面ジャージ集団・つまりは今回の清瀬小学校の襲撃犯かもしれない。

”山籠もり道場”の主・高山に二人のコードネームの事を聞かなかったのは、高山がそれらを言うとは思わなかったからだ。

清田校長は高山と違い、なんでも答えてくれると思ったからで、”防人部隊”の知識は段違いに違うと感じ取っている。

”防人部隊について聞きたい”と、言った時の返答も、

清田校長は”隊員について、今どこにいるか大体わかる”等と言ったのに対し、

高山は”斉木達の欲しい情報を持っているかどうかわからない”等と言っていた。

どちらの言葉も確証は無いが、斉木はどちらの言葉にも嘘は無いと思っている。いや、”信じている。”と言った方が正しい。

「ふむ……”弓使い(アーチャーー)”と”知識(ノウレッジ)”、どちらも防人部隊にそう呼ばれている者はいたよ……勿論コードネームだな……本名までは聞いておらんので解らんが、しかし今二人に合う事は出来るかのぅ……」

「っ!今は海外にいたりするんですか?そっ、そうであっても……国だけでも良いので教えて貰えますか?全力で我々が探し出します。」

斉木はペンを取り出し、手帳に情報を追加しようと前のめりで清田校長に情報提供を頼み込む。

国にもよるが、法力警察だと単独でなら国外でも捜査が出来る。

時間はかかるかもしれないがこれは捜査の大きな前進だ。


「……いや、すまんすまん……言葉が悪かった。どちらもたくましい身体と性格の”女性”だったが……死んでしまったよ……防人部隊が解体される時に”自決”してしまった……そろそろ”お盆”だからついな……」

「っ!……どちらも女性でっ……すでにお亡くなりにっ……」

斉木は冷や水を浴びせられたかの様にして息を詰まらせる……仮面ジャージ集団の弓使い(アーチャー)知識(ノウレッジ)はどちらも十中八九で男だ。顔を隠しているので、もしかしたら二人は女と言う可能性も捨てきれないが、”防人部隊”の二人はすでに亡くなっていると言うのなら斉木はすぐに言葉を続ける事が出来ない。

 

日本の”お盆”とは、先人や祖先の魂なんかが浄土:死後の様な世界から帰ってきて、それを迎え入れて供養する期間を指す。

七月十三~十五日か、八月十三~十五日当たりの期間とされ、旧暦や新暦等・地域によってその時期は変わってくる。


「……いえっ、ならばその家族や、”防人部隊”でその二人に近しかった者達に心当たりはありませんか?」

……が、すぐに息を吹き返して再度疑問を重ねる斉木だ。

別に”防人部隊”に参加していた二人が”仮面ジャージ集団”の二人だと決まった訳ではない。

「ふむ……彼女らの家族……むっ……どちらも防人部隊に居る時に子供を産んでおる。君がさっき言った”防人部隊倉庫番”に預けていたな。……(わし)が面倒を見た事もあるから覚えておるよ。しかし、弓使い(アーチャー)知識(ノウレッジ)はどちらかと言うと二人だけでよくつるんで男っ気も無かったから、周りから誰の子だと噂になっておった、”近しかった者”はお互い。つまりその二人は孤立気味だったからな。」

「……では、その子供達は今どこにいるのか教えて貰えますか?子供の今の年齢も教えて貰えると助かります。」

斉木は清田校長の言葉にテンションを抑えきれない様にして手帳に情報を書き足そうとしている。

「ふむ……儂はその頃医療の道を歩んでいてな、”防人部隊”全員の治療や健康を見ておった。……これが子供には不評でな。……まぁ注射や薬が良くなかったのだと思うが……恐らくは今でも”儂を恨んでおるのではないか?”と言う考えが頭を"離そう"とせん……ゆえに詳しい所在を本人から聞いた訳ではないので解らんが、……聞いた話では”ここ土旗と、水藻に居を構えている”と聞いた事がある。年齢はどちらも今は四十ぐらいかのう?……実は二人の出産は時期が違ってな。弓使い(アーチャー)が子供を産んで三年か四年かぐらいたった頃に知識(ノウレッジ)が身籠っておる。」

清田校長は饒舌に隊員の事を話す。

だが、清田校長は続けて”はなそう”とはしなかった。

「……」

斉木は手帳に文字を素早く書きなぐっている。


「清田先生!その手に持ってる物はナニ?」

「う、うむ……」

ついに清田校長の隠している物を聞く者が!

勿論それは飯吹なのだが……清田校長は観念したかの様にして手を作業台の上に置く。

「「「……」」」

清田校長の手を見る斉木、飯吹、雷銅だが、言葉に詰まった。

清田校長の右手には彫刻刀があるが、肝心の左手には何もない。

「……あれ?」

斉木は先ほど、一瞬だけ清田校長の左手を見た時は丸い木片が握られていたと思ったが今は無い。

「はっはー!清田先生!私はここの卒業生ですよ!椅子の下に隠したんでしょう!」

飯吹は清田校長が腰かけている椅子に隠したのだろうと言った。


図工室の作業台に置かれた椅子は木材を切り出して作られた椅子で一見、中はただの空洞の様に見えるが、実は中に収納スペースが作られている。

飯吹はここ清敬高校の卒業生と言う事で、そこらへんの事情はしっかりと覚えている様子だ。

「あれ?横に水槽がある!はっはー!清田先生!観念して見せてください!」

続けて飯吹は清田校長の奥・つまりは清田校長の横に水がなみなみと入った水槽があることに気付き、清田校長が何かしようとしている事を看破する。いや、飯吹自身は清田校長が何をしているのか分からないので”看破”した訳ではなく、何かを見つけた飯吹は清田校長にしつこく質問を重ねて”はなそう”としていないだけなのだが……

「う、うむ……」『ゴンっ!』

清田校長は水槽を作業台の上に持ち上げて置き、椅子に手を入れて中からナニかを取り出す。

「「……」」

清田校長の手にあるそれは丸い木片を所々くりぬいている物で、一見すると”不発弾”の様な、瓢箪(ひょうたん)の様な物だった。

「ふむ。これはまだ作っている途中でな。水にいれると……」『ポチャ……』

清田校長は水槽に木片を静かに落とした。

『ブクブク……』「おぉ!」「「……」」

木片は水に浮かぶとブクブク空気が抜ける音がしたのち、水に沈んで行く。

飯吹だけは驚いた様な感嘆の声を上げた。


「……沈むと今度は中の気圧が変わってな……」

清田校長は解説をしながら水槽の水面を見る。

『……プカァ』「おおぉ!」「「あっ」」

木片が水面から顔を出して浮かびあがる。今度は斉木と雷銅も呆気にとられるようにして驚きの声を上げた。

「……浮かぶとまた空気を出して、また水分を吸ってな……」

『……ブクブク……』「おおおおぉ!」「「っ!?」」

また木片はブクブク空気が抜ける音がしたのち水に沈んで行った。飯吹はもろ手を挙げて、斉木達は息を口から出す。

『……プカァ』『ボチャ……』「まぁ、こういうオモチャじゃ、浮沈子(ふちんし)と言うおもちゃを見かけて儂がそれをアレンジしてみたんだが……上手くできなくてなぁ……」


浮沈子(ふちんし)とはペットボトル等の中に入れて水を満杯まで入れてから蓋をし、

そのペットボトルを握ると水圧が加わる事でペットボトルの中の浮沈子に水が入り重くなるので沈み、

逆にペットボトルを離すと水圧が減る事でペットボトルの中の浮沈子が水を吐き出して軽くなる事で浮くオモチャである。


「へぇ!”ふちんちん”をアレンジ!私は知らないですがすごいですね!清田先生!私もそれ欲しいです!お風呂とかにあったらずっと見てられる自信があります!!これいくらで売るんですか?」

飯吹は清田校長の作ったオモチャを絶賛する。

「……しかしな、これは作るのに結構手間がかかって……何度か浮き沈みすると浮かんでこなくなる未完成品だ。一般的な”ふちんちん”より大きいから調整は簡単だがその分微妙な調整が難しくてな、商品化はいつになるのかわからん。」

清田校長は飯吹の言葉を引き継いでこのおもちゃの欠点をぼやく。勿論だが商品化以前に清田校長は商売人ではない。


「う゛、う゛ん゛、で、では我々は捜査がまだありますのでこれで失礼します。貴重な情報でした。ありがとうございます。……飯吹君、雷銅君、一旦戻って情報の共有をしておこう。」

斉木は飯吹の言葉を止める様に咳払いしたのち、足早にお礼を言ってこの場を去ろうとしている。行先は金山邸らしい。

「うむ。何か困った事や分からない事があればいつでも何度でもここに来なさい。君たちになら何でも”話そう”。”防人部隊”の者たちが人に迷惑をかけるのは儂がした事の様に申し訳なく思うしな。」

清田校長は斉木達へ言葉をかけながら斉木達を見送る。

「では、失礼します。」『……パタパタパタパタ……』

斉木達は清田校長の返答を聞くでもなく、スリッパで音を奏でながら廊下を走って行った。



「……ふむ……」『グッ、グッ……』

清田校長は一人になった図工室で彫刻刀を木片にあてがった。

清田校長の顔は険しく、斉木の話に心を痛めているのか、おもちゃの出来を残念に思っているのか見当はつかない。

遅れました……

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