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力の使い方  作者: やす
三年の夏
217/474

#216~力はなつかしい~

「全然変わってないですね!……、、確か……矢の武器?……ん?……矢ブキ?……先生?そう、矢吹先生!……あ、頭が白くなってる!」

飯吹は学年主任の先生へ親しげに声を掛ける。

若干名前を思い出すのに苦労していたが思い出せただけでも御の字だ。

「えーと……んー……警察?……んー……」

しかし、当の学年主任改め、矢吹先生は飯吹を思い出せないらしく、警察勤めになった卒業生から思い出そうとしているらしい。

()だなー、先生覚えてないですか?」

「えーと……スマンが……むぅ……」

矢吹先生は飯吹の事を思い出せていない。

「ホラ、あの亀様(かみさま)をぶっ壊した……」


飯吹は自分の清敬高生時代のエピソードを口走り、玄関の外へ指を向けている。

勿論指が指し示すのは、こちらを向く玄武の銅像だ。

「えーと……あっ!?もしかして……飯吹か!?……確か彼女は……」

矢吹先生は飯吹のヒントから即座に名前を言い当てる。だが、それでも未だに半信半疑な様子。

飯吹は胸に厚い脂肪を抱えている。否が応にも彼女のトレードマークになっている”ソレ”は高校卒業後に得た物なのかもしれない。


「えーと……つまり、貴方がたは……”法力警察”と言う事でよろしいですか?」

矢吹先生は飯吹の言葉から徐々に理解を示していく。

約15年程前に卒業した生徒の進路先まで覚えているのは驚きだが、それだけ飯吹は問題のある……いや、記憶に残る生徒だった。

『まぁ……』『……』とはぐらかす様な態度でしか返せない斉木達だが、否定はしない。


法力警察は基本的に身分を明かしてはいけない。斉木は現場の人間ではないのでその限りではないが、顔を隠して現場に出る飯吹と雷銅が居る手前、微妙に返事をするしかない。

飯吹はすぐに身分を明かす常習犯で、再三それを注意されてはいるのだが、実績とその戦力からあきらめられていた現状だ。

むしろ、法力警察上層部は飯吹をマスコット的扱いにしていたきらいがあるので、それを理由に不自然に早くお払い箱にした訳でもないだろう。


「はっはー……懐かしいなー……どれもこれも……」

そんな風に今度こそ感慨深い表情を見せる飯吹は手を天井に向け、虚空を見る様に思いを馳せている。

「えーと……なるほど!……確かに”あの”飯吹の様だ。……随分と”成長している”ので最初は解らなかったけど……」

矢吹先生はやっと飯吹を元”教え子”だと認識したらしい。

「……久しぶり。元気にしていたかい?随分と”立派”になって……」

それらしいフランクな言葉を掛ける。矢吹先生は飯吹の全体像を見ながらの言葉だ。


「「……」」

飯吹と矢吹のやり取りに置いてけぼりを食らっている斉木と雷銅だ。

斉木は矢吹先生が”防人部隊倉庫番”出身である事を聞いてから、周りに気を張り詰めて物事の行方を静観している。

先ほどは”特に関係はないであろう清敬高校の教師”等と思って見ていたが、なんてことは無い。

ここに居る教師全員が”防人部隊の関係者”で、もれなく”重要参考人”である。

『……っ……』

もっと言えば”容疑者”と言ってしまっても過言では無い。


「えーと……なら話は早い。……すみません。さっきは校長室で待って貰う様に言いましたが、今から清田校長の元までご案内しましょう。よろしいですね?」

何の”話が早い”のかは分からないが、飯吹が卒業生と言う事で”校長室で会う”と言うプロセスを省略して、直接清田校長の元まで斉木達を案内してくれるらしい。

矢吹先生の言葉は途中から斉木へ向けていた。

「……はい。そうして頂けると助かります。」

一組のスリッパを取って履いた斉木は矢吹先生に了解の旨を告げると『パタパタ……』と音を立てて歩き出す。


向かう場所は清敬高校の一階にある図工室だ。




『『『……パタ、パタ、パタ……』』』

斉木達のスリッパと清敬高校の樹脂ワックスを塗ったタイル張り床の廊下が否応なく音を奏で始めると、斉木は前を歩く矢吹先生へ向けて口を開く。

「清田校長はどんな方ですか?先ほどは”校長のお客さんは珍しい”と仰っていましたが……」

斉木の聞き込みはすでに始まっているのかも知れない。どんな些細な事でも聞き逃さない斉木である。


普通、高校の校長ともなれば、学校業務に関わる・関わらざる共に、客は多い筈だ。

もしかしたら”校長”と言うのは名前だけで、裏では”隊長”等と呼ばれ、仮面ジャージ集団の扇動や、指揮を執っている可能性すらもありうる。

「えーと……飯吹から何も?……あぁ、いえ、生徒からしてみたら分からない事ですしね……」

矢吹先生は飯吹をチラとみてから斉木に聞かれた事を答える。

「えーと……一言で言えば自由な人です。……実は高校の業務に”一切”と言っていい程、口を出しません。」

「……?」

斉木は矢吹先生の言っている事が分からず、口を開けないでいる。


「清敬は高校だけでなく、大学を中心として生徒に長いカリキュラムを提案する系列の学校組織です。その代表として清田校長は動き回っていますし、節目の大事な所は抜け目なしに清田校長がキチンとされます。……まぁ、お歳も結構いっているので私どもも無理な事は言いませんが……」

「……はぁ……」

突然始まった清敬学校の説明に何を聞いたのか忘れてしまった斉木は反応出来ていない。

「……つまり、清田校長とは”怒るに怒れない所で自由気ままに動き回る御仁”です。高校の業務も”我々が出来る所は肩代わり”して、なんとか高校の体をなしています。かと言って大事な所では清田校長が現れて上手く解決するのでこちらとしては無下には出来ない、つかみどころの無い方です。」

「……はぁ……」

いや、そう言われてみれば”清田校長とはどんな人か?”と聞いた事を思い出す斉木である。

矢吹先生は清田校長の説明をかなり遠回りにしている。


「ココです……」

矢吹先生は立ち止まる。

「「……」」

一見すると特に特徴の無い、引き戸の扉が置かれている。

「……ではこれで。」

矢吹先生は斉木に会釈をするとそのままスタスタと横にある二階に繋がる階段へ歩き出す。

「……えっ……」

斉木は矢吹先生が扉を開けて清田校長に合わせてくれるのかと思っていたが、恐らくは図工室の扉の前まで連れてきてくれただけで、矢吹先生は退散しようとしているのに小さく驚きの声を上げた。

『……』

矢吹先生は少し歩を緩めて斉木達に向けて軽く会釈し、本当に階段を上がって行ってしまう。


『ゴンゴン!』『ガラァ……ドンッ!』「失礼しまーす。……」「なっ……」『……』

矢吹先生が消えた階段を見ていた斉木は、”彼が図工室へ入って、紹介してくれるのでは?”等と飯吹・雷銅の二人に言おうと思っていた矢先、当の飯吹が図工室であろう扉をノックして勢いよく開けて声を掛けて入っていく。

「……ちょ……」

斉木は飯吹の行動についていけていない。


もしかしたら卒業生である飯吹が居るからこそ矢吹先生がスグに退散して、飯吹がこうも性急に動くのだろうか?

「……清田先生~いるー?……」「……ぉぃ……」「……」

飯吹は斉木と雷銅を気にもかけずに進んでいく。


「……」

飯吹が思いがけずに行動するので図工室を良く見れていなかったが、広さは普通の教室より少し手狭の空間だ。

図工室には大きな作業台が4つと、その作業台の周りに椅子が何脚も置かれている。

出入り口近くには教師用の作業台があり、その奥にはもう一つ引き戸で、その引き戸の向こうはさしずめ図工準備室で、倉庫代わりに工具等が置かれているのだろう。

この空間の特徴としてはガラスをスライドさせて中に物を置き、その入れた物が鑑賞出来る棚が扉以外の壁に備え付けられている。

部屋の明かりは天井にある蛍光灯が必要以上に煌々と照らし、部屋全体を鮮明にしていた。

「……失礼します……」「失礼します」

斉木と雷銅も飯吹に続いて図工室に足を踏み入れる。


飯吹の行動の速さや、矢吹先生の手慣れた引き際を見るに、清敬高校では”いつもの事”なのかもしれない。


「うぉい!……はぁ、びっくりした……もう少し静かに入って来なさい飯吹君……寿命が縮む……」

「はっはー!」

大きな作業台の一つの席に腰かける老人・清田校長が飯吹の出現に遅れて驚いていた。

手には彫刻刀と丸い木片があり、言葉とは裏腹に、サッと作業台の下に隠している。

遅れました……

今日は小袋怪獣行けのイベント初日ですね……

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