#214~力の今~
遅くなりました……
斉木課長、身分を明かしちゃダメでした……
そこだけ改稿させてください。話はほとんど変わりません。
「……しかし……潜水艦で外国に?……そんな馬鹿な話は……」
斉木は高山の言葉に虚を衝かれた様で、しどろもどろに話を信じられていない。
「……”園後号”は法力を原動力に航行する潜水艦です。原子力潜水艦の様に燃料……つまり法力が続く限り潜航できますが、エンジン等の機関部が無いので音が小さくステルス性能が高い割に大きく早い、法力は乗組員が代わる代わる交代して発現するので法術師の寿命が続く限り潜航出来ると最強の潜水艦でした。……まぁ、魚雷なんかの弾薬は無かったので基本移動手段や一時的な基地としての使い道しかありませんでしたがね……」
「「「……」」」
潜水艦はそこに使われる技術と、隠密性からあまり知れ渡る物ではないのだが、高山が言うには”園後号”は潜水艦だが純粋な移動手段としてしか使っていなかったようだ。
高山の言葉は続く。
「……隊員は、あなた方も清虹市で警察をやっておられるならここ清虹市を中心に活動する”法力警察”をご存知でしょう?……防人部隊も彼等の様にマスクを着用した姿が基本装備でした。……海外で活動する際もマスク姿ならばなんとかなる物です。」
高山は法力警察の内情を知らない。まさか今目の前に居る女性二人がその”法力警察の戦闘員”である事を分かっていない。
「……っ!!」「「……」」
「……あー、海外の拠点は”政府”と司法取引していたので黙認されていた様ですし、世間一般には知れ渡っていない極秘情報ですが”合法”な事だったと記憶しています。」
「……そうですか……」「「……」」
斉木は仮面ジャージ集団の全容と名前、動向のしっぽを掴んだと思ったが、知れば知るほど自分達ではどうにもならない相手だと感じている。
一言でいえば、”話のスケールが違い過ぎる”。
斉木達法力警察の舞台は日本で、特に清虹市では絶対的な”力”を持つが、国外や海中が舞台になると、どこから手を付ければ良いのかも分からない。
そんなスケールの相手は警察組織の一つ”公安警察”に任せるのが筋だろう。
実を言えば”法力警察”は”公安警察”と太いパイプがある。だがそのパイプは主に”公安警察”が”法力警察”へ出動を依頼する一方的なパイプだ。
もちろん”公安警察”へ情報のタレコミや捜査を依頼する事も出来るが、それでは時間が掛かってしまう。
『……ゥさん、トウさん?大丈夫ですか?』
「……っぁ、はい……すみません、我々は”法力警察”と関係している部門でして……」
斉木は考えを煮詰めていたらしく、高山の言葉を聞き逃してしまっていた。
高山も高山で斉木を『トウさん』と呼んでいた様子。
「……あー、”法力警察”は警察の下部組織でしたね、……ではもう一度言いますが”防人部隊倉庫番”について分かって頂けましたか?私の知っている情報はこれぐらいしかありません。……」
高山は防人部隊では特に権限の無い立場の隊員だったらしく、これ以上の情報は望めなさそうだ。”隊長”だった”本郷郷史”や”防人部隊倉庫番”を運営していた大人ならばまだ行先を知っているかもしれない。高山は言葉を続ける。
「……なので後は”清田先生”に聞いてください。」「あ、そうだ、校長がいるじゃん……」
高山の言葉に『ポン』と手を打つ反応をしたのはその”清田先生”改め、”校長”と最近あった飯吹だった。
「……清田先生ですか?……」
斉木は清田と面識が無い。どういった相手なのか、高山へ聞き返す。
「……あー、清敬高校の校長です。……防人部隊は……”隊長”である本郷さんと清田先生が創設したので……私よりも”防人部隊”について多くを知っています。」
高山は”防人部隊”の終盤頃に参加した様で、”防人部隊”創設から関わっている清田校長の方が”防人部隊”について多くを知っていてあたり前だ。
だが、この話しは清敬高校出身であり、最近その清田校長と会った飯吹がいち早く思い至るベキだったが、彼女は”うっかりさん”なので仕方がない。
四期奥様も清敬卒だが失念していた様だ。だが、彼女は娘である春香の身を案じるあまり、そちらに集中していたのでそこまで求めるのは酷だろう。
本当の所を言えば斉木が高山の事を朧げに知っていて、彼がこの”山籠もり道場”に足を運ぶ事を決めたのだが、彼は清敬高校と関係が無く、清田校長と接点が無いので仕方が無かった。
足を引っ張る形になってしまった斉木は自分の気持ちが空回りしている自責の念を覚える。
「……では貴重なお話、ありがとうございました。……このまま私たちは清敬高校を訪ねて清田先生にお話を伺ってみます。……お話が出来れば良いのですが……」
斉木はすぐに切り替え、畳から腰を浮かせる。
高等学校の校長についてそれほど知識は無いが、多忙の身かもしれない。
出来るだけ早く動き、会える可能性を少しだけでも上げたいであろう急ぎぶりだ。
「あー、清田先生なら清敬高校にいる筈です。実は私、さっきまで清敬高校にいて、校内でお顔を拝見しました。……何か趣味の工作をする様でしたから今日一日は清敬にいると思いますよ。」
「ありがとうございます。今日は大丈夫みたいですね、では失礼します。」
斉木は”なぜ高山は清敬に?”と思いつつも頭を下げ、自分の靴のある方へ動き出す。
後ろに座っていた飯吹と雷銅もそれに続いた。
「……そういえば清田校長は木片を削って、飛行機とか車とか作ってましたねー……今もやってるのか……」
「……」
飯吹は足早に斉木の横で清田校長の事を話し、雷銅は最後に軽くにらみつける様にしつつ高山に頭を下げ、二人を追いかける。
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場所は清敬高校の図工室、一人の男性が木片に彫刻刀を押し当てていた。
『グッ、ググッ……』『フッ……』
「う~ん……」
その男性とは清敬高校の校長、清田三郎だった。
白い髭に隠れた口から木片に息を吹きかけ、自身の作品をまじまじと見つめる。
「こんなもんかのう……『クシュン!』……ん?……誰かに噂されてたりして……な……」
清田校長はくしゃみをして、図工室に独り言を落とす。
『ゴトン』と自身が作った”作品”をテーブルに置いた。
それは所在が分からない”園後号”、つまりは潜水艦の模型だった。
今日は小袋怪獣行け!のイベントでしたね……




