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力の使い方  作者: やす
三年の夏
214/474

#213~力の居る場所~

申し訳ありません……遅れました……

「いっ、いえっ!高山先生!……先生の一番弟子が”ここ”にます!ゆ、ゆえに、その名に恥じぬ様、鍛錬は毎日欠かさず行っています。ゆっ……っ、それに、先生の不在中は”ここに居ても良い”とおっしゃっていたじゃないですか!……ゆっ、ゆえに、それはもはや”弟子”と言っていいのでは?……」

涙目の草山は高山の言葉を願望込みで訂正する。

「……あー…………なら今度から私がここに居ない時は奥にいなさい、それに技を使うのは当分の間は禁止です。「そっ、そんなっ!」…………あと、”出来ない事”を指導も受けずに”ただ”体を動かすだけの鍛錬をするぐらいなら、やらない方がマシです。それなら瞑想でもしていなさい。「……っ、」その方が体力が回復するし、自己流で変な癖がつかないので下手な事をするより遥かに良いです。「っ……」……、あと、一番弟子を”自負”していても私は貴方を弟子とは認めていないので”一番”どころか”弟子”ですらありません。「……」……分かったら今日は帰りなさい。それでもずっと居座ろうとするなら……”弟子”ではなく、”ただの邪魔者”として、私がたたき出してしまいますよ?」「……」

高山は言葉は丁寧だが、指導者らしく言うべき事はしっかりと言った。


「……はぃ……」『……ザッ……』

草山はアラサー男性とは思えない程しょんぼりとした態度で・空気が抜けるような返事をしつつも立ち上がる。

『……ザッ、ザッ、ザッ……』

自分の履物へと重い足取りで、出入り口とは逆の方へ歩き出した。

彼は”山籠もり道場”の出入り口から見れば奥に自分の履物を置いているらしい。


「……はぁ……」

そんな草山の子供っぽい態度にため息をつき、『……もう少し……』と言葉を途中で切るのは、この”山籠もり道場”の主である高山だ。


「……では話を戻しますが、防人部隊倉庫番は貴方の知る限りで構いません、どこで子供たちを見ていましたか?所在地を教えてください。……あと、覚えている限りの世話をしていた大人や、当時そこにいた子供達は今どこにいるのか分かりませんか?」

斉木は聞き込みを再開する。

「……あー……場所ですか……ん~……」

高山は所々ぼかして答えているらしく、ハッキリと”ココ”とは答えない。

もう何十年も前の事なので今現状で高山の知る”防人部隊倉庫番”があった場所はもぬけの空な事は間違いない。

それでも斉木はしつこく聞いている。



『……カッ、カラン、カラン、コロン、カラン、コロン、……』


斉木達はこの空間の真ん中に設置された畳の上にいるのだが、その中でも”山籠もり道場”の出入り口近くで話している。

斉木は手帳にメモを取りながら高山の言葉を聞いているが、彼の後ろに控える雷銅と飯吹は特に何も持たず、ただ話をそれぞれの様子で聞いている。

飯吹は『ふんふん、んー……』と話に相槌を打っている。

だが、雷銅に至っては腕を組んで”ただ話を聞いている”と言う状態だ。


『……カラン、コロン、カラン、コロン、カラン、コロン、……』


その横を『カランコロン』と音が鳴る下駄を履いた草山が通る。

「……あの、飯吹さん、雷銅さん、先ほどは申し訳ありませんでした。」「ん?」「……」

飯吹と雷銅の二人にそんな事を言う草山だが、先ほどとは違い、しっかりと頭を下げている。

飯吹・雷銅は僅かに高くなっている畳の上で、草山は自前の下駄の上で。


草山は精悍な顔つきではなく、間違ってもイケメンではないのだが、どこか憎めない顔をしている。

「むぅ?……まぁ私は別に……良いけど……」「……」

飯吹は全くと言っていい程草山と関与しておらず、一番痛みつけられた斉木を一瞬見るだけで許してしまう。

雷銅は腕を組んだまま、視線だけで草山を見るも返事はしない。雷銅としては許す許さない以前に、歯牙にもかけていない様子である。

「……トウさんっ!!申し訳ありませんでした。」「「え?……」」「むぅ……」「……」

草山は最後に斉木へ、もう一度謝罪してから帰る様だ。

斉木と高山は草山の言葉に驚き、飯吹は何かに思案し、雷銅はやっぱり無視を決め込んでいる。

「……え??息子さん?」「いえっ、私の名前は”(とう)”と言いまして……」

高山は草山の”トウさん”呼びを”父さん”と間違えるが、斉木はそれを慣れた様子で訂正する。

しかし斉木は草山に名乗っていない。

「……彼女たち二人が私の事を”(とう)さん”と呼ぶのでそう呼んだのでしょう。……もう分かったから……行きなさい。」

飯吹と雷銅は一貫して斉木を”トウさん”呼びしている。

もっと言えばこの道場に来てから主に飯吹が”トウさん!”と連呼しているので、草山が斉木を”トウさん”呼ばわりしたのは簡単な話だ。

「では失礼します……」

これで一応は無罪放免となった草山は、重い足取りで歩き始める。



「……あー、草山君、君が一人でそこの女性の相手をしたんだろう?……そして君は見たところ大きな怪我をしていないね?……それは賞賛に値するよ。今の君が彼女の相手をしたのなら腕の一本や二本を折られるだけではすまないからね。」

「っ!!、、はいっ!失礼しますっ!」『カランコロンカランコロン……』


高山は最後の最後で草山へ言葉をかける。……もしかしたら草山が”一番弟子”を自負するのはこういうやり取りが少なからずあったのかも知れない。

草山は小走りに”山籠もり道場”を後にする。

『……カランコロンカランコロンカラン(ザーーーーッ)……』

足音は道場の外、雨音の中へ消えていった。


「「「……」」」

「……分かりました……では、”防人部隊”について、お詫びを兼ねて真実をお答えしましょう。」

「……ん?……お願いします。」

斉木達は高山の勿体つける言葉に疑問を覚えつつ、斉木が先を促す。


「実は防人部隊には唯一と言っていい決まりが一つだけあります。……具体的に”何処どこに誰が居る”と言う情報を外部に漏らしたら”命を持って償う”……と言う掟です。しかし、防人部隊はもう無いですし、もうその掟を守る必要はないでしょう……ですが、今回だけ……と言う事で特別にお教えします。……おそらくは外部の人間は誰も知りえない情報です。……出来る事なら他言無用でお願いします……」

「……」

ことごとく”防人部隊倉庫番が居た場所”を言うのを避けていた高山は観念したように、いや、何かにおびえるように言葉を続ける。

「……防人部隊の中でも世界各地で活動する、通称”園派”と呼ばれる者達は潜水艦で移動し、各地の拠点をその時々で違いましたが渡り歩いていました。防人部隊倉庫番はその潜水艦・”園後(そのあと)号”にあった部屋の一つです。防人部隊が解散した後、”園後号”が何処かの国の政府に接収された話は聞いてませんし、私は”その後”を聞いていませんが……」

「……せっ、潜水艦ですか!」「ん?」「……」

岩男の新作でつい……

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