#210~力の汗~
今日は子袋怪獣行け!の延期していたイベントですね。
月末のイベントは外れたっぽいです……(ノД`)・゜・。
複垢は持ってないんだけどなぁ……
「……では私にその技を見せてください。お願いします。……」『……』
飯吹が蹴散らかした靴を整頓していた雷銅はそう言うと、自分の靴を飯吹の靴の横に揃って並ぶ様に脱いで畳の縁に立つ。
畳の縁に立てば畳が軋むか、靴下が摩擦で摺れて音がしそうものだが、、全くの無音だ。
雷銅は高山総司らしい胴着男性へ言葉を続ける。
「……ですが、貴方が私に技を”見せる”と言うのなら、私も貴方に”技をお見せします”ので”その薄目を止めて”しっかりと目を見開いて”相手を見る”事をお勧めします。怪我では済まされないかもしれませんので……」「え?うすめ?」
雷銅は高山が目を瞑っていないと看破し、それを止める様に忠告する。飯吹は斉木の腕に気を回しつつ、雷銅へ顔を向けた。
「……あっ……」
雷銅は飯吹の声で思い出したかのようにしてそちらへ視線を飛ばす。
「……あと、飯吹先輩、トウさんには肩を触らないように言って見ておいてください。肩の関節を外されているだけです。変にいじると癖になりますから慣れている私が後で治しておきます。……アレだけ敵意を剥き出しにしている相手に無用心過ぎですから、これも良い薬でしょう。……そもそも肩を外されたぐらいで大げさに痛がりすぎなんですよ。」
「……うっ……っ……」
わざわざ迂遠に言われた斉木は肩から手を離して痛みに耐える。
肩を外されると結構な痛みが生じるが、動かさなければ”耐えられない!”と言う程では無い。
荒事にそれほど慣れていない斉木に長時間それを耐えさせるのと、それに対する言葉は辛辣だが、雷銅は飯吹辞職の件で斉木と法力警察上層部を恨んでいる。
元凶は”辞職する”と言い出した飯吹で、それをあっさりと認めて不自然に早くお払い箱をした法力警察上層部が主犯で、斉木としては”とばっちり”なのだが……中間管理職はツラい……
「これが普通の顔だ。ゆえに、目は見開いている。……ゆえに、心配後無用。……そちらこそ始めから三人がかりで詰め寄ってくれば良いものを……女子供であろうとも道場の掟は同じ。……ゆえに、怪我をする前に尻尾を巻いて逃げてはどうか?」
胴着男性・高山は斉木が肩を外されて動けない事で飯吹達には勝算が無く、”女性や子供であろうとも手加減はしない!”と言っている。ゆえに……
「……ふん、世に恐れられた”防人部隊の参加者”とはこんなモノですか?……名前が一人歩きしているのかもしれませんね。」
斉木達三人の中で一番弱い斉木を的外れに評価している高山に引っかかりを覚える雷銅だ。
言ってしまえば”俗っぽい”胡散臭さを胴着男性から嗅ぎ取っている。
「……ですが、イカヅチ流道場”名誉師範”として、”売られた喧嘩はすべて買い叩く”と言う取り決めがあります。普段そんな物はすっぽかしていますが……今回は”タイミングが悪かった”と思ってください……」『スッ……』
そんな独り言をつぶやく雷銅は数ミリ縮むと、足元から畳を踏みしめる音を鳴らす。
「……では、尋常に……参る!」『ズッ……』『ザッ、ザッ、ザッ……』
雷銅は畳の面を踏みしめる様にして走り出す。その動きはそこまで速くは無いのだが、足音のテンポから不思議と目で追えない速さがある。
この足裁きはイカヅチ流戦闘歩行術、”雷鳴”だ。
「……」
胴着男性は目を瞑りながら身構える。
雷銅から動き始めた為、斉木の時と同じように近づいて来たら組み付いて腕を背中に回そうとしているのかもしれない。
『……ザッ、ザッ、「……露払い……」『スッ』、ザッ……』「っ!」
雷銅は高山が動き出そうとした瞬間に一瞬歩行を緩め、技名らしき言葉を小さく発する。高山は一瞬の駆け引きに気づいたのか苦悶らしい息を吐いた。
「……っ、」『トッ……』
雷銅は道着男性の肩へ一瞬で足を伸ばし、それを踏み台にして高く宙へ舞う。
動きに対して不自然に音がしない。壁宙返りを人の肩で代用しているのだが……
「っ……」
高山はたたらを踏み、半歩程後ろに追いやられる。
「……ぇ……んん!……」『……ゥュュゥ……』
高山はすんでの所で体制を整えた。
「……落雷……」
刹那の空中で雷銅は依然として目を瞑っている胴着男性を見下ろしながら、ご丁寧に技をつぶやく。
身動きが取れない空中で伸びていた足を身体の前に突き出し、かかとを ハンマーを空中に置く様に固定する。
『フゥ……』「っ……」
高山は雷銅の意図を察知したのか足を後ろに下げた。
『ヒュン……』「……」
雷銅は自然の摂理にしたがって、道着男性目指して落ちる。
雷神が怒りの槌を振り下ろす様に。
『……ヒューーン……』
ただし、雷銅の姿勢は前傾姿勢で僅かながら前に進む。
「っ……「……」ふっ!『グギッ!』うっ……」
雷銅の”落雷”・言ってしまえば”かかと落とし”は命中する。
道着男性は咄嗟に腕で受け止め、身体を下げる制動で衝撃はやわらげられていた。
だがこれは痛い。
きっと赤くなって青タンか内出血ぐらいは出来てしまっているだろう。
白い胴着で隠れてかかとを受け止めた腕はハッキリと見えないが……
「くぬぅ…………」
道着男性は腕を押さえて呻く。
目は依然として瞑られているが涙目に見えなくもない。
「……うぅ…………いっ、今のは効く……ふっふっ、だが怪我らしい怪我は無い。……ゆえに、私が”受け止めて”なければお互いに怪我をしていただろう……ゆえに、今日の所は私の功績に免じて去れ。」
「……」
高山は雷銅が宙返りで思った以上に高く上がり、バランスを崩した死に体で落ちてきたと思い込んでいる節がある。
きっと痛い腕をいち早く見たいのだろう急ぎぶりだ。汗が光る。
「……今、法力を使いましたよね?お互いにそういう取り決めもなく、立会いで勝手に法力を使うのは”マナー違反”なんですが……」
雷銅は昨今の競技で挙げられるマナーを言っている。
法力が世界的に認められた今、法力の使用を認められていない競技で力を使う事はご法度だ。
法力の使用があった事を飯吹に近寄り、確かめる雷銅も若干汗ばんでいた。
「う~ん……まぁ、ほんの少し使ってた感じはしてたけど……」
そんな感想を飯吹は言う。
飯吹が曖昧に言うのには理由があった。
・飯吹と雷銅の両名は法力警察の実戦部門担当で、業務中は個人情報保護の仮面を着用しなければならない。
・法力の使用は技の発言が基本的に前提条件であり、高山の発言は聞き取りにくかった。
・それを証言するのは斉木達だけであること。
・ここ”山篭り道場”は私有地で一応は室内であること。
が挙げられる。難癖を付けて身柄を拘束する事は出来るが、その後の処理が色々と面倒くさい。
なによりも、今それをすれば斉木の頑張りと痛みが水の泡だ。
「……ふんっ、忘れたのか?”ゆえに、”山篭り道場とは力ある者に従うのが掟だ”と、力にマナーもへったくれも無い。……いい加減に去れ、さもなくば……」
道着男性は雷銅と飯吹の会話に割り込み、自分の考えを述べた。
額に汗がやけに光る。腕が痛むのだろうか?いや、きっとそうに違いない。
「……そうですか……」『ザッ』
雷銅はそれだけ言うと一歩前に進む。
胴着男性の方へ。
手には不可視の力が渦巻いている様に見えた。
一触即発だ。雷銅は曲がりなりにも警察官で、一般市民へ手を上げる事は許されない。
斉木が最初に痛みつけれているとしても深刻な過剰防衛だ。言い訳は出来ない。
『ザッ、ザッ、』「……」
雷銅は無言で歩を進める。
「っ……」
一瞬の出来事の様で胴着男性は動くのが遅れた。
イカヅチ流の真髄・迫り来ても逃げられない歩行術の”雷鳴”だ。
「……」
雷銅は腕を振り上げる。
技名をつぶやくのか、彼女は口を開く。
「……雷……『パシッ』、っっ!」
だが、雷銅のつぶやきは切り上げられる。
振り上げた掌が何者かに捕まれたのだ。
「……申し訳ありません。只今戻りました……」
そんな事を言うのは、彼女の背後に現れた痩せ型中背の男性である。
一見すると、歳は60頃のガリな中年オヤジである。物腰と言動は柔らかい。
「くっ!私の背後にっ!……いつの間にっ!」
雷銅は怨嗟の念を振りまきながら胴着男性を背後に、腕を捕まれたままガリ中年オヤジの方を向く。
「……あっ、すみません……」
ガリ中年オヤジは雷銅の腕を掴んでいた事を謝り、雷銅の腕を放すと喋りだす。
「……私はここの道場主をやらせて貰っている高山総司と言う者です。”草山”君が無礼な態度を取ってしまっていたら申し訳ありません……えっと、、どちらさまでしょうか?」
”山篭り道場の主”で元”防人部隊”の高山総司がそこに居た。
白い胴着の男性は”草山”と言うらしい。草山の額には脂汗が光っている。




