#207~力の色~
遅れました……
少しだけ改稿を入れました。話は変わりません。
すみません……
トウさんは私服でした……改稿をお許し下さい。話は変わりません。
『プッン……』
暗い部屋で一台のテレビが点く。
『……今日清虹市で起きたニュースのお時間です。清虹市全域でお昼過ぎ頃から雨が降り出しました。……『ピローン!』これから一週間はこの雨が続きます。途中雨が止んでも厚い曇で覆われて太陽は当分見れない見通しです。この雨が今年の梅雨入りとなります。『ピローン!』えー……そんなお天気ですが、今日の昼頃から清虹市市内の様々な地域で同時多発的に多種多様な世代の男女が、所によっては集団で、歩き回っている姿が確認されました。服装などの共通点は無く職業もバラバラです。警察は関係各所や関係者とみられる者に事実確認を行っていますが、その目的や繋がりを未だに解明できていません。これで今の所事件は発生してはいませんが、”戸締りをしっかりして、怪しい者を見つけた場合は通報をする様に”と清虹署の草壁署長はコメントしています。……『ピローン!』次のニュースです。清虹市の市長、金山市長は今日の午前中から、水藻にある清敬学校の水系法力研究所で雨が降出した頃にも拘わらず、舞い踊りをしました。それを見るのは清法敬郷学校の高等部である清敬高校の清田校長と、とある外国人で……』
そこには夕方から始まるニュース番組が丁度始まっている所だった。
カメラが切り替わる度に音が鳴り、キャスターが言ったセリフ等の文字を画面に表示する”スーパー”が音と共に浮かび上がる。
番組が独自に出演者やナレーションのセリフ、物や場所の名前等の文字を画面に埋め込んで表示する事を”スーパーインポーズ”と言い、縮めて”スーパー”と呼ばれている。
元々は映画フィルムに字幕が載っているフィルムを重ねて映写する事で映画に字幕を入れ込む手法だったが、今ではテレビ番組等で文字等を表示する映像技術用語となっていた。
その部屋にはテレビの音だけが鮮明に響いている。
「……ちぃっ、人海戦術で来たか…………これ以上同じ経路を使う搬入は怪しまれるか?……」
そのテレビ画面を見る男は椅子に腰かけながら言葉を漏らして顔を固定している。
それは、端からは見えないが目線を上に向けて考えている状態だった。
人は考えたり、忘れているモノを思い出す時に無意識的に目を上や下に逸らす時がある。
目から入ってくる情報を天井や地面に向けて極力減らし、思考に没頭する為だ。
勿論人にもよるが、意外と冷静になって考えてみればなんでも閃くモノである。
「ハーァイ!知識?……あの調子なら、もう帰して良いんじゃないの?」
紺色ジャージに黒仮面で顔を隠すブロンド髪の女性がその男、知識の背後から突然現れて声をかける。
「だから何度も言っているだろうっ!まだ駄目だっ!……我々だけでは不確定要素が多すぎる。意識の覚醒がもし止まれば他に方法はないんだぞ?……なぜ”金山の娘”をそうも帰そうと言うんだ?……お前は今回初めて会う、今までもこれからも一切関係は無い縁遠い存在だろう?」
「……ヒィーィア?……でモー、あれだけー、ェー……”う゛ぃおろぐしぇ りぃあくしょん”があるなラー……ハルカはもう要らない子なんジャー無いノ?」
女性は所々イントネーションを怪しくしつつも知識に意見した。”なぜ”の部分は答えない。
「う゛ぃお?……いや、”生体反応”だが?……っ、日本語なら俺よりもちゃんと習っているのだから、”生体反応”なんて単語は覚えているハズだろう!?……貴様?、外国人キャラが癖になっているんじゃないだろうな?……」
「……ふぅーん……」
知識の言う様に、ブロンド髪女性はカタコト日本語をしゃべる外国人を演じる癖で、ド忘れしていた様だ。
人は無知を装うと、その分だけ忘れやすくなってしまう生き物である。
知識は構わずに言葉を続ける。
「……”アレ”にはまだまだ反応が必要でっ!……このプランは確定事項だっ!……しつこいぞ?」
ブロンド髪女性は春香を家に返したい様子だが、知識はそれを何度も却下している口ぶりをしている。
「……ヘェー……ン?!……でも計画ではこの反応が出るまでひと月は必要だったんでしょ?まだ一日ぐらいしか経ってないじゃない?」
女性は”計画通りに進んでいない”と言っている。
端的に言って”お前のプランはあてにならない!”と言っている訳だ。
「っ……ともかくだっ!、、生体反応の戻り方としてはプラン通り。……こうも法力の親和性があったのは誤算だが……早く回復する分には問題無い。……俺を誰だと思っているんだ?」
「……ホゥーォゥ?……おーきー……まぁ、春香に”アレ”が誰なのか”嘘でも””本当でも”教えたからだったのかもネ?……さすが知識。ヘルォヴァ……ヴィゼン……」
女性は言葉の最後が尻すぼみして聞こえるようにその空間から出ていってしまった。
「ちぃっ!……おいっ!表の奴らを撤収させておけ!…………日本に住んでいるのなら、目上の者に対して少しは敬語を使う事を覚えろっ!?……これだから西洋かぶれはっ!……」
知識は最後に指示を飛ばすとブロンド髪女性に罵詈雑言を言い返す。
”ヘルォブァ~~”とは”~~はすごい”と言う”hell of a...”の砕けた間柄で使う言い方だが、”~~はとても悪い”と言う意味にも訳せる。
そうならないために”ヘルォヴォ~~”の”~~”部分の最初に”グッド”等の良い意味の形容詞を入れるのが通例である。
もしも”ヘルォヴォ~~”に名詞が続けば、”~~はとても悪い”と言うニュアンスになる。
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『ザーーーーーーッ…………』
『ジャャン!……ジャァバ!……』
場所は雨が降りしきる住宅街だが、左手には岩肌の見える小高い山がある。
車が水たまりで盛大に水をまき散らしていた。
だが清虹市は歩道のスペースを広く取っていて、そこを歩く者は車との距離があるために乗用車がまき散らす程度の水は露ほども掛からない。
歩行者は背広と私服姿の妙齢な女性二人と、私服姿の壮年な男性が一人。
”両手に華”状態に見えなくもないが、そのような表情をしている者は誰もいない。
「金山さんの話だと……ここを左だな。」
黒い大きな傘の下で携帯電話の画面を見つつ、男性が言った。
「あの……トウさん……あの……ちょっと込み入った話をしたいんですけど……」
その後ろ、白い傘を傾けて”妙齢”ギリギリな女性が男性に声をかける。
「……ん?飯吹君?そうだな……この事件を最後にお別れしてしまう事だし……今更だがなんでも言いなさい。私で良ければ相談を聞こう。……君には随分とお世話になったしな……」
斉木は飯吹の声音から、”真面目な今後についての相談”と思い、頼れる上司らしい事を言っている。
「……ああ、結婚式をするんなら私も呼んでくれ。君の場合は新婦側の招待客にも苦労するだろうし……”上司からのスピーチ”ぐらいなら私は別に構わんぞ?」
その男性、斉木謄課長はこの場に法力警察の面子しかいない事もあって、真摯に飯吹の話を聞いている様だ。
これが金山邸であれば目くじらを立てる所だが、今は傘を借りて外に出てきている。
「……あれ?……ライちゃん……トウさんに言ってくれてないの?……」「ん?……」
白い傘の傾きを右回りさせると、もう一つの白い傘をさしている女性に飯吹は近づいて縋る様に声をかけた。
斉木は今更ながらにアラフォー既婚男性一人にアラサー未婚女性二人、と言う状況を思って話に踏み込むべきか声を掛けられるのを待つべきか迷う。
「いえ……流石に……斉木課長はずっと金山さんの居るリビングに詰めてましたし……あ、今なら丁度良いんじゃないですか?飯吹先輩なら大した問題は無いと思いますよ。」
「……じゃ……」「……ええ、私も一緒に……」
「……ん゛っ、ん゛っっ……」
斉木課長が咳払いをするも白い傘を壁にして女性二人がヒソヒソと話し込んでいる。
『ガッ』「トウさんん!すみません!私の”退職願い”、取りやめて貰えないでしょうか!」
「なっ!……」
斉木課長から見て右の白い傘が廻り、向こうに傘を傾けてから傘の先端はまた空に向けて戻った。
飯吹が頭を下げて辞表の取り止めを願ったのだ。
『ガッ!』「私が実家に帰っていた時に行き違いがあった様です!飯吹さんのこれまでの実績と今後の働きを考えるとこれぐらいの事は些末な問題ですっ!、私からもお願いしますっ!」
「っっ!……」
左の白い傘が鏡の様に左右反転して動き、雷銅が飯吹の意見に援護射撃を行う。
こちらも頭を下げている。
「……っ、いぃ、いや、、もう退職金も出てるし……特別に明後日には最後の給料が振り込まれて退職なんだが……あと、雷銅は飯吹君の後釜……つまり隊長には君が有力視されていてだな……」
「「えっ?」」
飯吹は本人の気持ちとは裏腹に、無職となってしまっていた。




