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力の使い方  作者: やす
三年の夏
206/474

#205~力は珍しい~

大変おくれました。短いですが……

「……」


勝也は土旗商店街を歩いている。

「勝兄ぃ!”雨だ”!」

前を歩く”雨田”厘が意味も解らずに高いトーンで言葉を上げる。

「……はぁ……厘?…………仕方ないから家まで走るぞ。まだ降り始めだから、今から走ればそれほど濡れないって。」

「えー!?……”そこ”に傘があるじゃん!」


厘が言っている”そこ”とは商店街のコンビニに置かれている傘だ。

昼を大分過ぎた頃に雨が振り出した事で、商業チャンスと言わんばかりに店先に傘は並べられている。

「タカ「えぇー!?……(イカラ)」ダメ。」

勝也のお決まりのセリフなのか、勝也がしゃっべている途中から厘は不満の声を出す。

「……勝兄ぃが勝手にあかりちゃんの家にスグ行くって言ったんでしょー?勝兄ぃが悪いんじゃーん!それぐらいならお母さんに黙っててあげるから買っちゃいなよ!カードは持ってきてるんでしょ?、仕方がないから勝兄ぃと厘で一本の傘で良いからさ!?」

厘はめげる事なく二人の母・澄玲から勝也に託されたお金を使うように言っている。

”カード”とは清虹市内であれば地方通貨の電子マネーで支払いが出来る”清虹カード”の事だ。


「きっ…………いや、そもそも厘が家の鍵を友達の所に忘れて来たのが悪いんだろ?……だからダメ。それにまだ本降りじゃないんだから走れば良い。」

勝也は一瞬口ごもり、何かを考えていたが様子だが、それはそもそもの原因として”厘が友達である地元明ちゃんの家に鍵を落としていたのが原因だ。”と、責任の所在は厘にある事を挙げる。

口ごもったのは”今日は臨時休校で本当は外出禁止なのに……”と言おうとしていた為だ。

一応厘が言う所では、厘が何らかの班長で恐らくは”班員の明ちゃんの様子を見る為”で・母・澄玲には”了解を取って外出している。”と言っている。

もしかしたら厘は厘で”凄い人”なのかもしれない。

それに比べて勝也は後ろを歩く母の高校時代の先輩・飯吹金子にそそのかされて(?)ランニングしに外出してしまっていた。

体裁的には勝也の方が外出目的としては認められないかもしれない……


「っぷ……うむぅ……」

当の飯吹はと言うと、腹が満たされたのか爪楊枝を口に咥えながらゲップをするという器用な芸当をして、至福の笑顔を勝也達に向けて歩いている。


「あの、っ、じゃあ……俺たちは雨も降っているので走って家に帰ります。「むぅ!……」……春香の家か警察署で待ってた方が……何かわかった時にすぐに動けると思うのでそっちに行ってください。「……うっ……」……ではよろしくお願いします。お昼ご飯はごちそうさまでした。「……でしたー!」」

厘は勝也の勝手な物言いに抗議の声を挟むのだが、春香の事を出されると態度を変えて勝也の声に追従する。


「……いやいやぁ……怒った顔も可愛いなぁ……いやっ、大したモンでもないから、……ないからー……今日みたいな天気なら……えっ!雨!!、、あぁ雨か、っ!!”雨だ!”……」

飯吹は勝也がお礼を言って、その反応を待つまで至福の時……と言うよりも、どこか抜けている状態から覚めていなかったらしい。

「……よしっっ!!……じゃー私が一肌脱ぐよっ!、、ふんっ!……私が厘ちゃんの傘を用意してあげるからねっ!、、ふんっ!……」「っ……」「いや……」

飯吹は鼻息荒く歩き出す。


「………………」

少なくとも勝也は初めから・厘はそんな勝也を見てから特に、春香の身を案じている。


「よしっ!」『ガシッ!』「……へ?」『ガシッ!』「……んっ!」

てっきり二人の横を通り過ぎ、”商店街三番街のスペース端にあるコンビニで傘を買ってくれる!”のかと思ったが、飯吹は流れる様に屈みこむと勝也と厘の二人を自身の両腋に挟む。

「よいっ……しょ!……っと……へへぇー……」

軽々と小学三年生の勝也と二年生の厘を持ち上げる飯吹は優しく微笑む。

「……じゃー二人の家に走って帰るからー、しっかり捕まっててよー!」「え?」「おー!」

「ふんっ!……」

飯吹はまだ本降りでは無いが、コンクリートの色が点々と変わりつつある家路へ走り出す。

傘を欲しがっていた厘はすでにその事はどうでも良い体で右手をアーケードの天井に向けていた。


「……っ、……っ、……」「……」「……」

商店街のアーケード街部分を抜ける間際、三人の前には雨を受けて黒くなり始めている道が迫っている。

「……っ、……っ、……すぅー、真空の壁(バキュームバリア)っ!……」『ブォォォ…………』

飯吹はまばらに弱い雨の中へ飛び込む寸前に発言した。

『……ォォォォー……』『ピトッ、ピトッ、ピトッ……』

飯吹の頭上数センチの所で風が爆ぜている。

飯吹の所だけはほとんど雨が当たっていない。


「すっ、すごい……」「っ!、傘だー!」

勝也が驚く様にそれは技能的なスキルの応用であり、厘の言うようにそれは傘と殆ど変わりない。

「……ちょっとっ、……これで一杯一杯だからっ、……飛ばすよーっ、……っ!」

飯吹は前と上に視線を飛ばしながら、走る速度を増していく。


真空の壁(バキュームバリア)は風系法力の中でもほぼ最高難易度の技だ。

そもそもこれはその性質的に力場を移動させる様な技ではない。

勝也と厘はどちらも平均程の体形で、二人合わせて40kgほどだ。

それでも厘が走るよりその速度は速い。


「「……」」「……っ、……っ、……っ、……、っ……」

「……」「……」

途中、光る服を着た工事員がマンホールに入っていたり、道路工事の誘導員が、おそらく飯吹へ好奇の目を向ける。

だが、飯吹はそれらにかまわず走り去っていく。

清虹市では珍しい光景だった。


清虹市の梅雨入りを告げる”雨だ”った。

今年もありがとうございました。

また来年も気が迷ったらよろしくお願いしまぁす!ヾ(*´∀`*)ノ キャキャ ヾ(*´∀`*)ノ キャキャ

また来年もよろしくおねがいし”やす”。です。

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