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力の使い方  作者: やす
三年の夏
201/474

#200~かける力~

#198~力をカける~のBパート的お話です。

時間は同じ頃ではないかもしれません。

遅くなりました……

「……」

春香が眠っている男性、話によれば死んでいる本郷郷史に御礼を言った。

だが、自分が帰れない事に思い至った後、どうする事も出来ずに眠っている本郷郷史(仮)に視線を注いでいる。

[……」

本郷郷史(仮)も返すのは沈黙だけである。

「……はぁ……」

春香はため息を一つ吐き、踵を返して隣の空間に戻る。


「……っ……食器がなくなってる……」

中央の空間には奥の壁に付けられる様にして、学校にあるようなテーブルが置かれている。そこには春香が注文して頼んだ一人掛け椅子があるのみだ。

椅子はお尻部分にあるクッションが丁度いい弾力を返し、低い背もたれは固めの低反発マットが置かれ、ただ単に柔らかい訳ではなく、饒舌に尽くしがたい掛け心地の一脚だ。クッションとマットの希少性からかなり強気な価格の物となっている。

テーブルの回りには椅子ぐらいしか置かれていない。

だが、テーブルの上には昼食の牛丼を食べ終えた後の空の丼ぶりがあった……はずだが、今はトレイと共に無くなっている。

そこに置かれているのは画面の端で充電を知らせる赤いLEDが発光しているタブレット端末だけだ。

独特な色合いの薄肌色のテーブル天板には無接点充電機構・俗に言うワイヤレス充電器が仕込まれているらしく、テーブルの上に置けばタブレット端末は充電される。


『ガッ……』

タブレットは一見すると武骨な板の様にシンプルな見た目で、インターネット接続も出来るのだが中身、つまりはソフト面が色々と改造されている。

『カチッ……』

春香は椅子に座り、テーブルに置かれた端末を持つと画面を付けた。

『……フォンフォン、カツン……』「……使いづらい……ネットに繋がってるって言っても何も出来ないじゃん……」

・まず始めに大まかな所を言えば、文字入力が出来ない点だ。ゆえにインターネットも用意されたページから文字や絵などをタッチして別ページに飛んでいくしか情報を閲覧出来ない。

この文字などのテキストや絵などを選択して別ページに飛ぶ物を一般的に”ハイパーリンク”と言うが、それだけでは助けを呼ぶ事は出来ないだろう。

『……カツン、……プッ……、ブッン……』

・また、地図等の現在地を細かく見れるページへアクセスしようとすると端末画面は暗転して震え、ホーム画面に戻ってしまう。

IPアドレスやインターネットに接続するプロバイダ等を閲覧できるサイト・大手検索サイト等の無料メール等も同様にしてアクセスは出来ていない。

「……画面が暗くなる?……これ、壊れてるの?……」

尤も、春香にはそこまでの知識はない様だ。

『カツン、……』「……はぁ……もう一回連絡するにも相手が……」

・最後はソフトやアプリ等はインストールが出来ず、タブレット端末のホーム画面にある”連絡”から外と通話が出来るのは現状”知識(ノウレッジ)”だけだ。

本来タブレット端末に用意されている”通話機能”部分らしく、何人も連絡する相手を登録できる様だが今は知識(ノウレッジ)のボタン一つしかない。

”通話機能”部分と言っても、電話回線の通話や電子メールアドレスでメールを送る機能は使えない様子である。


先ほどは間違って知識(ノウレッジ)に連絡してしまったが知識(ノウレッジ)はこちらに構わず話をするタイプらしく、春香としてはあまり連絡を取りたくない相手であった。

『……フォン、カツン……』「……もうこれからずっと雨か、みんなどうしてるのかな?……」

タブレット端末の本体設定等も見当たらないが、位置情報は大まかに設定されているらしく、用意されたページ・検索サイトのトップページには清虹市の週間天気予報や発生した事件・渋滞状況などの情報がそれらしく表示されている。




このタブレット端末がここに置かれた時に初めに振るえて、一方的に着信したビデオ通話で知識(ノウレッジ)が言っていた事だが、仮面ジャージ集団からの接触は無く、ジャージ姿に仮面を身に着けた誘拐犯達とは生身で一度も会っていない。ここで彼らを見たのは画面越しのビデオ通話だけだ。


「…………………………何なの?……」

そのおかげなのか春香は恐怖心がイマイチ沸いていない様だ。誘拐された身の上とは思えない独り言を言っている。


食事やお風呂等の道具・春香の着替え・タブレット端末で購入させた物……等は春香が別の空間に行っている隙に別の空間に用意されている。

誰かがこの空間に訪れて、それとなく置いて行っているのかも知れないが、足音や息遣い等を全く悟らせない動きは徹底していた。

まるで目に見えない小人が人知れずに世話をしてくれている様な気分でさえもいる。

そんな風に楽観出来てしまう程、この空間の居心地は悪くはない。


「あーーーっ!、、もうお家に帰りたいっ!、凪ノンのごはんが食べたいっ!――」

春香はらしくもなく、一人空しく叫ぶ。


『ガタッ……』


「――……ん?……今の音って……」

春香は一人なのを良い事に叫んだが、どこからか聞き覚えのある物音がした。

現金な物で”今度は”音源の方向も分かってしまう。

隣の空間にある白いベッドで眠る本郷郷史(仮)のベッドが軋んだ音だ。

「……ま、まさかね……」

彼が目醒めるハズはない。

何故なら彼は脳死しているハズ……

”法力”は”魔法”とは違い、人を生き返らせたり、何の知識も代償もなく傷を癒す事は出来ない。

体内にある水分を操作して新陳代謝を上げて細胞分裂を促進し、出血を止めたり、肌を再生させる事等は出来るが、それも結局は人の生まれ持った再生能力の強化や、増幅ぐらいでしか法力によって医療は進歩していないのだ。

骨は土系法力で強度を増したり整形させたり、血の状態を水系法力で改善させたり……と言った具合だ。

それでも物理的に人の手の届かない所を法力で治療出来るのは強みだが、漫画やゲームの様にただ単に”回復しろ”と治す事は出来ていない。

その為に法力医師がいる。


『ガッ……』

春香は椅子から腰を上げると隣の空間に向けて歩く。

今思えば隣で目を閉じている”モノ”は表情を変えたり、咳き込んだり、口に入れた物を嚥下したり……と言った反応を返している。

ただ単に”脳死”と言っても種類はあるのかもしれない。


『……ッ、ッ、ッ、ッ……』

コンクリート張りの床に絨毯を敷いただけの様な硬くもどこか柔らかい感触を返す床を春香は歩く。

手に持ったタブレット端末の画面を見ると既に時間は結構経っている。

ついさっきお昼ごはんの牛丼を食べた様に思っていたが、唯一外の情報元であるタブレット端末の時間は恐らく正確だ。


壁の一区画が無い空間の隅まで来た春香は、隣の空間に視線を向ける。

「グゥ……フゥ、フゥ……」

「……え?……っ!……」

春香は一瞬遅れて悲鳴になっていない声なき言葉を漏らした。

茶色いフレームの上には白を基調としたシーツとタオルケット、その間には寝かされている……と言うよりは安置されている(元)男性・本郷郷史(仮)の顔がある。

問題なのは顔が天井に向いていない事だ。


「……フゥ、フゥ、ッ!、ッ、フゥゥ、フゥゥゥウウ!……」

本郷らしき顔であった”モノ”は、あろう事か瞼を開けて黄ばみつつも赤さが見られる白目を春香に固定して、口を開けて何かを訴えている。

口からは空気も出ていない。

こけ過ぎてもう落ちる肉が無い頬は決して横に膨らまないが、それはまるで春香に何の意味も無く、ただ単に訳もなく吠えている様にも見えた。

「えっ?えっ?……こっ、”これ”……どうするの?…………」

春香は何も出来ない。全くどうすれば良いか、分からない状態だ。


人は困った時に視界が定まらなくなって、見えるモノでも見えなくなってしまう。

何も本当に視界が悪くなって”見えない”と言う訳ではなく、手に持っているモノでも、それが”そのモノ”と思えなくなってしまう。

今の春香がその状態だ。

手に持って来たタブレット端末が只の”板”状態となってしまった。

「えっ?えっ?……こ、こんな時……勝也だったら……」

春香はここには居ない腐れ縁、”雨田勝也なら現状をどうする?”と少し頓珍漢な事を思ってしまった。


勝也は冷静な者で、時には憎らしくなってしまう程に”正しい”選択をする。


「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」

「……っ……」

と本郷の唸り声をBGMに春香は冷静さを取り戻す。

『カチッ、フォン、フォン……』

タブレット端末の画面を付け、選ぶのは(くだん)の”連絡”である。

『ピッ、ピッ、ピロン!……ツー、ツゥー、……』

春香はタブレット端末で電話をかける。

相手は勿論知識(ノウレッジ)その人だ。

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