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力の使い方  作者: やす
三年の夏
189/474

#188~力は繰り返す~

「……あ、あの!少し時間がかかるので……お、奥のテレビがある部屋に行ってください!……ま、ママがいますから!」

明ちゃんは何故だか知らないが声を張り上げる。

厘を中に入れたい用事が何かあるのだろうか?その間、余った勝也を家に上がらせて時間が掛かるのを紛らわせたい?のかも知れない。


彼女は以前……多分だが学校で会った時も今見るのと同じ様にオドオドしていただろう。

髪はショートでさらさらとしている。顔全体で言えば丸っこい印象を受けるが、太っている訳ではなく顔の凹凸がくっきりしていて、頬の表情筋・頬筋が可愛らしくぷっくりしている。

見た限りの身体のラインは細く、腕等の四肢は骨と皮ぐらいしかない程度で、一言で言えば華奢な体形の子だ。


「え?……い、いや……俺はここ……」

勝也はさっさと鍵を受け取り早々に退散したいのだが……

明ちゃんは家のテレビがある部屋……リビングだろうか?そこにいろ!と、”もはや命令しているのでは?”とさえ思える剣幕である。

チグハグするような雰囲気を見ると、普段は口数が少ないのかもしれない。

明ちゃんの目は本気で、勝也はそれを断れそうにない。

彼女は玄関から続く廊下の奥を指さしている。


「り、厘?……これから”お昼”に何処か行くんだよな?」「んー」

勝也は頼みの綱として、”背後”にいる厘へ顔を向けると、厘はどちらにも取れないような表情だ。

「……じゃ、じゃあ……外で人を待たせてるから……なるべく早く……な。……厘?分かってるだろ?」

勝也は苦し紛れに、一人外で待っている飯吹を改めて厘に忠告する。”遊ぶ程長居するなよ!”という意味だ。


「……はーい!……行こっ!明ちゃん!」

厘が靴を脱いで廊下に入り、すぐの所にある部屋へ向けて進み、

「……うん……”勝也君”も奥のテレビのある部屋に行ってくださいねっ!」

明ちゃんは厘から身体を反らし、最後の念押しをする。

「……うっ、うん……分かった……じゃ、じゃあ……お邪魔します。」

勝也も仕方がなく靴を脱ぐと、靴下の足で玄関マットに立つ。

「……じゃ……勝也君、ごめんね!すぐに”済むハズ”だから……厘ちゃん!ありがとう!……」『ガタッ……』

明ちゃんは厘の後に続き、廊下の右にある部屋に入ると、扉を閉めてしまった。

「?……暗い……」

明ちゃんの部屋であろう扉が閉まると、廊下にあった唯一の光源がなくなる。


「……?……」

勝也は廊下が暗いのを見てから上に目を向けると、明り取りの窓は板で塞がれていて、代わりに傘の付いた照明が一つ天井からぶら下がっている。

しかし、照明には電球が付いておらず、ソケットが丸出しの傘だけがそこにはあった。

「……なんで??……」

人の家なのだし、別段それはそれで構わないが、日中でも前が見えない程暗い。

「ん?……ん?扉?……」

玄関から続く廊下は勝也の足で7、8歩で終わり、扉が三つある。

左、正面、右、に一つずつの扉だ。

明ちゃんの話では”奥”なのだから普通に考えて正面が”テレビのある部屋”なのだろう。

「暗いな……」

扉の隙間と言う程の隙間では無いが、扉下に小指一本ぐらいなら入りそうな隙間がある。

そこからはリビングであろう空間なのに、光が扉の隙間からもれていない。

暗い……

「……壁の壁紙が無いから暗く……?」

勝也が漏らす様に、地本家の家は、壁がコンクリートで出来ている。

家屋の床もそれに近い物で、絨毯が敷かれてあるから跳ね返る感じがせず、本当はコンクリートの打ちっぱなしの家なのだろう。

確かにコンクリートで作られた家もたまにあるからそれは良いのだが、ここまで日光を遮るのには何か訳があるのかもしれない。


『ガチャ、』「っ……ん?」

勝也は扉の取っ手に手を置き、それを下げて扉を押して開ける。

”テレビがある部屋”と言うぐらいだから、勝也の思い描いていた部屋は、

8畳ぐらいの部屋に大きなテレビと大きなサラウンドスピーカー等を置いた、シアタールーム的な物を想像していたが実際は”違った”。

大きさは薄暗くて全貌を掴めないが、おそらく広い。

物がそこそこあるので15畳ぐらいはありそうだ、ワンルームマンション一室の二倍ぐらいは大きさがある。

ここには冷蔵庫などがあるキッチンや、食卓、本棚に、テレビ・ソファー、色々な作業が出来る机等がある。

普通の感覚で言えば、”何でも出来るリビング”だろう。

それこそワンルームマンションの一室と言える。


だが、”違う”と言える決定的な事と言えば、

・昼間なのにカーテンを閉め切っている事か?……作業机の上には大きなスタンドライトが備わっており、部屋の光源としては小さいが部屋の反対側の隅でも一応は見渡せるほど明りが強い。

”リビング”と言うには微妙かもしれないが、これはこれでアリだろう。

では、

・明ちゃんの母親である女性が作業机に座り、今もなお勝也に背を向けている事か?……これも少々特殊だが、何かに集中していれば勝也が部屋に入って来た事が解らないかもしれない。

では、では、

・明ちゃんの母親である女性の纏っている衣服が”下着”だけな事であろうか?……まぁ、人の家の中だし、”ノック”もしないで部屋に入ったのだから、勝也としては何も言えない。

では、では、では、

・”テレビのある部屋”と言いながら、その部屋に何十個も本棚がある事だろうか?……まぁ、人の家だし、リビングの定義としては家族が(くつろ)いだり、日本では客を持て成したり、ある時は客を交えて家族で話をしたりする空間で、日本式で言う所の”居間”だ。

……と勝也は思っている。本棚の中は下着姿の女性の近く・作業机の周りにある本棚には一様にピンク色の漫画サイズの本が多いが、キッチンに一番近い本棚には料理が印刷されている本があるのを見るに、恐らく料理本が集まっているのだろう。まぁ、ギリギリで”リビング”と言えなくもない。


それでは勝也がなぜこの部屋がリビングでは無いと・”違う”と思ったかと言うと、なんて事は無い、明ちゃんの”ママ”であろう下着姿の女性を見れば、そう思うのは簡単だ。

彼女は作業机で呼んで字の如く、”作業”をしている。

机に広げた紙にペンをおろして何かを描いているのだ。

そう、描いているのである。


彼女は原稿にペンを入れる、漫画家であった。

つまり、彼女の”仕事部屋”である。

元々はリビングだったのかもしれないが……


「……あかりー!冷蔵庫から水取ってー!みーずー!喉乾いたのー!」

その女性は厘と部屋に入っていった厘の友達である”明ちゃん”に水を取ってきて!と頼んでいる。……下着姿で、だ。

「えっ!……ぃゃ、……え?」

勝也としては咄嗟にどうする事も出来ない。

キッチンにある冷蔵庫を開けて、中にあるであろう”水”を持っていけば良いのだろうか?

……いや、それよりも、厘たちがいる、明ちゃんの部屋へ行き、明ちゃんに”ママが用事があるらしい”と報告に行くべきだろうか?

十中八九でここに来た”勝也”を”明ちゃん”と誤解している。


「あれ?……あかりー?いるんでしょ?……『あっ……』…………きゃー!!!」

明ちゃんのママらしき女性は机に座りながら上体をひねって振り向き勝也を視界に収める。

勝也はそこで走って退散すればよかったのだが、生憎勝也は疲れが残っているし、それほど早くに判断出来ない。

「……す、すみません!あかりちゃんに言われてっ!……」

勝也は理不尽に思いながらも廊下に身を滑り込ませてから悪くはないのに謝った。勝也の父・(まさる)と同じようなラッキースケベを体験するが、年の功なのか、経験の差なのか、勝也の方が動転している。

「っ!……」

明ちゃんのママらしき女性は胸を腕のクロスで隠しながらひねった体を戻し、背中を晒す。

「……むぅ、むっ、むっ……」

”テレビのある部屋”を覗く者や、外から来た人はいないのに作業机にある椅子で姿を隠しながら、足元にあるスウェット上下を着こんでいた。

「……んっ?……」

明ちゃんのママらしき女性は作業机の下で服を着こみながら先程下着姿の自分を見ていた部屋への闖入者を思い出す。

何か引っかかる事があるのか、その女性から口を開ける。むろん、机の下からだ。

「……あのっ……入ってきて!もう大丈夫だから!……変な格好でごめんなさいね?……あかりのお友達でしょう?……男の子のお友達なんて初めてで……」

「……えっ?……」

勝也としては今日初めて面と向かって言葉をちゃんと交わした明ちゃんを”お友達”と呼べるのかはわからないが、そんな事を考えてしまって動けない。

「……えっとー……あれ?あかりのお友達はちょっと前に帰ったと思ったけど……まだ他にもいたのね……えーっとー……トイレの場所が分からなかったかな?……ごめんなさいだけど、おばさん忙しいから……あかりに言って案内して貰って……」


「いやっ、あのー……その”明ちゃん”から”この部屋”に行くように言われたんです……」

話がかみ合わないと感じた勝也は再度言葉を繰り返して廊下から部屋に入る。

「……えっ?……貴方……」

”明ちゃんのママ”は勝也の姿を見たからか、勝也の言っている事に気になったのか、少しだけ驚きの声を発した。

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