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力の使い方  作者: やす
三年の夏
188/474

#187~力の限界~

「はぁ、とうちゃーくぅ!」

先頭を走る厘は土旗駅から続いている商店街が終わった先にある、一軒家の前で大声を出すと足を止めた。

自転車なら10分程度かかる道を、約20分で走り着いてしまった。途中サイクリングロードを走るので自転車はその間をフルスピードに近い速度が出せるのに……だ。

「えっほ、えっほ、『はぁはぁ……』……おー…『はぁはぁ……』………見れば見るほど可愛いな……」

そんな厘から少し遅れて足を止める飯吹からは柄にもなく乱れた息づかいが聞こえる。……いや、息を乱しているのは飯吹ではなかった。


飯吹の腋から伸びる二本の脚・肩から伸びるのは二本の腕。

つまり、飯吹の背中には息を切らせている勝也が張り付いている。

途中で音を上げた勝也をサイクリングロードの途中で逆走し、勝也を背におぶってから厘を追いかけていた。

”明ちゃんの家”が何処か解らない飯吹は厘に先を走らせて、道案内も兼ねて後ろから見守っていた様子。

ちなみに、このランニングは鍛錬では無い為か、飯吹は終始無言だ。

「よし、もう良いね、下ろすよー勝也?」「あっ、はい……はぁ、はぁ、……どうもありがとうございますっ……はぁ、はぁ、……」


「ふっふーん!……」「……」

厘は地本さん()の前で腕を組み、仁王立ちし、勝也を降ろした飯吹は黙ってその横に立つとそれとなく厘を観察している。

「……ふっふーん。……」「……」

厘は変わらずに腕組をしている。地本さんの家はインターホンが玄関扉の横にあり、小柄な厘でも手を伸ばせば届く位置だ。

「……ふっふーん」「……」

二人は動く気が無いのが伺える。

「はっ、はぁ……厘?、っ……何してんだ?行って来いよ……」

勝也の息を切らしながらの命令だ。


「ふんっ!……勝兄ぃがっ、明ちゃんチに行くってっ、言ったんだからっ、勝兄ぃが行って来てよっ!……厘もついて行くからっ。」

「はぁ……はぁあ?……お前がカギを落としたんだからっ、お前が行けよっ……厘の友達だろ?……何で俺がわざわざ……」

厘のおかしな要求だ。友達の家にした忘れ物(落とし物?)を取りに行くのだから、忘れた(落とした)人物である厘が取りに行くのが普通だろう。

勝也は半分以上を走らずに背負われていたので回復が速い。

さらに、厘の友達にその兄である自分が行くのでは相手に余計な気遣いをさせてしまう。

むしろ、”ついていく”のは勝也の方である。

もっとも、”ついて行く”とは言うが、玄関で忘れ物である鍵を受け取るだけだから、家の前・つまりはここまでで”ついて行く”程の距離はすでにもうない。

「ふっーん……」「……ぁあ!?厘!いいかげんに……」

厘はご機嫌斜めなのか、聞く耳を持っていない。

最後は態度が過ぎる厘へ声を荒げる勝也だ。


そんな兄妹のやり取りを止めるのはやはりその場に居る大人・飯吹である。

『グゥ――……』


『『『……』』』


「……あぁー!……もう!」

飯吹は一言も声を出さずに兄妹のやり取りを止める。

勝也は根負けした。

確かに勝也は勝也で意地になっていたが、厘の態度はらしくなく……よろしくない。

友達の家のインターホンを押したくないのだろうか?……もしくは、ただ単に勝也へ反抗したいだけなのだろうか?

勝也は厘の考える事がワカラナイ……


『ピローン、ポローン!』

少し特殊な音がインターホンからなる。まぁ、メーカーによっては無くは無い呼び鈴音だ。

『はい……』

インターホンからは女の子の声が聞こえてくる。

厘の友達である”明ちゃん”だろうか?勝也は応える。

「雨田です。鍵を受け取りに来ました。厘が迷惑をかけてすみません。」

『あっ!はいっ!今開けますっ!タッ、タッ、タッ……』

インターホンは女の子であろうその足音も勝也に教えてくれる。

「あっ……いえ……」

勝也は預かって貰っている物が物だし、一部の人は”他人の大事な物”は自分の家に”あってはならないモノ”として大事に、けれど”扱いにくい面倒な物”と考える人が居る事を知っている。

”自分の大事な物”を人の手に渡すのは”相手の負担”になる。


ともかく、家の鍵なんていう物は”出来るだけ早くに回収する”のが望ましい。

そう思ってすぐに受け取りに来たのだが……

……逆に”大事な物だから早く返せ!”と言っている様に取られてしまったのだろうか?

人との付き合いはその人の数だけ考えを持っている人が居る為に、最適解は分からない。


『ガチャ……』

勝也がそんな風に気をぐるぐる回していると、玄関扉が開く。

「どーも。わざわざありがとーございます!」

玄関扉から出て来た女の子はいつだか勝也が見た事がある女の子だった。

厘の友達ならばあった事は何回かあるかもしれないのだから、記憶力の良い勝也にして見れば別に普通の事だ。

勝也の”背後”にいる厘が口を開く。

「明ちゃーん!おかえりー!」

「り、厘ちゃん!……た、ただいま……どうぞ、中へ……」

『ガチャン……』

明ちゃんは頬を赤く染めながら、明ちゃんが手招きする玄関へ入ると帰りの挨拶を行った。

玄関扉が独りでに閉まる。


勝也は厘がふざけて、ただ単に意味も無く”逆の挨拶”をするモノだと思っていたが、明ちゃんもしている所を見るに、厘たちのクラスで流行っているのだろうか?

「あっ、、いや、違うんです。……漫画でやってる事を私達もふざけてマネしよう。って言って始めたんです。……か、勝也君、せっかく来てくれたのなら……上がってください。」

勝也は厘が言うので慣れている。しかし、それを知っているのか考えが及ばないのか、勝也の自然な視線を勘違いして明ちゃんはアタフタして弁解する。

「……漫画の”マネ”だったの……ま、まぁそれは厘がウチで散々やってるから別に全然良いんだけど……えっと……鍵を貰えればすぐに帰るから……電話してくれてありがとう。」


「……」

地本さんの家の前では女性が一人、飯吹が勝也達を待っている。

周りに気を張り巡らせる飯吹は真剣そのものだった。

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