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力の使い方  作者: やす
三年の夏
186/474

#185~力の推理とその対応~

「うぉー!……」「……うっ、うっ……」

飯吹は高校の後輩である雨田澄玲のカワイイ息子・雨田勝也を肩に背負って走っている。

またその走りは、職場の後輩……いや、勘違い系で暴走気味の、職場でいつも慕ってくれる雷銅陽子が思い人(?)である平岩雄二秘書に物申す為なのか、金山邸へ行く為に本気のランニングを思わせる頑張り様だ。

勝也は為すすべもなくされるがままで、お腹を肩に乗せている為に圧迫されて口から息が漏れている。


勝也は勝也で”妹の厘が家でお腹を空かせているかも知れない”と家に帰ろうとしているのだが……

飯吹の急いでいる姿を見るに、それを覚えているか定かではない。

「……うっ、ん?ここうっ、うっ……」

サイクリングロードに点在している出入り口で雨田家に一番近い場所が迫っていた。

勝也は後ろ向きにお尻を進行方向に向けて担がれているので視界が後ろ向きだ。現在位置の認識は遅れがちである。

「……うっ、あのっ!ここでっ、おろしてっ、くださっ!、春香のっ、家にっ、行くならっ、……ウチまでっ、行くとっ、うっ……」

勝也は勝也でちゃんと、飯吹が急いでいる事を思い、”ここで下ろして貰って、後は勝手に帰る”と言っている。

「ふっ、ふっ、ふっ……」

しかし飯吹はそんな事をお構いなしに足を動かしている。

勝也は振動で言葉が途切れ途切れである。

『……ガァーーザッザッ……』「うっ……え?」

飯吹は素早く動かしていた足を止め、ブレーキ役の足とは反対の足を進行方向側に回し、遠心力を使って横向きの慣性を方向転換のエネルギーに使う。

『……ダッ!』

方向転換した所でブレーキ役の足を浮かせ、軽くジャンプして体の向きを変えた。

「うぅっ!」

肩に担がれている勝也は突然の動きについていけていない。またもお腹の空気を吐き出してしまう。

だが、飯吹はそれに構わず、外に回した足の着地点を身体の前に置き、ブレーキ役の足を踏み出して速度を落とさずに走り始める。

「……あぁー……」

飯吹は勝也に応える様だ。

「……うん。……お構いなくー!家まで送るよっ、後ちょっとだから、もうちょいガマンガマン!……」


本気だったり、キツイランニング中に急に立ち止まると、”運動後低血圧”と言う症状が出る事がある。

よく、運動をしている時や、その運動を少し止めた時、動き始めた時にめまいや視界が一瞬暗くなったりする。

これは血液が足りなくなる事で起きる現象だ。

メカニズムとしては、

・運動する事で足や腕などの部位に血液が多く送り込まれる。

・血液はすぐに作られる訳ではないので、身体にある血液は足や腕に多く集まる。

・その結果、脳にある血液が極端に減り、脳が低血圧状態となっていろいろな不調が出てしまう。

これを避けるには、運動中に水分を取る事や、激しい運動を終わらせる時は徐々に運動の負荷を下げたりして血液を少しでも均等になる様に”クールダウン”するのが好ましい。

身体にある水分は汗などで減らしてしまい、それに伴って血液中の水分も減ってしまう。

血液中の水分が減れば血圧が下がって血管が広がってしまい、血管が広がる事で血が重力に引っ張られ、血液が人間の一番高い位置にある脳へ十分な量を送り込めなくなってしまう。


なので特に激しい運動中はお腹に『タプタプ』音がするほど程貯まって動けなくならない程度に水分補給する事が望ましい。

今はまだ激しいランニングを徐々にゆるめていないので勝也を肩に乗せている飯吹としては速度を急激にゆるめられない。

本当はサイクリングロードの出入り口をすごい速度で飛び出す事は危険な事この上ない動作なのだが、サイクリングロードにある歩道の急角度で人をおぶりながら走り抜ける事は難しい造りであった。

「……えっほ、えっほ……」

飯吹の行く先は歩道が続いている。横断歩道の信号までをクールダウンの場所としているらしい。

勿論飯吹はそんな、”運動後低血圧”からの転倒を心配しているわけではなく、ただ単に急いで勝也を家に送り届けたい為なのだが……




「とーちゃーく!……」『ダッ!』「ぇ……うふっ!」

飯吹は雨田家の前で最後に飛び跳ねてから勝也を肩から下ろす。

最後にそんな運動をプレゼントされた勝也は最大の衝撃をお腹に受けて軽くむせてしまっていた。

「……じゃー悪いけど、私はコレで!」

飯吹は勝也に敬礼をしてから反転し、またもサイクリングロードへ向けて走り出そうとしている。

「っ……ど、どうも……っ?」

勝也は飯吹から解放されて、”一応は”家まで届けてくれた事に対し、御礼とは言えない程度な言葉を送って見送ろうとしている。


飯吹に向き直った勝也は家の前にある塀を視界に入れて何かに気づく。

「り、厘?どうしたんだよ?そんな所で座って?……家のカギは持ってるだろ?」

「ぅぅ……」

塀と勝也達の自転車が停めてある間には勝也の妹の雨田厘が暗い顔をして座っていた。

その元気の無さは普段の彼女から見ればとてもおかしい。

”春香が連れ去れた”と聞いて、少しの間見せていた顔で、その日のうちに立ち直ったのかどうかは解らないが、すぐに引っ込めた表情だ。

「……ぅ……」

「?……何かあったのか?」

勝也は厘に視線を注いでいるが、それに気づいている厘はなかなか口を割ろうとしない。

「……………………ぅ……ぃ……ぁ……」

「うん?何だって?……」

勝也は厘が喋るのをじっくり待ち、厘はそれに耐えきれずに何かを喋った様だがとても聞き取れる物ではない。

「……ぅ……」

厘は勝也の視線に耐え切れなくなり、しゃがんで突き出ている膝に顔を押し付けてしまった。

「?」

勝也は厘がどうしたいのか?・何が起こったのか?・何をしたいのか?

本当に何も皆目見当がつかない。

今朝見た限りでは特に”こうなる”原因は思いつかないし、あるとしたら春香が居ない事に今更ながら”ショック”を受けたぐらいしか思いつかないが……

それも理由としては弱い、、、、様な気がする。

「……」


勝也は考える。

となれば原因は前から起こっていた事ではない可能性がある。

最近……と言うか、今日起こった事なら勝也は知りえない事だ。

・厘は家の前、人目のつかない所でふさぎ込んでいる。

・自分が帰った事、つまり、厘が勝也を見た事で顔をそむけている。

・厘は朝早くから恐らくは友達の家に遊びに行っていた。

「うーん……」

勝也は唸って考える。

勝也が一番気になっている事は”厘が家の前でふさぎ込んでいる”事だ。

友達と何かあったのなら、わざわざ”ここ”ではなく自分の部屋に籠るだろう。

と言うより、家の外で何かあったのなら”ここ”にはいない。

自分の部屋に入れない何かがあるのだ。


ひとしきり考え、答えを閃いた勝也は厘に答え合わせをする。

「……厘、お前……家のカギをなくしたな?」

「……っ!……」

厘は勝也の声に何かを思い、言葉を詰まらせている。

「……うん……」

「はぁ……」

どうやら勝也の読み通りだった様だ。

厘は友達と遊び、元気に家に帰ってきて家のカギを失くした事を家の前で気づき、ショックを受けてここ、玄関扉の前で途方に暮れていたらしい。

「……ならここに「えぇ!厘ちゃん!、それなら探しに行こう!まだドコかに落ちてるかも知れないよ!私がおぶってあげるからさっき行った所に探しに行こう!」っ!まだいたんですか……」

勝也が厘に声をかけ、解決に向けて動き出そうとしていた矢先に、塀を覗き込むようにして飯吹が現れる。

てっきり金山邸に”ライちゃん”こと雷銅陽子を止めに向かったと思っていたのだが……

飯吹は塀の外で雨田兄妹の会話を聞いていたらしい。

「よし!じゃー」

飯吹は厘の手をむんずと掴み、厘を胸に抱きかかえようと動きだす。

勝也の時とは違い、お腹に抱きかかえる様にして連れ出すつもりらしい……

「あ!待ってください!……その前に確認します!……」「およ?」

勝也は厘、と言うか、飯吹に制止をかけ、矢継ぎ早に声を重ねる。

「家のカギはズボンの蓋付きポケットに入れてたんだよな?」

「うん……」

素早く頷く厘の服装は私服であり、ズボンはポケットが7,8個の薄いメンパンで、登山用品のメーカーが出している丈夫な物だ。

上はTシャツに薄い上着を羽織っている。

上着は薄い生地ながらも内ポケットあったりと、物を入れるスペースが多い服となっている。

「そうか!他の所にしまってて、”落とした”んじゃなくて、どっかのポッケに紛れて……」

飯吹は厘の体中をベタベタ撫でまわして持ち物をまさぐる。

「……」

厘は飯吹にされるがままで声を上げようとすらしていない。

「……あ、いえ、そうじゃないんです。鍵は多分、厘の言う様にズボンのポケットにあったと思います。……今家のカギを開けるんで……」

『カチャ!』『ダッ、タンタンタン……』

勝也は同じくズボンの蓋付きポケットから鍵を取り出すと、家の玄関扉をそれで開けて、玄関に侵入する。

「んー?……落としたのなら、すぐに探しに行った方が良いんだけど……」

飯吹はそんな事を言いながら勝也に続いて玄関へ向かった。


『ガッ……』『トン、トッ、トッ……』

勝也は玄関で靴を脱ぎ捨て、廊下を走る。

目指すはキッチンだ。

『ガチャン。』「んー?」「……むぅ……」

飯吹も厘を胸に抱いて玄関に入ってきている。

しかし、”すぐに家を出る事になるだろう”と視線をキッチンの方へやるだけで後には続かない。


「……やっぱりか。」

勝也は1人納得している。

「むぅ?」「んー?」

飯吹と厘はシンクロする様にして、頭にハテナマークを交互に出している。

「厘、ちょっとコレ聞けー」

勝也がキッチンの中から玄関にいる厘へ声を飛ばす。

『ピッ!』『ピーッ、五月○○日、7時台に録音通話一件、12時台に留守番電話が一件あります。』『ピッ』

『ガッ、えーと……雨田厘さんの友達の地本(じのもと)(あかり)です。……今日厘ちゃんが家にプリントを届けてくれて……とても助かりました。ありがとうございます。……でも、厘ちゃんが帰った後に気づいたんですけど、多分……お家のカギをウチの玄関に落として行ってしまったと思います。今日の夜にでも、厘ちゃんのお家に鍵を届けに行くので、厘ちゃんの持ってた鍵について、違ったり、何かあれば電話をお願いします。……では失礼しました。ガチャ……』『ピーッ!五月○○日、12時台の留守電です。』

(あかり)ちゃんの家だったー!はぁー……良かったぁ……」

飯吹の胸で抱っこされている厘は落ち込んでいた姿はどこ吹く風で喜んでいる。

飯吹は思う。

『この兄妹……特に兄の勝也はデキル!』と……

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