#183~力の期待ハズレ~
上司の呼び方・敬称で少し変更しました。
申し訳ありません
「んぅ……後輩の息子の体力が無さすぎる……本当に男の子なのー?……」
飯吹はサイクリングロードで北へ向けて、勝也を身体の前で押して歩いていた。
「……はぁ、はぁ……い、一応そうですけど……はぁ、……俺……っ……あんまり…………走る事ないんで……」
「むぅ……」
どうやら勝也は普段、徒歩か自転車で移動する事が多く、ことランニングやスポーツ等で体を動かす遊びはしていない様だ。
飯吹はそれほどスピードを出して走っていた訳ではないのに、思った以上に走れない勝也を目の当たりにして言葉を失っている。
「……澄玲ちゃんはテニスとかのスポーツはバリバリ出来てる子だったって聞いたけどなぁー……」
勝也は肥満体形ではなく、髪は短めでそれだけ見ると”活発な男の子”然とした風貌なのだが、中身はそうでもないらしい。
勝也の母・澄玲は運動が出来る少女だったらしいのを先輩である飯吹は人伝に聞いたのを思い出している。
「……勝也は普段運動はしないの?……最後に運動したのはいつ?」
矢継ぎ早に重ねる質問だ。飯吹の教官魂に火をつけたのかもしれない。
「はぁ、はぁ、……えーっと……先週最後に……はぁっ……学校の体育の授業で」「あーもういいよ。……普段は学校以外で運動しない子なのね……」
勝也の考えながらの遅い答えにほとほと呆れ、飯吹は勝也の体力を心配し、言葉を切っている。
「……じゃー明日はウォーキングだねー……じゃー明日の予定はウォーキングで『プルプルプル!』ん?……失礼!……」『プルプルッ、ピッ』「えっ?……明日?……」
飯吹は勝手に勝也の明日の予定を立ててしまう。
「……」
勝也としては”それよりも春香の事は良いんですか?!”と、言いたいのだが、
飯吹はポケットにある携帯電話の呼び出し音を聞くと、軽く断りを入れつつスラックスから電話を取り出して耳に当てていた。
『……はいはい!……うん……はい……はい?……ぁー……えぇ……ぁ、ぁぃ……ぅん……』
飯吹は空いた手で顔を向ける勝也の前で手を広げている。
勝也から見るとそれは格好良く電話を受け、仕事に勤しんでいるような身振りをしているのだが、それとは打って変わって電話に向ける声は段々と弱弱しくなっている。
『ぁー……まー……良いよ……うん……え?ここに?……はいはい……はい……』
飯吹は署から支給されている携帯電話をしまうと足を止めてしまう。
「……ふぅ……」
飯吹の顔色はすぐれない。
勝也はそんな飯吹へ会話の続きをと声をかける。
「……あのっ……っ……明日も”こんな”事するんですか?……”こんな事”するぐらいなら春香を探しに行ってください。」
勝也は自分を構ってくれる事を”こんな事”呼ばわりしている。
「うん……まぁ、そうするのも良いけど……私は犯人を”倒す”のが仕事だからね。”探す”よりも、”いつでも相手を倒しに行ける様にしておく”事が優先される事なんだよ。」
飯吹は一応ここではアドバイザーの名目で金山家に残っているのだが、根っからの”戦闘要員”と言う位置づけらしい。
つまり、春香を助けるのに動くのはあくまでも犯人と物理的に交渉する時や、犯人の居場所が分かり、”救出作戦を行う時”だと言っている。
「え?……なら今ここにいるのも駄目なんじゃ……」
「……うん?……まだ犯人からの接触が何も無いからね。今はそれまでの”時間つぶし”だけど……」
勝也と飯吹の間には現状の認識に相違がある。
勝也は”今からでも何かの行動をして捜査を進展させるべき”と思い、
飯吹は”今は戦いの前のウォーミングアップで現状は座して待つべき”と言う立場だ。
『フルフル……』「飯吹さんっ!……」
勝也と違う考えを説明している飯吹へ、他の所から声がかかる。
その声は雑音を携えていた。
『……フルフルフル……』「ぇ?」「……何?……」
サイクリングロードにある歩道スペースの少し開いた所へ、空から降り立つ女性が一人、飯吹よりも若く、軽くごわついたショートの黒髪が綺麗な女性だ。
飯吹とは違い、動きやすい装いのパンツルックのズボンに、暗いシャツと、薄目の上着を羽織り、装いはシックで目立たないのだが、身綺麗な印象がある
手には警察関係者しか使用が許されていない携帯型のロールがあった。
少し目つきが鋭く、若干怒り気味の表情を向けて飯吹に言葉を発する。
「聞きましたよ!斉木課長に……っ……いえ、ここでは…………なぜ私に相談してくれないんですか?」
「……おぉ!……”ライちゃん!”早かったね……あれ?今回”も”謄さんの所で話を止めてくれて無いの?……私てっきり”いつもの”様に話半分にしてくれてると思ってたけど……」
その女性は雷銅陽子、飯吹をサポートする”頼れる懐刀”である。
彼女はここ数日職務を休み、帰省していた。
彼女は飯吹の返しに応える。
「なっ……今回は”辞表”と言う”現物”もあるし、理由としてはプライバシーの関係もあって”受理した”と聞いています!なんて斉木課長に言ったんですか!?”今回の”『退職願い』は本当に”辞める”方向で手続きされていますよ!」
「えぇ!?本当に?!……」
どうやら、飯吹の退職騒動は”何度かある事”らしく、その都度飯吹の上司である斉木謄がその処理を止めていたらしい。
いわゆる、口だけの”辞める辞める騒動”なのだが、……今回はそれを重く受け止めた斉木が飯吹の退職手続きを進めている。
「え?辞めるって?……」
勝也は話に付いていけてない。
「……むぅ……”結婚したい!”ってのは本気にされたかー……いや、本気でその時はそうと思ってはいたんだけど……」
「くっ……”結婚”ですか!?…………それはまた本気に取られる事を……それに他の人……特に異性には扱い辛い事です……本当の理由はなんですか?」
雷銅は頼れる先輩である”飯吹の悩み”を聞き出そうとしている。
「いゃぁー……それももう解決したんだけどね……”個人情報保護”の装備に凹み傷がつけられて……それの修理が出来ずに1人私だけ胸部分が格好悪い感じに凹んだままだったんだけど……」
「……くっ……言ってくれれば私の物と交換しても良かったのですが……」
雷銅は実家に帰省し、職場に穴を開けていた事を後悔している。
彼女は飯吹と公私に渡って仲良くしており、いろいろと気を回して、飯吹の小間使い的な働きをしていた。
だが、雷銅が職場を離れている間に事件が起き、取り返しのつかない事態になってしまった様だ。
「……では、今からでも斉木課長に言って、”退職”取り辞めて貰いましょう!”結婚”をお望みなら私の知人を紹介します。」
「えぇ?……でもねぇ……流石にそこまで”ライちゃん”に甘える訳には……”平岩さん”に失礼だし……」
飯吹としては前日、平岩に求婚したばかりだ。
飯吹としては一応”誰でも良い”と言う訳でもない。
「なっ!……ひらいわ……”さん”!……まさか……私のいない間に……」
雷銅は頬を染めながら自身の申し出を断る飯吹の顔を見てショックを受けている。
「……」
そしてそんなやり取りを見る勝也は思う。
『駄目だ……春香をこの人たちに任せるのは……』と。
……登場人物が多いですかね……




