#182~力の無い物~
「法力警察知ってるかーい?」「バタバタ……」
「はぁ、はぁ…………さつ…………かーぃ……」『ポトポト……』
「市民がベッドで寝ているよー!」『バタバタ……』
「はぁ、はぁ……が……べ…………寝て…………」『ポトポト……』
「隊長が寝転んでこう言ったー」『バタバタ……』
「はぁ、はぁ……が…………で……っ……」『ポトポト……』
「鍛えろ!」『バタバタ……』
「はぁ、……えぉ、はぁ」『ポトポト……』
『キュ!』「むっ!」
「パタ…』「はぅっ?」
前を走る飯吹が立ち止まり、慌ててそれに倣う勝也はどうすれば良いのか解らない様だ。
「声が小っさーい!そんなんじゃー大きな声がいざって時に出ないぞー!」
飯吹は勝也の小さな声にショックを受けている。勝也はそれに答える。
「えっ……いっ、いや……はぁ、はぁ……俺は声が出なくても別に……はぁ、はぁ」
勝也は勝也なりに答えている様だ。
そもそも歌は法力警察がランニングする時のランニング賛歌で、法力警察のイメージアップと地声の声量アップを目的としている歌だ。
「はっ!……そういえばそうだな……じゃーランニング賛歌は止めておこう。」
飯吹はいつものノリで歌いだしたのだが……
一緒に走る相棒が一般人の、さらに言えば法力警察に務めるには絶対的に年齢が足りない子供である勝也だった事に気づいた様だ。
飯吹は思考を切り替えて今の自分の気持ちを漏らす。
「……はぁ……服がべた付く……どうせ持ってきてくれたんなら……着替えてくれば良かった……」
飯吹の服は背広姿で、レディースパンツに白いワイシャツだ。
寝たり、運動しているので皺だらけかと思うが、そういう生地の物なのか皺は無い。
しかし、ワイシャツは汗にまみれて肌に張り付き、ふくよかな脂肪が露になってしまっている。
上半身は肌の色が透けて見える程だ。
場所は雨田家を左に出てすぐの交差点を左に曲がり、その道をまっすぐ行ったところ、つまりは雨田家の東にあるサイクリングロードを南下し、土旗駅から続く商店街の一角を通り過ぎる頃である。
程なくして誰も居ない事を良い事に飯吹が歌いだし、それを勝也が致し方なく復唱していた次第だ。
独特のイントネーションと聞いた事があるような……しかし絶対に聞いた事が無いリズムで声を張り上げる飯吹は目立っていたかもしれない。
……いや、それも人が居ない平日の午前中だ。
それを聞く人はだれも居ないのだから、勝也が思うほど誰も気にしていない。
勝也の想像だろう。
勝也は母・澄玲から『どこにも行かないように!』と言われている。
飯吹にその事を言ってランニングを断ろうとしていたのだが、飯吹曰く、
「……ランニングでどこにも目的地を置かずに行ける所まで行って、また家に帰るから、何処かに行くわけじゃないよ!あるとしたら目的地はここ、この家だよ!……」
と言う、トンチにもなっていない理論を展開され、
「……行ける所までだから!電車で帰ってこれるから誰にもバレない内に帰ってこれるよ!……身体……鍛えないの?、まー問題ないっ!私が責任取るから、しゅっぱーつ!……」
と言われ、なし崩し的にここまで来ている。
立ち止まっている勝也は息が途切れながらも、少しの休憩と息を整えながら一人愚痴る。
「……あれ?はぁ、はぁ、……これ……”法力を鍛えている”んじゃ?……はぁ、はぁ、ない……のかな?……はぁ、はぁ……」
勝也としては法力について鍛えて欲しいと言ったのだが……
勝也は既に引き返せない程疲れてしまっている。
後の祭りだ。
『……おー……よしよし『……ニャー、フシャー!……』……おーい!そっち居るかー?』『……いやー……いねーよ……あ?お前それ……』『っ!……そろそろ帰って飯で良いんじゃね?そいつ腹空かせてるじゃね?』『……馬鹿!昼飯にはまだ早ぇえよ!……そいつはお呼びじゃねーんだから、ほっとけ!』『……でもよぅ……』「生成!」『ブフォ!プスプス……』『ガゴン!』
勝也と飯吹は商店街を通り抜ける所で立ち止まり、”飲食店の裏手で数人の男がたむろしている”のを何の気は無しに見ていた。
皆柄の悪い風貌で、1人は飲食店の出す大きめのゴミ箱を開けている、顔を壁に向けて人相を隠すあたり、それはまるで落ちている小銭を探し、見られて困る物を隠している様に見える。
「あら?こんな時間に何……?」
勝也の前にいる飯吹はそんな一団を見ると、立ち止まって何かを迷っている様だ。
「あぁ?誰?……」『いっぁ?……おい、あれ見ろ!……ナマ父、ナマ父!……』『うんっ!?……おい……なんだよ。てっきりくそじじぃかと……ってぇ?!』『えふん!えふん!……』『おっ!……ノーブ……』
数人の男達は若く、皆高校生か大学生ぐらいの見た目だ。
男達は飯吹へ視線を注いでいる。
彼等には飯吹の上半身:汗でピッタリ張り付いたワイシャツが刺激的なのかもしれない。
「……ありゃ?う゛う゛んっ!生成……」『ブフゥゥゥ!』「うわっ!」「ちっ……」
飯吹はそんな彼等の視線を感じると暴風を生成し、シャツに纏わりついた汗の水気を不完全にだが軽く飛ばす。
飯吹はどうやら彼らに声をかける様子だ。
「……あー……君たち!……そこでなにをやってるの?学生だよね?学校はー?」
「っぅ……俺らは定時制なんだわ。お宅は何?俺らに何か用?」
彼らの中で一番飯吹から遠い所にいる自称男子学生が声を上げた。
顔は幼さが少しだけ垣間見える風貌だ。
恐らくは未成年である。
「ふぅーん?……でもさっき口に咥えていたのは……まぁ、失敗したみたいだし……今回は装備を置いてきたから見逃すけど……」
飯吹としては、彼等が未成年は禁止されている事をしていた事と、高校生のうちでは多くの生徒が未だ法力免許を持っていないという事で無免許での法力使用を問題視したかったのだが、彼らのしている事に免じて不問とするようだ。
「じゃー……良いけど……臭くなるからもう止めときなよ!臭いで分かるからね!……良し!帰ろう!」「えっ?もう良いんですか?」
飯吹は回れ右をすると、勝也の背中を押してサイクリングロードを北に歩き始める。
「ちっ……はぁ、かったるい……」
男子生徒数名は飯吹に声をかけられた事に嫌気がさしたのか、場所の移動を始めた。
彼等は景が紹介して平岩が頼み、国近が呼んだ者達の一団だ。探し物は”春香”である。
結局、この場での成果としては子猫を保護した様子だが、彼らは不眠不休であてどなく探し回っている者達だ。
すみません……歌についてはモロアレなので、歌は削除するかも知れません。




