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力の使い方  作者: やす
三年の夏
181/474

#180~力の訓練~

「……あの……」

勝也は飯吹に尚も疑問を投げかける。本当は一番に聞く事があるのだが、飯吹のペースに調子を狂わされているのかもしれない。

「……何の用事があってここに来たんですか?……犯人についてもう他に分かる事は……」

飯吹が雨田家に来た用件を未だ解らないでいる勝也、飯吹はそれを聞いて、思い出したかの様に口を開く。

「……あぁ!ごめんごめん、忘れてた!……『ズズッ!』『アムアム』い゛やぁま゛ぁ……う゛ぅん!……ちょっと聞きたい事って言うか……『ズズッ!』『アムアム……』……」

歯切れ悪く頭を掻く飯吹は合間にカップラーメンを食べている。

口の中の食べ物を噛みながら喋る飯吹は行儀が悪い典型的な姿だが、不思議とそれは様になっていて、ラーメンの汁を飛ばしたり、容器から具材をこぼしたり……と言う様な被害はない。

「……お願いと言うか、助けと言うか……『ズズッ!』『アムアム』……」

だが、一向に話が進まない飯吹である。問題は飯吹がカップラーメンを食べるのを一旦止めて、話に集中すればいいだけなのだが、飯吹は食べるのを止めない。

「……分かりました…………朝ごはんを食べてから教えて貰うって事で……」

「もぐもぐ……」

こうして勝也は飯吹のお腹が満たされてから話を聞くことにした。飯吹は麺を咀嚼しながら頭を縦に振っている。

確かに、食事中に話を振る勝也も悪いかもしれな……、いや、本来は食事時の朝方に訪問してきた飯吹の方が悪いのだが……

『ゴッ、カリカリ……』

勝也はカビカビに固まった白米を口に運ぶ。


『……ではもう一度繰り返しますが、学校再開は明後日から平常通り、保護者説明会は明後日の下校時間20分前から行います。今日から一週間は出席を取らない自由登校の学校ですが、出来る事なら私は皆の顔を教室で見たいと思っています。勉強は教科書を進めますが、後から追いつけるようにプリントを用意します。……申し訳ありませんが、予定している保護者説明会の時間で都合が付かない保護者の方は後日、説明を纏めたプリントを渡しますので、そちらに目を通す事でご了承ください。……では以上で失礼します。清瀬小学校の三年一組担任、神田がお電話致しました。』『ガチャン!、五月○○日、7時台に録音通話を一件登録しました。ピーッ!』

雨田家の固定電話は通話が終わった事を知らせる。

「もぐもぐ、ふぅん……圭介……しっかり先生してるんだなー、『ズズッ!』『アムアム』(もぐもぐ)……昔の圭介からは想像もつかないぞ……」

飯吹は自称・親戚関係にある神田圭介先生の、仕事で使っている声を聞いてそんな感想を述べた。



『う゛っ、う゛っ……・う゛んっ!……ぷふぁー!美味しかったーっ!『パンッ!』『パチン!』ご馳走様でしたーっ!』

飯吹はカップの底をテーブルに打ち付け、両手で合掌すると、食事の御礼を叫ぶ。

「じゃ、これは台所に……」『ゴンッ、ジャー……ゴッ……ガチャガチャ……』

飯吹が食べ終えた所で、勝也は飯吹が使った箸やカップを台所の水道で軽く流し、シンクに置いた。

使い捨てのカップ麺容器などは捨てる物なので洗う必要はないのだが、資源ゴミを捨てるまでの匂いを軽減させる為である。

どんなカップラーメンでも油が入っている為、容器に水を貯めて置いておくだけで多少の匂い取りが出来る。

その分台所のシンクは油で汚れ、掃除の手間が増えるのだが、勝也は定期的に台所シンクの排水溝を掃除している。

雨田家の家事全般は主に、澄玲が休日にまとめてやるのだが、それは勝也がなんでも自分で調べてやっている為、成り立っていた。


「キュッ、ゴゥン!」『パサパサ……』

「……あの、それで今日はなんでウチに?」

使った食器類をシンクに置いた勝也は食卓で休んでいる飯吹に言葉を振る。

「う、うん……あ、カップ麺のお金はコレね!『パチン!』……ちょっと聞きたい事があって来たんだけど……」

飯吹はカップラーメン分の代金として硬貨を一枚食卓に置く。

「あ……いえ、お金は別に良いですよ。母さんから生活費として貰ってるんで『嫌々、いいよいいよ!手間をかけたお駄賃として、ね!受け取って!情報料と一宿一飯の御礼でもあるから』……えっ?…っとー、…………なら、何を答えればいいですか?」

勝也はお金を断るが、飯吹は頑として硬貨を食卓に置いたままだ。不毛なやり取りに見切りをつけた勝也は話を先に進める。

「……うん!……私が聞きたい事は”プライバシーに関わる事”だから、解らない事は”解らない”で良いし、出来たら勝也君から私が聞いた事を皆には秘密にして欲しい。”私の失敗で”捜査に支障が出てくる事だから、”秘密”にする事は絶対だよ。お願いする立場で”こんな事”を頼むのは申し訳ないと思うけど……約束してくれるかい?」

「……んっ……それって……”捜査に関わる守秘義務”ってヤツですか……」

いつにもまして真剣なその声音に勝也は息を呑んで緊張している。


勝也は飯吹が何について捜査しているか解らないし、漠然と”春香を助ける為に何かしている”程度にしか思っていない。飯吹は口を開く。

「うん。……じゃー聞きたい事なんだけど……”平岩さん”って分かるよね?」

「えっ?!……」

勝也は思ってもいない人物を尋ねられて固まっている。

勝也としては”平岩さん”と言うと一人しか思いつかない人物だ。

昨日の朝に春香の家:金山邸の前で車から出てくると理不尽に怒鳴られ、その後に再度訪れた金山邸の地下駐車場で頭を下げられながら話を聞いて貰った人物、平岩秘書ぐらいである。

「……”平岩さん”って……金山市長の秘書をやってる人ですよね?……あの……大きい男の人で、確か……”平岩雄二さん”だったかな……」

「そうそう!!……そうだった……”平岩雄二さん”!彼について聞きたいんだけどっ!知ってる事は皆が知ってる事でも何でも良いから教えてくれない?」

飯吹は当の本人である、平岩から自己紹介をされて、個人的な名刺も受け取っているハズだが……

「……平岩さん?春香のお父さんが?……学校を襲って春香を攫った?……いや、それとも金山市長の周りの人たちが……?」

勝也は昨日の朝、平岩秘書が怒鳴っていた場面を思い出している。

「……いや、でも……あれは嘘だったって言ってたけど……」

そして、その後金山邸を母親の澄玲と行った時の事を考えていた。

今思い起こしてみてもそれは、良い上司とそれに応える部下の雰囲気で、とても悪事を働いている風には見えなかったのだが……

「……で?どうかな?……私はテレビとか新聞をあまり見ないタチから、そういうので知った誰でも知ってる事でも良いんだけど……金山市長との”関係”とかでも良いんだけどっ……」

飯吹は考え込んでいる勝也に答えを催促している。

「っ、はっ、はい。……はい?……」

勝也は飯吹の言っている事に疑問を挟むが、律儀に答え始める。

「……えっと、テレビで前に見た情報ですけど、平岩さんは金山市長と同じ家で育った後輩”虹の子”です。「えっ!……」……あ、あれ?何か?間違ってましたか?」

勝也は清虹市では周知の事実を言ったつもりだが、飯吹はそれに強く反応した。飯吹が口を開く。

「……えーっ!……まさかっ!……私と”同じ立場”だったのか……まぁそれはそれで……あー良いよ、続けて頂戴。」

飯吹は勝也の続きをせがむ。

”虹の子”とは簡単に言えば、親元から離れ、”清虹市で”保護されて育った子供たちである。

清虹市はその特殊なでき方とそれに付随するあり方により、様々な事情で子供が多い。中でも多いのが捨て子であり、清虹市の児童養護施設に居る子たちは総じて”虹の子”と呼ばれている。

つまり、金山賢人と平岩雄二は幼い頃から苦楽を共にする間柄だったのだ。また、児童養護施設は数が多く、運営元や地域を越えての交流はまずほとんど無い。


「えっと……じゃあ、本当に最初から説明しますが……」

勝也は飯吹の反応から、本当に何も知らない事を見て、勝也の知っている事を話し始める。

「……金山市長は身よりゼロからスタートして、前の市長秘書から市長に上り詰めた”成りあがり市長”と言われています。」

「ふんふん……」

勝也の言葉に相槌を打つ飯吹の目は真剣だ。

「そんな市長を公私ともにサポートするのが平岩さんです。よく市の宣伝で市長がテレビに出てる時は代わりに市長の代役とかのいろんな事をしてて”市長よりも市の為に奔走しているアスリート”って言われてて、ファンクラブがあるらしいです。」

「ふぅん?……ファンクラブ……」


市長の秘書にファンクラブがあるのはすごい事だが、確かに金山賢人市長と平岩雄二秘書はイケメンだ。

下手なアイドルと違い、その所作には市のイメージや本業である市政の延長と言う事で、人を裏切る事は命を投げうつ事と変わらない。


また、金山賢人市長は清虹市の繁栄に絶対的な繋がりを持つ家系・金山家の妻子持ちだ。

男のイケメンは

女性に人気があるのは勿論で、

男性は嫌味な性格でないクリーンな性格と行動をしているイケメンに対して露骨にやっかみを抱いたり、露骨な毛嫌いはしない……いや、出来ない。

権力とお金、容姿やその他すべてを持ち、性格も良いとされる男性がいれば、その存在を疎ましく思っていても毛嫌いする事は自分を貶めてしまうと思って何もしない男性が多い。

無駄に敵を増やすよりも、すり寄ったり敵対しない方が良いと思っているからだ。

さらに言えば金山市長は敵対勢力を包み込み、皆に手を差し伸べる振舞いはクリーンなイメージを築き上げていて、彼のやっている事は理解者と賛同者が多い事で市外でも有名だ。

一部からは”顔だけ市長”と揶揄されているが、逆に言うとそれぐらいでしか悪く言う者はいない。


「うぅむ……となると……金山市長から”崩して”いくしかないか……」

「……本当に平岩さん達が?……昨日は”そんな嘘を”吐いている様に見えませんでしたけど……」

勝也は昨日、金山邸の地下駐車場玄関で話をして打ち解けているのだが……

「ぅぅむむ……いや、ありがとう!勝也君。”良い事”を教えて貰ったよ!……ふぅ、これで厘ちゃんみたいな可愛い子をゲットだぜ!」

「……はぁ……ん?、り、厘?」

勝也は飯吹の呟いた一言を聞き逃さない。突然妹の名前を出され、オウム返しに聞いている。

「……ハハッ……ナンでも無いよーっ、勝也君にはお礼がしたいなー……何か叶えて欲しい願いを言ってくれればー……私のできる事なら叶えてあげよう!」

しかし、飯吹は満面の笑みでそれに取り合わない。

「?……なら……」

勝也はそんな飯吹の扱いに慣れつつある。基本的に解らない人の解らない行動は、それなりにスルーした方が楽という事に勝也は気づいたのだ。

「なら……俺を鍛えてください。法力とかも出来る事なら使わない様に訓練しないとですし……」

勝也は先程、”無言で法力を発現している特異な法術師”と言われた事を心配している。

家の中で法力を使ってしまうのはまだ良いが、これを外でやってしまえば色々とマズイ。

「……ほほぅ?私に”それ”を頼みますか……」

現役法力警察官である飯吹は、意味深げな視線で勝也を見ながら考えている。

「……よし!やるからには覚悟を決められる?『はぁ……』可愛い後輩の息子であっても容赦はしないぞ!勝也!返事!!」

「……はいぃ?!」

突然飯吹は勝也を新人法力警察官と同じ様に接し始める。勝也も突然のアップテンポについていけていないのだが……

「……まずは体が出来てなーいっ!走り込みだっ!サイクリングロードを南北に一往復!!」

飯吹はどこかで言われた事を反芻しながら訓練メニューを決めている。

曰く、”清虹市のサイクリングロードをランニングするのが良い”らしい……

申し訳ありません……遅れました……

&話が進まなくてすみません……

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