#170~力の打診~
すみまみせん……
雨田家の祖父母は他界してないんでした……
修正します。
『ウィーーーーー……』
見ると地下駐車場にある車の出入り口を閉ざすシャッターが開き始めている。
「ふん……」
しかし、その先に車は見当たらず、そこにあるのは公道の車道だけだ。
『ピーピーピーピー!』
シャッターが上に開くと、駐車場車出入口のシャッターが外部からの操作で開閉した事を知らせる音が金山邸に鳴り響く。
「……火口?車はまだか?」
限無会長が金山邸の地下駐車場に帰りの車が来ていない事を言った。
それを聞くのは横に立つスーツ姿の男性である。
どうやらゴルドラグループの決算報告会の後、振舞われた夕食を早くに食べ終えた限無会長は人知れずに大広間から抜け出してエレベーターで地下一階の駐車場まで降りて来たらしい。
それを見つけた四期奥様は階段を猛ダッシュで降りて来ていた。
スーツの男性である火口は限無会長に応える。
「はい、申し訳ございません。もう間もなく車が到着致します。」
火口の声は淡々としており、謝罪の声には申し訳なさの成分が入っていない。
地下駐車場の出入口操作は火口が行ったらしい。
この建物を造ったのは限無会長なので、四期奥様達しか持っていない備品類でも自前で用意してしまっている。
車をすぐに手配出来ていないのは限無会長が突然に”帰る”と言い出したのだからそれも仕方がない事である。
限無会長は金山邸の外で車を降り、正面玄関からわざわざここ金山邸に訪れている。
集まった株主達に顔を見せる目的の来訪をしたが、去る時はそれと比べるとおざなりだ。
ゴルドラグループの会長の退場としては少しフライング気味の行動である。
「……待ってください!お父様!春香を助けてください!何故……」
その二人を追う四期奥様は急いでいた為か、靴下なのも構わずについてきている。
対して限無会長と火口はどちらも自分の靴を履いていた。
限無会長は四期奥様を見ると口を動かす。
「……もうやめないか、四期。……そんな姿でここまで追って来ても私は”春香を助けてやろう”と思うつもりは無い。……金山家の人間ならば自分の娘ぐらい、自分の力でなんとかしろ。」
限無会長は駐車場に、平岩・飯吹・勝也と、他の者の姿と視線を感じているが、特段答えや見た目を気にしていない。
むしろ、靴下姿で必死に追ってきている四期奥様へ、暗に”みっともない”と言っていた。
四期奥様は粘り強く口を開く。
「いいえ!春香の為を思えばこれぐらいは何でもありません!……お父様!お願いしますっ!!……くっ…………春香を……助けてあげてください!」
四期奥様は外と同じ様に土足で往来する駐車場で膝を折り、”屈辱”なのが解る様に一瞬逡巡してから地に頭をこすりつけて頼んでいた。
土下座である。
「ふん、もういい……『っ!』……つまらん女になったな。四期『っ……』」
限無会長の言葉に四期奥様は驚いた様にして頭を上げるが、後に続いた言葉からも分かる様に”もう何をしても力は貸さない”と言う意味の”もういい”だったらしい。
「貴様には面白い力と、この新しく出来た清虹市を選んだ事、これには期待していたが……私の気を引くのに”土下座”等している様ではまるで駄目だ。……」
限無会長は根負けした様にして四期奥様へ語り続ける。
「……お前が私の娘ならば”私が春香を助けなければならない様に取引を持ち掛けろ。”……それがどうだ?貴様はただただ『助けてください』等としか言わん。……やっている事は物乞いだ。ふん、裏切られた気分だな。……やはり”顔だけにしか見る目の無い男”を婿にしてからからつまらんモノになってしまった。……昔は面白い娘だといろいろとしてやっていたのだがな……助けて欲しければ私が”助けざるを”えない様にして見せろ。」
ただただ何かを求めるだけの声では人は動かない。”金山家の人間ならば様々な手管で人を使え。”と言っている。
さらに、限無会長は四期奥様の夫である賢人との結婚は反対だった様だ。
その相手との間に生まれた春香や秋穂には思う所があるのかもしれない。
「そ、そんな……」
四期奥様の”頼みの綱”は、あざ笑う様な失望を返している。
今の四期奥様にとっては一番向けられたくない顔だった。
このままでは四期奥様が代表を務める”ゴルドラハウス”だけならず、清虹市長である賢人の市長職まで取り上げられる雰囲気がある。
限無会長の後ろ盾が無くなれば清虹市の運営は多くの面で行き詰る。
四期奥様は堪らずに声を上げた。
「お父様!私は何でもします!おと……いえ、”会長”!!……春香を助けてくれれば……賢人君も本望でしょうから、清虹市への手心が無くなっても”やむ無し”と覚悟の上です!!……私には……もうそれしか言えません……」
ついに四期奥様は頑なに限無会長を”お父様”と呼んでいたが、それも他の兄妹同様に”会長”と改め、賢人の清虹市長の支援停止も”やむ無し”と言う。
「……」「……」「……」
その場に居合わせた勝也、平岩、飯吹は父娘の剣幕に押され、口を開けられない。
……だがそれは”ここまでは”だった。堪らずに口を開く者が一人。
「春香のお母さん!……顔を上げてください!……春香は”俺が”助けます!!」
「っ……」「あっ……」「えっ……」「ん?」「……」
それは”春香を助ける”と豪語する勝也の言葉だ。
その場の大人達・四期奥様、平岩、飯吹、限無会長、火口の順で驚きの声と息を出している。
誰もがまさか勝也がそんな事を限無会長にまで言いだすとは思っていなかった。
「……なんだ?こいつは?」
限無会長は勝也を見つめ、誰に向けるでもなく口を開く。
「こっ、この子は……」
地面に膝を置いている四期奥様は勿論勝也を知っているが、果たしてそれを言って良いモノか判断が出来ず、咄嗟に答えられない。
限無会長の怒鳴り声を浴びるのに彼は幼く、出来れば”知らぬ存ぜぬで勝也を巻き込みたくない”からだ。
だがそれは呆気なくも無駄な抵抗となる。
「はい、名前は雨田勝也、春香さんのクラスメイトで両親は法力医師の雨田澄玲と雨田大です。雨田厘と言う妹が居て、クラスではアイドル的な求心力があります。もう少し家族を遡れば、父親である雨田大の姉、雨田夕はプロ崩れの投稿カメラマン、兄の雨田務は清虹市のここ土旗の、土旗駅から続く土旗商店街の一角で雨田カメラショップ・レインボウを経営しております。父方の祖父母は農家でしたが既に隠居生活をしており、母親の雨田澄玲に関しては旧姓・天野澄玲までしか調べておりません。……この子供は歳相応に”成績は優秀”と調べております。特に親族や関係者に、組織的な背景は確認出来ていません。」
その声は限無会長の隣にいる火口が発したもので、携帯端末を片手に報告している。
限無会長は元より火口に言葉を振っていたらしい。
「そ、そんな事まで……」
四期奥様は当たり前のように勝也の顔から名前が出て来た事に驚いた。
火口にはおろか、娘たちの交友関係等は親類縁者に教えていない。
知っているのは夫である賢人ぐらいなモノで、彼ですら顔だけでは名前が判断出来ないレベルとなっている。
「……ふん、で?一応聞いてやるが、どうやってお前の様な子供が春香を助けるつもりだ?」
どうやら勝也の言葉に興味を持った限無会長は気まぐれにも勝也の言う事について聞いた。
何とも大人げない意地悪な問いにも思えるが、残念ながらふざけてたり、からかっている訳ではない。
それは勝也があまりにも自信満々に言ったからだが、誰も勝也の言う事が本当にそう思って言ったと気づかなかっただろう。
この場の大人たちは”子どもながらの口から出まかせを言った”と思っている。
勿論四期奥様と限無会長以外は、だ。
勝也は答える。
「……俺は助けられません。”助ける”のは貴方です。金山限無さん。……春香のお爺ちゃんである貴方なら春香を助けてあげられます。」
「……い、いや……ちょっと……」
「「「……」」」
誰も勝也を止められない。
勝也の”助ける”と言うのは『”俺が”限無会長を説得する』と言う事らしい。
何とも分かりづらい言い回しだが、四期奥様としては”限無会長の機嫌を損なってしまう!”と気が気ではない。子供らしくも、出しゃばってしまったのだろう。
四期奥様としては”勝也くんはそんなタイプの子では無いのに……”と思うのだが……
勝也は二つの失敗を犯した。
一つは限無会長を”春香のお爺ちゃん”呼ばわりした事。
もう一つは”限無会長の期待を裏切った”事だ。
特に二つめは最悪で、限無会長はあまり人に期待しない故か期待を裏切る事は彼の逆鱗に触れるも同然だ。
四期奥様は先の限無会長の言葉からわかる様に”四期奥様自身も限無会長の期待を裏切った”が故に絶望していたのだが……
『ブロロロロロ……』
そこへ、黒塗りの車が金山邸の地下駐車場の出入り口前の車道に現れると、限無会長は口を開く。
「ふん、もういい……こんな子供の戯言を聞いた私がバカだった……、……火口、帰るぞ。」
限無会長は周りに居る者達を見回すと、駐車場から出て行こうと足を進める。
駐車場に膝をつく四期奥様と、平岩、胸部分がへこんだ防護プロテクターを持つ飯吹、そして勝也を置いて限無会長はその一歩を踏み出す。
「っ……」
勝也は、無慈悲にもこの状況を捨て置いて歩いていく限無会長の背中に向けて口を開く。
「……春香に誕生日プレゼントの一つも渡さない所か、おめでとうの言葉をかけないで帰るんですかっ!春香のお爺さんはっ!」
「……なにっ?」
限無会長は勝也の言葉で歩みを止めて振り返る。
「……だってそうですよね?わざわざ春香の誕生日に合わせて決算期報告会を”ここ”清虹市でと選んだのに、春香が居ないと言うだけで何もしないで帰るんじゃないんですか?俺を事前に調べ上げてたのも春香の身の回りを調べてたからじゃないんですか!」
「か、勝也くん……そんな事……」
勝也の言葉遣いは段々と乱暴なモノに代わっていくが、限無会長の我慢はもう限界だ。堪らずに四期奥様は勝也を止めに入っている。
「”そんなハズあるかっ”!春香の誕生日などっ!”覚えてもいない”!……」
ついに限無会長は声を荒げて怒鳴る。
「……えっ?」「っ……」
限無会長の怒鳴り声に反応する四期奥様と火口である。
限無会長のこの言葉は”らしくない”
限無会長は自分を分析し、自分の行動の結果を評価し、その結果を卑下する事はたまにある。
だが、自分の見栄の為に”嘘を吐いてまで”自分を卑下する事はない。
何故なら嘘は”バレる”からだ。
金山家の人間に嘘は通じない。
限無会長は取り繕う様に声を続ける。
「ーーっ……ふん……火口……帰る前にやる事が出来た。今すぐ火と氷を用意しろ。」
「なっ……」「っ……はい、火はここにライターがあります。……先に渡します。……氷は……ここのキッチンから貰って来ますので少しの間お待ちください。」
四期奥様と火口は限無会長の急な心変わりに戸惑いを見せるが、とりあえずは”火”という事で、ターボ式のライターを限無会長に渡すと駐車場右手の玄関へ急ぐ。
「あ、私も飲み物を……」『バガン!』
流石に氷は持っていないので飯吹の脇を素通りしてキッチンへとつながる金属扉を開けて消えて行く。
平岩は当初の予定通りに飲み物を取る為に駐車場に出て来たのだが、動くに動けない。
駐車場に残るのは限無会長に勝也、行く末を心配する四期奥様と平岩、珍しくも静かな飯吹が残る。
「ふん……」
限無会長もキッチンと繋がる玄関の方へ向かって歩き、限無会長は口を開ける。
「……これはいつ出来たへこみだ?」
どうやら限無会長は玄関を目指して歩いていた訳ではなく、金属扉との間で防護プロテクターを抱えている飯吹に用事があるらしい。
「えー……っとー……昨日からですけど……」
飯吹は言われた事にはしっかりと応える女だ。
防護プロテクターの胸部分に出来た”へこみ”は昨日の清瀬小学校襲撃事件で研究者と呼ばれていた紺色ジャージ黒仮面の若い女性が放った火強打で出来た傷である。
昨日出来たばかりの真新しいへこみだ。
限無会長は応える。
「そのへこみを直してやる。どうせこのへこみが直せないのだろう?」
「えっ!本当ですか!!」
飯吹は思ってもいない所で昨日から気に病んでいる最大の汚点、防護プロテクターの直せない傷の修理を打診されていた。
01の装備修理の為の金山邸編がいよいよここまできました。
……いやぁ、長かった。




